溜息交じりに念を押し、用件は済んだので、さて家に帰ろうと裏口に向かって足を踏み出した。

　すると

「え？　それだけですか？」

　トランクスさんが、驚いたような声をあげた。

　私はその声に立ち止まり

「それだけですけど？」　

　怪訝な顔をトランクスさんへ向けると、トランクスさんは

「梨子さんのお見舞いに来られたんじゃないんですか？」

　目を瞬かせ尋ねてきた。

「いや、別に。もう熱下がってるんでしょ？　元気になったならそれでいいです。それに、こんな時間から他人の家に上がり込むのも気が引けますし」

　そう答えると

「そ、そうですか……」

　トランクスさんは、力ない声を漏らしてから

「あ、あの。さっきの噂のことなんですけど……。梨子さんやご家族の迷惑になりそうですか？」

　深刻な顔で尋ねてきた。

　不安そうなイケメンに対し、一瞬脅かしてやろうか？　そんな考えが過ったが、この好青年にそんなことをするのは可哀そうだと思い

「お姫様抱っこされてたのが梨子だって特定はされてないので、大丈夫だとは思いますよ。ただ、トランクスさんは気を付けた方がいいかもしれません」

　そう注意しておいた。

「じゃ、私はこれで。おやすみなさい」

　再び、裏口の方に身体を向けた私に

「あ、送って行きます」

　トランクスさんが声をかけてきたが「大丈夫です」と断った。

　そして、裏口を出ようとしたところで

「あ。仁美に気を付けろ。そう梨子に伝えてもらえますか」

　私は立ち止って振り返り、幼馴染への伝言を頼んだ。