廊下から私を呼んだのは仁美だった。

　顔を歪ませながら、教室のドアから顔を覗かせる仁美のところへ行き

「デカい声で呼ぶな」

　仁美を睨むと

「いいじゃん、別に！　ね、それよりさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど！」

　仁美はいつも以上に楽しそうな、ニマニマした顔をしながら私の右手を掴むと、私を教室から引き摺り出し、人気のない廊下の隅へと連れて行った。

「何？」

　面倒くさい女だな。そう思いながら仁美を見据えると

「ね、梨子って、彼氏出来たの？！」

　仁美はキラキラというより、ランランと目を輝かせ聞いてきた。

「……は？　彼氏？」

　仁美のくだらない質問に、私が眉間に皺を寄せると

「昨日の昼間、この学校の生徒がお姫様抱っこされて歩いてたらしいんだけど、それって昨日早退した梨子じゃないかと思って！」

　仁美は確信したとばかりの顔をし

「でね。お姫様抱っこなんてしてくれるのって、彼氏でしかないじゃん？！　真琴なら何か知ってるかなーと思って！」

　興奮したふうに口調を強めた。

　スゴいネタを掴んだ！　と言わんばかりの仁美を、冷めた目で見つめながら

「いや。知らん」

　仁美との絡みを早く切り上げたくて、私は短く答えた。

　すると

「えーーっ、嘘ー！　絶対何か知ってるでしょ？！」

　早く切り上げようとする私が、何か隠してると察したのか、仁美はじとりと私を睨みながら食い下がってきた。

　クソ……。勘のいいヤツめ。

　私は心の中で悪態を吐いてから

「何も隠してないわ」