隣りでは、今日も富士山の麓にある樹海へ行き、一日中トレーニングをして来た父さんが寝息を立てて眠っている。

　俺も、明日は父さんと一緒に樹海へ修業に行こうかな……。

　そんなことを思っていると、リビングの方から人の気配がした。

　誰だろう……？

　深夜の人の気配が気になり、気を探ると、それは間違いなく梨子さんの気だった。
　
　時計を見れば、時間はもうとっくに、深夜一時を回っている。

　こんな時間にどうしたんだろう……？

　気になって起き上がると、俺はそっと部屋を出た。

　部屋からすぐ近くにあるリビングは、奥にあるキッチンからの灯りで、仄暗く光っている。

　カチャカチャと、遠慮がちな金属音も聞こえ、梨子さんが何かしようとしてるらしいことは分かった。

　リビングに入り、奥にあるキッチンを静かに覗き込むと、梨子さんがガスコンロの前に立ち、鍋を温めていた。

　その姿を盗み見て

　……声は、かけない方がいいだろうな。

　昼間のことが頭を過り、静かに退散しようと回れ右をした瞬間、ミシッ！　とフローリングの床が高い音を立てた。

　しまった！

　気付かれていないことを祈りながら、そっと後ろを振り返ると、梨子さんの驚いた顔が、キッチンから覗いていた。



「すいません……驚かせてしまって」

「……いえ。私こそ」

　バツ悪そうに、ダイニングに座る彼女の前には、智子さんが作ったおかゆが置かれている。

　夕食を食べなかったので、目が覚めると今度はお腹が空いて眠れなくなったそうだ。