目の前の赤信号を眺め、答えた。
　
　すると、少し間を空けてから「そうか」という穏やかな口調が返ってきたのは意外だった。

　このオヤジのことだ。

　苦々しい顔で、吐き捨てるように「くだらん」と言うとばかり思ってたのに。

「もしかして、気付いてました？」

　まさか。

　そんなことを思いながら、ベジータさんの横顔を窺うと

「まぁな」

　そう答えたベジータさんは、信号の向こうで私たちを待つ、梨子とトランクスさんを見据えていた。

　意外にも、ベジータさんが人の機微に敏感なところがあることに驚き

「へぇ。意外です」

　思わず口に出すと

「……あれだけ毎日、何か言いたそうな顔を向けられたらイヤでも気が付く」

　その時のことを思い出すように、眉間に皺を寄せた。

　そんなに分かりやすく、梨子は「話したい！」オーラを出してたのか……。

　決して、ベジータさんが人の機微に敏感だったわけじゃないことに

「そうですか」

　安心した私だったが、そのあとに続いた

「俺ではなく、トランクスと話したいようだがな」

　気のせいか、拗ねるように発せられたその言葉に、私は「マジか……！」息を呑んでしまった。

　おいおい。

　まさか、ベジータさんも梨子がトランクスさんに好意を持ってることに気付いてるのか？！

　信号が青に変わり、横断歩道に足を踏み出すと同時に

「もしかして、梨子のこと、気付いてます？」

　真っ直ぐ前を見たまま尋ねる私に

「何のことだ」

　ベジータさんは、明らかに返事をはぐらかした。