仄光に並びて
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音が、なかった。
それはただ静かなのではない。“聴く”という概念そのものが剥がれ落ちていくような感覚。
ここは、感覚という感覚が、層を剥がされるように失われていく空間だった。
高密度の結界術が展開されていた。写輪眼は焦点を歪ませ、サソリの傀儡の糸は空気ごと呑み込まれ、宙へと散った。
敵はひとり――その名を《揺喚(ようかん)》。
幻術・傀儡術・チャクラ干渉に特化し、「術式逆流」という特異な術を操る術者である。
「ようこそ、術者殺しの記憶座へ」
声が空間に響いた。
いや、“響いた”というより、骨の中に直接染み渡るような冷たい波動だった。
「おまえたちの“感覚”も“術”も、ここでは無意味だ」
サソリが動いた。
身体を旋回させ、肘から展開した刃を軌道に乗せて斬りかかる。
だが――刃が空を裂く寸前、まるで何かに引かれるように軌道を逸らした。
「……空間が反転している。接触面が滑っているのか」
写輪眼を伏せたイタチが、目を細めた。
「見れば見るほど、“見えない”……」
静かに息を整え、ぽつりと言った。
「術がなければ、何を信じて動く」
サソリは答える。
「己の技術だ。研ぎ澄ませば、術など要らん」
「……俺は、“予感”を信じて動く」
「理論ではなく勘で動く奴が、何を言う」
「……だが、いまはそれしかない。
お前の動きが“崩れる音”で、敵の間合いを測る」
ふたりの言葉が交錯した、その瞬間。
揺喚が構えを変える。結界術がさらに収束し、すべての術式情報が反転を起こした。
術者にとっては、脳の地図を奪われるに等しい。
だが――
次の瞬間、静寂を切り裂いたのは、連携の一閃だった。
サソリが“刃の回転軌道”を故意に外し、
空間に“霧の筋”のような薄い裂け目を描く。
そこへ、イタチが跳ぶ。
霧の線に乗せられた気配――わずかな空気の揺らぎだけを頼りに、目を閉じたまま敵の背後へと回り込む。
音も、術も、何もない。
ただ、ふたりの位置と動きだけが、完璧に同期していた。
イタチが、わずかに囁く。
「……そこだ」
サソリの背から、折りたたまれていた毒針が伸びる。
イタチの動きと一致するように、角度と速度を即座に調整した。
次の瞬間――
敵の術式を操る指先へ、刃が滑り込む。
揺喚の顔が、初めて歪んだ。
「……読まれた?」
イタチは静かに答えた。
「いいや。“予測した”わけでも、“信じた”わけでもない」
「お前の間合いを崩すために、サソリの刃を選んだ。
そしてサソリが、俺を“届かせる形”に変えた」
揺喚が倒れ、結界が崩れる。
色と音が空間に戻ってきた。
サソリが壊れかけた肘を引き、ふっと息をつく。
― 戦のあと、血と静寂の境界にて ―
日が落ちた瓦礫の上で、サソリが腰を下ろしている。
その背中を、イタチが無言で見ていた。
「……お前の“即興”は嫌いだ。理に合わん」
ぽつりとサソリが言う。
イタチは目を伏せたまま、応じた。
「……俺は、あなたの“完璧な制御”が好きではない。
危機が来ても、すべて計算して対処する。“壊れ方”すら見えないから」
沈黙。
風が、ふたりのあいだを吹き抜けた。
やがて、サソリが口を開く。
「お前は俺を、“術でない部分”で繋げようとした。
……それが“共闘”というなら、認めてもいい」
イタチは、少しだけ目を細めた。
「あなたも、刃を外してくれた。……それだけで、俺は動けた」
ふたりは、何も言わずに立ち上がる。
並び立つふたりの影が、夕闇の中で、一筋の刃のように伸びていった。
それはただ静かなのではない。“聴く”という概念そのものが剥がれ落ちていくような感覚。
ここは、感覚という感覚が、層を剥がされるように失われていく空間だった。
高密度の結界術が展開されていた。写輪眼は焦点を歪ませ、サソリの傀儡の糸は空気ごと呑み込まれ、宙へと散った。
敵はひとり――その名を《揺喚(ようかん)》。
幻術・傀儡術・チャクラ干渉に特化し、「術式逆流」という特異な術を操る術者である。
「ようこそ、術者殺しの記憶座へ」
声が空間に響いた。
いや、“響いた”というより、骨の中に直接染み渡るような冷たい波動だった。
「おまえたちの“感覚”も“術”も、ここでは無意味だ」
サソリが動いた。
身体を旋回させ、肘から展開した刃を軌道に乗せて斬りかかる。
だが――刃が空を裂く寸前、まるで何かに引かれるように軌道を逸らした。
「……空間が反転している。接触面が滑っているのか」
写輪眼を伏せたイタチが、目を細めた。
「見れば見るほど、“見えない”……」
静かに息を整え、ぽつりと言った。
「術がなければ、何を信じて動く」
サソリは答える。
「己の技術だ。研ぎ澄ませば、術など要らん」
「……俺は、“予感”を信じて動く」
「理論ではなく勘で動く奴が、何を言う」
「……だが、いまはそれしかない。
お前の動きが“崩れる音”で、敵の間合いを測る」
ふたりの言葉が交錯した、その瞬間。
揺喚が構えを変える。結界術がさらに収束し、すべての術式情報が反転を起こした。
術者にとっては、脳の地図を奪われるに等しい。
だが――
次の瞬間、静寂を切り裂いたのは、連携の一閃だった。
サソリが“刃の回転軌道”を故意に外し、
空間に“霧の筋”のような薄い裂け目を描く。
そこへ、イタチが跳ぶ。
霧の線に乗せられた気配――わずかな空気の揺らぎだけを頼りに、目を閉じたまま敵の背後へと回り込む。
音も、術も、何もない。
ただ、ふたりの位置と動きだけが、完璧に同期していた。
イタチが、わずかに囁く。
「……そこだ」
サソリの背から、折りたたまれていた毒針が伸びる。
イタチの動きと一致するように、角度と速度を即座に調整した。
次の瞬間――
敵の術式を操る指先へ、刃が滑り込む。
揺喚の顔が、初めて歪んだ。
「……読まれた?」
イタチは静かに答えた。
「いいや。“予測した”わけでも、“信じた”わけでもない」
「お前の間合いを崩すために、サソリの刃を選んだ。
そしてサソリが、俺を“届かせる形”に変えた」
揺喚が倒れ、結界が崩れる。
色と音が空間に戻ってきた。
サソリが壊れかけた肘を引き、ふっと息をつく。
― 戦のあと、血と静寂の境界にて ―
日が落ちた瓦礫の上で、サソリが腰を下ろしている。
その背中を、イタチが無言で見ていた。
「……お前の“即興”は嫌いだ。理に合わん」
ぽつりとサソリが言う。
イタチは目を伏せたまま、応じた。
「……俺は、あなたの“完璧な制御”が好きではない。
危機が来ても、すべて計算して対処する。“壊れ方”すら見えないから」
沈黙。
風が、ふたりのあいだを吹き抜けた。
やがて、サソリが口を開く。
「お前は俺を、“術でない部分”で繋げようとした。
……それが“共闘”というなら、認めてもいい」
イタチは、少しだけ目を細めた。
「あなたも、刃を外してくれた。……それだけで、俺は動けた」
ふたりは、何も言わずに立ち上がる。
並び立つふたりの影が、夕闇の中で、一筋の刃のように伸びていった。
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