仄光に並びて
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砦の中は、風すら息をひそめていた。
朽ちた石壁と焼け焦げた柱が、かすかに月のない夜の光を反射する。
その沈黙を破るように、五感を惑わせる煙弾が弾けた。
次の瞬間、敵の一団――十数人の戦闘部隊が、闇の中から現れる。
「包囲された」
イタチの声が、低く落ちる。
だがその声に、焦りも高ぶりもない。
サソリは片膝をつきながら、巻物を一枚広げていた。
墨で描かれた円陣が淡く光り、刃を備えた傀儡がその中から無音で出現する。
「なら、左右を潰す。お前が右。俺は左」
それ以上の言葉はなかった。
敵が一斉に動く。
だがその一瞬、傀儡が風のように滑り出る。
腕に備えた刃が回転し、最前線の忍の喉を、まるで踊るように裂く。
反対側では、イタチが片目を細め、右手に持った苦無を逆手に構える。
影のように接近した敵を、“見えない角度”からの一閃で沈める。
「幻術警戒!目を合わせるな――!」
そう叫んだ敵の声が止まる。
写輪眼に捉えられた瞬間、時間が止まったような沈黙に落ちる。
敵が膝をつく。
その隙を、サソリの傀儡が正確に突いた。
刃が喉元を掠め、毒が走る。動けず、倒れる敵。
「連携しているつもりか? お前とは、“干渉しない”だけだ」
サソリが小さく言う。
その声には、苛立ちでも拒絶でもなく、妙な“整合性”が宿っていた。
「……それが、最も美しい連携です」
イタチの言葉には熱も棘もない。
だが確かに、次の動きがそれを証明していた。
サソリの傀儡が二体、左右から敵を圧する中、
イタチは前方の指揮役らしき男に、静かに歩を進めていた。
「そこだ」
サソリの低い声と同時に、敵の足元に微細な糸が絡む。
わずかな拘束の間に、イタチの幻術が走る――
脳に“熱の痛み”を錯覚させる短い幻覚。
敵の体が一瞬だけ揺らぎ、その隙に、喉元へ冷たい刃が触れる。
決して派手ではない。
けれど、その連携は完璧だった。
“呼吸のように”、
“風と影のように”、
二人の戦いは、あまりに静かで、だからこそ恐ろしい。
気づけば、敵の動きは止まっていた。
風が吹き抜け、血の匂いを運ぶ。
戦闘は終わっていた。
⸻
「……時間にして、三分十二秒」
サソリが時計を見ずに呟いた。
イタチは静かに傍らに立ち、足元に倒れた男を一瞥した。
「少し、かかりすぎましたね」
「お前が最後、わざと手を抜いたからだ」
「……人間を見ていたからです。あなたの傀儡の動きが、妙に“人間的”だった」
サソリの目が細められる。
だがそれに反論する代わりに、肩をひとつすくめた。
「観察力のある奴は嫌いだ。……だが、悪くない」
ふたりは、何も言わずにその場を去っていく。
崩れかけた砦に、ふたつの影が静かに並ぶ。
――あまりに洗練されたふたりの連携は、
言葉ではなく、“静寂”をもって語られた戦術美だった。