仄光に並びて
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― 夕刻、薄紅の光に染まる森の中 ―
任務の最中、短い休息の時間。
二人は黙って歩いていた。獣の気配すら遠のいた静謐な森の中、枝を踏む音も響かず、風が梢をゆらす音だけが耳をくすぐる。
やがて、倒木に覆われた開けた場所へ出ると、サソリが無言で腰を下ろす。背中を樹に預け、無造作に肩を落とした。
その向かいに、イタチもまた立ち止まり、細い木の幹に背を預けるようにして静かに佇む。
日が斜めに差し込んで、二人の影を細く長く地に伸ばしていた。
「……先ほどの戦闘、動きが妙に抑制されていたように見えました」
口を開いたのはイタチだった。
その声には、責める色はない。ただ、観察の結果を淡々と述べるような、研ぎ澄まされた静けさがあった。
サソリは一瞬だけ眉をひそめたが、やがて肩をすくめるように返す。
「観察眼が鋭いな。さすが写輪眼といったところか。……だが、あれは“無駄を削いだだけ”だ。効率を考えた、それだけの話だ」
「……ふむ」
イタチは樹の皮を指先でなぞる。
その目はどこか遠くを見ているようでいて、サソリの呼吸の僅かな乱れすら逃さないような冷たさを湛えていた。
「だが、あの場面なら、三手先を封じて即座に傀儡で仕留めることもできたはずだ。あなたほどの手練なら」
言葉の刃が、空気を鋭く裂く。
サソリの目元が、わずかに吊り上がった。
「……見ていたのか。お前もずいぶんと余裕があるようだな、“うちは”の天才」
「余裕ではありません。“癖”です。人は隙に、本音を滲ませる」
木漏れ日の中、イタチの写輪眼がふと紅く煌めく。
その瞳には、まるで皮を剥ぐように人の内面を覗き込む、冷ややかな知性が宿っていた。
「……あなたも、あの一瞬だけ傀儡の指先を止めていた。“殺す”ことに、わずかに躊躇が見えた」
サソリの表情に、薄く影が落ちた。
沈黙の中で、彼はゆっくりと腕を組み、苔むした足元を見下ろす。
「……お前こそ。命を削る術を平然と使うくせに、必要以上に誰も殺そうとしない。“情”を持ちすぎている」
「それは……あなたには分からない感情かもしれませんね」
少しだけ、イタチの声に揺らぎが混じった。
それは怒りではなく、皮肉でもない。淡い憐憫――あるいは、諦念に近いもの。
しばし、互いの言葉が止まった。
だが沈黙は、不快ではなかった。
葉の揺れる音、風が二人の間を通り抜ける。
「……お前の目、嫌いじゃない」
先に沈黙を破ったのはサソリだった。
「どこまでも冷めていて、だが、どこまでも熱を隠している。人形にすらそれは見える」
イタチのまぶたが、わずかに伏せられる。
「あなたの心も……人形には収まりきらない何かを、まだ内に抱えている」
ふと、空に目をやれば、森の隙間から茜色の空が覗いていた。
夕焼けが、二人の輪郭を柔らかく染める。
「……任務の続きに戻りましょう。休みは終わりです」
イタチの言葉に、サソリは立ち上がる。足元の枝が乾いた音を立てて折れた。
「……ああ。」
並び立つ二人の背中。
言葉少なに、されど確かに交わした理解の気配が、静かに彼らを包んでいた。
尊重と探究、交わることなき孤独を抱えたまま――彼らは森の奥へと歩を進めていった。
任務の最中、短い休息の時間。
二人は黙って歩いていた。獣の気配すら遠のいた静謐な森の中、枝を踏む音も響かず、風が梢をゆらす音だけが耳をくすぐる。
やがて、倒木に覆われた開けた場所へ出ると、サソリが無言で腰を下ろす。背中を樹に預け、無造作に肩を落とした。
その向かいに、イタチもまた立ち止まり、細い木の幹に背を預けるようにして静かに佇む。
日が斜めに差し込んで、二人の影を細く長く地に伸ばしていた。
「……先ほどの戦闘、動きが妙に抑制されていたように見えました」
口を開いたのはイタチだった。
その声には、責める色はない。ただ、観察の結果を淡々と述べるような、研ぎ澄まされた静けさがあった。
サソリは一瞬だけ眉をひそめたが、やがて肩をすくめるように返す。
「観察眼が鋭いな。さすが写輪眼といったところか。……だが、あれは“無駄を削いだだけ”だ。効率を考えた、それだけの話だ」
「……ふむ」
イタチは樹の皮を指先でなぞる。
その目はどこか遠くを見ているようでいて、サソリの呼吸の僅かな乱れすら逃さないような冷たさを湛えていた。
「だが、あの場面なら、三手先を封じて即座に傀儡で仕留めることもできたはずだ。あなたほどの手練なら」
言葉の刃が、空気を鋭く裂く。
サソリの目元が、わずかに吊り上がった。
「……見ていたのか。お前もずいぶんと余裕があるようだな、“うちは”の天才」
「余裕ではありません。“癖”です。人は隙に、本音を滲ませる」
木漏れ日の中、イタチの写輪眼がふと紅く煌めく。
その瞳には、まるで皮を剥ぐように人の内面を覗き込む、冷ややかな知性が宿っていた。
「……あなたも、あの一瞬だけ傀儡の指先を止めていた。“殺す”ことに、わずかに躊躇が見えた」
サソリの表情に、薄く影が落ちた。
沈黙の中で、彼はゆっくりと腕を組み、苔むした足元を見下ろす。
「……お前こそ。命を削る術を平然と使うくせに、必要以上に誰も殺そうとしない。“情”を持ちすぎている」
「それは……あなたには分からない感情かもしれませんね」
少しだけ、イタチの声に揺らぎが混じった。
それは怒りではなく、皮肉でもない。淡い憐憫――あるいは、諦念に近いもの。
しばし、互いの言葉が止まった。
だが沈黙は、不快ではなかった。
葉の揺れる音、風が二人の間を通り抜ける。
「……お前の目、嫌いじゃない」
先に沈黙を破ったのはサソリだった。
「どこまでも冷めていて、だが、どこまでも熱を隠している。人形にすらそれは見える」
イタチのまぶたが、わずかに伏せられる。
「あなたの心も……人形には収まりきらない何かを、まだ内に抱えている」
ふと、空に目をやれば、森の隙間から茜色の空が覗いていた。
夕焼けが、二人の輪郭を柔らかく染める。
「……任務の続きに戻りましょう。休みは終わりです」
イタチの言葉に、サソリは立ち上がる。足元の枝が乾いた音を立てて折れた。
「……ああ。」
並び立つ二人の背中。
言葉少なに、されど確かに交わした理解の気配が、静かに彼らを包んでいた。
尊重と探究、交わることなき孤独を抱えたまま――彼らは森の奥へと歩を進めていった。
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