しじまに咲いて、名を呼べば
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暁アジト・滞在から数週間後
結衣がアジトに滞在するようになって、数週間が過ぎた。
もともとは傀儡修復の手伝いとして呼ばれたはずが、
封印術の技量が意外にも実戦向きと分かり、今では任務補助員として、ペインに黙認されている。
──だが、問題がひとつあった。
「おいおいおい、またあの女かよ。俺の爆薬に“封印結界”なんて貼るなって言ったろ、うん?」
爆薬室の奥で、デイダラがぷんすかと文句を言っている。
どうやら彼の起爆粘土の一部に結衣が結界札を仕込んだらしく、爆破がわずかに遅延したようだ。
「暴発防止の処置です。起爆時に結界を解けば、威力は保たれます。」
「……俺の“芸術”に枠なんてつけんなっつってんだよ、うん。」
その声には苛立ちが混じっている。
だが、視線はその手元―― 結衣が巻物に札を描く筆先をじっと見ていた。
線は揺れず、指は止まらず。
封印師というより、“書家”のように静かな動き。
「……封印師ってのは、お前みたいな顔してるもんなのか?」
「どういう意味です?」
「静かで、揺れねぇ。……でもさ、あんたが真ん中に座ってると、どっかで“何か”が動かなくなる気がしてな。」
結衣は筆を置き、少しだけ笑った。
「それが封印術ですから。」
「……そうかよ。だったら俺の爆弾も、お前に触られたら“寿命が延びる”ってことか。芸術は一瞬だっつってんのによ、うん。」
そう言いながら、彼はふと視線を外す。
“気になる”というほどではない。
だが、この封印師には確かに**「見えない爆心地」**がある。
近づきすぎれば、何かが“止まる”ような気がしていた。
⸻
一方その頃:サソリの作業場
爆薬室から戻ると、結衣はいつものように無言で作業机に座った。
サソリは顔を上げず、傀儡の指を調整している。
けれどその動きは、わずかにいつもより固い。
「……デイダラの爆弾、見ました。」
「興味はない。」
「でも、あれには“即興の命”が宿っていました。……あなたの傀儡とは、正反対です。」
サソリの手が、止まる。
「即興は、劣化する。」
「けれど――その爆風のあとに、何かが残ることもあります。」
結衣の声は淡々としていた。だが、言葉の奥には明確な意図があった。
それは“デイダラを褒めた”のではない。
“あなたの内側が揺れた話”をしているのだと、サソリにも分かっていた。
「……俺は、お前があいつと話すのが気に入らない。」
静かな室内に、その一言が落ちた。
結衣は目を見開く。
あの無感情の男から、こんな“直線の感情”が出るとは思っていなかった。
「……なぜ、ですか?」
「俺の傀儡に、お前の封印は馴染んだ。……他の刺激で、術が変質されるのは困る。」
それは言い訳だった。
だが、“理由を探した言葉”には、往々にして本音が滲む。
結衣はしばらく黙っていたが、ぽつりと呟く。
「──嫉妬では?」
サソリの目が鋭くなる。
だが、その睨みは怒りではなかった。
図星を突かれ、動きを止めた傀儡のような視線だった。
「お前がどこを見ようが、興味はない。
……だが、俺の芸術の中にお前の術が染みているなら、他の手で混ぜるな。」
結衣は静かに立ち上がり、彼の傀儡の横に手を置いた。
「なら、私はこの傀儡にしか触れません。
あなたが作った、あなたにしか触れられない命だから。」
サソリは、その言葉を受け止めるように結衣を見た。
目をそらさず。
恐れも、媚びもない、そのまっすぐな視線に――
たしかに“約束”のような意思が灯っていた。
⸻
後の余話:デイダラの自室にて
その夜。
デイダラは自室で、新しい起爆粘土の配合を練っていた。
「……あの女、ただもんじゃねぇな。うん。」
指にまとわりつく粘土の冷たさの奥で、
ふと、あの静かな瞳が浮かぶ。
「なんでだろな。あんな静かなやつが……あの傀儡野郎とやり合えてんの、妙に納得しちまうのがムカつくな。」
空を見上げ、ぽつりと呟く。
「……まぁ、爆発ってのはよ。
火花より、導火線が長ぇほうが派手に散るもんだからな。」
それは、誰に向けたでもない、
けれど確かに“惹かれ始めた者の予感”だった。
結衣がアジトに滞在するようになって、数週間が過ぎた。
もともとは傀儡修復の手伝いとして呼ばれたはずが、
封印術の技量が意外にも実戦向きと分かり、今では任務補助員として、ペインに黙認されている。
──だが、問題がひとつあった。
「おいおいおい、またあの女かよ。俺の爆薬に“封印結界”なんて貼るなって言ったろ、うん?」
爆薬室の奥で、デイダラがぷんすかと文句を言っている。
どうやら彼の起爆粘土の一部に結衣が結界札を仕込んだらしく、爆破がわずかに遅延したようだ。
「暴発防止の処置です。起爆時に結界を解けば、威力は保たれます。」
「……俺の“芸術”に枠なんてつけんなっつってんだよ、うん。」
その声には苛立ちが混じっている。
だが、視線はその手元―― 結衣が巻物に札を描く筆先をじっと見ていた。
線は揺れず、指は止まらず。
封印師というより、“書家”のように静かな動き。
「……封印師ってのは、お前みたいな顔してるもんなのか?」
「どういう意味です?」
「静かで、揺れねぇ。……でもさ、あんたが真ん中に座ってると、どっかで“何か”が動かなくなる気がしてな。」
結衣は筆を置き、少しだけ笑った。
「それが封印術ですから。」
「……そうかよ。だったら俺の爆弾も、お前に触られたら“寿命が延びる”ってことか。芸術は一瞬だっつってんのによ、うん。」
そう言いながら、彼はふと視線を外す。
“気になる”というほどではない。
だが、この封印師には確かに**「見えない爆心地」**がある。
近づきすぎれば、何かが“止まる”ような気がしていた。
⸻
一方その頃:サソリの作業場
爆薬室から戻ると、結衣はいつものように無言で作業机に座った。
サソリは顔を上げず、傀儡の指を調整している。
けれどその動きは、わずかにいつもより固い。
「……デイダラの爆弾、見ました。」
「興味はない。」
「でも、あれには“即興の命”が宿っていました。……あなたの傀儡とは、正反対です。」
サソリの手が、止まる。
「即興は、劣化する。」
「けれど――その爆風のあとに、何かが残ることもあります。」
結衣の声は淡々としていた。だが、言葉の奥には明確な意図があった。
それは“デイダラを褒めた”のではない。
“あなたの内側が揺れた話”をしているのだと、サソリにも分かっていた。
「……俺は、お前があいつと話すのが気に入らない。」
静かな室内に、その一言が落ちた。
結衣は目を見開く。
あの無感情の男から、こんな“直線の感情”が出るとは思っていなかった。
「……なぜ、ですか?」
「俺の傀儡に、お前の封印は馴染んだ。……他の刺激で、術が変質されるのは困る。」
それは言い訳だった。
だが、“理由を探した言葉”には、往々にして本音が滲む。
結衣はしばらく黙っていたが、ぽつりと呟く。
「──嫉妬では?」
サソリの目が鋭くなる。
だが、その睨みは怒りではなかった。
図星を突かれ、動きを止めた傀儡のような視線だった。
「お前がどこを見ようが、興味はない。
……だが、俺の芸術の中にお前の術が染みているなら、他の手で混ぜるな。」
結衣は静かに立ち上がり、彼の傀儡の横に手を置いた。
「なら、私はこの傀儡にしか触れません。
あなたが作った、あなたにしか触れられない命だから。」
サソリは、その言葉を受け止めるように結衣を見た。
目をそらさず。
恐れも、媚びもない、そのまっすぐな視線に――
たしかに“約束”のような意思が灯っていた。
⸻
後の余話:デイダラの自室にて
その夜。
デイダラは自室で、新しい起爆粘土の配合を練っていた。
「……あの女、ただもんじゃねぇな。うん。」
指にまとわりつく粘土の冷たさの奥で、
ふと、あの静かな瞳が浮かぶ。
「なんでだろな。あんな静かなやつが……あの傀儡野郎とやり合えてんの、妙に納得しちまうのがムカつくな。」
空を見上げ、ぽつりと呟く。
「……まぁ、爆発ってのはよ。
火花より、導火線が長ぇほうが派手に散るもんだからな。」
それは、誰に向けたでもない、
けれど確かに“惹かれ始めた者の予感”だった。
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