しじまに咲いて、名を呼べば
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依頼:戦乱下の旧神殿跡に潜伏する諜報部隊の制圧と、機密巻物の回収。
初の共闘――だが、これは「戦力査定」の意味合いが強い。
「……お前の力、使えるかどうか、確かめてやる。」
背を向けたまま、冷ややかに言い捨てる。
その背中を、結衣は無言で追う。ただ、静かな足音だけを残して。
⸻
神殿跡の地下。湿った空気の中、チャクラの揺れと封印術式の痕跡が入り混じる。
敵の感知結界が張られており、術式の誤差ひとつで侵入がバレる状況。
結衣は無言で両手を合わせ、指先から静かに三枚の封印符を飛ばす。
空中で回転しながら着地した符は、チャクラ感知の波を吸収するように淡く光り、次の瞬間には沈黙する。
(なるほど、波紋を静止させたか……)
背後からそれを見ていたサソリの瞳が細くなる。
(無駄がない。術の展開速度も正確。……)
封印術――
それは本来、敵の力を封じるための術に過ぎない。
だが、結衣のそれは、描くものだった。
夜の神殿跡。
石の床に広がる微かな月明かりと、僅かに揺れる霧の中――
彼女は右手に札を一枚、左手に筆を構える。
「……墨封・結界花。」
その声は風よりも淡く、だが確かに響く。
筆先が石床をなぞると、黒い墨がまるで花弁のように咲き広がり、
空気の中に柔らかな圧が生まれる。
五枚の札が風に舞うように空中を旋回し、術式の軌道を描いてゆく。
淡い光の筋が、花が開くように広がる。
その瞬間、敵の足元に術式が到達し、柔らかに“動き”を奪った。
(……殺すための術に、ここまでの余白が要るのか。)
だが確かに、美しかった。
(違う……これは、術というより──呼吸だ。)
後方にいたサソリの思考が、そこで止まる。
それは機能としての封印ではない。
“見せる”意志をもつ、緻密で美しい術だった。
無駄がなく、だが美的に完成された幾何と曲線。
そして、術が発動する寸前に浮かぶ“わずかな余白”が、呼吸のように自然だった。
(……あの一拍、俺の傀儡の間合いと合う。)
彼は思わず指を動かす。
人差し指と中指の間に通した操作糸が、次の瞬間に空を裂く。
練の封印が敵の動きを凍らせた、“ほんの刹那”の間。
サソリの傀儡が、それに呼応するように走る。
糸の張力が鳴ることもなく──ただ、静かに、刃が音を吸い込んだ。
⸻
結衣が振り返る。
瞳は墨を落としたような穏やかなグレー。
そこに、戦いの高揚も、敵への憎悪もない。
あるのは――完成された流れの美。
サソリは、傀儡を引き戻しながらぼそりと呟いた。
「お前……封印術、何を見て描いてる。」
「“重ねたもの”です。」
「……?」
「人の感情や記憶、言葉にならないものを、札の中に描いているつもりです。」
「無駄だ。」
「ええ。でも――そうしないと、術が“私のもの”じゃなくなるから。」
サソリはその答えに、何も言わなかった。
だが数歩前に出た彼の背は、
それまでよりわずかに――隣に近かった。
⸻
任務は終わった。
封印札は回収され、傀儡は一体も破損しなかった。
それでも、帰り道。
操作糸を引いた指先に、まだ結衣の術の“間”が残っている気がした。
それは糸の張力ではなく、呼吸の余韻。
自分の中にない“柔らかさ”が、確かに染みついている。
互いの名も、まだ呼び合わぬまま。
言葉すらない、その呼吸と沈黙のあいだに、確かに共鳴が生まれていた。
初の共闘――だが、これは「戦力査定」の意味合いが強い。
「……お前の力、使えるかどうか、確かめてやる。」
背を向けたまま、冷ややかに言い捨てる。
その背中を、結衣は無言で追う。ただ、静かな足音だけを残して。
⸻
神殿跡の地下。湿った空気の中、チャクラの揺れと封印術式の痕跡が入り混じる。
敵の感知結界が張られており、術式の誤差ひとつで侵入がバレる状況。
結衣は無言で両手を合わせ、指先から静かに三枚の封印符を飛ばす。
空中で回転しながら着地した符は、チャクラ感知の波を吸収するように淡く光り、次の瞬間には沈黙する。
(なるほど、波紋を静止させたか……)
背後からそれを見ていたサソリの瞳が細くなる。
(無駄がない。術の展開速度も正確。……)
封印術――
それは本来、敵の力を封じるための術に過ぎない。
だが、結衣のそれは、描くものだった。
夜の神殿跡。
石の床に広がる微かな月明かりと、僅かに揺れる霧の中――
彼女は右手に札を一枚、左手に筆を構える。
「……墨封・結界花。」
その声は風よりも淡く、だが確かに響く。
筆先が石床をなぞると、黒い墨がまるで花弁のように咲き広がり、
空気の中に柔らかな圧が生まれる。
五枚の札が風に舞うように空中を旋回し、術式の軌道を描いてゆく。
淡い光の筋が、花が開くように広がる。
その瞬間、敵の足元に術式が到達し、柔らかに“動き”を奪った。
(……殺すための術に、ここまでの余白が要るのか。)
だが確かに、美しかった。
(違う……これは、術というより──呼吸だ。)
後方にいたサソリの思考が、そこで止まる。
それは機能としての封印ではない。
“見せる”意志をもつ、緻密で美しい術だった。
無駄がなく、だが美的に完成された幾何と曲線。
そして、術が発動する寸前に浮かぶ“わずかな余白”が、呼吸のように自然だった。
(……あの一拍、俺の傀儡の間合いと合う。)
彼は思わず指を動かす。
人差し指と中指の間に通した操作糸が、次の瞬間に空を裂く。
練の封印が敵の動きを凍らせた、“ほんの刹那”の間。
サソリの傀儡が、それに呼応するように走る。
糸の張力が鳴ることもなく──ただ、静かに、刃が音を吸い込んだ。
⸻
結衣が振り返る。
瞳は墨を落としたような穏やかなグレー。
そこに、戦いの高揚も、敵への憎悪もない。
あるのは――完成された流れの美。
サソリは、傀儡を引き戻しながらぼそりと呟いた。
「お前……封印術、何を見て描いてる。」
「“重ねたもの”です。」
「……?」
「人の感情や記憶、言葉にならないものを、札の中に描いているつもりです。」
「無駄だ。」
「ええ。でも――そうしないと、術が“私のもの”じゃなくなるから。」
サソリはその答えに、何も言わなかった。
だが数歩前に出た彼の背は、
それまでよりわずかに――隣に近かった。
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任務は終わった。
封印札は回収され、傀儡は一体も破損しなかった。
それでも、帰り道。
操作糸を引いた指先に、まだ結衣の術の“間”が残っている気がした。
それは糸の張力ではなく、呼吸の余韻。
自分の中にない“柔らかさ”が、確かに染みついている。
互いの名も、まだ呼び合わぬまま。
言葉すらない、その呼吸と沈黙のあいだに、確かに共鳴が生まれていた。