DAY DREAM
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任務が終わって自由時間。作品づくりに欠かせない上質な土が欲しくなって、オイラは或る国に行くことにした。
一人で行け、勝手にしろ、俺を巻き込むな、と。
普段は突き放してくるサソリの旦那が、どういうわけか今回は一緒についてきた。どうやら旦那には旦那の目的があるらしい。
広大な砂漠の上空を飛行し、砂漠の奥地にある緑豊かな小国を目指す。他国との交流がなく、独自の陶器文化が栄えている国だった。そこでしか手に入らない黄土をベースに、木節と、それから珪石で混合した白土を加える伝統工法で作ってるんだってさ。そんなすげー土、絶対欲しいだろ? いつだって、良い土があると聞けば、時間と手間が掛かっても必ず手に入れてきたんだ。
貴重な土をゲットして、芸術家として更なる高みを目指さねぇとな、うん。
「落ちるなよ」
と、突然サソリの旦那が言った。
「落ちるわけねーだろ?オイラって中忍以下のガキなのかよ」
バカにされたと思って言い返す。でも旦那はなんていうか、引き下がった。
「……そういう意味じゃない」
「? じゃあどーゆー意味だよ?」
ジュンスイな疑問で問い返すと、サソリの旦那はすっげー珍しいことに目をそらした。あ、これ図星だな、うん。
ふん、とそっぽを向いた横顔をじっと見る。綺麗な顔なんだなーこれが。沈黙が続いて、そのまま目的地に着いて、目当ての土をゲット!
やりぃ、と浮かれていたら今度は「楽しそうだな」って言われた。なんなんだよ、楽しいに決まってんじゃねぇか。
目的を達成したら長居は無用だ。即また砂漠の上を飛んでアジトに帰還。結局旦那の用事が何なのかはわからなかった。ま、オイラには関係ないもんな。旦那には旦那の、芸術を高める用事があるのかもしれないな。それなら、負けてらんねぇ。
「よーし」
手に入れた土を早速部屋に持ち込み、創作に没頭する。手のひらに吸い付くような土の感触にワクワクしながら、チャクラとの相性を計り、粘土を捏ね続ける。
でも数ヶ月にわたる激務の直後なわけだ。休みなくぶっ続けで飛んできたせいもあってか、いつの間にか作業台の上で居眠りをこいてしまう。
――――そして、奇妙な夢を見た。
夜の砂漠を一人で歩く。
気温は日中と打って変わって氷点下。人はおろか、虫一匹見当たらない。ざ、ざ、ざ、と砂を踏むオイラの足音だけが響いてくる。あまりの静けさに、澄んだ夜空から星の瞬く音が聞こえてきそうな気がした。
究極芸術を完成させるための特別な土を求めて、オイラは夜の砂漠を歩いていた。でも行く当てがあるわけでもなし。丘を二つ越えたところに小さな水場を見つけて、一息つこうと側の茂みに腰を下ろすと、そこに一体の人形が横たわっているのに気付く。
いつ誰がどんな理由で置いていったのかはわからないが、今にも動き出しそうなほど、精巧に作られた人形だった。
髪は深みのある赤色。姿形はサソリの旦那そのものだったが、どういうわけか夢の中のオイラは、それが旦那だってわからなかった。
「……こんなに綺麗なのにな」
なのに、こんなところに置いていかれちまって。
なんとなく寂しそうな人形を気の毒に思って、顔や身体の砂埃を払う。
それから、自分の外套を脱いでそれで包み込み、菅笠をかぶせて寝かせてやった。なんでこんなことをするかって、夢の中のことだから、理由なんてなかった。
敢えて言うなら、寂しそうだったから。
結局砂漠で土は見つけられなくて、オイラは夢の中の里に戻った。
普通に日々過ごしていると、ある日、その人形が里までやってきた。現実だったらちょっとした怪談になりそうなものだけど、夢の中のオイラは特に怖がることもなく、真夜中に訪ねてきた人形をすんなりと自分の部屋に通した。
「なんだよ、こんな夜中に」
「……」
「オイラに何か用があってきたんだろ?」
「……」
「黙っててもわかんねぇぞ、うん」
思い出してみれば、顔は旦那そのものだった。でもその夢の中の里に、旦那は存在してなかった。だからオイラは初めて綺麗な顔を見た。近くで顔面をまじまじと。
端正で芸術的な顔立ちだって、素直に思った。天才芸術家のオイラが思うんだから間違いない。
人形は何も言わないまま、しばらく部屋の中に立っていた。やがて、そっと菅笠を置き、外套を脱いで深々と頭を下げる。そこでようやく気が付いた。返しに来たのか! 律儀だな!
「……いいよ。それ、お前にやったんだからな。もうお前のだ、うん」
言いながら、もう一度外套を着せてやると、いきなり人形がしがみついてきた。
軽くて、すぐに振り払えそうな力だったけど、なんでか、このままでいい気がした。人形の身体は硬くて冷たいのに、離れたいとはちっとも思わなかった。
その夜を境に、人形はどこへ行くにもついてきた。オイラの後ろを静かに歩く。
別に邪魔にならないし、むしろ製作を手伝ってくれたり、一緒に土を探してくれたり、家では掃除や飯炊きなんかもやってくれた。夜になると布団を二つ敷いているのに、結局オイラのところに潜り込んできて、引っ付いて離れないから、仕方なしに毎日同じ布団で寝た。人形なんかと暮らすなんて侘しい奴だと里の奴らが言ったけど、ひとりで居るよりずっと心地が良かったんだ。つまらない里の人間なんかより、オイラはこいつと一緒が良かった。
「お前、オイラと居て楽しいか?」
「……」
聞いてみたけど、やっぱり人形は喋らない。
でも、きっとあんな場所に一人置き去りにされて、こいつは寂しかったに違いない。砂漠で見つけたあの夜オイラの中に生まれた感情も、きっと同じだったんだ。
人形と過ごし始めてひと月。毎日が楽しかった。話し掛ける相手が居るって、すげえことだ。
で、その日。オイラは人形に、新作の材料になる良い土を集めてきてくれって頼んだ。前に一緒に行ったことがある場所だし大丈夫だろって、その日、初めて一人で行かせた。
でも、午後から天気が崩れて大雨になった。
人形が戻ってこなくて心配になって、オイラは雨の中を探しに出かけた。里の外れにある採掘場のあたりを彷徨いているはずだが、見当たらない。心に焦りが湧いてくる。
雨は夕方になってもやまなかった。もはや嵐と言っていい。
――と、山側の方で獣が吠えるような音がした。地割れだ。崖崩れが起こったんだ。土砂に巻き込まれるかも、なんて思わずに一目散に走った。冷静でいられなかった。
目に入ったのは、凄まじい崩落が起きた跡地。大量の土砂が採掘場一帯を埋め尽くしていた。
「まさか……」
オイラはただ必死に土砂を堀って手当たり次第に探した。あいつが、あいつが巻き込まれたかもしれない。飛び散った土砂で顔も髪も真っ黒になったって、ひたすら土を掘り続けた。
ふと気が付けば、雨は止んでいた。
辺りがひんやりとした夜気に包まれ、暗さに戸惑ってオイラはようやく手を止めた。未だに姿が見当たらない。顔を上げると、頭上には無数の星が瞬いていた。
あいつと出会った夜とおんなじ空だった。
生まれてはじめてオイラは泣いた。声を上げて、溢れ出る涙を拭うことなんてできないまま。心臓がえぐられる思いだった。
ただの人形。――だけど何よりもかけがえのないものだったのに。
オイラを慕って側に居てくれたのに、なぜもっと大切にしてやれなかったんだろう。
後悔なんて、一度もしたことがなかったのに、今は後悔しかない。なんで一人で行かせたんだ、なんで、いちばん大事だったのに。
そのとき、すぐ側でカタカタと物音が聞こえた。反射的に視線を向けると、そこには泥だらけの人形が立っていた。
オイラの姿を見つけてすぐ、駆け寄ってくる。
こんな時でも喋らない。それでも泥に汚れた綺麗な顔は嬉しそうだ。
「はは、はははは……」
泣きながら笑った。
お前も、オイラを探してくれていたのか。
それで泥だらけになっちまったのか。
愛おしくて愛おしくて、胸が裂けそうなくらい息が詰まって、泥だらけのオイラは泥だらけになった人形を力いっぱい抱きしめた。
こいつと出会うために生まれてきたんじゃないかってほど、熱い感情が――。
「ありがとな。雨の中、よく頑張ったな、うん」
人形の抱えた木桶には、土がたっぷり入っていた。粒が細かくて質が良い。
すごく嬉しかったけど、どうでもいいとも思った。こいつが側に居てくれたら、それでいい。芸術よりも大切なものって、ホントにあったんだ。
「はは、二人してドロドロになっちまったな。帰ったらすぐ風呂沸かして、綺麗に洗ってやるからよ、うん」
疲れるハズがない人形が、疲れているように見えた。だから人形をおぶって家までの道を急いだ。ぽかぽかと胸が温かくて、言葉で言い表せない気持ちがオイラの中に芽生えていた。
「そうだ。今更だけどさ。名前、まだだったよな……うん。そうだな、何がいいかな。似合う名前、そう、サソ――」
ドッ、という振動。
脳天に激痛が走って、眼球に光が突き刺さる。
「い、痛ってぇぇぇぇ!!!」
飛び起きると、ヒルコの尾が頭に刺さっていた。なんだこれ、現実? 現実なのに、これこそ悪夢だ、あんまりだ。
「いつまで寝てやがる、クソガキ」
「痛ってぇな!! 殺す気かよ、旦那ァ!」
「フン、起きねぇならケツまでブッ刺してやろうかと思ったんだがな」
「おっかねぇな、ったく……」
なんだなんだ。何が何だかわからない。
夢だった。いいや、夢だって気づいてた。でも夢の中の、同じ名前で同じ顔をしたあいつは、すっげー可愛かった。オイラの理想だった、うん。
「なんなんだよ、マジで……あんなに……」
「あ? 今なんつった?」
「あ、いや、なんでもないっすよ、うん……」
「任務だ。行くぞ」
「はいはい」
ヒリヒリ痛む頭頂部を押さえつつ、今日も変わらず短気で口の悪い旦那の後を追う。夢と現実とのギャップに、まだ寝惚けた頭がついていかない。
「でも、あっちが本物じゃね? うん」
サソリの旦那は素直じゃない。それはもう知っているから、あれってオイラの願望なだけじゃなくてさ。二人の―――
「早くしろ。俺を待たせるんじゃねぇ」
呼ばれたデイダラは黙ってサソリの後ろをついていく。これって、夢とは逆だ。
逆だけど、同じことだ。
だって、オイラと旦那はいつも一緒なんだからさ。だから、夢の中のあれが旦那の本心だって、オイラ、信じていいよな。
一人で行け、勝手にしろ、俺を巻き込むな、と。
普段は突き放してくるサソリの旦那が、どういうわけか今回は一緒についてきた。どうやら旦那には旦那の目的があるらしい。
広大な砂漠の上空を飛行し、砂漠の奥地にある緑豊かな小国を目指す。他国との交流がなく、独自の陶器文化が栄えている国だった。そこでしか手に入らない黄土をベースに、木節と、それから珪石で混合した白土を加える伝統工法で作ってるんだってさ。そんなすげー土、絶対欲しいだろ? いつだって、良い土があると聞けば、時間と手間が掛かっても必ず手に入れてきたんだ。
貴重な土をゲットして、芸術家として更なる高みを目指さねぇとな、うん。
「落ちるなよ」
と、突然サソリの旦那が言った。
「落ちるわけねーだろ?オイラって中忍以下のガキなのかよ」
バカにされたと思って言い返す。でも旦那はなんていうか、引き下がった。
「……そういう意味じゃない」
「? じゃあどーゆー意味だよ?」
ジュンスイな疑問で問い返すと、サソリの旦那はすっげー珍しいことに目をそらした。あ、これ図星だな、うん。
ふん、とそっぽを向いた横顔をじっと見る。綺麗な顔なんだなーこれが。沈黙が続いて、そのまま目的地に着いて、目当ての土をゲット!
やりぃ、と浮かれていたら今度は「楽しそうだな」って言われた。なんなんだよ、楽しいに決まってんじゃねぇか。
目的を達成したら長居は無用だ。即また砂漠の上を飛んでアジトに帰還。結局旦那の用事が何なのかはわからなかった。ま、オイラには関係ないもんな。旦那には旦那の、芸術を高める用事があるのかもしれないな。それなら、負けてらんねぇ。
「よーし」
手に入れた土を早速部屋に持ち込み、創作に没頭する。手のひらに吸い付くような土の感触にワクワクしながら、チャクラとの相性を計り、粘土を捏ね続ける。
でも数ヶ月にわたる激務の直後なわけだ。休みなくぶっ続けで飛んできたせいもあってか、いつの間にか作業台の上で居眠りをこいてしまう。
――――そして、奇妙な夢を見た。
夜の砂漠を一人で歩く。
気温は日中と打って変わって氷点下。人はおろか、虫一匹見当たらない。ざ、ざ、ざ、と砂を踏むオイラの足音だけが響いてくる。あまりの静けさに、澄んだ夜空から星の瞬く音が聞こえてきそうな気がした。
究極芸術を完成させるための特別な土を求めて、オイラは夜の砂漠を歩いていた。でも行く当てがあるわけでもなし。丘を二つ越えたところに小さな水場を見つけて、一息つこうと側の茂みに腰を下ろすと、そこに一体の人形が横たわっているのに気付く。
いつ誰がどんな理由で置いていったのかはわからないが、今にも動き出しそうなほど、精巧に作られた人形だった。
髪は深みのある赤色。姿形はサソリの旦那そのものだったが、どういうわけか夢の中のオイラは、それが旦那だってわからなかった。
「……こんなに綺麗なのにな」
なのに、こんなところに置いていかれちまって。
なんとなく寂しそうな人形を気の毒に思って、顔や身体の砂埃を払う。
それから、自分の外套を脱いでそれで包み込み、菅笠をかぶせて寝かせてやった。なんでこんなことをするかって、夢の中のことだから、理由なんてなかった。
敢えて言うなら、寂しそうだったから。
結局砂漠で土は見つけられなくて、オイラは夢の中の里に戻った。
普通に日々過ごしていると、ある日、その人形が里までやってきた。現実だったらちょっとした怪談になりそうなものだけど、夢の中のオイラは特に怖がることもなく、真夜中に訪ねてきた人形をすんなりと自分の部屋に通した。
「なんだよ、こんな夜中に」
「……」
「オイラに何か用があってきたんだろ?」
「……」
「黙っててもわかんねぇぞ、うん」
思い出してみれば、顔は旦那そのものだった。でもその夢の中の里に、旦那は存在してなかった。だからオイラは初めて綺麗な顔を見た。近くで顔面をまじまじと。
端正で芸術的な顔立ちだって、素直に思った。天才芸術家のオイラが思うんだから間違いない。
人形は何も言わないまま、しばらく部屋の中に立っていた。やがて、そっと菅笠を置き、外套を脱いで深々と頭を下げる。そこでようやく気が付いた。返しに来たのか! 律儀だな!
「……いいよ。それ、お前にやったんだからな。もうお前のだ、うん」
言いながら、もう一度外套を着せてやると、いきなり人形がしがみついてきた。
軽くて、すぐに振り払えそうな力だったけど、なんでか、このままでいい気がした。人形の身体は硬くて冷たいのに、離れたいとはちっとも思わなかった。
その夜を境に、人形はどこへ行くにもついてきた。オイラの後ろを静かに歩く。
別に邪魔にならないし、むしろ製作を手伝ってくれたり、一緒に土を探してくれたり、家では掃除や飯炊きなんかもやってくれた。夜になると布団を二つ敷いているのに、結局オイラのところに潜り込んできて、引っ付いて離れないから、仕方なしに毎日同じ布団で寝た。人形なんかと暮らすなんて侘しい奴だと里の奴らが言ったけど、ひとりで居るよりずっと心地が良かったんだ。つまらない里の人間なんかより、オイラはこいつと一緒が良かった。
「お前、オイラと居て楽しいか?」
「……」
聞いてみたけど、やっぱり人形は喋らない。
でも、きっとあんな場所に一人置き去りにされて、こいつは寂しかったに違いない。砂漠で見つけたあの夜オイラの中に生まれた感情も、きっと同じだったんだ。
人形と過ごし始めてひと月。毎日が楽しかった。話し掛ける相手が居るって、すげえことだ。
で、その日。オイラは人形に、新作の材料になる良い土を集めてきてくれって頼んだ。前に一緒に行ったことがある場所だし大丈夫だろって、その日、初めて一人で行かせた。
でも、午後から天気が崩れて大雨になった。
人形が戻ってこなくて心配になって、オイラは雨の中を探しに出かけた。里の外れにある採掘場のあたりを彷徨いているはずだが、見当たらない。心に焦りが湧いてくる。
雨は夕方になってもやまなかった。もはや嵐と言っていい。
――と、山側の方で獣が吠えるような音がした。地割れだ。崖崩れが起こったんだ。土砂に巻き込まれるかも、なんて思わずに一目散に走った。冷静でいられなかった。
目に入ったのは、凄まじい崩落が起きた跡地。大量の土砂が採掘場一帯を埋め尽くしていた。
「まさか……」
オイラはただ必死に土砂を堀って手当たり次第に探した。あいつが、あいつが巻き込まれたかもしれない。飛び散った土砂で顔も髪も真っ黒になったって、ひたすら土を掘り続けた。
ふと気が付けば、雨は止んでいた。
辺りがひんやりとした夜気に包まれ、暗さに戸惑ってオイラはようやく手を止めた。未だに姿が見当たらない。顔を上げると、頭上には無数の星が瞬いていた。
あいつと出会った夜とおんなじ空だった。
生まれてはじめてオイラは泣いた。声を上げて、溢れ出る涙を拭うことなんてできないまま。心臓がえぐられる思いだった。
ただの人形。――だけど何よりもかけがえのないものだったのに。
オイラを慕って側に居てくれたのに、なぜもっと大切にしてやれなかったんだろう。
後悔なんて、一度もしたことがなかったのに、今は後悔しかない。なんで一人で行かせたんだ、なんで、いちばん大事だったのに。
そのとき、すぐ側でカタカタと物音が聞こえた。反射的に視線を向けると、そこには泥だらけの人形が立っていた。
オイラの姿を見つけてすぐ、駆け寄ってくる。
こんな時でも喋らない。それでも泥に汚れた綺麗な顔は嬉しそうだ。
「はは、はははは……」
泣きながら笑った。
お前も、オイラを探してくれていたのか。
それで泥だらけになっちまったのか。
愛おしくて愛おしくて、胸が裂けそうなくらい息が詰まって、泥だらけのオイラは泥だらけになった人形を力いっぱい抱きしめた。
こいつと出会うために生まれてきたんじゃないかってほど、熱い感情が――。
「ありがとな。雨の中、よく頑張ったな、うん」
人形の抱えた木桶には、土がたっぷり入っていた。粒が細かくて質が良い。
すごく嬉しかったけど、どうでもいいとも思った。こいつが側に居てくれたら、それでいい。芸術よりも大切なものって、ホントにあったんだ。
「はは、二人してドロドロになっちまったな。帰ったらすぐ風呂沸かして、綺麗に洗ってやるからよ、うん」
疲れるハズがない人形が、疲れているように見えた。だから人形をおぶって家までの道を急いだ。ぽかぽかと胸が温かくて、言葉で言い表せない気持ちがオイラの中に芽生えていた。
「そうだ。今更だけどさ。名前、まだだったよな……うん。そうだな、何がいいかな。似合う名前、そう、サソ――」
ドッ、という振動。
脳天に激痛が走って、眼球に光が突き刺さる。
「い、痛ってぇぇぇぇ!!!」
飛び起きると、ヒルコの尾が頭に刺さっていた。なんだこれ、現実? 現実なのに、これこそ悪夢だ、あんまりだ。
「いつまで寝てやがる、クソガキ」
「痛ってぇな!! 殺す気かよ、旦那ァ!」
「フン、起きねぇならケツまでブッ刺してやろうかと思ったんだがな」
「おっかねぇな、ったく……」
なんだなんだ。何が何だかわからない。
夢だった。いいや、夢だって気づいてた。でも夢の中の、同じ名前で同じ顔をしたあいつは、すっげー可愛かった。オイラの理想だった、うん。
「なんなんだよ、マジで……あんなに……」
「あ? 今なんつった?」
「あ、いや、なんでもないっすよ、うん……」
「任務だ。行くぞ」
「はいはい」
ヒリヒリ痛む頭頂部を押さえつつ、今日も変わらず短気で口の悪い旦那の後を追う。夢と現実とのギャップに、まだ寝惚けた頭がついていかない。
「でも、あっちが本物じゃね? うん」
サソリの旦那は素直じゃない。それはもう知っているから、あれってオイラの願望なだけじゃなくてさ。二人の―――
「早くしろ。俺を待たせるんじゃねぇ」
呼ばれたデイダラは黙ってサソリの後ろをついていく。これって、夢とは逆だ。
逆だけど、同じことだ。
だって、オイラと旦那はいつも一緒なんだからさ。だから、夢の中のあれが旦那の本心だって、オイラ、信じていいよな。
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