ハツコイアザミ 短編
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「ごめんなさい。私の力では、サソリさんについて行くことが出来ません。だから‥‥組織を抜けます」
そう言ってサソリに背を向けた。
無理やり引き留められるだろうか。それとも、次の瞬間には殺られるだろうか。
どちらにしても、組織の内部のことを知っている自分を、このまま暁が野放しにすることはまずないだろう。
そこまでの覚悟を決めての決断だった。
しかし、そのどちらも起こることは無かった。
走って逃げたわけでも、術で姿をくらませたわけでもない。ただ、なにも彼が私に対して反応を見せなかったことが逆に不安に感じた。それに、欲を言うなら、いつか見つけ出されて始末されるならば、誰かも分からない人よりはサソリに、自分が好きになってしまった人の手によってがいいなんて思ってしまっているあたり、自分でもあきれてしまう。
そうして、あっという間に月日が流れた。
五年というのはこんなにも早く過ぎてしまうものなのだろうか。あの時に芽生えていた恋の気持ちはずっと自分の心の中にあり続けていた。いくら忘れようとしても、任務に没頭しても、ふとした瞬間に思い出してしまうのだ。だから、余計にそんなことを思い出す暇もないくらいに、新たに任務を請け負って自分の感情を押し殺そうとする日々を送るのだった。
そして、こんなに長く私が組織を抜けた事実を暁が知らないわけはなく、居場所を探し当てることができないはずはなかった。だから、少しだけ希望的な想像をしてしまうのだ。
もしかしたら、サソリが何も報告をしないでいてくれているのではないか。
そう考えると、どうしても自分に都合がいいように想像は進む。
もしかしたら、サソリも自分のことを気に入ってくれていて、何も手を出してこないのではないか‥‥なんて。
ぶんぶんと頭を振ってその考えを振り払った。任務中に余計なことを考えるものではない。再びあたりに視線を巡らせて、捉えるターゲットを探す。特に目撃情報のあった周辺を重点的に見ていると、急に背中に突き刺さるような殺気を感じた。
この殺気は身に覚えがあった。暁に所属していたときにすぐ隣で嫌というほどに感じて来たそれは、五年たっても決して忘れることが出来ないものであった。
(まさかこんなところで‥‥。今回の任務は少数で動いてる。味方は隣町で調査中だからすぐに応援を呼べない。それに‥‥ここで戦いなんてしたら隠れているターゲットにも気づかれる恐れがある。‥‥仕方ない)
身を潜めていた物陰から飛び出して、できるだけ人目が付かない路地裏をひたすら郊外に向かって走る。背中に感じる気配が遠くなる感じはしない。むしろだんだん近づいてきている。どうせ戦いになるのなら、誰も巻き込むことのないところまでいかなければ。
人気のほとんどないところまで来て、ようやく結衣は足を止めて後ろを振り返った。そこには、思った通り、サソリの姿があった。
「俺から逃げられると思っていたわけではないのだろう?」
「‥‥もちろんです。戦いに、関係の無い人たちを巻き込むことはできないので」
「俺と一騎打ちで勝てると思っているのか」
「それは、やってみないと分からないことですから」
出来るだけ冷静さを装ってはいたが、結衣の心中は穏やかではなかった。目の前には、全力で戦っても勝てるかどうか分からない相手がいる。しかし、その相手を傷つけたくないと思っている自分もいる。
「敵を目の前に考え事をするとは良い度胸だな」
その声と共に、恐ろしい形相をした傀儡が飛びかかってきた。それをとっさにかわしたが、背後に潜んでいたもう一体の傀儡に身動きを封じられる。
「くっ!」
「ずいぶんと腕が鈍ったようだな。残念だ」
その声が聞こえたかと思うと、腹部に鈍痛が走った。そのあまりの痛みから逃れるように、結衣は意識を飛ばした。
足元にぐったりと横たわる少女。いや、もう少女と呼ぶ年齢ではないか。
最後に見た日からすると女性らしさが出ているものの、結衣から醸し出される雰囲気はそのままだった。あの頃と変わらないから、背中を見ただけですぐに気が付いた。
もう自力で動くことが出来ない彼女を見下ろしてふと一考する。
(このまま放っておけば勝手に死ぬだろうが‥‥俺のコレクションに加えてもいいか。そう言えば、血継限界を持っていたな。コレクションとしての価値は十分にあるな)
そう思い、結衣のすぐ横にしゃがんで担ぎあげると、その場を後にした。
日の光のまぶしさを感じて、うっすらと目を開けた。光に目が慣れてきたところで、自分の視界に入って来た景色に既視感を感じる。
(ここ、サソリさんの隠れ家‥‥?)
周りをよく見てみようと体を動かした瞬間、腹部に激痛が走る。
「っ‥‥うぅ‥‥」
思わずうめき声が漏れる。大声を出さなかった自分を褒めたいくらいだ。
痛みがあったところに手を伸ばすと、そこには丁寧に包帯が巻かれていた。そして、そこでようやく目が覚める前のことを思い出した。
(サソリさんの攻撃を受けた後に気を失って‥‥。どうしてこんな状況に?何でまだ生きてるんだろう?それにこの包帯。こんなめんどくさいこと、どうしてしてくれたの?)
考えれば考えるほどに、サソリの行動の意図が読めない。すると、奥の方から足音が聞こえて来た。徐々に近づいてくるその音は、確実にこの部屋に向かってきていた。サソリが入ってくる直前に慌てて目を閉じて、寝ているふりをする。まだ、面と向かってサソリと話すだけの心の準備はできていなかった。
様子を見てすぐに出て行くかと思いきや、サソリはすぐ真横まで近づいてきた。自分に視線を注がれているのを感じて緊張してしまう。
すると、突然、髪の毛から頬にかけてサソリの手が触れる。思わず動きそうになってしまうのをどうにか堪える。すると、
「傀儡にするつもりで連れて帰って来たのに、どうもやる気が起こらない。ここに置いてるのも邪魔になるだけなのに‥‥」
とポツリとつぶやくような声が聞こえた。その声はいつのもの自信に満ちたサソリのものとは思えないほどに、弱々しく苦しそうに聞こえた。そして、頬に触れていた手が離れ、足音と共にサソリの気配が部屋から消えて行った。
彼に触れられたところがひどく熱く感じる。
(さっきのは一体‥‥?)
これまで必死に自分の胸の奥に押し込んできた感情が、一気に溢れてきそうになっているのを感じる。しかし、それは許される事ではない。以前の上司と部下という関係ならともかく、今は敵同士。
本当ならば、こうして一命をとりとめたのなら、今は敵の幹部の一人をしとめる絶好のチャンスのはずだ。さっきのように至近距離まで近づくことなど、戦いの場であれば到底不可能なはずだ。そんな機会をみすみす自分から見逃してしまうほどに、心の中で迷いが出ていた。
どのように行動することが正解なのかは、頭では理解していた。一対一で戦っても勝機がないことは分かっているから、隙を見て逃げだし、仲間の応援を呼ぶ。この隠れ家の内部を知っている私ならば、それは不可能なことではないはずだった。ならば、どうしてこうも行動を起こすことをためらってしまうのか。それは、こんな状況にあってもなお、サソリのそばにまた近づくことが出来たことに嬉しさを覚えている自分がいたからだ。
(はぁ‥‥これじゃ、本当に忍失格だな)
自分が行動を起こさないことで、仲間に襲い掛かる脅威を一つ見逃してしまうことになるというのに、どうしても覚悟を決めることが出来なかった。
呼吸のリズムから、結衣が起きていることは気が付いていた。だから、少しだけ神経を研ぎ澄まして彼女に近づいた。油断した隙をついて術をかけてくる可能性が無いわけではなからだ。そもそも拘束していれば済む話なのだが、どうしてかそこまでする気にはなれなかった。
昨日までは、コレクションが増えることに喜びを感じていたが、その気持ちも時間が経つにつれてだんだんと薄れてしまっていた。興味が無くなったわけではない。むしろ、より手元に置いておきたい気持ちは高まっていると言える。
(それなら、なおさら傀儡にして、完璧な状態で永遠に俺の手元に残せた方がいいというのに‥‥。逃げることも逆らうこともなく、今のままの美しい姿をずっと残しておくことに意味があるはずなのに)
手元に置きたいが、傀儡にする気が起きない。この矛盾した気持ちの正体が何なのか分からず、もやもやとしたものが胸につかえているのを感じる。
(俺は一体、何をしたいんだ。‥‥このままでは埒が明かない。少し時間をおいて頭の中を整理した方がよさそうだ)
大抵の人が寝静まっているであろう深夜。結衣は、痛みできしむ体に鞭打って、どうにか体を起こした。
サソリがこの部屋を出て行ってからこの時間まで、全くと言っていいほど物音がしなくなった。普通に考えると、今この隠れ家に自分しかいないと思うのが妥当だろう。だとしたら、暗闇に身を隠すことのできる今が一番、逃げ出すにはちょうどいいタイミングだと言える。
しかし、身体を起こしてからすでに数分が経過していた。この期に及んで、まだ自分の中で覚悟が決まっていない。ここまで往生際が悪いとは‥‥。自分自身に心底あきれてしまって、思わず笑いが出てしまう。すると、
「何がおかしい」
静かだが、威圧感のある声が室内に響く。いつの間にか、結衣の真横にサソリの姿があった。
「敵を拘束もせず、隠れ家に無防備に放置していた俺が滑稽に思えたか?俺はそこまで不用心ではないが?逃げるチャンスだと思っていたのなら考えが甘いな。しかし‥‥逃げようと思われていたというのは、どうにも気分が悪い。やはり、傀儡にしておいた方がよさそうだ」
暗闇の中でようやく目が慣れて来た。すると、サソリの瞳が鋭く光っているのが分かる。わずかに感じる殺気に、思わず背筋に寒気が走る。
「私は‥‥逃げるつもりはありません。こんな忍が里に帰ったところで役に立つはずがない。だったら、サソリさんの手元で使ってもらった方が、まだ私の存在していた意義がある」
「その割には、行動と言葉が伴っていないと思うが?」
「‥‥そう見えても仕方がないですね。では、その証拠に、私は何があってもここから動かないことを約束しましょう」
「‥‥‥」
結衣の言葉に、サソリは考え込んだ。
「それなら‥‥傀儡にしなくても、お前はここに居続けるということか?」
「‥‥そうなります」
結衣は、サソリの質問の意図が分からなかった。
そして、サソリ自身も、結衣を傀儡にしないことにこだわっている理由を見つけられないでいた。
「‥‥‥‥」
再び黙り込んだサソリに、結衣はただ彼の次の言葉を待つことしかできない。すると、ふいにサソリの両手が結衣の肩に伸びる。結衣は思わず身を引こうとしたが、さっきの自分の言葉を思い出して動きを止めた。サソリにしっかりと掴まれた肩は、力がこもっているわけではないが、どこか抵抗できない力を感じた。正面にあるサソリの顔に、結衣は思わず顔をそむける。こんなに近くで彼の顔を見たことが無いため、目のやり場に困ってしまう。
「俺から、目を逸らすな」
囁くように言われたその言葉に従い視線を正面に戻すと、目の前にはさらに先ほどよりも近いところにサソリの顔がある。
「えっ」
結衣が口を開いた時には、二人の距離は一気に縮まり、それ以上の言葉を紡ぐことが出来なかった。不意打ちでふさがれた唇に、結衣は咄嗟に反応することが出来ずに固まってしまう。
唇に触れるだけのキスは次の瞬間には離れていた。しかし、その一瞬がとんでもなく長い時間だったように感じられた。
「え、な、なんで‥‥」
「何で‥‥か。昨日から、自分でも理由が分からないことばかりなんだ。頭で考えて分からないなら、身体の赴くままに行動するしかないと思わないか?」
「そんなこと聞かれても‥‥」
「理由は分からないが、俺の体はなぜか結衣を欲しているんだ。傀儡じゃない、生身の結衣を。永遠じゃないものなど俺の芸術に反するというのに」
そう言いながら、肩を掴んでいるサソリの手にグッと力が入って後ろに押される。完全に油断していた結衣は、簡単に押し倒されてしまう。間髪入れずにサソリの手が結衣の素肌に触れる。その手のくすぐったさに身をよじろうとするが、今度は痛みが走って自由に体を動かすことが出来ない。
「勝ち目がないと分かっていながら俺に戦いを挑むからだ。そんな無駄なことをするような奴だったか?」
「‥‥立場上では、敵ですから」
「それもそうだ。だとしたら、お前の前に現れたのが俺だったことに感謝してもらいたいものだな。ほかの奴だったら、もうとっくにあの世に行っている頃だろう」
それはサソリが相手でも例外ではないことではないのかと結衣は思ったが、あえてそれを口に出すことはしなかった。
「今まで人の体になど興味はなかったが、こうして触れてみると、意外と面白いものだな。もっと深く知りたくなってくる。気持ちが高ぶってしょうがない。俺をこうした責任、とってくれよ」
そう言って、サソリの手がさらに奥へと伸びる。先へ進んだ先には、双丘があった。ふいに触れられて、結衣の体はぴくっと反応する。手のひらでしっかりと掴まれたかと思うと、今度は指の先端で突起を弾かれる。
「んんっ」
思わず声が漏れてしまう。恥ずかしさのせいでサソリの方を見ることが出来ない。必死に声を押さえながらきつく目を閉じた。しかし、視界が閉ざされてしまうと、かえって一つ一つの動きに敏感に反応してしまう。サソリの手が動くたびに、下半身がじわじわと熱くなってきているのが自分でも分かる。
この行為に意味は無いと分かっていても、想い人に触れられるだけで体は悦びを感じていた。
「先ほどから腰が揺れているようだが、何を期待しているんだ?」
「そ、そんなことは‥‥っ!?」
結衣が否定の言葉を言おうとしたが、ふいにサソリの手が、湿り気を帯びた秘部に触れられる。
「これでも、まだ否定するのか?」
どこか楽しそうに言うサソリに、結衣は恥ずかしさで何も言うことが出来なくなる。
「ここから先を期待しているのはお前だけではない」
そう言って、結衣の腰に固いモノが押し付けられる。それがなにか分かった途端に、結衣は一気に体が熱くなるのを感じた。恥ずかしさと、また別の感情によって。
「そのためにはもう少し準備が必要だな」
その言葉とほぼ同時に、再び秘部に指をあてられる。すでにしっとりと湿っているそこをサソリの指が行き来するたびに、ピチャっと音を立てた。その動く指が、時々敏感な部分に掠るように触れ、そのたびに体がじんわりと熱くなる。わずかに与えられる刺激ではだんだん物足りなくなり、もっと強い刺激を体が欲してくる。サソリの指がその部分により触れるように、無意識に体が動いてしまっていた。もちろん、サソリはそれに気が付いていたが、あえて何も知らないふりをしてそのまま手を動かし続ける。
「‥‥っ。‥‥はぁ」
だんだん頭がぼんやりとし始めて、いつの間にか声を我慢していたことさえも忘れてしまっていた。そんな時、急に今までにない強い刺激がを襲う。
「んんっ!!」
ずっと先端を通るだけだった敏感な部分を、ピンポイントでサソリの指が刺激してくる。欲していたところへの愛撫に体は一気に熱を帯びて絶頂へと近づいて行く。
「やっ、あっ、そこ‥‥ばっかり、だめっ‥‥!」
「そんなこと言って、俺の指が離れないように自分で腰を動かしているが?」
「それはっ‥‥!んっ、あ、もう、だめぇ」
堪えきれない快感の波に、結衣は絶頂を迎えた。体がピクピクと痙攣している。目の前がチカチカとして何も考えられなくなった。荒い呼吸でぐったりとしていると、力の抜けた足をサソリの手によって動かされる。内腿を掴まれて外へグイッと開かれる。そして、すでに履いている意味をなしていない下着を取り払われて、露わになった秘部に大きくなったモノが押し当てられる。先ほどの絶頂でキュッと締まっていたそこが、内側からぐいぐい押し広げられていく。その質量感に、は呼吸ができなくなる。それでもサソリは容赦なく奥まで自身を押し込んでくる。そして、一番奥まで入った時には、結衣は再び体をぴくぴくと震えさせていた。
「挿れただけで、達しそうになっているのか?ずいぶんと敏感な体だな。このままでは動きたくても動けないぞ。もう少し力を抜け」
そう言われたところで、結衣からしてみたら、意識して締めているわけではないため、どうやって力を抜けばいいのか分かるはずがなかった。そんな結衣の様子を見て、サソリはやれやれとでも言いたげな表情を浮かべる。そして、背中をかがめると二回目の口づけを落とした。しかし、それは一回目と同じものではなく、深く濃厚なものだった。結衣は舌をからめとられて、頭がぼんやりとしてくる。濃厚なキスに意識が向いたのを見計らって、サソリの腰がゆるゆると動く。
「んっ!ん、ん、んんっ‥‥」
腰の動きに合わせて何度も奥を刺激される。唇を解放されていないため、思うように声を出すこともできない。同時に口内も犯されて、何が起こっているのか、頭がついて行かない。ようやく唇が離れたところで、結衣はふと目を開けて目の前のサソリに視線を向ける。すると、普段の冷静な彼が一変して、頬を赤く染め余裕のない顔をしていた。そんな見たことのない表情に、再び結衣は下腹部が熱くなるのを感じた。
「おい‥‥せっかく力が抜けたと思ったのに‥‥。そんなにされたら、はぁ、俺ももうもたない‥‥」
余裕のなさそうな話し方の間に、熱い吐息がこぼれる。
「私も‥‥もう、限界‥‥です」
「ハァ、最後まで、気をしっかり持てよ」
そう言うと、サソリは腰をぎりぎりまで引き、一気に奥まで腰を押し込んだ。先ほどまでとは比べ物にならないほどの激しさに、結衣は快感の波に飲み込まれそうだった。
「やっ、あっ、あぁっ、は、げし‥‥あ、もう、イクっ」
「ハァ、ハァ、っく‥‥!」
ほとんど同時に絶頂を迎えると、サソリは欲を吐き切った自身を抜いて、結衣の隣にぐったりと横たわった。
二人の荒い呼吸だけが聞こえる。
そして、二人の息が整ったところで、
「今更だが、どうしてここまでされて何も抵抗をしないんだ。逃げるどうこうとはまた話が違うだろ」
と静寂をサソリの声が破った。その問いに、結衣は少しだけ考えて口を開く。
「あの‥‥こんなタイミングで言うのも変な話なんですけど‥‥。私、ずっとサソリさんのことが好きでした。だから、こんな状況でも、どんな理由であっても、少し嬉しいと思っている自分がいるんです。こんなの許されることじゃないから、本当は、この気持ちを伝えるつもりはありませんでした。でもこうなった以上、もう隠しておく必要もないですよね」
「普通、敵にそんな感情を抱くことなどありえないと思うが?」
「うーん、今の立場はそうですけど、私は、サソリさんの下についている時からお慕いしていたので」
「‥‥それでは、どうしてわざわざ俺の元から去る必要があったんだ」
サソリからの問いが、だんだんと鋭いものに変わってきて、結衣はつい返答に困ってしまう。しかし、ここまで来てごまかすのも意味が無いと思い、五年前の自分が思っていたことを正直に話すことを決めた。
「それは‥‥任務に余計な感情を持ち込んでしまいそうで‥‥。そのせいで任務を失敗してしまうことが怖かった。それと、叶わない恋心を持ったままお傍にいることがつらくて」
それを聞いたサソリは、ふーっと大きく息を吐きだした。
「ようやく話が通じた。それにしても、愛という感情はどうにもめんどくさいものだな」
「それは‥‥そうかもしれませんけど‥‥、悪いことばかりではないですよ」
その言葉に、サソリは眉をひそめて怪訝そうな顔を見せる。
「結衣、お前に関しては悪いことしか起こっていないだろう。組織を抜けて追われる身となり、今度は里を捨てて帰る場所を無くした」
「傍から聞くとそう感じるかもしれません。ですけど、自分の居場所や信念を捨ててでも、サソリさんを慕う気持ちにだけは嘘をつきたくなかったんです」
「自分の信念を捨てる‥‥。そうか、そう考えればすべて辻褄が合うな‥‥」
急に声のトーンが落ちてつぶやきだしたサソリに、結衣はなんのことを言っているのか分からなかった。
「あ、あの、サソリさん?」
「どうやら俺も、結衣のことが好きだったみたいだ」
「‥‥‥‥へ?」
普段と全く変わらないトーンで紡がれた突拍子の無い言葉に、結衣は自分の耳を疑った。思わず間抜けな声が出てしまう。何も言い返す言葉が見つからないでいるのに対して、サソリの方はようやく腑に落ちたという顔でうんうんとうなずいている。
「ずっとお前を手元に置いておきたいと思っていた。でも、傀儡にする気力は起きない。そう思う理由がどんなに考えても分からなかった。だが、さっきの結衣の話を聞いて、俺も同じだったということが今ようやくわかった。俺の信念を変えてでも、生きた、人形じゃない結衣をそばに置いておきたかったんだ」
「嘘‥‥こんなこと、あるはずが‥‥」
「俺は、結衣に嘘をついたことは無いはずだが。信じないというのなら別にかまわない。お前がここから離れることは無いと分かっているからな」
そう言ったサソリの表情は、いつもよりも柔らかく感じた。今まで見たことのない彼の表情に、結衣の胸が一際大きく脈打った。
「本当に、本当なんですね?夢じゃ、ないんですよね?」
「心配性な奴だな。もし夢ならば、このまま目覚めなければいいだけの話だ」
サソリの手がそっと結衣の頬に触れる。その手は今まで触れられた中で一番優しく、丁寧に扱おうとしてくれていることが伝わりすぎて、一気に結衣の顔が熱を帯びる。
しかし、急に結衣の中に新たな不安が芽生えた。
「でも、サソリさん‥‥。私、このままじゃ組織にも戻れないし、抜け忍になれば里からの追っても来ます。ほとんど外に出ることもできなくなるし‥‥。ここにいても迷惑じゃありませんか?」
「心配するな。もともと一人では持て余すほどの広さはある。それに、力や能力が欲しくてお前を手に入れたいと思ったのではない。俺の隣にいてくれるだけでいいんだ。五年前に突然組織を抜けると言っていなくなってから、どうにも気持ちが落ち着かなくなった。それが今は嘘みたいに穏やかな気分なんだ。そう考えると、ずっと前から俺も結衣のことを好いていたことになるのかもな」
サソリは、全く恥ずかしがる素振りも見せずに思ったことを次から次へとストレートな言葉で口に出してくる。そんな言葉に耐性のない結衣は、真っ赤になった頬を隠そうと両手で覆うとしたが、サソリに触れられたままなためにどうすることもできない。少しでも顔の熱を逃がそうと、結衣は手で顔を扇いだ。しかし、その行為をサソリは不思議そうな目で見る。
「どうして顔を扇いでいるんだ?今日はそこまで暑くないはずだが」
「‥‥‥‥サソリさんのせいですよ」
結衣は精一杯の抵抗のつもりで、できるだけキッと目に力をいれてサソリのことをにらむ。
「俺が何をしたのかは分からないが、そんな顔をしたところで意味はないぞ。今はどんな顔をしていても可愛く見えるからな」
必死の抵抗が全く逆効果となり、かえって倍返しになって自分の方へ返ってくる。その何にも包まれていない素直な言葉が、逆に強烈な破壊力を持っているように感じられた。
「‥‥もう、心臓がもたないのでやめてもらってもいいですか」
サソリがこんなに自分のことを語るところなど全く想像していなかった。しかし、それは嬉しい誤算だった。昨日の再会から、まさかこんな事態になるなど思いもよらなかったが、自分の気持ちに嘘をつかないでいてよかったと心の底から思うのだった。
そう言ってサソリに背を向けた。
無理やり引き留められるだろうか。それとも、次の瞬間には殺られるだろうか。
どちらにしても、組織の内部のことを知っている自分を、このまま暁が野放しにすることはまずないだろう。
そこまでの覚悟を決めての決断だった。
しかし、そのどちらも起こることは無かった。
走って逃げたわけでも、術で姿をくらませたわけでもない。ただ、なにも彼が私に対して反応を見せなかったことが逆に不安に感じた。それに、欲を言うなら、いつか見つけ出されて始末されるならば、誰かも分からない人よりはサソリに、自分が好きになってしまった人の手によってがいいなんて思ってしまっているあたり、自分でもあきれてしまう。
そうして、あっという間に月日が流れた。
五年というのはこんなにも早く過ぎてしまうものなのだろうか。あの時に芽生えていた恋の気持ちはずっと自分の心の中にあり続けていた。いくら忘れようとしても、任務に没頭しても、ふとした瞬間に思い出してしまうのだ。だから、余計にそんなことを思い出す暇もないくらいに、新たに任務を請け負って自分の感情を押し殺そうとする日々を送るのだった。
そして、こんなに長く私が組織を抜けた事実を暁が知らないわけはなく、居場所を探し当てることができないはずはなかった。だから、少しだけ希望的な想像をしてしまうのだ。
もしかしたら、サソリが何も報告をしないでいてくれているのではないか。
そう考えると、どうしても自分に都合がいいように想像は進む。
もしかしたら、サソリも自分のことを気に入ってくれていて、何も手を出してこないのではないか‥‥なんて。
ぶんぶんと頭を振ってその考えを振り払った。任務中に余計なことを考えるものではない。再びあたりに視線を巡らせて、捉えるターゲットを探す。特に目撃情報のあった周辺を重点的に見ていると、急に背中に突き刺さるような殺気を感じた。
この殺気は身に覚えがあった。暁に所属していたときにすぐ隣で嫌というほどに感じて来たそれは、五年たっても決して忘れることが出来ないものであった。
(まさかこんなところで‥‥。今回の任務は少数で動いてる。味方は隣町で調査中だからすぐに応援を呼べない。それに‥‥ここで戦いなんてしたら隠れているターゲットにも気づかれる恐れがある。‥‥仕方ない)
身を潜めていた物陰から飛び出して、できるだけ人目が付かない路地裏をひたすら郊外に向かって走る。背中に感じる気配が遠くなる感じはしない。むしろだんだん近づいてきている。どうせ戦いになるのなら、誰も巻き込むことのないところまでいかなければ。
人気のほとんどないところまで来て、ようやく結衣は足を止めて後ろを振り返った。そこには、思った通り、サソリの姿があった。
「俺から逃げられると思っていたわけではないのだろう?」
「‥‥もちろんです。戦いに、関係の無い人たちを巻き込むことはできないので」
「俺と一騎打ちで勝てると思っているのか」
「それは、やってみないと分からないことですから」
出来るだけ冷静さを装ってはいたが、結衣の心中は穏やかではなかった。目の前には、全力で戦っても勝てるかどうか分からない相手がいる。しかし、その相手を傷つけたくないと思っている自分もいる。
「敵を目の前に考え事をするとは良い度胸だな」
その声と共に、恐ろしい形相をした傀儡が飛びかかってきた。それをとっさにかわしたが、背後に潜んでいたもう一体の傀儡に身動きを封じられる。
「くっ!」
「ずいぶんと腕が鈍ったようだな。残念だ」
その声が聞こえたかと思うと、腹部に鈍痛が走った。そのあまりの痛みから逃れるように、結衣は意識を飛ばした。
足元にぐったりと横たわる少女。いや、もう少女と呼ぶ年齢ではないか。
最後に見た日からすると女性らしさが出ているものの、結衣から醸し出される雰囲気はそのままだった。あの頃と変わらないから、背中を見ただけですぐに気が付いた。
もう自力で動くことが出来ない彼女を見下ろしてふと一考する。
(このまま放っておけば勝手に死ぬだろうが‥‥俺のコレクションに加えてもいいか。そう言えば、血継限界を持っていたな。コレクションとしての価値は十分にあるな)
そう思い、結衣のすぐ横にしゃがんで担ぎあげると、その場を後にした。
日の光のまぶしさを感じて、うっすらと目を開けた。光に目が慣れてきたところで、自分の視界に入って来た景色に既視感を感じる。
(ここ、サソリさんの隠れ家‥‥?)
周りをよく見てみようと体を動かした瞬間、腹部に激痛が走る。
「っ‥‥うぅ‥‥」
思わずうめき声が漏れる。大声を出さなかった自分を褒めたいくらいだ。
痛みがあったところに手を伸ばすと、そこには丁寧に包帯が巻かれていた。そして、そこでようやく目が覚める前のことを思い出した。
(サソリさんの攻撃を受けた後に気を失って‥‥。どうしてこんな状況に?何でまだ生きてるんだろう?それにこの包帯。こんなめんどくさいこと、どうしてしてくれたの?)
考えれば考えるほどに、サソリの行動の意図が読めない。すると、奥の方から足音が聞こえて来た。徐々に近づいてくるその音は、確実にこの部屋に向かってきていた。サソリが入ってくる直前に慌てて目を閉じて、寝ているふりをする。まだ、面と向かってサソリと話すだけの心の準備はできていなかった。
様子を見てすぐに出て行くかと思いきや、サソリはすぐ真横まで近づいてきた。自分に視線を注がれているのを感じて緊張してしまう。
すると、突然、髪の毛から頬にかけてサソリの手が触れる。思わず動きそうになってしまうのをどうにか堪える。すると、
「傀儡にするつもりで連れて帰って来たのに、どうもやる気が起こらない。ここに置いてるのも邪魔になるだけなのに‥‥」
とポツリとつぶやくような声が聞こえた。その声はいつのもの自信に満ちたサソリのものとは思えないほどに、弱々しく苦しそうに聞こえた。そして、頬に触れていた手が離れ、足音と共にサソリの気配が部屋から消えて行った。
彼に触れられたところがひどく熱く感じる。
(さっきのは一体‥‥?)
これまで必死に自分の胸の奥に押し込んできた感情が、一気に溢れてきそうになっているのを感じる。しかし、それは許される事ではない。以前の上司と部下という関係ならともかく、今は敵同士。
本当ならば、こうして一命をとりとめたのなら、今は敵の幹部の一人をしとめる絶好のチャンスのはずだ。さっきのように至近距離まで近づくことなど、戦いの場であれば到底不可能なはずだ。そんな機会をみすみす自分から見逃してしまうほどに、心の中で迷いが出ていた。
どのように行動することが正解なのかは、頭では理解していた。一対一で戦っても勝機がないことは分かっているから、隙を見て逃げだし、仲間の応援を呼ぶ。この隠れ家の内部を知っている私ならば、それは不可能なことではないはずだった。ならば、どうしてこうも行動を起こすことをためらってしまうのか。それは、こんな状況にあってもなお、サソリのそばにまた近づくことが出来たことに嬉しさを覚えている自分がいたからだ。
(はぁ‥‥これじゃ、本当に忍失格だな)
自分が行動を起こさないことで、仲間に襲い掛かる脅威を一つ見逃してしまうことになるというのに、どうしても覚悟を決めることが出来なかった。
呼吸のリズムから、結衣が起きていることは気が付いていた。だから、少しだけ神経を研ぎ澄まして彼女に近づいた。油断した隙をついて術をかけてくる可能性が無いわけではなからだ。そもそも拘束していれば済む話なのだが、どうしてかそこまでする気にはなれなかった。
昨日までは、コレクションが増えることに喜びを感じていたが、その気持ちも時間が経つにつれてだんだんと薄れてしまっていた。興味が無くなったわけではない。むしろ、より手元に置いておきたい気持ちは高まっていると言える。
(それなら、なおさら傀儡にして、完璧な状態で永遠に俺の手元に残せた方がいいというのに‥‥。逃げることも逆らうこともなく、今のままの美しい姿をずっと残しておくことに意味があるはずなのに)
手元に置きたいが、傀儡にする気が起きない。この矛盾した気持ちの正体が何なのか分からず、もやもやとしたものが胸につかえているのを感じる。
(俺は一体、何をしたいんだ。‥‥このままでは埒が明かない。少し時間をおいて頭の中を整理した方がよさそうだ)
大抵の人が寝静まっているであろう深夜。結衣は、痛みできしむ体に鞭打って、どうにか体を起こした。
サソリがこの部屋を出て行ってからこの時間まで、全くと言っていいほど物音がしなくなった。普通に考えると、今この隠れ家に自分しかいないと思うのが妥当だろう。だとしたら、暗闇に身を隠すことのできる今が一番、逃げ出すにはちょうどいいタイミングだと言える。
しかし、身体を起こしてからすでに数分が経過していた。この期に及んで、まだ自分の中で覚悟が決まっていない。ここまで往生際が悪いとは‥‥。自分自身に心底あきれてしまって、思わず笑いが出てしまう。すると、
「何がおかしい」
静かだが、威圧感のある声が室内に響く。いつの間にか、結衣の真横にサソリの姿があった。
「敵を拘束もせず、隠れ家に無防備に放置していた俺が滑稽に思えたか?俺はそこまで不用心ではないが?逃げるチャンスだと思っていたのなら考えが甘いな。しかし‥‥逃げようと思われていたというのは、どうにも気分が悪い。やはり、傀儡にしておいた方がよさそうだ」
暗闇の中でようやく目が慣れて来た。すると、サソリの瞳が鋭く光っているのが分かる。わずかに感じる殺気に、思わず背筋に寒気が走る。
「私は‥‥逃げるつもりはありません。こんな忍が里に帰ったところで役に立つはずがない。だったら、サソリさんの手元で使ってもらった方が、まだ私の存在していた意義がある」
「その割には、行動と言葉が伴っていないと思うが?」
「‥‥そう見えても仕方がないですね。では、その証拠に、私は何があってもここから動かないことを約束しましょう」
「‥‥‥」
結衣の言葉に、サソリは考え込んだ。
「それなら‥‥傀儡にしなくても、お前はここに居続けるということか?」
「‥‥そうなります」
結衣は、サソリの質問の意図が分からなかった。
そして、サソリ自身も、結衣を傀儡にしないことにこだわっている理由を見つけられないでいた。
「‥‥‥‥」
再び黙り込んだサソリに、結衣はただ彼の次の言葉を待つことしかできない。すると、ふいにサソリの両手が結衣の肩に伸びる。結衣は思わず身を引こうとしたが、さっきの自分の言葉を思い出して動きを止めた。サソリにしっかりと掴まれた肩は、力がこもっているわけではないが、どこか抵抗できない力を感じた。正面にあるサソリの顔に、結衣は思わず顔をそむける。こんなに近くで彼の顔を見たことが無いため、目のやり場に困ってしまう。
「俺から、目を逸らすな」
囁くように言われたその言葉に従い視線を正面に戻すと、目の前にはさらに先ほどよりも近いところにサソリの顔がある。
「えっ」
結衣が口を開いた時には、二人の距離は一気に縮まり、それ以上の言葉を紡ぐことが出来なかった。不意打ちでふさがれた唇に、結衣は咄嗟に反応することが出来ずに固まってしまう。
唇に触れるだけのキスは次の瞬間には離れていた。しかし、その一瞬がとんでもなく長い時間だったように感じられた。
「え、な、なんで‥‥」
「何で‥‥か。昨日から、自分でも理由が分からないことばかりなんだ。頭で考えて分からないなら、身体の赴くままに行動するしかないと思わないか?」
「そんなこと聞かれても‥‥」
「理由は分からないが、俺の体はなぜか結衣を欲しているんだ。傀儡じゃない、生身の結衣を。永遠じゃないものなど俺の芸術に反するというのに」
そう言いながら、肩を掴んでいるサソリの手にグッと力が入って後ろに押される。完全に油断していた結衣は、簡単に押し倒されてしまう。間髪入れずにサソリの手が結衣の素肌に触れる。その手のくすぐったさに身をよじろうとするが、今度は痛みが走って自由に体を動かすことが出来ない。
「勝ち目がないと分かっていながら俺に戦いを挑むからだ。そんな無駄なことをするような奴だったか?」
「‥‥立場上では、敵ですから」
「それもそうだ。だとしたら、お前の前に現れたのが俺だったことに感謝してもらいたいものだな。ほかの奴だったら、もうとっくにあの世に行っている頃だろう」
それはサソリが相手でも例外ではないことではないのかと結衣は思ったが、あえてそれを口に出すことはしなかった。
「今まで人の体になど興味はなかったが、こうして触れてみると、意外と面白いものだな。もっと深く知りたくなってくる。気持ちが高ぶってしょうがない。俺をこうした責任、とってくれよ」
そう言って、サソリの手がさらに奥へと伸びる。先へ進んだ先には、双丘があった。ふいに触れられて、結衣の体はぴくっと反応する。手のひらでしっかりと掴まれたかと思うと、今度は指の先端で突起を弾かれる。
「んんっ」
思わず声が漏れてしまう。恥ずかしさのせいでサソリの方を見ることが出来ない。必死に声を押さえながらきつく目を閉じた。しかし、視界が閉ざされてしまうと、かえって一つ一つの動きに敏感に反応してしまう。サソリの手が動くたびに、下半身がじわじわと熱くなってきているのが自分でも分かる。
この行為に意味は無いと分かっていても、想い人に触れられるだけで体は悦びを感じていた。
「先ほどから腰が揺れているようだが、何を期待しているんだ?」
「そ、そんなことは‥‥っ!?」
結衣が否定の言葉を言おうとしたが、ふいにサソリの手が、湿り気を帯びた秘部に触れられる。
「これでも、まだ否定するのか?」
どこか楽しそうに言うサソリに、結衣は恥ずかしさで何も言うことが出来なくなる。
「ここから先を期待しているのはお前だけではない」
そう言って、結衣の腰に固いモノが押し付けられる。それがなにか分かった途端に、結衣は一気に体が熱くなるのを感じた。恥ずかしさと、また別の感情によって。
「そのためにはもう少し準備が必要だな」
その言葉とほぼ同時に、再び秘部に指をあてられる。すでにしっとりと湿っているそこをサソリの指が行き来するたびに、ピチャっと音を立てた。その動く指が、時々敏感な部分に掠るように触れ、そのたびに体がじんわりと熱くなる。わずかに与えられる刺激ではだんだん物足りなくなり、もっと強い刺激を体が欲してくる。サソリの指がその部分により触れるように、無意識に体が動いてしまっていた。もちろん、サソリはそれに気が付いていたが、あえて何も知らないふりをしてそのまま手を動かし続ける。
「‥‥っ。‥‥はぁ」
だんだん頭がぼんやりとし始めて、いつの間にか声を我慢していたことさえも忘れてしまっていた。そんな時、急に今までにない強い刺激がを襲う。
「んんっ!!」
ずっと先端を通るだけだった敏感な部分を、ピンポイントでサソリの指が刺激してくる。欲していたところへの愛撫に体は一気に熱を帯びて絶頂へと近づいて行く。
「やっ、あっ、そこ‥‥ばっかり、だめっ‥‥!」
「そんなこと言って、俺の指が離れないように自分で腰を動かしているが?」
「それはっ‥‥!んっ、あ、もう、だめぇ」
堪えきれない快感の波に、結衣は絶頂を迎えた。体がピクピクと痙攣している。目の前がチカチカとして何も考えられなくなった。荒い呼吸でぐったりとしていると、力の抜けた足をサソリの手によって動かされる。内腿を掴まれて外へグイッと開かれる。そして、すでに履いている意味をなしていない下着を取り払われて、露わになった秘部に大きくなったモノが押し当てられる。先ほどの絶頂でキュッと締まっていたそこが、内側からぐいぐい押し広げられていく。その質量感に、は呼吸ができなくなる。それでもサソリは容赦なく奥まで自身を押し込んでくる。そして、一番奥まで入った時には、結衣は再び体をぴくぴくと震えさせていた。
「挿れただけで、達しそうになっているのか?ずいぶんと敏感な体だな。このままでは動きたくても動けないぞ。もう少し力を抜け」
そう言われたところで、結衣からしてみたら、意識して締めているわけではないため、どうやって力を抜けばいいのか分かるはずがなかった。そんな結衣の様子を見て、サソリはやれやれとでも言いたげな表情を浮かべる。そして、背中をかがめると二回目の口づけを落とした。しかし、それは一回目と同じものではなく、深く濃厚なものだった。結衣は舌をからめとられて、頭がぼんやりとしてくる。濃厚なキスに意識が向いたのを見計らって、サソリの腰がゆるゆると動く。
「んっ!ん、ん、んんっ‥‥」
腰の動きに合わせて何度も奥を刺激される。唇を解放されていないため、思うように声を出すこともできない。同時に口内も犯されて、何が起こっているのか、頭がついて行かない。ようやく唇が離れたところで、結衣はふと目を開けて目の前のサソリに視線を向ける。すると、普段の冷静な彼が一変して、頬を赤く染め余裕のない顔をしていた。そんな見たことのない表情に、再び結衣は下腹部が熱くなるのを感じた。
「おい‥‥せっかく力が抜けたと思ったのに‥‥。そんなにされたら、はぁ、俺ももうもたない‥‥」
余裕のなさそうな話し方の間に、熱い吐息がこぼれる。
「私も‥‥もう、限界‥‥です」
「ハァ、最後まで、気をしっかり持てよ」
そう言うと、サソリは腰をぎりぎりまで引き、一気に奥まで腰を押し込んだ。先ほどまでとは比べ物にならないほどの激しさに、結衣は快感の波に飲み込まれそうだった。
「やっ、あっ、あぁっ、は、げし‥‥あ、もう、イクっ」
「ハァ、ハァ、っく‥‥!」
ほとんど同時に絶頂を迎えると、サソリは欲を吐き切った自身を抜いて、結衣の隣にぐったりと横たわった。
二人の荒い呼吸だけが聞こえる。
そして、二人の息が整ったところで、
「今更だが、どうしてここまでされて何も抵抗をしないんだ。逃げるどうこうとはまた話が違うだろ」
と静寂をサソリの声が破った。その問いに、結衣は少しだけ考えて口を開く。
「あの‥‥こんなタイミングで言うのも変な話なんですけど‥‥。私、ずっとサソリさんのことが好きでした。だから、こんな状況でも、どんな理由であっても、少し嬉しいと思っている自分がいるんです。こんなの許されることじゃないから、本当は、この気持ちを伝えるつもりはありませんでした。でもこうなった以上、もう隠しておく必要もないですよね」
「普通、敵にそんな感情を抱くことなどありえないと思うが?」
「うーん、今の立場はそうですけど、私は、サソリさんの下についている時からお慕いしていたので」
「‥‥それでは、どうしてわざわざ俺の元から去る必要があったんだ」
サソリからの問いが、だんだんと鋭いものに変わってきて、結衣はつい返答に困ってしまう。しかし、ここまで来てごまかすのも意味が無いと思い、五年前の自分が思っていたことを正直に話すことを決めた。
「それは‥‥任務に余計な感情を持ち込んでしまいそうで‥‥。そのせいで任務を失敗してしまうことが怖かった。それと、叶わない恋心を持ったままお傍にいることがつらくて」
それを聞いたサソリは、ふーっと大きく息を吐きだした。
「ようやく話が通じた。それにしても、愛という感情はどうにもめんどくさいものだな」
「それは‥‥そうかもしれませんけど‥‥、悪いことばかりではないですよ」
その言葉に、サソリは眉をひそめて怪訝そうな顔を見せる。
「結衣、お前に関しては悪いことしか起こっていないだろう。組織を抜けて追われる身となり、今度は里を捨てて帰る場所を無くした」
「傍から聞くとそう感じるかもしれません。ですけど、自分の居場所や信念を捨ててでも、サソリさんを慕う気持ちにだけは嘘をつきたくなかったんです」
「自分の信念を捨てる‥‥。そうか、そう考えればすべて辻褄が合うな‥‥」
急に声のトーンが落ちてつぶやきだしたサソリに、結衣はなんのことを言っているのか分からなかった。
「あ、あの、サソリさん?」
「どうやら俺も、結衣のことが好きだったみたいだ」
「‥‥‥‥へ?」
普段と全く変わらないトーンで紡がれた突拍子の無い言葉に、結衣は自分の耳を疑った。思わず間抜けな声が出てしまう。何も言い返す言葉が見つからないでいるのに対して、サソリの方はようやく腑に落ちたという顔でうんうんとうなずいている。
「ずっとお前を手元に置いておきたいと思っていた。でも、傀儡にする気力は起きない。そう思う理由がどんなに考えても分からなかった。だが、さっきの結衣の話を聞いて、俺も同じだったということが今ようやくわかった。俺の信念を変えてでも、生きた、人形じゃない結衣をそばに置いておきたかったんだ」
「嘘‥‥こんなこと、あるはずが‥‥」
「俺は、結衣に嘘をついたことは無いはずだが。信じないというのなら別にかまわない。お前がここから離れることは無いと分かっているからな」
そう言ったサソリの表情は、いつもよりも柔らかく感じた。今まで見たことのない彼の表情に、結衣の胸が一際大きく脈打った。
「本当に、本当なんですね?夢じゃ、ないんですよね?」
「心配性な奴だな。もし夢ならば、このまま目覚めなければいいだけの話だ」
サソリの手がそっと結衣の頬に触れる。その手は今まで触れられた中で一番優しく、丁寧に扱おうとしてくれていることが伝わりすぎて、一気に結衣の顔が熱を帯びる。
しかし、急に結衣の中に新たな不安が芽生えた。
「でも、サソリさん‥‥。私、このままじゃ組織にも戻れないし、抜け忍になれば里からの追っても来ます。ほとんど外に出ることもできなくなるし‥‥。ここにいても迷惑じゃありませんか?」
「心配するな。もともと一人では持て余すほどの広さはある。それに、力や能力が欲しくてお前を手に入れたいと思ったのではない。俺の隣にいてくれるだけでいいんだ。五年前に突然組織を抜けると言っていなくなってから、どうにも気持ちが落ち着かなくなった。それが今は嘘みたいに穏やかな気分なんだ。そう考えると、ずっと前から俺も結衣のことを好いていたことになるのかもな」
サソリは、全く恥ずかしがる素振りも見せずに思ったことを次から次へとストレートな言葉で口に出してくる。そんな言葉に耐性のない結衣は、真っ赤になった頬を隠そうと両手で覆うとしたが、サソリに触れられたままなためにどうすることもできない。少しでも顔の熱を逃がそうと、結衣は手で顔を扇いだ。しかし、その行為をサソリは不思議そうな目で見る。
「どうして顔を扇いでいるんだ?今日はそこまで暑くないはずだが」
「‥‥‥‥サソリさんのせいですよ」
結衣は精一杯の抵抗のつもりで、できるだけキッと目に力をいれてサソリのことをにらむ。
「俺が何をしたのかは分からないが、そんな顔をしたところで意味はないぞ。今はどんな顔をしていても可愛く見えるからな」
必死の抵抗が全く逆効果となり、かえって倍返しになって自分の方へ返ってくる。その何にも包まれていない素直な言葉が、逆に強烈な破壊力を持っているように感じられた。
「‥‥もう、心臓がもたないのでやめてもらってもいいですか」
サソリがこんなに自分のことを語るところなど全く想像していなかった。しかし、それは嬉しい誤算だった。昨日の再会から、まさかこんな事態になるなど思いもよらなかったが、自分の気持ちに嘘をつかないでいてよかったと心の底から思うのだった。
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