恋に落ちた吸血鬼
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「あ、見て見てにゃん! いまの爆発で新しい入り口ができたにゃん」
デイダラが引き起こした爆発とは知らないアンジュが、塔を指さした。
ちょうど尖塔の裏側に大きな風穴が開き、塔の中へと繋がる螺旋階段がそこに見えたのだ。
二人は塔に入り込み、アンジュはまた爆弾やトラップが沢山仕掛けてあるかもしれないと、クンクンと鼻を利かせては、アリスに罠を知らせて進んでいく。
「貴方、本当に鼻がいいのね。沢山トラップが仕掛けてあったのに、ここまで無傷で来られたわ。感謝しないと」
「まかせてにゃん。それに、素敵な恋の予感もするにゃん」
「もう、アンジュったら。ここは恐ろしい吸血鬼の城だよ」
「分かってますにゃん。だけどぉ、なんだかそんな予感がプンプンするんだにゃん」
ひょいひょい、と巧みにトラップを避けながら、いつものマイペースを崩さず進むアンジュ。アリスはその後を足元に気を付けながらついて行く。今までも色々な苦難があったが、アンジュの場違いな程のひょうきんな性格に救われてきた。アリスはそんなアンジュのことを頼もしく感じてきた。それを思い出すと、いつの間にか先程までの恐怖心は消え去っていた。
螺旋階段を駆け登り、上の階へ進むと、ステンドグラスに四方を包まれた大きな広間が出現する。そこは広間というより、礼拝堂のような荘厳な雰囲気を醸し出していた。その中央でクンクンと、鼻を鳴らしながらアンジュが立ち止まった。
「ん……近くに、誰かいるにゃん。この広間の中に隠れているにゃん」
「えっ…どこ? ……きゃぁっ」
振り返ろうとしたとき、再びコウモリの大群に襲われてアリスの視界が遮られる。
魔法で蹴散らしたその先に、大きなシャンデリアが行く手を阻むように天井から垂れ下がっている。ゆらりゆらりと振り子のように揺れるその上に、人影がひとつ。全身を包帯でグルグルと覆ったミイラ男が此方を凝視していた。
広間に緊張が漂い、ミイラ男が高らかに声を放つ。
「お前たちが侵入者だな。此処から先へは進ませねぇ」
「貴方は吸血鬼の仲間ね。みんなを苦しめることばかりして、許さないんだから」
アリスはロッドを握り締めて構え、チラリとアンジュに視線を送る。
と、一体どうしたことか、両目がハートになっている。視線の先は、目の前に立ちはだかるミイラ男。
「……ちょ、ちょっと、アンジュ?」
「かっこいいにゃーん♡」
「え?? あの人は吸血鬼の仲間なんだよ? しっかりして!」
けれど、アンジュはうっとりした表情でミイラ男を見つめている。
「包帯から覗く碧くて綺麗な目、髪はサラサラの金髪で……夢で見た王子様にゃん!」
「あっ待って……」
アリスが止めるのも聞かず、アンジュはミイラ男目掛けて走り出した。そして、目にも留まらぬ速さでミイラ男の顔面を纏っている包帯の一つをクルクルと巻き取る。
隠れていた長い金髪が露わになった。
「うわ! な、なんだよコイツ! おい、こっちくんな、オイラの包帯返せ、うん!」
流石のミイラ男も突然の出来事に慌てているようだ。
「ほらぁ、やっぱり綺麗なサラサラの金髪ロングヘアだにゃん」
「コラァ、クソ猫! 返せっ!」
「いやにゃぁん、王子様、こっちまでおいで〜♡」
アンジュは包帯をヒョイと口元に咥えるとシャンデリアから降り立ち、スタコラサッサと走り回る。それを追いかけるミイラ男。その遣り取りを見て戸惑うしかないアリス。
「アリスさま、ここはわたしに任せてにゃーん」
アリスはどうしたものかと様子を窺っていたが、二人は追いかけっこをしながら何周か広間を回ったあと、外へと飛び出して行ってしまった。アンジュが本気を出せば、そのスピードに敵うものはいない。途中でミイラ男が投げた爆弾のようなものが壁や天井に当たるが、アンジュには掠りもしなかった。
慌てて追いかけたアリスはそっと印を結び、アンジュに爆弾が向くと跳ね返るように術を掛ける。そうして跳ね返った爆弾が壁や天井に当たって、グラグラと床が揺れた。
「ヤベェ、旦那に怒られちまう!!」
と、頭を抱えながら焦るミイラ男。
アリスも戸惑ったが、戦いの場でこんなに積極的に動くアンジュを初めて目にしたので、迷いつつも任せることにした。ミイラ男のことが気に入ったようだし、それになんだか特別な考えがありそうに見える。
アリスは後ろ髪を引かれながらも、アンジュの言葉を信じて、更に上の階へと続く螺旋階段へと向かった。
一人になったアリスは恐る恐る螺旋階段を上がっていく。
途中、コウモリの群れや恐ろしいグールに何体も出くわしたが、厳しい修行で培った魔法を駆使して、何とか塔の最上階へと辿り着いた。
窓の外に見える空は真っ黒な雲で覆われて、絶え間なく雷鳴が轟いている。反面、周囲は魔物の気配がないどころか、物音一つなくしんと静まり返っていた。コツコツと大理石の床に響く自分の足音だけが、この場の音の全てだ。長い回廊を抜けると、目の前に黒檀の大きな扉が現れる。古びた香木の香りが鼻腔を通り、頭の奥深くに染み渡る。静寂の中、その香りが不思議な荘厳さを演出していた。
(ここに、吸血鬼がいるの……?)
恐る恐る扉を開けるが、人の気配がない。そして人型をした何かがズラリと並んでいる。近付いて確認してみると、全て人形であることに気付く。
(こんなにたくさんの人形が……どうしてこんな所に……?)
ざっと見ただけでも百体以上はある。しかも一つ一つの作りがまるで生きている人間そのままのよう。精巧につくられた人形は、今にも動き出しそうだ。
暗闇の中に浮かび上がる大量の人形。そして、それらに囲まれた広間の中央に人影を見つけたアリスは、慌てて近くにあった人形の影に身を潜める。まるで奇妙な夢でも見ているような感覚に襲われながら、息を殺して様子を窺った。
革張りの椅子に腰掛けているのは、彫刻かと見紛うような、端整な顔立ちの青年。
片肘をつきながら、サイドテーブルに置かれた書物に落とす瞳は不自然な程に透き通り、澄み切って冷たい水晶の様だ。足元まで覆う黒い外套に、真紅に色付いた艶やかな爪。揃いのように紅く染まった唇。
頁を優雅に捲る仕草にすら見惚れてしまう。全てがこの世の物とは思えないほどに繊細で美しかった。
(吸血鬼って……尻尾の生えた恐ろしい魔物じゃなかったの……? こんなに綺麗な男の人だったなんて)
身を潜めて眺めているだけなのに、なんだか夢を見ているような錯覚にアリスは襲われる。思考すら朦朧とし始めてきたのは気の所為だろうか。
――と、頁を捲る手が止まり、パタンと本が閉じられる音にハッと我に返る。そして、ギリギリと音を立て、青年の首がアリスの居る方向に向けられた。
「いつまで……其処に隠れているつもりだ。気付いていないとでも思っているのか、小娘」
声音は甘い調べのように、冷たい部屋の空気を切り裂き、どきりと胸を掴まれる。
もう隠れても無駄だと、アリスは立ち上がった。だが、どうしたことだろう。少し歩くと、ここに辿り着く前の魔物退治でできた傷が痛む。大した傷ではないのに。
人形たちの陰から出ると、革張りの椅子に足組みして腰掛ける青年がよく見えた。
口角を吊り上げ、悪魔のような表情を浮かべている。
「貴方が……吸血鬼…」
「だったら、どうする? お前は……魔女の末裔とやらか。見たところ、噂通り世間知らずの小娘のようだが」
「……!」
「さて、ここで俺のコレクションに加わり傀儡として永遠に生きるか……その生き血を捧げ、俺の同胞になるか。選ばせてやる」
「……どちらもお断りします。わたしは、人々を苦しめてきた貴方を許しません」
アリスは心を奮い立たせ、ロッドを握り締めて片手で印を結ぶ。それなのに、どういうわけか傷口がビリビリと痛んで力が入らない。その様子を見て、吸血鬼がククッ…とほくそ笑む。
「毒が効いてきたようだな。この部屋に入った瞬間から……お前の身体は俺の撒いた毒に侵され始めている」
迂闊だった。部屋に足を踏み入れた瞬間から、毒を吸い込んでしまっていたなんて。アリスはロッドを握り締めたまま片膝をついて、吸血鬼を見上げるしかなかった。
デイダラが引き起こした爆発とは知らないアンジュが、塔を指さした。
ちょうど尖塔の裏側に大きな風穴が開き、塔の中へと繋がる螺旋階段がそこに見えたのだ。
二人は塔に入り込み、アンジュはまた爆弾やトラップが沢山仕掛けてあるかもしれないと、クンクンと鼻を利かせては、アリスに罠を知らせて進んでいく。
「貴方、本当に鼻がいいのね。沢山トラップが仕掛けてあったのに、ここまで無傷で来られたわ。感謝しないと」
「まかせてにゃん。それに、素敵な恋の予感もするにゃん」
「もう、アンジュったら。ここは恐ろしい吸血鬼の城だよ」
「分かってますにゃん。だけどぉ、なんだかそんな予感がプンプンするんだにゃん」
ひょいひょい、と巧みにトラップを避けながら、いつものマイペースを崩さず進むアンジュ。アリスはその後を足元に気を付けながらついて行く。今までも色々な苦難があったが、アンジュの場違いな程のひょうきんな性格に救われてきた。アリスはそんなアンジュのことを頼もしく感じてきた。それを思い出すと、いつの間にか先程までの恐怖心は消え去っていた。
螺旋階段を駆け登り、上の階へ進むと、ステンドグラスに四方を包まれた大きな広間が出現する。そこは広間というより、礼拝堂のような荘厳な雰囲気を醸し出していた。その中央でクンクンと、鼻を鳴らしながらアンジュが立ち止まった。
「ん……近くに、誰かいるにゃん。この広間の中に隠れているにゃん」
「えっ…どこ? ……きゃぁっ」
振り返ろうとしたとき、再びコウモリの大群に襲われてアリスの視界が遮られる。
魔法で蹴散らしたその先に、大きなシャンデリアが行く手を阻むように天井から垂れ下がっている。ゆらりゆらりと振り子のように揺れるその上に、人影がひとつ。全身を包帯でグルグルと覆ったミイラ男が此方を凝視していた。
広間に緊張が漂い、ミイラ男が高らかに声を放つ。
「お前たちが侵入者だな。此処から先へは進ませねぇ」
「貴方は吸血鬼の仲間ね。みんなを苦しめることばかりして、許さないんだから」
アリスはロッドを握り締めて構え、チラリとアンジュに視線を送る。
と、一体どうしたことか、両目がハートになっている。視線の先は、目の前に立ちはだかるミイラ男。
「……ちょ、ちょっと、アンジュ?」
「かっこいいにゃーん♡」
「え?? あの人は吸血鬼の仲間なんだよ? しっかりして!」
けれど、アンジュはうっとりした表情でミイラ男を見つめている。
「包帯から覗く碧くて綺麗な目、髪はサラサラの金髪で……夢で見た王子様にゃん!」
「あっ待って……」
アリスが止めるのも聞かず、アンジュはミイラ男目掛けて走り出した。そして、目にも留まらぬ速さでミイラ男の顔面を纏っている包帯の一つをクルクルと巻き取る。
隠れていた長い金髪が露わになった。
「うわ! な、なんだよコイツ! おい、こっちくんな、オイラの包帯返せ、うん!」
流石のミイラ男も突然の出来事に慌てているようだ。
「ほらぁ、やっぱり綺麗なサラサラの金髪ロングヘアだにゃん」
「コラァ、クソ猫! 返せっ!」
「いやにゃぁん、王子様、こっちまでおいで〜♡」
アンジュは包帯をヒョイと口元に咥えるとシャンデリアから降り立ち、スタコラサッサと走り回る。それを追いかけるミイラ男。その遣り取りを見て戸惑うしかないアリス。
「アリスさま、ここはわたしに任せてにゃーん」
アリスはどうしたものかと様子を窺っていたが、二人は追いかけっこをしながら何周か広間を回ったあと、外へと飛び出して行ってしまった。アンジュが本気を出せば、そのスピードに敵うものはいない。途中でミイラ男が投げた爆弾のようなものが壁や天井に当たるが、アンジュには掠りもしなかった。
慌てて追いかけたアリスはそっと印を結び、アンジュに爆弾が向くと跳ね返るように術を掛ける。そうして跳ね返った爆弾が壁や天井に当たって、グラグラと床が揺れた。
「ヤベェ、旦那に怒られちまう!!」
と、頭を抱えながら焦るミイラ男。
アリスも戸惑ったが、戦いの場でこんなに積極的に動くアンジュを初めて目にしたので、迷いつつも任せることにした。ミイラ男のことが気に入ったようだし、それになんだか特別な考えがありそうに見える。
アリスは後ろ髪を引かれながらも、アンジュの言葉を信じて、更に上の階へと続く螺旋階段へと向かった。
一人になったアリスは恐る恐る螺旋階段を上がっていく。
途中、コウモリの群れや恐ろしいグールに何体も出くわしたが、厳しい修行で培った魔法を駆使して、何とか塔の最上階へと辿り着いた。
窓の外に見える空は真っ黒な雲で覆われて、絶え間なく雷鳴が轟いている。反面、周囲は魔物の気配がないどころか、物音一つなくしんと静まり返っていた。コツコツと大理石の床に響く自分の足音だけが、この場の音の全てだ。長い回廊を抜けると、目の前に黒檀の大きな扉が現れる。古びた香木の香りが鼻腔を通り、頭の奥深くに染み渡る。静寂の中、その香りが不思議な荘厳さを演出していた。
(ここに、吸血鬼がいるの……?)
恐る恐る扉を開けるが、人の気配がない。そして人型をした何かがズラリと並んでいる。近付いて確認してみると、全て人形であることに気付く。
(こんなにたくさんの人形が……どうしてこんな所に……?)
ざっと見ただけでも百体以上はある。しかも一つ一つの作りがまるで生きている人間そのままのよう。精巧につくられた人形は、今にも動き出しそうだ。
暗闇の中に浮かび上がる大量の人形。そして、それらに囲まれた広間の中央に人影を見つけたアリスは、慌てて近くにあった人形の影に身を潜める。まるで奇妙な夢でも見ているような感覚に襲われながら、息を殺して様子を窺った。
革張りの椅子に腰掛けているのは、彫刻かと見紛うような、端整な顔立ちの青年。
片肘をつきながら、サイドテーブルに置かれた書物に落とす瞳は不自然な程に透き通り、澄み切って冷たい水晶の様だ。足元まで覆う黒い外套に、真紅に色付いた艶やかな爪。揃いのように紅く染まった唇。
頁を優雅に捲る仕草にすら見惚れてしまう。全てがこの世の物とは思えないほどに繊細で美しかった。
(吸血鬼って……尻尾の生えた恐ろしい魔物じゃなかったの……? こんなに綺麗な男の人だったなんて)
身を潜めて眺めているだけなのに、なんだか夢を見ているような錯覚にアリスは襲われる。思考すら朦朧とし始めてきたのは気の所為だろうか。
――と、頁を捲る手が止まり、パタンと本が閉じられる音にハッと我に返る。そして、ギリギリと音を立て、青年の首がアリスの居る方向に向けられた。
「いつまで……其処に隠れているつもりだ。気付いていないとでも思っているのか、小娘」
声音は甘い調べのように、冷たい部屋の空気を切り裂き、どきりと胸を掴まれる。
もう隠れても無駄だと、アリスは立ち上がった。だが、どうしたことだろう。少し歩くと、ここに辿り着く前の魔物退治でできた傷が痛む。大した傷ではないのに。
人形たちの陰から出ると、革張りの椅子に足組みして腰掛ける青年がよく見えた。
口角を吊り上げ、悪魔のような表情を浮かべている。
「貴方が……吸血鬼…」
「だったら、どうする? お前は……魔女の末裔とやらか。見たところ、噂通り世間知らずの小娘のようだが」
「……!」
「さて、ここで俺のコレクションに加わり傀儡として永遠に生きるか……その生き血を捧げ、俺の同胞になるか。選ばせてやる」
「……どちらもお断りします。わたしは、人々を苦しめてきた貴方を許しません」
アリスは心を奮い立たせ、ロッドを握り締めて片手で印を結ぶ。それなのに、どういうわけか傷口がビリビリと痛んで力が入らない。その様子を見て、吸血鬼がククッ…とほくそ笑む。
「毒が効いてきたようだな。この部屋に入った瞬間から……お前の身体は俺の撒いた毒に侵され始めている」
迂闊だった。部屋に足を踏み入れた瞬間から、毒を吸い込んでしまっていたなんて。アリスはロッドを握り締めたまま片膝をついて、吸血鬼を見上げるしかなかった。