ハツコイアザミ
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蒼く、鮮やかな蝶たちは舞いながら主人を守るように揺れ、彼女の心の波を映す鏡のようにふわりふわりと闇夜に浮かぶ。
そっと瞼を閉じれば、過去の記憶が静かに甦る。
――艶やかな赤の髪。
傀儡を操る、あの指先の美しさ。
彼はその手で芸術を創り出し、幼い自分はその創造に、そしてその人自身に惹かれた。完璧な容姿と、どこまでも冷静で正確な声。そのすべてに心を奪われた。
彼に惹かれていた。
それが恋だったのかは分からない。ただ、彼の傍にいると、走ってもいないのに胸が脈打ち、瞳が合えば針を刺されたように痛み、言葉を交わすだけで息が苦しくなった。
忍は心を殺せと教わった。
それなのに、自分は感情に溺れ、制御できず、どうすることもできなかった。
…結局、里の命だと嘘を吐き、逃げるように彼のもとを離れた。
その後はただ、与えられるままの任務に従う日々。
心を殺し、駒として使われるだけの毎日。
あれは愚かな選択だったと、今では思う。生きてはいても、闇に沈んでいたようなものだった。
けれど、どれだけ距離を取っても、彼の面影は色濃く残り、何度も何度も脳裏に浮かんでは、掻き消しても掻き消せなかった。
忍として死ぬこともできない。
けれど、どこかの任務で再び彼に出会い、彼の傀儡にされるのなら――
それが、この苦しい想いの終わりになると、どこかで望んでいた。
蝶を口寄せにし、花を愛し、植物と対話する。
彼はその力を「美しい」と評し、大切に育ててくれた。
――忍というものも知らなかった自分に、術者としての道を与えてくれた。
今ならわかる。
彼はただの殺戮者ではない。
冷酷を装っていても、心のある人間だったと――
眉根をわずかに寄せ、クナイを握り直す。
再び芽生えようとする想いを、強く、押し殺した。
「……ご恩を忘れたわけではありません。
……あなた様と刃を交えることなど、本当は……不本意なのです。けれど……これも、忍の定め。」
「フン。お前が忍を語るか……笑わせるな。」
赤い瞳に微かな光が宿り、舞い踊る蝶へと刃が放たれる。
雪にまぎれて煌めく蒼の羽が、ひとひら、またひとひらと散りゆく。
ヒルコの尾がしなり、次の瞬間、刃が蝶たちを薙ぎ払った。
雪に混じって舞い落ちる羽。
そして彼の視線が、再びこちらに向けられる。
「……相変わらず、美しい技だ。やはりお前はいい……。」
――“美しい”。
その声に、名を呼ばれた響きに、心が揺れた。
ぐらりと、感情が大きく傾いた、その瞬間。
彼は見逃さなかった。
尾がしなり、まるで羽を毟るように蝶を刃で断ち、同時に自分へと迫ってくる。
クナイで前から来た腕を弾くも、背後から迫る尾の一撃を避けきれず、足首をわずかにかすめた。
「……っ!」
着地と同時に、傷口からしびれるような感覚が広がる。
――毒。
彼の毒。誰よりも、知っている。
すぐにチャクラを流して解毒を試みるが、遅かった。
下半身からまわり始めた痺れが、全身を覆い、視界がぼやけていく。
やがて膝が崩れ、雪の中に倒れ込んだ。
頬に触れる雪が、熱を持った身体に冷たく染みて心地良い。
もういい。
ようやく終わる。
これで、長い苦しみから解放されるのだ。
そう思うと、ふっと心が軽くなった。
何もかも手放して、意識が沈んでいくのをただ委ねる。
そのとき――
足音が近づき、崩れた身体がふわりと抱き起こされるような感触。
そして、ぷすりと首元に何かが刺さる。
痛みはない。
ただ、そこに確かな温もりがあった。
重い瞼をどうにか持ち上げれば、視界に映ったのは――
艶やかな、赤。
「……なぜ、躱さなかった。あの程度の仕掛け、お前なら見抜けていたはずだ。」
彼の声が、雪の静寂の中に沈む。
「……」
「安心しろ。毒では殺さない。……まだ、な。」
顎をすっと掴まれ、顔を上げさせられる。
視界が少しずつ澄んでいき、解毒薬だったのだと気づく。
そして――
彼は、ヒルコを脱ぎ捨てていた。
変わらぬ赤い髪。冷えた美貌。
胸が、どくんと跳ねる。
けれど、まだうまく言葉が出ない。
呼吸を妨げる毒が、残っているのだ。
「……なぜ、ですか……もう……生きる価値など……」
「それは、俺が決めることだ。……敗者に、選択権はない。」
ふいに身体が宙に浮いた。
抱き上げられたのだと気づいたのは、雪原が遠ざかっていくのを感じた時だった。
彼の腕の中で揺られながら、意識は再び深く、静かに落ちていく。
ただ、眠るように。
あの日焦がれた、彼の腕の温もりに包まれながら。
――これは夢か、それとも現実か。
思考はもう、霞の向こうに消えていた。
そっと瞼を閉じれば、過去の記憶が静かに甦る。
――艶やかな赤の髪。
傀儡を操る、あの指先の美しさ。
彼はその手で芸術を創り出し、幼い自分はその創造に、そしてその人自身に惹かれた。完璧な容姿と、どこまでも冷静で正確な声。そのすべてに心を奪われた。
彼に惹かれていた。
それが恋だったのかは分からない。ただ、彼の傍にいると、走ってもいないのに胸が脈打ち、瞳が合えば針を刺されたように痛み、言葉を交わすだけで息が苦しくなった。
忍は心を殺せと教わった。
それなのに、自分は感情に溺れ、制御できず、どうすることもできなかった。
…結局、里の命だと嘘を吐き、逃げるように彼のもとを離れた。
その後はただ、与えられるままの任務に従う日々。
心を殺し、駒として使われるだけの毎日。
あれは愚かな選択だったと、今では思う。生きてはいても、闇に沈んでいたようなものだった。
けれど、どれだけ距離を取っても、彼の面影は色濃く残り、何度も何度も脳裏に浮かんでは、掻き消しても掻き消せなかった。
忍として死ぬこともできない。
けれど、どこかの任務で再び彼に出会い、彼の傀儡にされるのなら――
それが、この苦しい想いの終わりになると、どこかで望んでいた。
蝶を口寄せにし、花を愛し、植物と対話する。
彼はその力を「美しい」と評し、大切に育ててくれた。
――忍というものも知らなかった自分に、術者としての道を与えてくれた。
今ならわかる。
彼はただの殺戮者ではない。
冷酷を装っていても、心のある人間だったと――
眉根をわずかに寄せ、クナイを握り直す。
再び芽生えようとする想いを、強く、押し殺した。
「……ご恩を忘れたわけではありません。
……あなた様と刃を交えることなど、本当は……不本意なのです。けれど……これも、忍の定め。」
「フン。お前が忍を語るか……笑わせるな。」
赤い瞳に微かな光が宿り、舞い踊る蝶へと刃が放たれる。
雪にまぎれて煌めく蒼の羽が、ひとひら、またひとひらと散りゆく。
ヒルコの尾がしなり、次の瞬間、刃が蝶たちを薙ぎ払った。
雪に混じって舞い落ちる羽。
そして彼の視線が、再びこちらに向けられる。
「……相変わらず、美しい技だ。やはりお前はいい……。」
――“美しい”。
その声に、名を呼ばれた響きに、心が揺れた。
ぐらりと、感情が大きく傾いた、その瞬間。
彼は見逃さなかった。
尾がしなり、まるで羽を毟るように蝶を刃で断ち、同時に自分へと迫ってくる。
クナイで前から来た腕を弾くも、背後から迫る尾の一撃を避けきれず、足首をわずかにかすめた。
「……っ!」
着地と同時に、傷口からしびれるような感覚が広がる。
――毒。
彼の毒。誰よりも、知っている。
すぐにチャクラを流して解毒を試みるが、遅かった。
下半身からまわり始めた痺れが、全身を覆い、視界がぼやけていく。
やがて膝が崩れ、雪の中に倒れ込んだ。
頬に触れる雪が、熱を持った身体に冷たく染みて心地良い。
もういい。
ようやく終わる。
これで、長い苦しみから解放されるのだ。
そう思うと、ふっと心が軽くなった。
何もかも手放して、意識が沈んでいくのをただ委ねる。
そのとき――
足音が近づき、崩れた身体がふわりと抱き起こされるような感触。
そして、ぷすりと首元に何かが刺さる。
痛みはない。
ただ、そこに確かな温もりがあった。
重い瞼をどうにか持ち上げれば、視界に映ったのは――
艶やかな、赤。
「……なぜ、躱さなかった。あの程度の仕掛け、お前なら見抜けていたはずだ。」
彼の声が、雪の静寂の中に沈む。
「……」
「安心しろ。毒では殺さない。……まだ、な。」
顎をすっと掴まれ、顔を上げさせられる。
視界が少しずつ澄んでいき、解毒薬だったのだと気づく。
そして――
彼は、ヒルコを脱ぎ捨てていた。
変わらぬ赤い髪。冷えた美貌。
胸が、どくんと跳ねる。
けれど、まだうまく言葉が出ない。
呼吸を妨げる毒が、残っているのだ。
「……なぜ、ですか……もう……生きる価値など……」
「それは、俺が決めることだ。……敗者に、選択権はない。」
ふいに身体が宙に浮いた。
抱き上げられたのだと気づいたのは、雪原が遠ざかっていくのを感じた時だった。
彼の腕の中で揺られながら、意識は再び深く、静かに落ちていく。
ただ、眠るように。
あの日焦がれた、彼の腕の温もりに包まれながら。
――これは夢か、それとも現実か。
思考はもう、霞の向こうに消えていた。