ハツコイアザミ
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一日中降り続いた雨は漸く止み、晴れ間が見えたのも束の間、日が落ちればぐっと気温が下がる。
そして空を覆い尽くす灰色の雲からはチラチラと粉雪が降り注ぐ。外は白くけぶり、山も林も覆われ視界が白一色に染められていく。
装束から覗く黒髪に付いた雪のカケラを払い落とし、悴んだ指を擦り合わせる。
こんな日に限って天候は味方しない。
里に伝わる尾獣に関する巻物の護衛という最重要任務に当たっている。
幾重にも結界が張られた、この崖の先の洞窟に其れは隠されており、あのS級犯罪者組織、暁の一味が巻物を狙っているとの情報を受けその襲撃を迎え撃つため警備を強化している最中。
暁..という名は、自分の中で死んだ筈の感情を喚び起させる。嘘を吐いた挙句何も告げずに消えておいて。離れて随分経つというのに、未だに昨日の事のように...声、眼差し、傀儡を操る端正な指先、全てが鮮やかに蘇る。
離れたのは不本意であった。
里を捨て、あの天才傀儡師の側にいることを選んでいたら、里の幹部の駒などでなく、何者にも縛られず、才能を生かせていたのかもしれない。
だが、あの人の側いれば最早忍では居られない...と己の心の弱さを悟り、里の命に従うと嘘を吐き側を離れることを決めた。
いけない...と我に返り、意識を外へ向ける。偵察に出た隊が戻らず口寄せの蝶をその方角へと飛ばす。
崖下にある森の入り口付近で、偵察部隊数名の遺体。無傷のまま、恐らく毒針か何かで一撃で仕留められた後。そして次の瞬間、蝶を通じて見た姿に思わず心臓を掴まれ、その名を口走る。
「...サソリ様......」
揺れる心を映す鏡のように、碧い蝶は雪灯りを受け煌めき侵入者の周囲でゆらりゆらりと舞う。これ以上近付くなと警告するかのように。
彼であればこれ以上逃げも隠れも出来ない。悴んだ指にほう、と吐息を吹き掛け、腰にあるクナイを構える。森の中の開けた場所で彼を迎え撃つため待機する。
今にも崩れ落ちそうな心をひた隠しにして。
そして空を覆い尽くす灰色の雲からはチラチラと粉雪が降り注ぐ。外は白くけぶり、山も林も覆われ視界が白一色に染められていく。
装束から覗く黒髪に付いた雪のカケラを払い落とし、悴んだ指を擦り合わせる。
こんな日に限って天候は味方しない。
里に伝わる尾獣に関する巻物の護衛という最重要任務に当たっている。
幾重にも結界が張られた、この崖の先の洞窟に其れは隠されており、あのS級犯罪者組織、暁の一味が巻物を狙っているとの情報を受けその襲撃を迎え撃つため警備を強化している最中。
暁..という名は、自分の中で死んだ筈の感情を喚び起させる。嘘を吐いた挙句何も告げずに消えておいて。離れて随分経つというのに、未だに昨日の事のように...声、眼差し、傀儡を操る端正な指先、全てが鮮やかに蘇る。
離れたのは不本意であった。
里を捨て、あの天才傀儡師の側にいることを選んでいたら、里の幹部の駒などでなく、何者にも縛られず、才能を生かせていたのかもしれない。
だが、あの人の側いれば最早忍では居られない...と己の心の弱さを悟り、里の命に従うと嘘を吐き側を離れることを決めた。
いけない...と我に返り、意識を外へ向ける。偵察に出た隊が戻らず口寄せの蝶をその方角へと飛ばす。
崖下にある森の入り口付近で、偵察部隊数名の遺体。無傷のまま、恐らく毒針か何かで一撃で仕留められた後。そして次の瞬間、蝶を通じて見た姿に思わず心臓を掴まれ、その名を口走る。
「...サソリ様......」
揺れる心を映す鏡のように、碧い蝶は雪灯りを受け煌めき侵入者の周囲でゆらりゆらりと舞う。これ以上近付くなと警告するかのように。
彼であればこれ以上逃げも隠れも出来ない。悴んだ指にほう、と吐息を吹き掛け、腰にあるクナイを構える。森の中の開けた場所で彼を迎え撃つため待機する。
今にも崩れ落ちそうな心をひた隠しにして。
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