つまり、愛してるってことさ
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エリオスタワーの最上階、人の気配の少ない屋上は風の温度に秋を感じるものの夏の色をまだ濃く残していた。ベンチに人の影はなく、座るかどうかを少し悩むが一度座り込んでしまうと立ち上がるのも億劫になるなと考え直しより人気のない奥の方へ向かう。人のいない最奥にたどり着くとそこには背の高い男の影。よく見知ったその影の隣に静かに滑りよる。ヒーローらしく、機敏にも気配に気がついたのか私の頭の上を2度ほど男の視線が彷徨った。
「キース」
「……」
「した」
「あー……あぁ」
柵にもたれていた金髪が私を見下ろして、彼の身体に染み付いた煙草の残り香がふわりと鼻先を掠めた。
──小さくて、見えなかったな。
……別に私が特段小柄なわけじゃないわ
「君が大きいだけよ」
「それこそ言いがかりじゃねぇか?」
本でも読みにきたのか。そう、言いながらこっちに来いとキースが顎で隣を指し示す。彼の動きに誘われるように、大人しく男の隣に滑り込んで柵に背中を押しつけた。セントラルの空は狭いがエリオスタワーから見る空は青くてどこまでも高い。それはなんだか父の故郷を思い出させた。
「……悪い」
ちょっと吸わせてくれ
吸うために来たんだ、と曰う彼の言葉にどうぞ、と首を振って返す。悪いなと言う言葉と共にカチンとライターが鳴って、それに続いて金属の擦れる音が聞こえた。蛍のように赤く光る紙巻煙草の先端を見ながらそう言えば明日は雨だとラジオで言っていたな、とぼんやり思い出す。吐き出された煙が青年のため息に似た深い吐息と一緒にゆらゆら、空気の中に流れていく。視線の先に映る空は雲ひとつない晴天だ。白飛びした青は痛いほど目に眩しい。
「……疲れてるね」
「まぁ……何かしてるかっつぅと大して何にもしてねぇんだけどさ」
誰かを指導するのは向いてないんだよ。
疲れた笑顔が此方を向く。それに口の端をゆるく上げた顔を返すと私の髪を梳くように頭を撫でられた。元の位置を向いてしまった顔は目元が髪に隠れて表情がよくわからない。その場から去るのも勿体無く、だからと言って口を開く気分にも改めて本を開く気にもなれなくて、ぼんやりと煙を燻らせる青年の顔をじっと、見詰める。
──とても、綺麗な顔をしているのね──
あまりにも今更だろうか。でも、隣り合って話すことはそれなりに多くても、向かい合って話をすることはこれまで、あまりなかったような気がする。改めて、まじまじと見たキースの横顔の造詣は酷く、整っていて、綺麗だった。私は、彼の煙草を咥える唇が薄いこともスッと通った鼻梁がきれいなことも、ずっと、知らなかった…いや、意識していなかった。と言った方が正しいだろうか。改めて隣で静かに煙を吐き出す青年を見て、幼馴染が度を超えて綺麗だから忘れがちだけれど、彼は彼で酷く整った顔立ちをしているのだな、などと当たり前のことをぼんやりと、考える。見るともなく、彼の顔を見詰め続けていたのだろうか、何処か遠くを見ていたキースがぐ、と一度、瞳を閉じてからゆっくりと開いて……少し言いにくそうに口を開いた。
「…… アキ」
「 っ 」
艶のある低い声に意識が引き戻される。急に呼びかけられた名前に咄嗟の反応ができずに息をすることを忘れたように引き攣ったような、小さく吐息の溢れる音が喉から漏れた。そんな私を見て、キースは笑うように僅か、口元を緩める。
「……いい歳した男の顔面なんか見つめて楽しいか?」
──そこまで熱烈に見つめられると、流石に照れる
言葉とは裏腹に此方に向けている視線には余裕のある色をしていた。流れるように胸ポケットから引っ張り出した携帯灰皿で煙草の火を消し、こちらに向き直ったキースが私と視線を合わせるように視線を下ろす。さっきまで、不躾に彼の顔を見ていたのはこちらだと言うのに、彼の視線に絡め取られているのだと思うと途端に妙な恥ずかしさに襲われた。
「………ごめんなさい」
「逸らすなよ」
目を伏せて、キースの視線から逃げようとした私の顎が彼の長い指で固定される。逸らせなくなった視線が彼のそれとかち合って、ひゅ、と吸った息が喉の奥で小さく鳴った。私のそれより幾分か薄い色をした緑の目が私の瞳のさらに奥、知られたくない感情まで見透かしてくるようで恐ろしい。
「似たような色をしていると思ってたんだけどな…… アキの目の方が深い色をしてるんだな」
「……キースの目は夏の終わりみたいな色をしているのね」
返事としては不正解だったかもしれない。彼の言ったこととつながりの感じられない私の言葉に問いかけるような視線が返される。時折グレーが差し込まれる淡い若草色。夏を生ききったとでも言うような、秋の訪れを感じる緑がなんだか悲しくて、反面酷く、愛おしかった。
「秋が、始まる色だなって思ったの」
「秋が……?そりゃ、ブラッドみたいな目の色のことを言うんじゃないか?」
紅葉色だろ、あれ
「それじゃぁ秋の盛りじゃない」
「それもそうか」
喋りながら私の顎を捉えていたキースの指が顔の輪郭を辿り、頬を撫でて離れていく。通り過ぎた夏の終わりを知らせる風がふわりと頬を冷やしていって、熱が離れていくのに一抹の寂しさを感じた。
「……ねえ」
「ん……」
頭ひとつよりももう少し上にあるキースの顔を見上げながら声をかける。聞いているのかいないのか、わからない返事をしながらも此方に視線を合わせる彼の顔は優しかった。私はもしかしたらもったいない物を色々と見落としていたのかもしれない。
「今度のキースのオフは休みをを取るから紅葉を見に行きましょう?」
「まだ早いだろ」
「どうせ、休みが合う時にはそのくらいになってるわ」
気長にやりましょうよ、時間はたくさんあるんだし。
ぽつ、と呟いた言葉に彼は一瞬動きを止めて。そのまま柔らかく破顔した。そんな顔さえ綺麗だと思ってしまうのはもう惚れてしまった欲目だろう。諦めるしかない。
「じゃあ、休みが合うまでにいく場所考えとけよ」
「バイク、乗せてくれる?」
「お前を乗せるのは不安しかないからダメ」
日の光は夏。風は冷たく。もうじき夏も終わり。
「キース」
「……」
「した」
「あー……あぁ」
柵にもたれていた金髪が私を見下ろして、彼の身体に染み付いた煙草の残り香がふわりと鼻先を掠めた。
──小さくて、見えなかったな。
……別に私が特段小柄なわけじゃないわ
「君が大きいだけよ」
「それこそ言いがかりじゃねぇか?」
本でも読みにきたのか。そう、言いながらこっちに来いとキースが顎で隣を指し示す。彼の動きに誘われるように、大人しく男の隣に滑り込んで柵に背中を押しつけた。セントラルの空は狭いがエリオスタワーから見る空は青くてどこまでも高い。それはなんだか父の故郷を思い出させた。
「……悪い」
ちょっと吸わせてくれ
吸うために来たんだ、と曰う彼の言葉にどうぞ、と首を振って返す。悪いなと言う言葉と共にカチンとライターが鳴って、それに続いて金属の擦れる音が聞こえた。蛍のように赤く光る紙巻煙草の先端を見ながらそう言えば明日は雨だとラジオで言っていたな、とぼんやり思い出す。吐き出された煙が青年のため息に似た深い吐息と一緒にゆらゆら、空気の中に流れていく。視線の先に映る空は雲ひとつない晴天だ。白飛びした青は痛いほど目に眩しい。
「……疲れてるね」
「まぁ……何かしてるかっつぅと大して何にもしてねぇんだけどさ」
誰かを指導するのは向いてないんだよ。
疲れた笑顔が此方を向く。それに口の端をゆるく上げた顔を返すと私の髪を梳くように頭を撫でられた。元の位置を向いてしまった顔は目元が髪に隠れて表情がよくわからない。その場から去るのも勿体無く、だからと言って口を開く気分にも改めて本を開く気にもなれなくて、ぼんやりと煙を燻らせる青年の顔をじっと、見詰める。
──とても、綺麗な顔をしているのね──
あまりにも今更だろうか。でも、隣り合って話すことはそれなりに多くても、向かい合って話をすることはこれまで、あまりなかったような気がする。改めて、まじまじと見たキースの横顔の造詣は酷く、整っていて、綺麗だった。私は、彼の煙草を咥える唇が薄いこともスッと通った鼻梁がきれいなことも、ずっと、知らなかった…いや、意識していなかった。と言った方が正しいだろうか。改めて隣で静かに煙を吐き出す青年を見て、幼馴染が度を超えて綺麗だから忘れがちだけれど、彼は彼で酷く整った顔立ちをしているのだな、などと当たり前のことをぼんやりと、考える。見るともなく、彼の顔を見詰め続けていたのだろうか、何処か遠くを見ていたキースがぐ、と一度、瞳を閉じてからゆっくりと開いて……少し言いにくそうに口を開いた。
「…… アキ」
「 っ 」
艶のある低い声に意識が引き戻される。急に呼びかけられた名前に咄嗟の反応ができずに息をすることを忘れたように引き攣ったような、小さく吐息の溢れる音が喉から漏れた。そんな私を見て、キースは笑うように僅か、口元を緩める。
「……いい歳した男の顔面なんか見つめて楽しいか?」
──そこまで熱烈に見つめられると、流石に照れる
言葉とは裏腹に此方に向けている視線には余裕のある色をしていた。流れるように胸ポケットから引っ張り出した携帯灰皿で煙草の火を消し、こちらに向き直ったキースが私と視線を合わせるように視線を下ろす。さっきまで、不躾に彼の顔を見ていたのはこちらだと言うのに、彼の視線に絡め取られているのだと思うと途端に妙な恥ずかしさに襲われた。
「………ごめんなさい」
「逸らすなよ」
目を伏せて、キースの視線から逃げようとした私の顎が彼の長い指で固定される。逸らせなくなった視線が彼のそれとかち合って、ひゅ、と吸った息が喉の奥で小さく鳴った。私のそれより幾分か薄い色をした緑の目が私の瞳のさらに奥、知られたくない感情まで見透かしてくるようで恐ろしい。
「似たような色をしていると思ってたんだけどな…… アキの目の方が深い色をしてるんだな」
「……キースの目は夏の終わりみたいな色をしているのね」
返事としては不正解だったかもしれない。彼の言ったこととつながりの感じられない私の言葉に問いかけるような視線が返される。時折グレーが差し込まれる淡い若草色。夏を生ききったとでも言うような、秋の訪れを感じる緑がなんだか悲しくて、反面酷く、愛おしかった。
「秋が、始まる色だなって思ったの」
「秋が……?そりゃ、ブラッドみたいな目の色のことを言うんじゃないか?」
紅葉色だろ、あれ
「それじゃぁ秋の盛りじゃない」
「それもそうか」
喋りながら私の顎を捉えていたキースの指が顔の輪郭を辿り、頬を撫でて離れていく。通り過ぎた夏の終わりを知らせる風がふわりと頬を冷やしていって、熱が離れていくのに一抹の寂しさを感じた。
「……ねえ」
「ん……」
頭ひとつよりももう少し上にあるキースの顔を見上げながら声をかける。聞いているのかいないのか、わからない返事をしながらも此方に視線を合わせる彼の顔は優しかった。私はもしかしたらもったいない物を色々と見落としていたのかもしれない。
「今度のキースのオフは休みをを取るから紅葉を見に行きましょう?」
「まだ早いだろ」
「どうせ、休みが合う時にはそのくらいになってるわ」
気長にやりましょうよ、時間はたくさんあるんだし。
ぽつ、と呟いた言葉に彼は一瞬動きを止めて。そのまま柔らかく破顔した。そんな顔さえ綺麗だと思ってしまうのはもう惚れてしまった欲目だろう。諦めるしかない。
「じゃあ、休みが合うまでにいく場所考えとけよ」
「バイク、乗せてくれる?」
「お前を乗せるのは不安しかないからダメ」
日の光は夏。風は冷たく。もうじき夏も終わり。