つまり、愛してるってことさ
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──あ、キス、するかも
そう思った時にはもう、唇が触れていた。
前触れなんてものは、何も、なかった。
何もかもが普段通りだった。いつものように、仕事が終わる頃を見計らって地下の書庫に遊びにきたキースを併設している事務室に招き入れて、二人掛けのソファに隣り合って座って取り留めのない、他人が聞いたらきっと、詰まらないと言われてしまうような話に花を咲かせていた。普段と違ったのはひとつだけ、ハイライトの少ないオリーブグリーンの目が西日を受けてちか、と瞬いて。一瞬だけ、それに見惚れた。
たった、そんな程度のことで、彼の瞳の中で揺れる自分の姿を見留めた時にはひたりと唇が重なっていた。
まるで、恋人同士がするような優しくて甘い、キス。
すり、と甘えるように擦り付けられた唇は私のそれよりも乾燥して、かさついている。逃がすまいとでも言うように肩をしっかりと掴んだ彼の指はブラウス越しなのにひどく火照っていて、熱かった。
私に何も喋らせはしないとでも言うように、唇が何度も離れては押し付けられる。座っているのに、それでも尚あからさまな身長差を埋めるかのように、腰を折り曲げて懸命にキスをする彼の体勢と相俟ったその様子は、なんだか私の全部を食べられているみたいで……少しだけ、ドキドキした。
「……ん……ふ、ぅ……」
「……甘い、な」
「ゃ……」
喉の奥から自分が出しているとは到底思えない、甘ったるい吐息がとろとろ、何かの蜜のようにこぼれ落ちる。唇を塞がれ上手く息を継げなくて、私の肩を握りしめる彼の手首を力の籠らない指先で撫でるように握る。束の間、呼吸を整えるそれだけのために薄く赤い粘膜が遠ざかり、同意を求めるように耳元でキースが低く……息を吹き込むように囁いた。その艶のある声だけで、頭の芯がどろりと蕩けて、腰から力が抜けそうになる。砕けそうになる私の腰を抱いて支えるともう一度、熱っぽい唇が私の口唇に齧りついた。きゅう、と引き結んだ唇の狭間をキースの舌が柔らかく撫でて、時折甘く歯を立てられる。甘ったるい刺激がもどかしくて、彼の瞳を下から覗き込みながらそろりと自分の唇を開くとキースの視線が驚いたように小さく揺れた。
──いいのか
最後通告の如く問いかける彼の瞳を凝っと、見詰めながら、ちろりと彼の渇いた唇を舌先で撫でる。それに誘われるように、キースの舌が私の突き出した舌に絡み、窪みを撫でて、柔らかく食んだ後にきつく、吸い上げて……満足したかのように、ゆっくりと唇が離された。
「……は、っぁ……」
私と彼の唇を繋ぐ銀糸が生々しい。ぷつりと糸を切るように私の口を優しく拭うキースの親指を見ながら、先程までの行為を思い出し、くらりと目の前の景色が熱っぽく歪む。
「……キース」
唇を拭った彼の指を握りこんで小さく男の名前を呼ぶ。いつものように絡んで欲しい視線が、今は全く絡まないのがなんだかとても、寂しかった。
「ね、ぇ」
「謝らねぇよ」
でも……忘れてくれ
もういちど、呼びかけようとした私の声は彼の震えた声にさえぎられて空中でふわりと溶ける。
「どうして」
「…………」
「忘れる、なんて」
──忘れるなんて……そんなこと、できないわ
途方に暮れた私の揺れた声だけが君と私だけの空っぽな部屋に虚しく響いた。
気がつけば、夕方のギラつく西日は消えていて。月の光すら差し込まない新月の空は星あかりだけがうるさいくらいに明るかった
そう思った時にはもう、唇が触れていた。
前触れなんてものは、何も、なかった。
何もかもが普段通りだった。いつものように、仕事が終わる頃を見計らって地下の書庫に遊びにきたキースを併設している事務室に招き入れて、二人掛けのソファに隣り合って座って取り留めのない、他人が聞いたらきっと、詰まらないと言われてしまうような話に花を咲かせていた。普段と違ったのはひとつだけ、ハイライトの少ないオリーブグリーンの目が西日を受けてちか、と瞬いて。一瞬だけ、それに見惚れた。
たった、そんな程度のことで、彼の瞳の中で揺れる自分の姿を見留めた時にはひたりと唇が重なっていた。
まるで、恋人同士がするような優しくて甘い、キス。
すり、と甘えるように擦り付けられた唇は私のそれよりも乾燥して、かさついている。逃がすまいとでも言うように肩をしっかりと掴んだ彼の指はブラウス越しなのにひどく火照っていて、熱かった。
私に何も喋らせはしないとでも言うように、唇が何度も離れては押し付けられる。座っているのに、それでも尚あからさまな身長差を埋めるかのように、腰を折り曲げて懸命にキスをする彼の体勢と相俟ったその様子は、なんだか私の全部を食べられているみたいで……少しだけ、ドキドキした。
「……ん……ふ、ぅ……」
「……甘い、な」
「ゃ……」
喉の奥から自分が出しているとは到底思えない、甘ったるい吐息がとろとろ、何かの蜜のようにこぼれ落ちる。唇を塞がれ上手く息を継げなくて、私の肩を握りしめる彼の手首を力の籠らない指先で撫でるように握る。束の間、呼吸を整えるそれだけのために薄く赤い粘膜が遠ざかり、同意を求めるように耳元でキースが低く……息を吹き込むように囁いた。その艶のある声だけで、頭の芯がどろりと蕩けて、腰から力が抜けそうになる。砕けそうになる私の腰を抱いて支えるともう一度、熱っぽい唇が私の口唇に齧りついた。きゅう、と引き結んだ唇の狭間をキースの舌が柔らかく撫でて、時折甘く歯を立てられる。甘ったるい刺激がもどかしくて、彼の瞳を下から覗き込みながらそろりと自分の唇を開くとキースの視線が驚いたように小さく揺れた。
──いいのか
最後通告の如く問いかける彼の瞳を凝っと、見詰めながら、ちろりと彼の渇いた唇を舌先で撫でる。それに誘われるように、キースの舌が私の突き出した舌に絡み、窪みを撫でて、柔らかく食んだ後にきつく、吸い上げて……満足したかのように、ゆっくりと唇が離された。
「……は、っぁ……」
私と彼の唇を繋ぐ銀糸が生々しい。ぷつりと糸を切るように私の口を優しく拭うキースの親指を見ながら、先程までの行為を思い出し、くらりと目の前の景色が熱っぽく歪む。
「……キース」
唇を拭った彼の指を握りこんで小さく男の名前を呼ぶ。いつものように絡んで欲しい視線が、今は全く絡まないのがなんだかとても、寂しかった。
「ね、ぇ」
「謝らねぇよ」
でも……忘れてくれ
もういちど、呼びかけようとした私の声は彼の震えた声にさえぎられて空中でふわりと溶ける。
「どうして」
「…………」
「忘れる、なんて」
──忘れるなんて……そんなこと、できないわ
途方に暮れた私の揺れた声だけが君と私だけの空っぽな部屋に虚しく響いた。
気がつけば、夕方のギラつく西日は消えていて。月の光すら差し込まない新月の空は星あかりだけがうるさいくらいに明るかった