つまり、愛してるってことさ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼が私の前で紫煙を燻らせることは実は少ない。
理由は明確だった、あまり喉が強くない私が煙草を吸っているキースの目の前で何度か咳き込んでしまったから。それ以来、遠くから彼の細長く見える背中を見つけて私が近くまで寄ってくる気配を察すると彼は灰皿でそれを揉んで、どうかしたかと此方を振り返るのだ。
「……アキか」
それは今日も変わらなかった。いつものように胸のポケットから携帯灰皿を取りだして吸い始めたばかりであろう、まだまだ長さのあるそれの火をキースは揉んで消してしまう。気にせずに吸ってくれていいのに、とぼやいたら煙草の匂いなんて纏っていたらブラッドの奴が煩いだろう。と、優しい仕草で頭を撫でられた。目の前のこの青年も、仏頂面の幼馴染も、愛と平和が信条の友人も……この同学年の男たちはよく、私の頭に触れてくる。高さがちょうどいい所にあるのだとひとりはにっこりと笑い、もうひとりは昔からこうだから撫でるという行為に対する違和感がなかったと首を傾げる。いちばん、よく頭を撫でてくる目の前の気怠げな表情をした男だけが私の頭を撫でてくる理由を語らなかった。別に、理由が知りたかったわけではないけれど。ただ、髪を撫でる手の動きが、無骨なかたちをした掌やふしくれだった指から想像のつかない、ずっと優しい仕草になるその手のひらの動きが、好きだから、可能であるならいつだって、何度だって触って欲しい。……それだけの話である。
そんな私の気持ちになんて到底、気が付いてないであろう、キースの指が滑るように私の髪をするりと長い指で梳いていく。時折、擽るようにそれが耳の縁に触れ、耳朶の裏を撫でるのが焦れったくてこそばゆい。以前だったら何も思わずされるがままになっていただろう、その指の動きに妙な甘さを感じていたたまれないような気持ちになる。もっと、ちゃんと触って欲しい……そんなことを思うのはいけないこと、だろうか。
「っ、んぅ……」
「……お前なぁ」
あんまり変な声出すんじゃねぇよ
しばらくの間、男の指先が触れる火照った体温に身を任せていると、指先の熱が離れていって、思わず零れた自分のものでは無いような物欲しげな声に思わず指先で口を抑えた。少し、焦燥したようなキースの低い声が舐るように耳を登り、無意識に掴んでいたのであろう、彼のシャツを握りしめていた指をするりと解く。近くなりすぎた身体の距離を一歩、離して、何か用があってここまで来たんだろうと問いかける彼の声はもういつものやる気のない間延びしたそれに変わってしまっていた。
「ぁ、あー……」
「まさか、何にもないのにここまで走ってきたのか?」
そのまさかである、何も言えずにそろりと視線を逸らした私に、キースが呆れたような声をあげて私を見下ろす。──暇だな、お前も…… そう、薄い唇が動いて、弧を描く。まるで、愛しいものを見るような優しい声に、私の動きがピタリ、止まって、目の前の青年が不思議そうに首を傾げた。
「どうした?」
「……ううん、なんでも……なんでもない、わ」
ふ、と吐息だけを漏らすような口の端をあげるだけの笑顔にすらぎゅう、と胸の奥を握られたような気持ちになっている自分のどうしようもなさが情けない。まるで、恋を知ったばかりのティーンの女の子みたいじゃないか。……初めての恋、なのはきっと私も、その子達と何ひとつ、違うところはないのだろうけれど。
「しっかりしないといけないわ…」
「別に、日頃から割ときちんとしてる方だろ」
──誰のせいでこんなにもダメになってしまっていると思っているのだ。
呑気な男の、雑なフォローの言葉が憎らしかった。
理由は明確だった、あまり喉が強くない私が煙草を吸っているキースの目の前で何度か咳き込んでしまったから。それ以来、遠くから彼の細長く見える背中を見つけて私が近くまで寄ってくる気配を察すると彼は灰皿でそれを揉んで、どうかしたかと此方を振り返るのだ。
「……アキか」
それは今日も変わらなかった。いつものように胸のポケットから携帯灰皿を取りだして吸い始めたばかりであろう、まだまだ長さのあるそれの火をキースは揉んで消してしまう。気にせずに吸ってくれていいのに、とぼやいたら煙草の匂いなんて纏っていたらブラッドの奴が煩いだろう。と、優しい仕草で頭を撫でられた。目の前のこの青年も、仏頂面の幼馴染も、愛と平和が信条の友人も……この同学年の男たちはよく、私の頭に触れてくる。高さがちょうどいい所にあるのだとひとりはにっこりと笑い、もうひとりは昔からこうだから撫でるという行為に対する違和感がなかったと首を傾げる。いちばん、よく頭を撫でてくる目の前の気怠げな表情をした男だけが私の頭を撫でてくる理由を語らなかった。別に、理由が知りたかったわけではないけれど。ただ、髪を撫でる手の動きが、無骨なかたちをした掌やふしくれだった指から想像のつかない、ずっと優しい仕草になるその手のひらの動きが、好きだから、可能であるならいつだって、何度だって触って欲しい。……それだけの話である。
そんな私の気持ちになんて到底、気が付いてないであろう、キースの指が滑るように私の髪をするりと長い指で梳いていく。時折、擽るようにそれが耳の縁に触れ、耳朶の裏を撫でるのが焦れったくてこそばゆい。以前だったら何も思わずされるがままになっていただろう、その指の動きに妙な甘さを感じていたたまれないような気持ちになる。もっと、ちゃんと触って欲しい……そんなことを思うのはいけないこと、だろうか。
「っ、んぅ……」
「……お前なぁ」
あんまり変な声出すんじゃねぇよ
しばらくの間、男の指先が触れる火照った体温に身を任せていると、指先の熱が離れていって、思わず零れた自分のものでは無いような物欲しげな声に思わず指先で口を抑えた。少し、焦燥したようなキースの低い声が舐るように耳を登り、無意識に掴んでいたのであろう、彼のシャツを握りしめていた指をするりと解く。近くなりすぎた身体の距離を一歩、離して、何か用があってここまで来たんだろうと問いかける彼の声はもういつものやる気のない間延びしたそれに変わってしまっていた。
「ぁ、あー……」
「まさか、何にもないのにここまで走ってきたのか?」
そのまさかである、何も言えずにそろりと視線を逸らした私に、キースが呆れたような声をあげて私を見下ろす。──暇だな、お前も…… そう、薄い唇が動いて、弧を描く。まるで、愛しいものを見るような優しい声に、私の動きがピタリ、止まって、目の前の青年が不思議そうに首を傾げた。
「どうした?」
「……ううん、なんでも……なんでもない、わ」
ふ、と吐息だけを漏らすような口の端をあげるだけの笑顔にすらぎゅう、と胸の奥を握られたような気持ちになっている自分のどうしようもなさが情けない。まるで、恋を知ったばかりのティーンの女の子みたいじゃないか。……初めての恋、なのはきっと私も、その子達と何ひとつ、違うところはないのだろうけれど。
「しっかりしないといけないわ…」
「別に、日頃から割ときちんとしてる方だろ」
──誰のせいでこんなにもダメになってしまっていると思っているのだ。
呑気な男の、雑なフォローの言葉が憎らしかった。