つまり、愛してるってことさ
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「この間は助けてくれてありがとう」
「あのくらい、助けたうちにも入んねぇって」
少し、高いところのものを取ってやっただけだろう。
お礼だからと、胸に押し付けられた甘い匂いのする小さな袋を手のひらの上で弄ぶ。そもそも甘いものは得意ではないという言葉を飲み込んで、そのうちコーヒーでも奢ってくれよとふざけた声音で提案すると、それじゃあ今度のお休みをブラッドくんに聞いておくわね。と細い小指が絡まった。
「……な」
「約束」
また今度、改めてお誘いするわね。そう、言って綺麗なお辞儀をひとつ、残して。遠ざかって行く小さな背中を見送りながら肺に溜めていた息を長く、細く吐き出す。そんなオレの様子を向かいの卓で見ていたディノが徐ろに、口を開いた。
「キースってさ」
── アキのこと大好きだよな
吐き出していた息が、中途半端なところで堰き止められる。喉の奥で言葉が澱んで凝って、その量がどこに入っているのだと毎度首を傾げたくなるような大量のピザを、今日も今日とて順調に胃に収めていく友人から投げつけられた台詞に、上手く、反応が出来なかった。一瞬で水分が蒸発したかと思うほど、からからに乾いた咥内を潤そうと卓で汗をかききって水たまりを作っているジンジャーエールのカップに手を伸ばし、ストローを噛み締める。その間も、春の空を映したような明度の高いスカイブルーの瞳が凝っと、こちらを見つめているのが、妙に居心地が悪かった。
「………別に好みの顔じゃねぇ」
ひとくち、ゆっくりと液体が喉を通って胃に落ちるのを確かめてからのろのろと口を開いて言葉を紡ぐ。零れた台詞は本音か嘘か、自分でもいまひとつ、判別がつかなかった。
「でも、可愛いとは思ってる。だろ?」
「……いつもニコニコ笑って話しかけてくるやつにマイナスの感情抱くほど捻てねぇよ……そもそも、アキの顔の造詣は整ってるだろ」
──隣にいるのがブラッドだから目立たねぇだけで。
自分で言った言葉に常に、近い距離で話をする彼女とブラッドの姿が脳裏に過り、胸の奥が引き連れたように痛む。思わず顰めた眉間の皺を見て、ディノが「認めた方が、楽じゃないか?」と言いたげな視線を送ってくるのが更に、苦々しい。お前に言われなくたって、とっくの昔にそんなこと、気がついて、いるのだ。噛み潰したストローから口を離し、行儀悪く卓に頭を投げ出して突っ伏す。昼時のがやがやとした喧騒の中、先程まで話をしていたアキが身に纏っていた花を模した香水の、甘い残り香が優しく鼻先を掠めた気が、した。……彼女の肌そのものが酷く、甘いのかもしれない。ふわふわ、場に残る香りに酔ったようにオレは小さく口を開いた。
「………可愛い、よな」
「客観的に見て?」
「客観的に見て」
「そりゃ…まぁ、可愛いと思うよ」
恐る恐る、なにかを確かめるようなオレの声に、ペーパーカップの氷をストローで崩しながら、さらりとディノが肯定を返す。「キースの言ってる可愛いとは多分、意味合いが違うと思うけどな」他意なく答える友人の言葉に肺の中から絞り出すような深い、ため息が溢れた。
「意味合い……」
「違うだろ?」
顔を上げ、莫迦のように鸚鵡返しに言葉を重ねる。首を軽く傾けて、分かっている答えを待つディノが真っ直ぐ、こちらに視線を向ける。その、瞳の強さに耐えられずに視線が宙を彷徨った。──自覚をするな、認めるな──頭の片隅で掻き集めた理性が警鐘を鳴らす。そんなオレの横顔に、刺さる、視線が酷く、痛い。俺しか聞いてないよ。そう、優しく言葉を促すディノの声が少しだけ、遠く聞こえて、視線に促されるように頑なに引き結んでいた唇がゆるゆると解かれる。
「……笑った顔が、好きなんだ」
あの顔を歪ませたくない。綺麗なまま、世の中の汚いものなんか何一つ知らない顔で笑ってて欲しい……それだけだ
一息に語り、手にしていたぬるくなったジンジャーエールを一息に飲み干す。薄くなって甘いはずの炭酸水が何故だか妙に苦かった。目の前では僅かばかり、驚いた顔をしたディノがまじまじとこちらを見詰めている。
「……なんだよ」
「思った以上に熱烈な告白を聞いちゃったな……って」
「ただの片思い宣言だろ。……到底手の届かない高嶺の花だ。別にオレの方を向いて欲しいなんて、大それたこと思っちゃいない」
──発展も進展もねぇよ。残念だったな
この話をまだまだ続けたい顔をしているディノの表情から逃げるように「吸ってくるわ」と言い置いて、煙草を探す素振りでそそくさとその場を離れる。
高い峰で凛と一輪、美しく咲くその花を、摘み取る勇気など当時のオレには毛頭、無かったのだ。
「あのくらい、助けたうちにも入んねぇって」
少し、高いところのものを取ってやっただけだろう。
お礼だからと、胸に押し付けられた甘い匂いのする小さな袋を手のひらの上で弄ぶ。そもそも甘いものは得意ではないという言葉を飲み込んで、そのうちコーヒーでも奢ってくれよとふざけた声音で提案すると、それじゃあ今度のお休みをブラッドくんに聞いておくわね。と細い小指が絡まった。
「……な」
「約束」
また今度、改めてお誘いするわね。そう、言って綺麗なお辞儀をひとつ、残して。遠ざかって行く小さな背中を見送りながら肺に溜めていた息を長く、細く吐き出す。そんなオレの様子を向かいの卓で見ていたディノが徐ろに、口を開いた。
「キースってさ」
── アキのこと大好きだよな
吐き出していた息が、中途半端なところで堰き止められる。喉の奥で言葉が澱んで凝って、その量がどこに入っているのだと毎度首を傾げたくなるような大量のピザを、今日も今日とて順調に胃に収めていく友人から投げつけられた台詞に、上手く、反応が出来なかった。一瞬で水分が蒸発したかと思うほど、からからに乾いた咥内を潤そうと卓で汗をかききって水たまりを作っているジンジャーエールのカップに手を伸ばし、ストローを噛み締める。その間も、春の空を映したような明度の高いスカイブルーの瞳が凝っと、こちらを見つめているのが、妙に居心地が悪かった。
「………別に好みの顔じゃねぇ」
ひとくち、ゆっくりと液体が喉を通って胃に落ちるのを確かめてからのろのろと口を開いて言葉を紡ぐ。零れた台詞は本音か嘘か、自分でもいまひとつ、判別がつかなかった。
「でも、可愛いとは思ってる。だろ?」
「……いつもニコニコ笑って話しかけてくるやつにマイナスの感情抱くほど捻てねぇよ……そもそも、アキの顔の造詣は整ってるだろ」
──隣にいるのがブラッドだから目立たねぇだけで。
自分で言った言葉に常に、近い距離で話をする彼女とブラッドの姿が脳裏に過り、胸の奥が引き連れたように痛む。思わず顰めた眉間の皺を見て、ディノが「認めた方が、楽じゃないか?」と言いたげな視線を送ってくるのが更に、苦々しい。お前に言われなくたって、とっくの昔にそんなこと、気がついて、いるのだ。噛み潰したストローから口を離し、行儀悪く卓に頭を投げ出して突っ伏す。昼時のがやがやとした喧騒の中、先程まで話をしていたアキが身に纏っていた花を模した香水の、甘い残り香が優しく鼻先を掠めた気が、した。……彼女の肌そのものが酷く、甘いのかもしれない。ふわふわ、場に残る香りに酔ったようにオレは小さく口を開いた。
「………可愛い、よな」
「客観的に見て?」
「客観的に見て」
「そりゃ…まぁ、可愛いと思うよ」
恐る恐る、なにかを確かめるようなオレの声に、ペーパーカップの氷をストローで崩しながら、さらりとディノが肯定を返す。「キースの言ってる可愛いとは多分、意味合いが違うと思うけどな」他意なく答える友人の言葉に肺の中から絞り出すような深い、ため息が溢れた。
「意味合い……」
「違うだろ?」
顔を上げ、莫迦のように鸚鵡返しに言葉を重ねる。首を軽く傾けて、分かっている答えを待つディノが真っ直ぐ、こちらに視線を向ける。その、瞳の強さに耐えられずに視線が宙を彷徨った。──自覚をするな、認めるな──頭の片隅で掻き集めた理性が警鐘を鳴らす。そんなオレの横顔に、刺さる、視線が酷く、痛い。俺しか聞いてないよ。そう、優しく言葉を促すディノの声が少しだけ、遠く聞こえて、視線に促されるように頑なに引き結んでいた唇がゆるゆると解かれる。
「……笑った顔が、好きなんだ」
あの顔を歪ませたくない。綺麗なまま、世の中の汚いものなんか何一つ知らない顔で笑ってて欲しい……それだけだ
一息に語り、手にしていたぬるくなったジンジャーエールを一息に飲み干す。薄くなって甘いはずの炭酸水が何故だか妙に苦かった。目の前では僅かばかり、驚いた顔をしたディノがまじまじとこちらを見詰めている。
「……なんだよ」
「思った以上に熱烈な告白を聞いちゃったな……って」
「ただの片思い宣言だろ。……到底手の届かない高嶺の花だ。別にオレの方を向いて欲しいなんて、大それたこと思っちゃいない」
──発展も進展もねぇよ。残念だったな
この話をまだまだ続けたい顔をしているディノの表情から逃げるように「吸ってくるわ」と言い置いて、煙草を探す素振りでそそくさとその場を離れる。
高い峰で凛と一輪、美しく咲くその花を、摘み取る勇気など当時のオレには毛頭、無かったのだ。
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