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FF7BC

■雨の日



「レノさん、そろそろ戻らないとです」

しびれを切らして、金髪の新人は、口を開く。

「止まねえなあ、雨」

任務からの帰投中、突然の雨に降られた。

「…そうですね」

店じまいをした商店の軒先で、もうしばらく、雨宿りをしている。

「ところでさ」
「はい」

しゃがみこんで雨の様子を気だるそうに眺めている赤毛の先輩は、どうやら新人の意見については耳に入らないらしい。
マイペースな彼のペースが少しだけわかってきた新人は、言い返すでもなく話の切り替えを受け入れた。

「軍のやつらって、雨降ってんのに傘ささないじゃん?」
「はい」

この先輩は、聞いていないようで聞いている。
だから、話をすり替えられてもそのまま流れに従えば、最終的に最初の話題に戻ってくる。
彼と組んで仕事をこなすには、寛容な心という名前にスルースキルが大事だと、この赤毛の先輩と長い間一緒にいる先輩が言っていた。

「あれ、何でなの、と?」

そう言って不思議そうに見上げてくる、先輩。
軍事学校では当たり前に教わることで、学生時代には後輩達にも教えてきたことを、そのまま伝える。

「傘をさすと、片手しか使えなくなるからです。
万が一に備えて両手を使えるようにするために、状況下では雨でも傘をさしません」

すぐに防御や攻撃に転換できるように、手はいつでも使えるように、あけておかなければならない。
そういう教育をされてきた。

「風邪引いたらどうすんだ、と?」
「傘はさしませんが、雨衣…いわゆるレインコートは使用可です」

学校の後輩にも同じように質問をされたなあと、懐かしく感じる。

「なるほどなー、と。
ちなみに、任務中とかじゃなかったら、傘さすの?」

いつになく掘り下げて質問をされる。
雨で身動きが取れなくて、手持ち無沙汰だからだろうか。

「そうですね。
ただ…持ち歩く習慣が、ないので。
私は、必要であれば、ビニール傘をその都度買うことになることが多いです」

傘を持っていない、と言いかけたものの、口からは違う答えが出ていた。

プレートの下、スラム街では雨は降らない。
だから、傘をさすという習慣がないので、傘は持っていない。
でも、社会人として、神羅の社員として、傘も持っていないって何かいけないんじゃないかと、咄嗟に言い繕ってしまった。

「ふーん」

そう適当に言いながら、先輩は携帯をいじり出す。
いきなり興味を無くしたようだ。
答えを間違えたんだろうか。
不安な気持ちになるが、なんと言って話しかけたらいいのかもわからない。
どうにかして、任務終了の報告に本部に戻るという話に戻さないと。

刻一刻と、時間は過ぎていく。

「よし。状況終了な、と」

いきなり勢いよく立ち上がった先輩に、驚く。

「え?どういうことですか?」
「本部から、今日は直帰していいってよ」

言いながら、先輩はいじっていた携帯の画面をこちらに見せてくる。
そこには、主任からのメッセージが表示されていた。

「というわけで、ちょっとここで待ってろよ、と」

何がどういうわけなのかわからず戸惑う新人をよそに、先輩は道向かいの、まだ明かりがついている商店に走って行ってしまった。
追いかけていこうと足がでかかるが、待っていろという指示がある以上、動けない。

そうこうしているうちに、先輩が向かいの店から出てきた。
手には、ビニール傘と、もうひとつ小さな何か。

「優しい先輩から期待の新人ちゃんへ、プレゼントしてやるぞ、と」

そう言いながら、先輩は手の中の小さなものをサッと操作する。
パッという小気味いい音とともに、小さな花が目の前に現れる。

ほい、と渡されたそれを受け取る。
控えめに花が散りばめられた、折り畳み傘。

「すてき」

思わず声に出てしまう。
それを見た先輩が笑ったけれど、それも気にならない。

「よし、そんじゃ雨に濡れずに帰りましょうかね、と」
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