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「……おまえの言っている事も分かる。
たしかにその話も出ていたが、それは彼女にこれ以上の負担を強いる事になるのは理解しているのか?」
アダムは女王に呼び出され、魔剣の封印についての話をしていた。テレサは国を滅ぼすような魔物と、
その魔物をけん制するような魔剣の制御を一度に行う事になる。
「しかし……! 私は陛下とこの国をっ……」
「アダム、おまえがソーンやこの国を守りたい気持ちもよく分かる。
しかし、制御に失敗し魔剣の力に呑まれてしまえば、おまえは命を失い、
この国も最愛の実弟も守る事が出来なくなる」
「弟でさえも、この国のために命を賭ける、それくらい怖くありません。お願いします、陛下……!」
アダムは女王に跪き、頭を下げる。女王が息を付いた気配があった。
「おまえたちはそれでもいいかもしれない。しかしおまえは……テレサの事が救えるのか?
おまえとソーンが生き残ったとして、テレサだけ命を失う事はあってはならないのだぞ」
「俺が、守って見せます。必ず」
「…………」
やや長い沈黙があった。
「……おまえの御度の量を測定する、それに適正があれば。テレサと話せばよい」
「はい、有難うございます、陛下……!」
しばらく経って、御度の量の測量結果が出た。適正あり、との結果だった。
加えてサヴァイヴァーニィを身に封じた時の拒絶反応や、その後どうなるかを聞いた。
サヴァイヴァーニィを封じると人間の体温を失うこと、同じく魔剣に呑まれる可能性がある事。
そして封印の儀式を行うには時間がない事も分かっていた。テレサの力が、これ以上弱まる前に。
封印後、来たるグラナード封印時の御度の温存のために、テレサの力も多く使う事が出来ない事。
(それでも、俺は……)
アダムはテレサの部屋に早歩きで向かいながら、自分の手を握る
「テレサ様、いらっしゃいますか」
木製の扉をノックすると、間もなくテレサの声が聞こえ、扉が開く。
「……! アダムさん、なにか御用でしょうか……?」
「話したい事があります、お時間はよろしいでしょうか?」
テレサは頷き、部屋に入れてくれた。
中に入ると暖炉がたかれていて暖かかった。アダムは周りを見回す。
「ソーンは、居ないのですね」
「はい、すいません。ソーンは今聖歌隊の練習に向かっていますので。それで、あの……」
アダムからの話の内容の事だろう、アダムはテレサを見る。
「……陛下から、サヴァイヴァーニィ封印の許可が下りました」
「そうなんですね」
「それで……貴女にも負担を強いる事になるので、テレサ様と話すようにと」
彼女はその話を黙って聞いていた。
「……無茶なお願いとは分かっています。しかし、どうか……貴女の力を貸していただきたい。
必ずサヴァイヴァーニィを操って見せます、そして。この国も、陛下も、
ソーンも……テレサ様も、守れるようになります」
どうか協力してほしい、とアダムはテレサへ頭を下げる。
「ほんの少しだけでいいのです、儀式さえ行っていただければ、
俺は。一人でも戦い抜いて見せます」
そのまま少し間があった。
「アダムさん、顔をあげてください」
「……テレサ様」
言われた通り顔をあげると、テレサは今までと変わらない穏やかな表情で、安心する。
「わたしの事なら気にしないで、
きっとこれからもっと大変な事にあなたは向き合っていかなければいけないと思います。
国家に付く以上多少冷徹な面もなければいけない。あなたはまだ優しすぎる」
「俺は……貴女を利用し、自分の事だけを考えている。そのどこにも優しさなどはありません」
「あなたは、ソーンの事をこの国の事を思ってそう仰っているのでしょう、
決して冷たいわけではないと思いますよ。……冷たいと思われたいのであれば、話は別になりますが」
テレサがアダムに目を合わせて来て、テレサは微笑む。
「今はそのままでいいと思います。あなたは優しくてとても強い方です。
……だからどうか、一人で戦う等と言わないでください。わたしもあなたの力になりたい、
この命が尽きるまで、国を、陛下をソーンを、あなたを守ります」
テレサの強い声だった。彼女はアダムの事を“強い”と言ってくれたが、
よっぽど彼女の方が強いと、そう思う。この間他の騎士に暴力を振るわれていて時だってそうだった。
あの状況で、身一つで飛び込んでくるなど。
(……本当に頑固なお方だ)
彼女の声は澄んでいて、誰の声にも揺れ無いような、そんな感覚があった。
アダムは自然とテレサに跪く動作をとる。
「テレサ様、どうか俺に力をお貸しください」
「そ、そんなにかしこまらないでください。
わたしはこの間あなたがその話をしてくれた時から、力を貸そうと決めていたので……」
少し慌てだしたテレサを見てアダムは少し笑った。
「ありがとうございます、テレサ様。必ず貴女をお守りします」
その後も少し時間があった上、天気も良かったので、詰所に向かう道の途中まで、
テレサがついて来ていたのだが。人がやや少なくなった辺りでアダムが言った。
「テレサ様、あまり時間がありません、できれば数日以内で儀式をお願いしたいのですが」
「そうですね……ただ、明日明後日は祭があります。ソーンがあなたと一緒に祭に行くと、
とても嬉しそうだったので、その後にしてはどうですか?」
そう言えば、数日前城下町の警備に向かったのだが、いつも以上にそわそわしていた気がする。
「祭りが……あるのですね。……分かりました、そうします」
魔剣に命を奪われるつもりは毛頭ないが、
サヴァイヴァーニィを封じるという事は例え生き残れたとしても人の体温を失うのだ。
それを思ってアダムは返事をする。その後も儀式の日の打ち合わせをしていたのだが。
「よぉ、アダムじゃないか……!」
明るい声が聞こえ振り向くと、リョーフキーだった、同じ部屋の同僚だ。
「面倒臭い奴が来たな……」
ぼそ、と言うと。テレサが苦笑する。
「えっ? テレサ様……!? やっぱり、アダムの恋人って……」
「こいびと……?」
テレサが首をかしげる。
「あれ、違いましたか? 詰所では、夜の遅い時間にアダムらしき奴が
テレサ様の部屋に入っているのを見たって言う噂が……」
「口を慎めリョーフキー、テレサ様の前だぞ」
「……」
いつの事かようやく分かったらしいテレサが目を泳がせたのが分かる。
「ただの見間違いだろう」
「けどこの間、お前テレサ様の部屋に行ってなかったか?」
「あの時は陛下からの使いだ」
「今は?」
「いい加減にしろ、今回も似たような話だ。ソーンの事に付いてな」
そこまで言うとようやくリョーフキーは納得したようだった。
「テレサ様はどこに向かう予定だったんですか?」
「ソーンの聖歌の練習を少し見に行こうと思ったんですよ。お手伝いも終わりましたし」
「お、じゃあ俺も一緒に行っていいいですか?」
「リョーフキー、いい加減にしろ。さっさと持ち場に戻れ」
「丁度休憩中なんだよ、いいじゃないか、テレサ様と話すことなんて殆ど無いんだし」
はあ、とアダムはため息をつく。
「申し訳ございません、テレサ様」
「あ、大丈夫ですよ。気にしないで、でも……」
くす、とテレサは笑った。
「でも良かったです、この間はどうなるかと思いましたが……心配はしなくても大丈夫そうですね」
「なんだよ、その感じ、やっぱりアダムお前……」
「違う、テレサ様はこの国を、グラナートを守るお方だ、一介の騎士では相手はならないぞ」
「あーあー、分かったよ! 良いじゃないか、いつも男ばっかりの部屋に詰め込まれて、
そんな話なんか全然しないんだから」
「そうなんですか……?」
「テレサ様、こんな奴の相手はしなくても構いません」
呆れて言うと、テレサはまた微笑んだのだった。