forget me not
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「今日、隠れて騎士団の詰所に行っていただろう」
久々に女王に呼び出され、かなり緊張しながら向かったのだが。どうやら今日の一件がばれていたようだった。
「ぅ……、けど。ソーンが淋しそうで……」
決していたずらに連れ出したわけではない事を伝えたくて言うと、女王はため息をついた。
「そんなことだろうとは思っていたが……、貴女の自由を強制的に奪ってしまっているのは本当に申し訳ないと思っている。しかし今、この国はグラナードと、それを守る貴女の力で安定を保っているのだ。あまり言いたくはないが、それを頭に置いていおけ」
「も、申し訳ございません……」
確かにあの時はそこまで考えていなかったのが本当のところだ。
「……分かってくれるのなら、それでよい。今回呼び出したのは別件だ。ソーンがお前にによく懐いているようだな?」
「そ、そうですかね」
「それを見て、お前に伝えて欲しいことがある。……」
「……えっ」
「…………」
女王の話はこうだ。ソーンの体に終焉禁獣グラナートを封印する。
「少し前から話には上がっていたのだ、スラム街に大きなオドを身に宿す少年が居ると……・。それが、あの子だ」
「……」
「戦争が激しくなっている。それに加え、おまえの眠りの封印の力も弱くなり始めている。……おまえの力は使えば使う程弱くなっていく上、おまえへの負担も大きくなる。元老院でおまえが力を失う前に、グラナートをソーンの体に封印すると言う話になった。……ソーンの体の中に封印されるグラナートをなじむまで制御しなければならない」
それを考えると、なるべく早く実行しなければいけないのだ。と女王は言った。
「……あの二人を拾ったのはそのためですか」
「……否定はし切れない、しかし国の事を考えるとそうせざる負えなかった」
女王の声は苦しそうだ。女王の言う事もテレサには良く理解ができた、そして決してソーンがそれを断る事が出来ない事も。
(酷い世界だ)
とテレサは思う、自分の力ではどうにもならない事も。
「何度かグラナートを人に封印する事も行われたのだが。実際成功した例は本当に少ない」
「……大丈夫です、それ以上言わなくても。分かりますから……」
「本当に、すまないな」
「そんな……現に女王陛下はずっと民たちを救ってきた。この国の人々のために命を賭ける覚悟くらい。わたしにもありますから……。あの子一人くらい、わたしが守って見せます」
なるべく声が震えないように、はっきり伝え。女王を見る。
「おまえは……本当に強い娘だ。グラナートとソーン、この国の人々をよろしくたのんだぞ」
「はい」
「えっ……?」
その晩、ソーンにその事を伝えた。彼は理解が出来ていないようだった。テレサはソーンへ、順を追って話す。
「……今あなたの力が、この国に必要なんです」
「僕、の……」
「本当は、わたしがあの子を自分の身に封じる事が出来ればよかったのですが……わたしの力ではこれ以上長く続けるのは難しくって……。……わたしの命を賭けたとしても、あの子の力は封じ切れない」
グラナートの力に呑まれ、制御を失い。グラナートはこの国をも滅ぼすような獣になってしまう。
「あの子を……この国を守れるのは、あなた以外いない……。けど、ソーンの力でも100%とは限らない」
やがて、テレサは俯く。
「ごめんなさい……、こんな役目を……負わせることになってしまって」
床に、涙が落ちると黒い染みを作る。自分にもっとグラナートを封じる力があれば、ソーンがこんな役目を負う事は無かったのに。オドの量は生まれつきのものだ、自分でどうこう出来る問題ではない。
「ごめんなさい……」
彼にその役目を負うように伝えるほかに方法がない。
「なっ……泣かないでください。テレサさん……!」
ソーンが正面からテレサの手を両手で握った。大きくはないが暖かい手だ。
「大丈夫です、僕頑張ります……! 兄様も姉様も、ずっとそうやって頑張った来たのなら、僕だってそうしていきたいです。ずっと守られているだけなのはもう嫌なんです……! どうか僕にもお二人を守らせてください」
目の前の小さな騎士は、強い声で言った。
「も、もちろん姉様、あっ……」
「うん」
ソーンはようやくさきほどからテレサの事を「姉様」」と呼んでいる事に気付いたらしかった。たしかに「テレサさん」より「姉様」の方が呼びやすいだろう。
「テレサさんも、一緒にいてくださいね。さ、最初の方だけでもいいですから……!」
慌てたように言うソーンにテレサは少しだけ笑った。
「はい……恩寵天使様、わたしのことはテレサとお呼び下さい」
「か、からかわないでください……! 僕の事はソーンと呼んでください。そうやって呼ばれてしまうと、少し淋しいですから」
「……分かってるよ、わっ……」
どん、とぶつかるように抱き着かれ、後ろに転びそうになる。
「あの、テレサさん」
「はい?」
「姉様って呼んでもいいですか……?」
「だめです、わたしが王宮の者や、主にアダムさんから怒られてしまいます」
「わ、分かりました。我慢します……! 僕だって兄様やテレサさんのために戦うんですから……!」
「ありがとうございます、ソーン様」
「ソーンです!」
本当は、ソーンが立派になった事に関して、敬意を示したつもりだったが。この子にはまだ伝わっていない様だった。
「ソーン、本当にありがとう。わたしも絶対にあなたを守ってみせる」
「はい……!」