forget me not
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「あぁ、ソーン様への面会ですね?」
「はい、今日いらっしゃいますか?」
えぇ、大丈夫ですよ。と温室の管理者は答える。
結局昨日は友好国の来客が王宮に来るという事で、忙しくソーンに会えなかったのだ。
一応、明日か明後日とは伝えていたので、大丈夫だとは思うが。
「どうぞ、通ってください。
おそらくヴィーセリツァさんが温室の前にいると思うので、直接の許可は彼に貰ってください」
ありがとうございます、と礼を伝え、テレサは庭園に向かうのだった。
庭園の前、黒い服を着た男性がテレサを見て一礼した。
「すいません、ソーンに面会したいのですが、いいでしょうか?」
「問題ありません」
今直接ソーンの監視役をやっているのは彼だ、ヴィーセリツァはあまり愛想のいい人ではないが、
問うた内容自体には答えてくれる。リョーフキー曰く、不愛想なのは顔だけ、と言う事らしい。
彼は持っていた鍵で、温室の閂を外す。
ソーンがいる場所、温室のようになっているので、冬の国とは思えないほど緑や花々が美しいのだが、
その場所は鍵がかかっていて、どちらかと言うと閉じ込められているような感じだ。
温室の鍵が開いて、ヴィーセリツァに頭を下げると温室に入ったのだった。
「テレサさんっ……!」
テレサがソーンの名前を呼ぶと、彼はすぐに抱き着いてきた。暖かいソーンの体温。
「昨日は来られなくって、ごめんなさい」
「いいえ。昨日急に国外の要人が来たのでしょう? 忙しかったのはなんとなく知っています。
気にしないでください。それより姉さま、見てください……!」
彼は魔導書を取り出すと、何かしら呪文を使い、掌の上で氷の花を生成する。
「昨日ずっと練習してたんですよ」
きらきら、青い氷の花が一輪。生花ではありえない透明な花びらや葉が美しい。
ソーンはそれを渡してくれたので、テレサは受け取る。
「うわー、すごいね……!」
「でしょう?」
ソーンは嬉しそうに笑う、まったくこの子は女子を喜ばせるのが上手だ。
「姉さまが好きそうだったので。喜んでくださいましたか?」
「うん! ありがとう」
「あ、姉さま。少しそれ渡してもらっていいですか?」
「え? うん」
ソーンは一端テレサから氷の花を預かると、重ねて何か術をかけテレサの髪に飾る。
「?」
「術の効果が少しだけ伸びる術を重ねてかけました。1時間くらいは大丈夫だと思います」
いつの間にかソーンは色々な術を使えるようになっていて、テレサは何とも言えない気分になる。
そろそろ自分の役目が、本格的に終わろうとしている。
テレサはソーンがくれた氷の花の髪飾りに手を持って行って少し笑い「ありがとう」と伝えると。
ソーンが目の前で笑った。
「楽しそうだな、ソーン」
アダムの声がして、ソーンの表情が、ぱっと輝く。
「兄様……!」
ソーンはすぐにアダムに抱き着いて、テレサはゆっくり立ち上がると二人の方を見た。
「元気にしていたか? ソーン」
「はい! 兄様も元気そうでよかったです」
テレサはそんな兄弟を少し離れた場所で眺める。
この兄弟、一か月くらい会っていなかったようで、ソーンはもちろんアダムも嬉しそうだった。
「テレサ様、お久しぶりです」
「はい、アダムさんも遠征お疲れ様でした。無事でよかったです」
答えるとアダムはテレサの氷の花の髪飾りに目を止めた。
「その髪飾りは……」
テレサはソーンがそれをくれて、アダムが指摘してくれたことが嬉しくて。照れ隠しに、少し笑った。
「ソーンがくれたんですよ」
「そうなのですか?」
「昨日一日中練習しました!」
アダムはそうか、とソーンの頭を撫で。テレサの方を見て微笑む。
「よくお似合いですよ」
「ありがとうございます」
もう一か月以上この3人で会っていなくて、この状況がとても久しぶりだった。
ソーンが何かしらアダムに嬉しそうに話をしている。
その距離に妙に孤独感を感じ、しかしそれは仕方ないものと考え、
しばらく楽しそうな兄弟を眺めるのだった。
(わたしの、役目も。もう終わる……)
やがてソーンの方にヴィーセリツァが声をかけに行っているのが見えた。
「テレサさん……!」
「はい」
「すいません、今からお師匠さんが稽古をつけてくれるようなので行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
時間を確認すると、まだ夕食の手伝いまで少し時間があるが。
流石にソーンが戻ってくるまでは待てなさそうだ。
「じゃあ、そろそろわたしも戻りますね」
「……はい。また、来てくださいね」
彼は少し寂しそうだが、笑って見せた。
「うん」
行ってきます、とソーンが手を振ると、横にアダムが並んできてそれを見送る。
「……今日はありがとうございました、テレサ様」
「ソーンに髪飾りをもらっただけですから、わたしはなにもしていません」
「お忙しかったのでは?」
「まさか、昨日は国外からの来客がありましたので、その手伝いをずっとしていましたが。
行事がない時はもうサヴァイヴァーニィもグラナートも管理していないので暇なくらいですよ」
そうやって話をしていた時だ、温室の入り口の方から見覚えのある姿。
「おーい騎士団長」
金髪の男性がアダムに手を振った。リョーフキーだ。
「遠征から戻ってきたばかりで悪いけど、書類の山残ってるぞ」
「分かっている、もう戻る」
騎士団の話になった瞬間彼の声は冷たくなる。
「あ、テレサ様……! お久しぶりですね」
「はい、遠征お疲れ様です。リョーフキーさん」
テレサが答えると、リョーフキーが笑う。
「ほんとにもう、コイツがめちゃくちゃに前に出ようとするんで大変でした」
「おい、余計な事を言うな。すいません、テレサ様……」
「あぁ、いいえ」
滅茶苦茶に前に出るとか、心配極まりないが、それを言うとアダムが何を思うか分からないので、
テレサはそれについて何も言わなかったが。
王宮騎士な以上、危険な場所に向かわないといけないのは当然で、心配しすぎるととても身が持たない。
「では、俺は戻ります」
「無理は、しすぎないようにしてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
リョーフキーに連れ立ってアダムも温室を出て行き。
やがてソーンに貰った氷の花の髪飾りも術が解け、消えてしまったので、
テレサもまもなくその場を後にしたのだった。