forget me not
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
アダムが一度目覚めてからどれくらい経ったか、
テレサはアダムの居る部屋でとった食事の食器を同じ下働きの者に回収を頼んでいた。
「テレサさん、今日もおつかれさまです」
「そんな……わたしはこの部屋でじっとしているだけですよ。
アダムさんも落ち着いていますし……。ソーンの様子はどうですか?」
ええ、とその人は笑う。
「あの子、本当に頑張り屋さんですね。
全然手がかからないですよ……けどやはり淋しそうに見える時はありますね」
アダムはソーンが心配するといけないから、と言う理由で、
サヴァイヴァーニィを封印する儀式の話を伝える事を望まなかった。
そのためアダムに関しては長期任務と言う事で通しているのだ。
「どれくらいで、戻れそうですか?」
そうですね、とテレサは眠るアダムに目線をやった。
「見た感じだと五日くらいでしょうか。できれば一週間ほどは欲しいですが」
「わかりました、聞かれたら一週間程度と伝えておきますね」
お願いします、とテレサは答えたのだった。下働きの同僚は一礼すると部屋を出て言った。
ふう、と息を付いてアダムの方を見ると彼の金色の目がこちらを見ていて驚いた。
「あぁ……すいません、起こしてしまいましたか」
「……いいえ、申し訳ありません。私のためにここまでしていただいて」
大分顔色も良く、言葉もはっきり聞こえる。
「…………」
あの時はそう言ってしまったが、寧ろ自分の方がここに居ていいのかとすら思っていて。
上手く返事をする事が出来なかった。
「……勝手にわたしが、ここに居させてもらっているだけですよ。……」
嫌なら追い出してと言えればいいのだが、
それはそれで感じが悪いので、テレサはなんとなしに話をずらす。
「起き上がれそうなら、そろそろ何か口にされた方がいいと思いますが……体は起こせそうですか?」
それを聞いてアダムが体に力を入れるのを見て、慌てて手をかしに行く。
まったく何て気の回らない奴だ。支えたアダムの背中は冷たく、
布団に入っていたのにその布団が温もっているような事も無い。
「あ、すいませんわたしの手、熱くないですか?」
「大丈夫です。暖かい……、本当に冷たくなるのですね」
「そう、ですね……」
上手く言えなくて呟くと、アダムが苦笑した。
「お気になさらないでください、俺が決めた事です。後悔はありません」
白い肌と、透き通った目が、彼の冷たい覚悟を見せているようで。美しいとすらテレサは思う。
「……アダムさんは、とても、きれいですね」
「え?」
思わず滑った口を押えるが、口を押えたとしても出してしまった言葉は戻らない。彼はまた笑った。
「それは、男性にかける言葉ですか? ……私はよっぽど貴女の方が綺麗だと思いますが」
「す、すいません……」
彼は、サヴァイヴァーニィを封じたことによって、今までよりさらに大人びて見えた。
照れてしまわないようにテレサは何とかその感覚を封じる。
「なにか、食べたいものがあれば持ってきますよ。
丁度食事時なので、すぐに準備が出来ると思います」
リョーフキーはアダムが目覚めた事を聞いて、彼が居る部屋に向かっていた。
単純にアダムが目覚めた事が嬉しくて、ノックをせずに入ってしまったことを程なくして後悔する。
ベッドに座ったアダムにテレサが食事を取らせている場に出くわした。
「……」
「っ…………」
「ぅおっと……、わ、悪い。俺帰るわ」
見なかったことにして背中を向けようとした時だ。
「リョーフキー」
「……」
「リョーフキー、いいからお前が来い」
アダムのご機嫌斜めの声が聞こえて、リョーフキーはゆっくり振り向く。
こちらを睨むアダムと逃げたそうな顔をしたテレサがこっちを見ていた。
「な、なんだよ……」
「ごめんなさい……」
「いいえ、テレサ様の手をこれ以上煩わせるわけにはいきませんので」
アダムはまだ腕が使えないようで、代わりにテレサが食事を取らせていたらしい。
ただリョーフキーは衛生兵だし、一度怪我をしたアダムに変わりに食べさせてやった事があるので、
アダムがリョーフキーに頼んできたのだった。
おそらく見苦しいと思われるので、テレサに部屋を出ても良いと伝えたが、
テレサは今実家に帰っている事になっているので一部の人間以外に、王宮に居る事は知られておらず、
出られないのだと言う。そこで開き直ったテレサは腕が使えない人間への食べさせ方を学ぼうと
アダムとリョーフキーを見ている状態で、何とも言えない空気になっていた。
この状況で開き直れるアダムとテレサは凄いなあと、思った。
その妙な空気の食事が終わって、リョーフキーは二人へ、
アダムが十分に動けるようになれば女王の元へ二人で謁見に来るように伝えたのだった。
それからさらに数日たったか、
動けるようになったアダムはテレサと共に女王がいる謁見の間に向かっていた。
内容はサヴァイヴァーニィに適合したアダムと、その手助けをしたテレサへの労いの言葉と、
グラナーのト封印は当初の予定通り行うと言う最終決定の話だった。
「もう食事は普通に取れるのだな、アダム」
「はい」
女王が笑った気配があった。
「後遺症も残らなかったようでひとまずは安心、か、ソーンにも顔を見せてあげるといい」
「はい、有難うございます」
「兄様!」
ソーンの部屋に向かうと、アダムにソーンが抱き着いた。
「お帰りなさい!」
「あぁ、ただいま」
一瞬忘れていたが、アダムは体温が通常の人間よりも下がっている事を思い出す。
「ソーン、冷たくはないか?」
ソーンは、え? と首を傾げた。やがて何か思い出したように顔を上げた。
「そう言われれば、確かに……どこか体調でも悪いのですか?」
アダムは首を左右に振ると、ソーンへサヴァイヴァーニィの話をした。
「そう、なのですね……」
「しかし、これで。お前や女王陛下を今までよりずっと守れるようになる、
俺はその事に後悔はしていない」
ソーンは少し淋しそうな顔をしたが、すぐに強がりの表情を浮かべる。
「大丈夫です……! 淋しくは無いですよ。僕も兄様と並べるように、がんばります……!」
とソーンは笑った。アダムはゆっくり弟の肩へ手を置く。
「ソーン、サヴァイヴァーニィは唯一グラナートに対抗できる魔剣だ。
だからお前が暴走しそうになった時は、俺がかならずお前を止めてやる」
「……はい、その時は頼みますね。兄様」
ソーンはもう一度アダムに抱き着いたのだった。
「そうです、兄様」
今日は流石に行き成り任務が入っていたりしないので、アダムは久しぶりにソーンと過ごしていたのだが。
ソーンが何か思いついたように話しかけて来たので、アダムは返事をした。
「テレサさんは見ていませんか? 他の下働きの方たちに聞くと、そろそろ戻って来るはずなのですが」
「……あぁ、テレサ様も戻っているぞ。先程まで話していたしな、テレサ様は夕食の準備に向かった」
ソーンの表情が輝いた。弟もずいぶんテレサに懐いている、それもそうだ、
王宮に来てからずっと彼女がソーンの面倒を見ているのだから、
ソーンが彼女の事を「姉様」と呼ぶ時があるのもそのためだろう。
「兄様! 今日は任務は無いんですよね?」
「そうだな」
「テレサさんもいれて三人で食べませんか?」
いつもなら遠慮する所なのだが、ソーンが嬉しそうだし、
ここで自分一人だけ詰所に戻って食べるのも流石に微妙だ。
それに、サヴァイヴァーニィを封印して、一週間はテレサと食べていたので、
今更抵抗を感じるかと言えばそんなことはない。
「目立たないか?」
「夕食をこの部屋に持ってきてはどうでしょうか?」
断る理由も特にない、と言う事を、少々意外に感じながら了承すると、
ソーンは食堂にいると思われるテレサに声を掛けてくる、と部屋を出て言ったのだった。
「ふふっ……」
ソーンが食事を取りながら笑う。
「何をにやにやしているんだ? ソーン」
何となくその理由が分かるアダムは微笑を浮かべ、ソーンに問うた。
「3人で食べると、いつもよりおいしい気がします」
ソーンが嬉しそうに笑う。
「……」
大切な弟だ、これからその小さな体に禁獣を封印することを考えると心が痛んで仕方ない。
「アダムさん、右腕はどうですか?」
「はい、問題なく使えます。大丈夫ですよ」
「なんだか忙しいですね。ソーンには普通に、わたしには敬語を使うって」
「もう流石になれましたよ」
アダムは苦笑する。その後もソーンは楽しそうに色々な話をしてくれた、
そこにテレサも混じっていて、体は冷たいはずなのに暖かいような気がして息を付いた。
このままこの時間がずっと続いてくれればとすら思うのだった。