forget me not
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次の日、アダムは女王に謁見の間に呼ばれ、少し話をした後に。儀式の間に向かっていた。
儀式の間の前の扉には騎士が二人立っていて、一礼した。
「よ、アダム」
「お前か、珍しいな」
リョーフキーが殆どいつも通りの様子で警備を行っていた。
「そりゃあ、俺はお前の親友だからな。お前の事だからすげぇ怖い顔してきてるんじゃないかと思ってよ」
「親友にしたつもりは無いぞ」
アダムは性格ゆえ、そのように伝える事しかできなかったが。
リョーフキーがいつも通りでいてくれる事に、感謝した。
「あとは一応俺衛生兵だからな、治癒魔法も使えるし、
多分今日ここの警備任されたのそのせいだと思う」
「そうか」
言うと、リョーフキーが唐突に背中を叩いて来た。
「行って来いよアダム。ここで待ってるぜ、カッコいい魔剣みせてくれよ」
リョーフキーが言うと、アダムも僅かに笑みを浮かべる。
「あぁ」
儀式の間に入ると、部屋の中は冷たい空気で満ちていた。
空気を吸うと、冷たい空気が喉に刺さる感覚があった。
部屋の中央にある台に第一魔剣サヴァイヴァーニィが冷気を纏って突き刺さり、
その傍らにいつもとは違う服装でテレサが立っていた。
銀色の髪飾りに、儀式用の白いローブ、肩は向きだしだったが装飾のレースから、
王宮から出ていないため日に焼けていない白い肌が見え、別人のようだと思った。
この国は今この美しい娘に守られていると思うと妙な感じがした。
「……お待ちしておりました。申し訳ございませんが、儀式に入るとそれ以外の事は出来なくなります。
女王陛下からここでもう一度、貴方の覚悟を確認するよう言われております」
テレサの声は今まで一緒にいた時聞いていたものと違い、温度は感じず透き通った声だった。
「……私は、この国を守るために我が身を捧げ。この命尽きるまで、この国のために戦うと誓います」
そこに一切の感情は無い、考えると怖くなりそうだった。彼女の目がアダムの目を覗き、アダムも見返した。
「分かりました。勇敢な騎士アダム=ユーリエフに幸あらんことを」
テレサに近寄るように指示され、近づくと。
彼女はゆっくりアダムの右手を胸の前に持って行き両手で包んだ。どれくらいこの部屋に居たのか、
彼女の手は冷たく、寧ろアダムの手の方が暖かいくらいだ。テレサの明るい色の瞳が一度アダムを見る。
まるでアダムの心の中を見ようとしている様だった。一瞬テレサの目が悲しそうな色に染まるが、
彼女は目を閉じると。詠唱を始めたのだった。
ほどなくすると、サヴァイヴァーニィが台から消え、冷たい氷の粒のようなものが右腕に纏わりつく。
まるで氷に手を突っ込んでいるような感覚だった、
冷たさは痛みにすり替わりその激痛に体は逃げようとするが、意志で体をその場に縛り付ける。
全身に冷たい空気が纏わりつく、テレサはその手を絶対に離さなかった。
まるで悪夢かと思うような時間を過ごし、いっそ意識を失ってしまえばと思うが、
ここで意志を譲ってしまえばアダムの負けだった。
やがて全身が冷気と痛みを纏い、感覚が麻痺してくる。
どれくらい経ったか気づくと詠唱は終わり周りは静かになっていた。
(終わっ……た)
膝から崩れるとすぐにテレサがアダムの体を支えようとするが、
テレサはアダムの体を支えきれずに一緒に床に座り込むような形になる。
「アダムさん、意識はありますか」
「…………」
意識はあるが声をまともに出せる状態ではない、
何とか掠れるような声でテレサの名前を口にするが聞こえているかどうかは分からない。
今の状態では殆ど体の感覚も麻痺しているが、外からくわえられたやや強い力に、
テレサが自分を抱きしめているのだと理解する。
こんなふうに抱きしめられたのはどれくらい前だっただろうか。アダムはその力に安心する。
「アダムさん、もう大丈夫ですよ。よく頑張りました」
テレサの声が聞こえる、もう子供ではないはずなのだが、体は冷たいのに、
胸に暖かいものが広がり流れた涙は氷になって床に落ちる。テレサの体の温度も感じ始めると同時に、
麻痺していた右腕の痛みがまた襲う。
「しばらくは眠ってください、
わたしはあなたの体がサヴァイヴァーニィに慣れるまで、
ちゃんとそばに居ますから」
テレサの言葉を聞いて、意識を手放す事も考えたが、沈んでいく暗い闇に怯え、失う意識に抵抗する。
やがて流れてきた心地よい歌声に、その抵抗もむなしくアダムの意識は落ちたのだった。
儀式の間から女性の声が聞こえ、外で立っていたリョーフキーは儀式の間に入る。
部屋の真ん中で意識を失ったアダムを抱いたテレサが座り込んでいた。
「アダム、テレサ様……! 大丈夫ですか」
「はい、儀式自体は問題なく成功しました。眠りの封印をかけたので、
2、3日は眠ったままになると思います。サヴァイヴァーニィと一緒に」
リョーフキーはテレサが抱き留めていたアダムに肩を貸すが、体は本当に死人のように冷たかった。
同時に儀式を行っていたテレサの手も氷のように冷たい。
「何か気を付ける事は」
「眠りが浅くなると、おそらく痛みが増します。
熱が出ると思いますが、何もしないでください……。しばらくは薬も効かないので、
酷い時は鎮痛の癒術を使ってあげてください。
……何があってもいいように、わたしをアダムさんの傍に……」
テレサはそこまで言うと、意識を失い、床に崩れる。
リョーフキーは部屋の外で待機するもう一人の騎士に声を掛けテレサも連れて行くように指示をする。
「テレサ様も、無理を……。リョーフキー、どうしましょうか」
「サヴァイヴァーニィの制御ができるのは今の所テレサ様だけだ、
アダムと同じ部屋に連れて行くぞ」
アダムは繰り返す悪夢の中から、もがいて目を開けた。体の外側は熱いのに中は冷たく、
毛布がかかっているのに、底冷えするような冷たさだった。右腕の鋭い痛みに小さく呻く。
霞む視界になんとか焦点を結ぶと薄暗い天井が見えた。
やがてぼんやりと自分が何があってこの状態になっているかを思い出す。
(そうか、俺、は……)
テレサを探そうとアダムは頭を動かす、
ぐわんと世界が周りそれが間違いだったとアダムは目を閉じた。
眩暈が過ぎ次はかなりゆっくりと頭を回す、
暖炉の近くに椅子があってそこにはテレサが座ったまま眠っていた。
部屋の暗さからどうやら夜の様だ。
「テレサ、様……」
どれくらい眠っていたのか、喉ははりついて殆ど声にならなかった。優しい人だ、と思った。
アダムもまさか本当に傍に居てくれるとは思わなかった。
聞いていた通りの拒絶反応だったが、やはり辛く、もう一度寝てしまおうと思った時。
「……アダムさん……?」
小さい声だったが冬の夜中の部屋は殆ど音がせず、聞きとる事ができたようだった。
テレサはゆっくり立ち上がると、アダムの近くに寄って来た。
「目が覚めたのですね」
とても小さい声だった。
「……何か欲しいものはありますか」
「……い、いえ……」
少なくとも何か口にできる状態ではなさそうだ。彼女は「そうですか」と短く答えた。
「辛いなら、もう一度眠りの封印をかけますが。どう致しましょう」
テレサの眠りの封印の力は使えば使う程弱くなっていくものだ、
このあとグラナートの封印を控えているテレサの力を自分のために使わせる訳にはいかなかった。
それを何とか伝える。
「……分かりました。何かあればすぐに言ってくださいね、わたしはここに居ますから。
……あぁ、それと体の温度をはかります、少し触りますね」
テレサが布団から出ている右手を取る。
ずっとそうしていたせいか痺れてしまっていて、それはそれで小さく呻く。テレサの手は暖かかった。
続いて目元に手が来て、少なくとも今まではスラムで居た事や騎士団だったこともあってか
逃げるか目を閉じるかしていたが、生憎今のアダムにその体力は無かった。優しい手だった。
「……多分もう少し体温が下がると思います、個人差があるので何とも言えませんが……
若い方の場合、体力があるので体温が下がるのに時間がかかる事がありますが。
今は落ち着いているようなので、大丈夫だと思います」
(体力が……裏目に出る事があるんだな……)
それはかなり特殊な状況下だが。
「……はい、ありがとうございます。今はゆっくり休んでください」