第1章:早乙女学園
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あれ、ネコ…?」
第9話
七海ちゃんが寝入ってから20分ほど経っただろうか。なんとなくぼんやりとこれまでのことを考えていると歌いたくなった。1ヶ月前までは歌わない日はなかったから、なんだかすごく違和感。一応あたりを見渡して人がいないかどうかを確認する。聞かれるほど恥ずかしいことはない。
誰もいない。いるのはここにいる七海ちゃんだけ。でもその七海ちゃんは寝てるし、大丈夫。
「ユメノトビラ 誰もが探してるよ 出会いの意味をみつけたいと願ってる ユメノトビラ ずっと探し続けて 君と僕とで旅立ったあの季節…」
戦いのために作った曲。合宿なんかもしてみんなで作った曲。あの時の高揚感は忘れない。忘れられるはずがない。今、彼女たちは元気にしているだろうか。私みたいに、こうして時折思い出してはいるだろうか。…思い出してくれているといいな…。
ダメだ、なんか泣きそう。そう思ったところで考えるのを辞めた。私はその先に行くためにこの学園にきたのだ。振り返ってばかりじゃ彼女達に胸を張れない。
「わ、可愛い…」
視線を下にやると可愛いクロネコが。いつからそこにいたんだろう。ニャア、と可愛く鳴く姿はとても愛らしい。人だと恥ずかしいけど、ネコちゃんになら聞かれてもいいかな。
私の大切な曲どうだった?、なんて聞いてみると手をぺろりと舐めてくれた。どうやら気に入ってくれたらしい。 また聴いてね、なんて返すとネコちゃんはまた一鳴きして、眠る七海ちゃんのお腹のあたりで丸くなった。おや、どうやら七海ちゃんに懐いてる様子。七海ちゃんもどこかで会ったのかな。だとしたらこの学園に住み着いてるってことか…また会いたいな、癒される。
「ネコちゃん、七海ちゃんのことよろしくね。ネコちゃんじゃないと出来ないこともあるから」
それにも良い返事をもらって、静かになった穏やかな空間に私も身を委ねた。
「あっ!高原ー!」
「一十木くん」
「ね、ね、ちょっと相談したいんだけどいい?作詞のやり方なんだけどさー」
「そっか、作詞もやらないとですもんね、アイドルコースは」
「ね~!でも俺、作詞ってしたことなくってさ~。みんなに聞いて回ったんだけど…なんというかあんまり参考にならなくて…」
少し経ってから七海ちゃんを起こしてやるとスッキリしたようで元気になったように見えた。もう少し頑張ってきます、と笑う彼女を見送って私も寮に戻るべく足を進めていると、声をかけてきてくれたのは一十木くんだった。
聞けば同室の一ノ瀬さんの説明は難しくて、四ノ宮くんは電波?でよく分からなくて、神宮寺さんは情熱的すぎて合わない…聖川さんも独特の感性で…、とまぁ中々一十木くんにピンとくる意見がなかったのだとか。
私で参考になるかなぁとは思うけど、相談に乗らない理由はない。
私でよければ、と返すと彼はとても嬉しそうに笑った。
「私もそんなにやったことはないんですけど…そうだなぁ。私はいつもなにを歌いたいかで決めてます」
「なにを歌いたいか?」
「はい。愛情とか友情とか、感謝とか。それをひとつに絞ってそれに関するキーワードをとにかく私はたくさん書き出してました」
「おお…!なんか今までで一番参考になる…!じゃあさじゃあさ!今までに高原が作詞した曲ちょっと歌ってみてくれない?」
「えっ歌うんですか…!」
お願い!、と手を合わせて懇願されては中々断りにくい。…少し照れくさいけど。
「私一人でしたものじゃないんですけど、それでよければ」
「うん!もちろん!うわー!嬉しいなー!高原の歌好きなんだ俺!」
「なんか恥ずかしいです。でもじゃあ少しだけ」
「うん!」
ワクワクと歌を待ってくれる一十木くんに、とても恥ずかしいけどとても嬉しい。曲はなににしよう。みんなで作ったあの曲がいいかなぁ。
「…キボウノユクエ 誰にも解らないね 確かめようと見つけようと走ってく キボウノユクエ きっと追い続けたら 君と僕にもトビラが現れるよ…」
「…、」
「あ、あれ?あんまり…でした?」
「ううん…ううん!!!すっげー!めちゃくちゃ良くてびっくりしちゃった!」
「あ、よ、よかった…!私にとっても大事な曲だから…そう言ってもらえると嬉しいです」
「そっか、そう言う感じかぁ…。うん!なんかちょっと分かったかも!ありがとう高原っ!」
「いえいえ。お役に立てたなら嬉しいです」
分からないことばかりだけどペアが七海ちゃんだから頑張れる、という一十木くんに笑顔がこぼれた。一十木くんは七海ちゃん、七海ちゃんは一十木くんをお互いに思ってこんなに頑張ってる。二人の作る曲がとても楽しみだ。
「高原、俺さ…もちろん七海との曲すっごく楽しみだけど」
「え?は、はい」
「高原とも!その…歌ってみたいなって思ってる!」
「えっ…」
「俺、好きなんだ!…高原の歌が。今も聴いて改めて思ったよ」
少し興奮気味に頬を紅潮させながら気持ちを伝えてくれる一十木くんに釣られて私も思わず顔に熱が集まる。こんなに真摯に言われて嬉しくない訳がない。七海ちゃんにしろ、一十木くんにしろ、どうしてこうも素直に気持ちを言葉に出来るんだろう。とても、眩しい。
思わず言葉に詰まった私を不思議そうに「高原?」と尋ねる一十木くん。
「…私も、」
「え?」
「私も、いつか一十木くんと歌いたいです。…私も大好きだから」
「っ!」
彼の本気の歌を聴きたい。そして叶うなら、私も一緒に。
照れくさくて、うぇへへ、なんて女子らしからぬ笑い声を漏らせば、一十木くんも照れたのかその顔は髪にも負けないぐらい赤くなっていた。
なんだよこれ、アオハルかよ。
「…あーっ!もう!早くその日が来て欲しい!!!」
「ですね…!まずはレコーディングの課題から、頑張りましょう!」
「うん!高原本当にありがとう!なんか俺、作詞出来そうな気がする!」
「その意気ですよ一十木くん!七海ちゃんとの曲、楽しみにしてます!」
「うん!お互い頑張ろうな!」
はいっ!、と明るく答えるとどこかでネコの声も聞こえた気がした。
20190628