第2章:うたプリアワード
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「えっ!セシルくんも来てるんですかっ?」
第30話
もう躓くまい、と足元に注意を払いながら美風さんに言われた通り、川には寄らずに真っ直ぐに炊事場にやってくれば何やら食事の用意をしているST☆RISHのみんなを見つけた。みんなー!、と手を振りながら駆け寄れば、おかえりと温かく迎えられてつい「た、ただいまです…」なんて照れてしまった。
昼食の準備かと尋ねれば、それもあるけど七海ちゃんへの差し入れを作っていたのだとか!えー!気が利きすぎる!!発案者は聖川くんらしい。素敵すぎる発案。そして割烹着姿が様になりますね!!!
「素敵すぎます…!私もなにかお手伝い出来ることはありますか?」
「そうだな…弁当と共に花でも一緒に添えられたらと思っていたのだが、その選別を頼めるか?」
「お、オシャレ…!勿論です!任せてください聖川くん!」
「あぁ、お前になら安心して任せられる。せっかくだ、誰か手の空いてる者と一緒に行ってくるといい」
「ありがとうございます!聖川くんのお料理楽しみだなぁ」
「フッ…あぁ、腕を奮おう。楽しみにしていてくれ」
三角巾まで着けてる聖川くんの姿はまさに母であった。けれど、私に向けてくれた微笑みはとっても柔らかくて凛々しくて。私の目に早く写真機能搭載されろと願ってしまった。
聖川くんに任務を任されたこともあり、誰か手が空いてそうな人はいるかなと見渡す。なっちゃん…は、お弁当の盛り付けを担当してくれてるみたいで、それを翔くんがなにやら騒ぎながら一緒に作業している。エプロンをつけてるところを見ると翔くんも食事担当なのかな。やたら可愛いエプロンだ。そんな姿を神宮寺くんは私が貸したカメラで楽しそうに撮影している。それぞれ楽しそうだし邪魔しちゃ悪い。なら一十木くんとトキヤくんは…、と見渡したところで二人は作業を終えたところのようで軍手を外しながらお喋りしているようだった。どうやら2人は飯盒担当だったみたいだ。あの2人なら少し時間あるかな、と私は2人の元に駆け寄った。お疲れだったらササッと1人で行っちゃおう。
「一十木くん、トキヤくん!お疲れ様です!ご飯の火を起こしてくれたんですか?」
「おかえり高原!そうだよ〜!意外と難しくってトキヤに手伝ってもらったんだ」
「ありがとうございます!きっとご飯も美味しく炊けますねっ」
「そうだといいのですが。それで、何か用があって声をかけてきたのではないのですか?」
「あっそうなんです。お二人がお疲れだったら大丈夫なんですけど、」
七海ちゃんにお花を摘みに行こうかと思うんですけど、と先程の聖川くんからの任務を話せば2人とも快く承諾してくれた。疲れてなんかないよ〜!、と笑う一十木くんの笑顔がとても眩しい。少し行ったところに花畑があるらしい、とトキヤくんから情報を得て私達はそこへ向かうことにした。その道すがら、私はここにセシルくんも来ていることを聞くのだった。
「七海さんから曲をいただいたそうで、とても大事に抱えていましたよ」
「まだ歌詞はついてなかったけど、少しだけセシル歌っててさ。さすが七海!って感じの曲だったよ」
「えー!それはとっても聞きたかったです…。…あれ、今はどこかにお散歩ですか?」
「えぇ。少しぼうっとした様子でしたが…」
「そう?七海に曲もらって浮かれてるとかじゃないの?」
「貴方じゃないんですから」
「でも…セシルくんの望みが叶った瞬間ですし、ぼうっとしちゃうのも仕方ないかもですね」
セシルくんの望みは七海ちゃんに曲をもらうことだった。それは出会った時からずっと言っていたことだし、その望みが叶ったのだからきっと今とても、とても嬉しいことだろう。
そう考えてふと気付いた。望みが叶った今、これからセシルくんはどうするんだろう。マスターコースに所属はしているけど、アイドルには興味がない様子だったし…。あ、でも、一十木くんの養護施設でのバザーの時…彼はとても嬉しそうに楽しそうに子供たちに接していた。あれはただ単に子供が好きという気持ちだけではないような気がした。…もし、彼がそう言う道を考えているなら、
「とても、素敵なのになぁ…」
「綾奈?何か言いましたか?」
「、えっ!あ、いえ!すみません!あっお花畑ってあの拓けたところですかねっ?」
「あぁ、きっとそうですね。花の香りもしますし」
「よーし!レッツゴー!」
「ゴー!ですっ!」
私が悩んでいてもしょうがないし、それにセシルくんなら大丈夫。そんな予感が胸を覆った。
トキヤくんに教えてもらったお花畑はその名の通りの立派なお花畑で、視界を埋め尽くすほどの色とりどりの花に私は思わず目を奪われた。ここならきっと七海ちゃんに似合う花を添えられる。出来るだけ花を傷めないように気をつけながらその中へ足を踏み入れていく。と、そこで一十木くんとトキヤくんが近くにいないことに気付く。あ、あれ!?私そんなにぼうっとしてた!?と慌てて振り返れば2人はどこかボンヤリとした様子でこちらを見ていた。少し小高い丘になっているからか、ザァッと強めの風が吹いて私の髪をさらった。花弁が舞うその姿はとても幻想的だった。
「一十木くん!トキヤくん!どうしましたかー!」
「…あっ!ごめんごめん!高原に見惚…じゃなくて!その、花!すげーって!」
「…確かに素晴らしい景色ですね。七海さんは勿論ですが、綾奈。君にもとても似合っていますよ」
「あははっ引き立て役になれてるなら嬉しいですっ!…あ!そうだ!」
「、?高原?」
「すこーしお待ちくださいねっ」
頭にハテナを浮かべる2人をよそに私はしゃがみ込み、せっせと花を集め始めた。…花を集めるだなんて小さい頃にやった以来でなんだかとても懐かしい気持ちになった。あ、この花は七海ちゃんに持っていこう、なんてのも考えながら1人黙々と作業を進めた。さぞかし2人はなんで連れてこられたんだと思っていたことだろう。大変申し訳ない。
数分して「できた!」と私は喜びの声をあげた。その声に2人もそばにやってきて私の手元を覗き込み、感心したように「上手ですね」と笑った。
「おぉ!高原、花冠なんて作れたんだ!すげー!きっと七海も喜ぶね!」
「小さい頃に作ったっきりだったので不安だったんですけど、なんとか形になりました!七海ちゃんへもですが、これはお二人に似合うと思って!3つも作っちゃいました!」
「…………私達に、ですか」
「はいっ!ふふっ。冠をのせれば本当に王子様ですね!」
「あー…でもこれ、高原がつける方が似合うんじゃない?俺達がつけても…」
そこまで言われて私はようやく2人が花冠をつけたくないことに気付いた。似合うだろうという一心でつい作ってしまったが…確かに男性に送るものではなかったかもしれない。嫌がることをしたかった訳ではない。申し訳なさでいっぱいで「ごめんなさい…」と謝れば2人は焦った様子で慰めてくれた。
「え、えーーーっとそうじゃなくて!あ!トキヤ!トキヤめっちゃ似合うんじゃない!?…ほら!高原見て見て!?トキヤめっちゃ可愛いよ!」
「っ音也!貴方は何故そう…っ!、あ、いえ。綾奈が作ってくれたのですから似合うのは当然です。…おや?音也、貴方もとても似合うじゃないですか。花の妖精のようですよ」
「わわっ…!急にのせないでよトキヤぁ!」
「そ、そんなお二人とも無理なさらくても…!」
「無理?そんなことはしていません。ねぇ音也?」
「そうだよねトキヤ。ね、俺達似合うでしょ?」
コテンと傾げられたお顔に、それはもう…、と口から溢れた言葉。それに2人は照れ臭そうに笑みを浮かべた。わぁ…なんて優しいお二人…。そして本当にめちゃくちゃ似合ってる…。「まだ不安ならこのままみんなのところに戻るよ!」という一十木くんの言葉にトキヤくんは一瞬反応したように見えたけど、すぐに「構いませんよ」と微笑んだ。2人とも思いやりの心がカンストしていらっしゃる…。でもその思いやりが本当に嬉しいのも事実だった。ありがとうございます、と笑った私に2人もまた笑みを返してくれた。
そしてどうやら本当にその状態で戻ってくれるらしく、戻ったら是非写真に収めさせてほしいところである。という訳で両隣に花冠をのせたアイドル2人に挟まれて、無事七海ちゃんへの花束もあつらえ炊事場にいるみんなの元へと戻った。
楽しそうに一十木くんとトキヤくんの写真を撮る神宮寺くんに、笑いを堪え切れていない翔くん、可愛いですぅ〜!とニコニコ褒めるなっちゃんに、似合っているぞと微笑む聖川くん。あはは…と苦笑をこぼす一十木くんと眉間に皺を寄せたトキヤくんだったけど、私はそんな2人を更に大好きになったのだった。
「とってもとっても素敵です!こんな素敵な優しい王子様ほかにいないです!」
「…そう?高原も好き?」
「はい!大好きです!」
「ふふっ。なら役得というものです、君の大好きな王子様になれるのなら」
「私ではお姫様なんて力不足ですけど…優しい2人が大好きなのは事実です!」
「へへっ!俺も!」
ニコニコと笑う私達に「妬けるねぇ」と肩をすくめる神宮寺くん。どうせなら、と彼にも花冠を勧めてみればとてもノリノリでのせてくれた。おや、意外とこういうの好きなんだ。そしてまぁ似合うこと。
そこから少し撮影会をして私のカメラフォルダを潤わせ、お弁当の最後の仕上げを少し手伝って七海ちゃんへのお弁当は完成した。ピヨちゃんがいたりするデコ弁はめちゃくちゃ美味しそうだ。これはなっちゃん発案かな?
「…随分集中してるみたいですね」
出来ればお弁当は手渡しで、七海ちゃんの様子も窺えたらと思ったけど、ロッジの近くにいけば何度も弾いては止まるキーボードの音が聴こえて、私達は顔を見合わせてお弁当とお花をそっと入り口近くに置いた。集中しているけどどうやら行き詰まっているわけではなさそうだし、逆に迷惑になっちゃうといけない。
窓から見える頑張り屋の彼女の横顔を一瞥して、私達は静かにその場を後にした。終わったらたくさん遊んで、たくさん一緒に思い出を作ろうね、七海ちゃん。
20220909