第2章:うたプリアワード
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「わ、電話なんて珍しい…」
第28話
ロッジに戻ってきてせっかくだからとシャワーを浴びて温まった。作曲をする七海ちゃんの邪魔になってはいけないから今回は一人部屋だ。寂しい。髪だけさっと乾かして、部屋の外に備え付けてあるバルコニーでお茶をしようと紅茶をいれる。ちょうど木陰になっていて涼しい。ほぅ…と息を吐いていると、携帯が着信を知らせた。こんな山奥でも電波が通ってるなんてさすがシャイニング事務所、と感心して相手が誰かを確認すると懐かしい名前ですぐに携帯をとった。
「もしもしっ!お久しぶりです!」
「…え?お手伝いですか?」
「確かその日は…はい!大丈夫かと!みんなも来れるんですか?」
「…そっか、みんなお忙しいんですね。分かりました!当日は任せてください!」
それじゃまた、と通話を切る。話したのはほんの数分だったけど、久しぶりに大好きな声を聞けてとても嬉しい。ホクホクとした気持ちで蒸し終えた紅茶を淹れる。…うん、ちょうどいい。
しばらくピチチ…と鳴く鳥の囀りをぼんやりと聞いていると「あれれ〜?後輩ちゃんってば1人なの?」との声が聞こえて振り向く。そこには麦わら帽子を被った寿さんがいて。めっちゃ似合うなぁと思いながらニコリと頷いた。寿さんは?、と尋ねれば手に持っていた釣竿を少し上げてみせて「1人寂しく釣りしてたんだよ〜」とシクシクと話してくれた。…どうやら先輩方は付き合ってくれなかったらしい。先輩方らしいけども。
「わ!でもたくさん釣られたんですね!すごーい!」
「ふふーん!でしょでしょっ?お昼にみんなに振舞っちゃおうかな〜って頑張ったんだよね!」
「わー!お疲れ様です!きっとみなさん喜んでくださいますよ!」
「もーう!嬉しいこと言ってくれるねぇっ!ちゃーんと後輩ちゃんにもお裾分けしてあげるからねっ」
「あはは!嬉しいですっ!きっとシンプルに塩焼きなんかが良さそうですね〜!」
だよね〜!と笑う寿さんのバケツの中にはたくさんの魚が。流石にST☆RISHを含めた人数分は無さそうだけど、それでもこの数時間でこの量なのだから大量だ。先輩方に喜んでもらいたかったからという寿さんの気持ちがとても温かくてこちらも笑顔になった。
せっかくだから、とお茶に誘ってみれば快く応じてくれた寿さんに、新しく紅茶を準備する。森の中のお茶会のスタートだ。お昼ご飯のことも考えてお茶菓子は少し控えめに。立派なバーベキュー場もあったから、そこでみんなと楽しめたらいいな。
「それで、どうして後輩ちゃんは1人なの?ST☆RISHのみんなと川に行くって聞いたけど」
「あ、それがお恥ずかしながらずぶ濡れになってしまって。シャワー浴びがてら戻ってきて一息ついてたって感じです」
「ふぅん、なるほどね。楽しかった?」
「はい!とっても!でもまだまだ遊びたいです!」
「うんうん。せっかくのお休みだしね。今日明日は何も気にすることなく楽しんじゃお!」
「はい!」
うん!いい返事!、と寿さんはニパッと笑って私の頭を優しく撫でてくれた。ご自身で「お兄さん」と言うに相応しく、その手はとても優しくて大きかった。そして寿さんは…私の様子がおかしいことにも気付いているようだった。今日明日は何も気にすることなく、と言った時の目は確かに私を案じてくれているものだったから。…少し、少しだけ相談してもいいのだろうか。甘えだと言われるかもしれないけど、皇さんのお家に行ったあの日、嗜めてくれた先輩なら、もしかしたら。
私のなにか言いたげな様子を察したのか、寿さんはソッと口にしていたカップを置いた。そして少し乗り出すように両手を顔の前に組み、微笑みかけてくれた。その話を聞いてくれる姿勢に思わず涙腺が刺激される。いけない、ちゃんと、ちゃんと聞いてもらわないと。スゥ、と深呼吸をして私は静かに口を開いた。美園さんの名前は出さず、ただ、μ'sである私と仲間のみんなが同等に見られていないことが苦しかったと。
「…私を慕ってくれているのは伝わってきました。とても、応援してくださっているのだと思います。…でも私は、μ'sがあったから今ここにいられるんです。曲のセンターだって、あれが一番の最高の形なんです」
「…同業者、なんだね。その相手」
「、!…同じ事務所の方では、ないですが…」
「そっか…。うん、なんとなく僕も君の気持ちがわかるよ」
「…寿さんもですか?」
うん、と頷いた寿さんの顔は穏やかで、私のようにモヤモヤを抱いているようには見えない。それはもう、彼が乗り越えてしまっているからということなんだろうか。…私には到底分かることではない。
自分の知る仲間の姿と、周りの評価との違い。それはきっとこれからも付き纏うものだ。人がそれぞれに抱くイメージを完全に変えることなんて出来ない。だからこそ、苦しいのだけど。
「…後輩ちゃん。君の仲間のことは、君が分かっていればそれでいいんじゃないかな。君が忘れなければそれはきっとずっと変わらない」
「…っ勿論、忘れません。ずっとずっと、彼女達は大切な仲間で…大好きな、友達だから」
「…うん。その気持ちがしっかりあれば君は揺らがない。周りになんと言われようと堂々としていればいい」
「…寿さんも、そんな方がいらっしゃるんですか…?」
私のその言葉に寿さんはピクリと反応して、そしてどこか切なげに笑みを浮かべただけだった。この人はきっと、自分にもそう言い聞かせているんだ。周りなんて関係ない、自分が真実を知っていればそれでいい、と。思わず胸がギュッとなるほど切ない表情に、あぁ、この先輩も完璧なんかじゃない。たくさんの闇を抱えてるんだと悟った。じゃないと、そんな目はしないもの。滲んだ目の前をなんとかクリアにし、私は口を開く。そう、そうだよね。私が彼女達の良さを一番知ってる。そんな彼女達と共に過ごせたことを…誇りに思ってる。
寿さんの言葉は、そう確かに私の心に届いたから。
「そう、ですよね。…譲りません。この想いだけは」
「…そっか」
「そして今のこの環境が私にとってかけがえのない幸せであるという事実も…譲りません。私は確かにST☆RISHのみんなや…先輩方に支えていただいてますから。…本当にいつも感謝してるんです」
「…なんだか照れちゃうなぁ、まったく。後輩ちゃんの言葉はいつもまっすぐで…時々泣きたくなる」
「私は…泣くことも必要だと思うんです。幸せなことを知っているから、悲しいことを悲しいと思えるんじゃないかって」
泣きたい時に泣けないことこそ悲しいことだと思うんです、とそこまで口にしてハッとした。思わず先輩相手に偉そうなことまで言ってしまった。感謝の気持ちだけで良かったのに、余計なことまで言ってしまうのは私の悪い癖だ。ごごごめんなさい!、と慌てて謝る私に寿さんはその大きな目をキョトンと丸くさせ、そして笑いを耐え切れないというように噴き出した。しばらく笑い続ける寿さんについ居場所を無くしてしまって、恥ずかしくなってすっかり冷めてしまった紅茶を口にした。火照った顔には丁度いい。
ひとしきり笑った寿さんは目尻に浮かんだ涙を拭いながら「君はそれでいいんだよ」と軽やかに笑った。
そして「そろそろお昼の用意しなきゃね」という寿さんの言葉に頷いて食器を片付けて私のコテージを後にした。天気のいい中、他愛のない話をしながら歩くのはとても楽しい。きっとそれは寿さんが相手だからだ。
「わわっ」
「おっと、大丈夫?結構石とか出てるから気をつけてね」
「はい…すみません、鈍臭くって…」
ある程度道になっているとはいえ、街中のように整備された道ではない。それ故に鈍臭い私は少し出っ張った石に足を取られるのだ。……嘘でしょ、あんなに低い石に躓いたの今…?そんなに足上がってないのかな…、と少ししょぼくれながら足元を見ながら歩いていると目の前にスッと手を差し出された。言わずもがな相手は寿さんだ。なんだろう、と顔を上げれば彼は飛びっきり大人の表情をして、優雅に微笑んでいた。
「お手をどうぞ。マイガール?」
「…っ!?!?」
「ははっ!かーんわいい!よーし!みんなに羨ましがられちゃおーっと!」
「こ、ことぶきさっ…!」
キュッと手を取られ、私は覚束ないながらもしっかりと繋がれたその手のおかげで転ばずに昼支度に向かうのだった。
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第28話
ロッジに戻ってきてせっかくだからとシャワーを浴びて温まった。作曲をする七海ちゃんの邪魔になってはいけないから今回は一人部屋だ。寂しい。髪だけさっと乾かして、部屋の外に備え付けてあるバルコニーでお茶をしようと紅茶をいれる。ちょうど木陰になっていて涼しい。ほぅ…と息を吐いていると、携帯が着信を知らせた。こんな山奥でも電波が通ってるなんてさすがシャイニング事務所、と感心して相手が誰かを確認すると懐かしい名前ですぐに携帯をとった。
「もしもしっ!お久しぶりです!」
「…え?お手伝いですか?」
「確かその日は…はい!大丈夫かと!みんなも来れるんですか?」
「…そっか、みんなお忙しいんですね。分かりました!当日は任せてください!」
それじゃまた、と通話を切る。話したのはほんの数分だったけど、久しぶりに大好きな声を聞けてとても嬉しい。ホクホクとした気持ちで蒸し終えた紅茶を淹れる。…うん、ちょうどいい。
しばらくピチチ…と鳴く鳥の囀りをぼんやりと聞いていると「あれれ〜?後輩ちゃんってば1人なの?」との声が聞こえて振り向く。そこには麦わら帽子を被った寿さんがいて。めっちゃ似合うなぁと思いながらニコリと頷いた。寿さんは?、と尋ねれば手に持っていた釣竿を少し上げてみせて「1人寂しく釣りしてたんだよ〜」とシクシクと話してくれた。…どうやら先輩方は付き合ってくれなかったらしい。先輩方らしいけども。
「わ!でもたくさん釣られたんですね!すごーい!」
「ふふーん!でしょでしょっ?お昼にみんなに振舞っちゃおうかな〜って頑張ったんだよね!」
「わー!お疲れ様です!きっとみなさん喜んでくださいますよ!」
「もーう!嬉しいこと言ってくれるねぇっ!ちゃーんと後輩ちゃんにもお裾分けしてあげるからねっ」
「あはは!嬉しいですっ!きっとシンプルに塩焼きなんかが良さそうですね〜!」
だよね〜!と笑う寿さんのバケツの中にはたくさんの魚が。流石にST☆RISHを含めた人数分は無さそうだけど、それでもこの数時間でこの量なのだから大量だ。先輩方に喜んでもらいたかったからという寿さんの気持ちがとても温かくてこちらも笑顔になった。
せっかくだから、とお茶に誘ってみれば快く応じてくれた寿さんに、新しく紅茶を準備する。森の中のお茶会のスタートだ。お昼ご飯のことも考えてお茶菓子は少し控えめに。立派なバーベキュー場もあったから、そこでみんなと楽しめたらいいな。
「それで、どうして後輩ちゃんは1人なの?ST☆RISHのみんなと川に行くって聞いたけど」
「あ、それがお恥ずかしながらずぶ濡れになってしまって。シャワー浴びがてら戻ってきて一息ついてたって感じです」
「ふぅん、なるほどね。楽しかった?」
「はい!とっても!でもまだまだ遊びたいです!」
「うんうん。せっかくのお休みだしね。今日明日は何も気にすることなく楽しんじゃお!」
「はい!」
うん!いい返事!、と寿さんはニパッと笑って私の頭を優しく撫でてくれた。ご自身で「お兄さん」と言うに相応しく、その手はとても優しくて大きかった。そして寿さんは…私の様子がおかしいことにも気付いているようだった。今日明日は何も気にすることなく、と言った時の目は確かに私を案じてくれているものだったから。…少し、少しだけ相談してもいいのだろうか。甘えだと言われるかもしれないけど、皇さんのお家に行ったあの日、嗜めてくれた先輩なら、もしかしたら。
私のなにか言いたげな様子を察したのか、寿さんはソッと口にしていたカップを置いた。そして少し乗り出すように両手を顔の前に組み、微笑みかけてくれた。その話を聞いてくれる姿勢に思わず涙腺が刺激される。いけない、ちゃんと、ちゃんと聞いてもらわないと。スゥ、と深呼吸をして私は静かに口を開いた。美園さんの名前は出さず、ただ、μ'sである私と仲間のみんなが同等に見られていないことが苦しかったと。
「…私を慕ってくれているのは伝わってきました。とても、応援してくださっているのだと思います。…でも私は、μ'sがあったから今ここにいられるんです。曲のセンターだって、あれが一番の最高の形なんです」
「…同業者、なんだね。その相手」
「、!…同じ事務所の方では、ないですが…」
「そっか…。うん、なんとなく僕も君の気持ちがわかるよ」
「…寿さんもですか?」
うん、と頷いた寿さんの顔は穏やかで、私のようにモヤモヤを抱いているようには見えない。それはもう、彼が乗り越えてしまっているからということなんだろうか。…私には到底分かることではない。
自分の知る仲間の姿と、周りの評価との違い。それはきっとこれからも付き纏うものだ。人がそれぞれに抱くイメージを完全に変えることなんて出来ない。だからこそ、苦しいのだけど。
「…後輩ちゃん。君の仲間のことは、君が分かっていればそれでいいんじゃないかな。君が忘れなければそれはきっとずっと変わらない」
「…っ勿論、忘れません。ずっとずっと、彼女達は大切な仲間で…大好きな、友達だから」
「…うん。その気持ちがしっかりあれば君は揺らがない。周りになんと言われようと堂々としていればいい」
「…寿さんも、そんな方がいらっしゃるんですか…?」
私のその言葉に寿さんはピクリと反応して、そしてどこか切なげに笑みを浮かべただけだった。この人はきっと、自分にもそう言い聞かせているんだ。周りなんて関係ない、自分が真実を知っていればそれでいい、と。思わず胸がギュッとなるほど切ない表情に、あぁ、この先輩も完璧なんかじゃない。たくさんの闇を抱えてるんだと悟った。じゃないと、そんな目はしないもの。滲んだ目の前をなんとかクリアにし、私は口を開く。そう、そうだよね。私が彼女達の良さを一番知ってる。そんな彼女達と共に過ごせたことを…誇りに思ってる。
寿さんの言葉は、そう確かに私の心に届いたから。
「そう、ですよね。…譲りません。この想いだけは」
「…そっか」
「そして今のこの環境が私にとってかけがえのない幸せであるという事実も…譲りません。私は確かにST☆RISHのみんなや…先輩方に支えていただいてますから。…本当にいつも感謝してるんです」
「…なんだか照れちゃうなぁ、まったく。後輩ちゃんの言葉はいつもまっすぐで…時々泣きたくなる」
「私は…泣くことも必要だと思うんです。幸せなことを知っているから、悲しいことを悲しいと思えるんじゃないかって」
泣きたい時に泣けないことこそ悲しいことだと思うんです、とそこまで口にしてハッとした。思わず先輩相手に偉そうなことまで言ってしまった。感謝の気持ちだけで良かったのに、余計なことまで言ってしまうのは私の悪い癖だ。ごごごめんなさい!、と慌てて謝る私に寿さんはその大きな目をキョトンと丸くさせ、そして笑いを耐え切れないというように噴き出した。しばらく笑い続ける寿さんについ居場所を無くしてしまって、恥ずかしくなってすっかり冷めてしまった紅茶を口にした。火照った顔には丁度いい。
ひとしきり笑った寿さんは目尻に浮かんだ涙を拭いながら「君はそれでいいんだよ」と軽やかに笑った。
そして「そろそろお昼の用意しなきゃね」という寿さんの言葉に頷いて食器を片付けて私のコテージを後にした。天気のいい中、他愛のない話をしながら歩くのはとても楽しい。きっとそれは寿さんが相手だからだ。
「わわっ」
「おっと、大丈夫?結構石とか出てるから気をつけてね」
「はい…すみません、鈍臭くって…」
ある程度道になっているとはいえ、街中のように整備された道ではない。それ故に鈍臭い私は少し出っ張った石に足を取られるのだ。……嘘でしょ、あんなに低い石に躓いたの今…?そんなに足上がってないのかな…、と少ししょぼくれながら足元を見ながら歩いていると目の前にスッと手を差し出された。言わずもがな相手は寿さんだ。なんだろう、と顔を上げれば彼は飛びっきり大人の表情をして、優雅に微笑んでいた。
「お手をどうぞ。マイガール?」
「…っ!?!?」
「ははっ!かーんわいい!よーし!みんなに羨ましがられちゃおーっと!」
「こ、ことぶきさっ…!」
キュッと手を取られ、私は覚束ないながらもしっかりと繋がれたその手のおかげで転ばずに昼支度に向かうのだった。
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