第2章:うたプリアワード
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「えー!もしかして高原綾奈ちゃんホンモノですかぁ!?」
第26話
突然聞こえた声に思わず立ち止まって振り返る。そこには黒髪を高い位置でツインテールにした可愛らしい女の子がいた。その見た目にかつてのμ'sのあの子を彷彿とさせた。懐かしいなぁ、元気にしてるかな。
今日は雑誌の撮影で、ここはスタジオ内であるからきっと彼女も関係者なのだろう。整った顔立ちをしているから同業者かもしれない。こんにちは、と笑うと興奮した様子で駆け寄ってきた。
「わたしっ!レイジングエンターテインメントの美園えまです!キャー!綾奈ちゃんに会えるなんて超感動ですっ!!」
「シャイニング事務所所属の高原綾奈です。はじめまして」
「知ってます知ってます!わたしめっちゃファンですもんっ!μ's時代の綾奈ちゃんの動画もぜーんぶ観ました!」
「わぁ嬉しいですっ。ありがとうございます」
美園えまさんと言う彼女はどうやら皇さん達と同じ事務所のアイドルらしい。いわばライバル関係である私に、ここまで好意的なのは嬉しいけれど照れくさい。今回の皇さんとのドラマをきっかけに私を知ってくださったようで、そこから過去のものを追いかけてくれたのだとか。すごい勢いで、あのシーンのここがよかっただとか、あの曲が好きだとかと伝えてくれる美園さんには申し訳ないが、そろそろ撮影が始まってしまう。未だに好きなところを語ってくれる彼女をどう止めようかと考えていると、彼女の発した言葉に私はピタリと思考が止まった。
「μ'sもすっごく綾奈ちゃんを引き立たせていて良かったです!」
「、」
「あっでもあの曲は綾奈ちゃんがセンターやってて欲しかったな〜その方が絶対映えてたと思うしぃそれに、」
「美園さん」
「え??」
「好いてくれているのはとても嬉しいです。ただ、……μ'sは私にとってかけがえの無いものであることは知っていて欲しいです」
「…んー?」
「ごめんなさい、撮影始まりますので失礼しますね。機会があれば、また」
キャー!と嬉しそうに手を振る彼女に、複雑な思いを抱えて私はその場を後にした。
純粋な悪というものは、怖い。
「あ!綾奈ちゃ〜ん!ちょっといいかしら?」
「月宮先生!お疲れ様です。なんでしょう?」
「お疲れさまっ。来週なんだけどシャイニーが…、あら。なんだか元気ないわね?なにかあったの?」
「え…え!?いえそんな!大したことじゃないです!」
「ん〜〜〜?」
今日は事務所による用事があり、書類なんかを受け取って寮に戻ろうと思っているとかけられた声。月宮先生は何やら言いたいことがあったようだけど、私の顔を見て言うのを辞めた。そんなに情けない顔をしていたのだろうか。けれど美園さんの件はこれから先もずっとついてくることだ。どうするということもない。私がきちんと飲み込んで、私はちゃんとμ'sのことを想っていればいい。…やっぱりモヤモヤはするし、時間はかかるかもしれないけど、人の気持ちまではどうすることもできないことは分かっているから。
私がこれから先アイドルをやっていく上で必ずぶつかる壁なんです、と笑えば、先生は少しじっと私を見つめて苦笑し、ため息を吐いた。
「分かったわ。でも相談したくなったらいつでも遠慮せずにすること!綾奈ちゃんったら全然頼ってくれないから寂しいわ!」
「そ、そんな…!先生には本当にいつもお世話になりっぱなしで…!寮の扉のことだってすみませんでした…!」
「あれはさっちゃんが心配してやったことでしょ?それにシャイニーがいるからあんなのは可愛いものよ。それよりも暖簾で凌いでいたことに驚いたわよ、もう!」
「あはは…なんかバタバタしててつい…」
「男が多い寮にいるんだからもっと気をつけること!…それと、もっとその男達を頼ること!」
「う…はい…」
人に頼るのはまだまだ綾奈ちゃんの課題ね、と笑う月宮先生に、まったくだ、とため息を吐いた。
つい自分で出来ることなんじゃないかと思ってやってしまうのは悪いところだ。この間も壊れたドアに急拵えに暖簾を掛けようとして脚立に昇ってるところを一十木くんに見つかって窘められたところだった。…一十木くんは私が高所恐怖症であることを知ってるから余計に心配をかけてしまった。正直、脚立の高さでも下を見られないぐらいには私の高所恐怖症は拗らせているのだが。頼るというのはやっぱりまだまだ難しい。
「でも、ちょうど良いタイミングだったわ。少し肩の力を抜いてゆっくりしてきなさい?」
「え?」
「シャイニーがね?ST☆RISHのみんなとはるちゃん、そして綾奈ちゃんに来週お休みを与えろって指示があったの。うちの事務所の保養所があるからそこにね。自然に囲まれていてとっても素敵なところよ〜!」
「ええっ!?で、でも私、先輩方からの課題もありますし…!」
「だーいじょうぶ!QUARTET NIGHTのみんなも一緒よん!だからその日はただの高原綾奈として羽を伸ばしてくること。わかった?」
「………は、はい」
本当はアタシも行きたいところなんだけどね〜!、と明るく笑う月宮先生の笑顔はやっぱりとても眩しくて。先生から伝授されたはずの自分の笑顔なんてまだまだだなと思った。来週頭に放送される先日のバラエティ番組を観るのが少し憂鬱になった。
まだ仕事が残っているという先生に慌てて謝罪して、私達は別れた。アイドルとしてのお仕事に、学園運営、さらに私たち新人アイドルのサポートまで。…改めて、月宮先生や日向先生は凄すぎると冷や汗をかいた。
「あ!高原おっはよー!」
「一十木くん!おはようございます!」
そんなこんなで来週なんていうのはあっという間にやってきて、今日から私達は1泊2日でお休みをいただくことになった。天気も良くて気分もあがる。それは集合場所にいた一十木くんも同じようで、楽しみで眠れなかったー!と笑った。今日も笑顔が眩しいです。
シャイニング事務所が所有する大型バスにて現地に向かう。どこに座ろうかと悩んでいると、先に乗り込んでいたらしい聖川くんに声をかけられ、そのまま流れで隣にお邪魔することになった。席はたくさん空いてるからゆっくり座っていいのにと言っても、話し相手になってくれ、なんて言われてしまったら断れるはずもなく。喜んでそのお役目の任に就かせていただきます!
「高原と話すのは楽しいな。俺には無い感受性故に新鮮だ」
「私も聖川くんとお話しするのとっても楽しいです!客観的に物事を見て、尚且つ聖川くん自身の意見も聞けてとても参考になりますし!」
「フッそれなら良かった。…それにしても今回は砂月は来られなくて残念だったな」
「そうですね…。社長はさっちゃんにやってもらいたいことがあるって言ってましたけど一体どんなことなんでしょう?」
「四ノ宮砂月としての仕事、ということなのだろうか。四ノ宮同様、能力は高い男だ。何をやらせてもこなしてしまうだろうな」
「確かに…」
今回いくメンバーはST☆RISHのみんなと七海ちゃん、QUARTET NIGHTのみなさん、そして私だ。セシルくんはレッスンを受けてはいるけれど正式なアイドルではないからか、集合場所に姿はなかった。なんだか馴染んでいただけに寂しい。さっちゃんに関してもダメ元で社長に尋ねてみたのだが、そんな返答。用事があるなら仕方ない…。
たくさん写真撮ってさっちゃんにお土産話を持って帰ろう、と膝に置いていた一眼レフカメラをなんとなしに撫でると、それに気付いて聖川くんは口を開いた。
「高原はカメラも嗜むのか?」
「嗜む、なんて大そうなものじゃないんですけど撮るのは好きなんです。今日もみんなのことたくさん撮りますね!」
「そうか。お前にとっても良い息抜きになると良いな」
「…あれ。聖川くんもなんか気付いてた感じですか…?」
「なんとなく、というやつだ。お前は誰かが心配していなければまた熱を出してしまうからな」
「おぉ………あの、ありがとうございます。頑張って頼れるよう…んん?なんか違うな…」
「高原の場合は頼るというよりは甘えるのが苦手なのではないか?」
「、!」
私の数日のしょぼくれにも気付いていたという聖川くんには本当に頭が上がらない。そしてあえて声をかけずに見守っていてくれたことにも。彼は本当にいつもそうだ。
そして今まさに甘えるのが下手だと言われたことも妙にストンと心に落ちた。そう、それだ。似てるようで少し違う、甘える行為が私は下手くそなのだ。聖川くんはいつも答えに導いてくれますね、と尊敬の眼差しで見つめれば、よせ、と少し頬を赤くして瞑目した。
20201013