第2章:うたプリアワード
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「さーーっちゃん!」
「…また来たのかお前」
第25話
さっちゃんが砂月として存在したあの日から数日が経った。大きな変化が起きるかと思いきや穏やかなもので。社長も特に咎めることなく、さっちゃんが寮に住むことを了承した。「難しいことは大人に任せなサーイ!」と言ってたけど…うーん、本当にどうにかしてしまう人なだけに心配である。というか社長はなんで疑問に思わないんだ…。それに、二人のご両親にも伝えたらしいが、驚きはしつつも「そんなことがあるのねぇ」とのほほんとしていたらしい。さすがなっちゃんが育ててもらったご両親である。寛大というか、なんというか。
かくいう私は体調も良くなり、レッスンなどをこなしながら過ごしていた。そしていつもの日課にさっちゃんに会いに行くことが追加された。さっちゃんはいつも敷地内のどこかで作曲していることが多い。ランニングがてら、探すのが楽しみなのだ。ひょっこりと現れる私に呆れた表情は浮かべつつも、邪険にはしない。今日は湖の近くのベンチで発見。んふふ、と隣にお邪魔する。
「さっちゃんは本当に作曲が好きですねぇ」
「…那月にそういう才能があるってだけだ」
「これからはさっちゃんですよ?」
「…ウザいやつだ」
さっちゃん本人はまだあんまり四ノ宮砂月という人間がしっくり来ていないのか、こんな感じでいつもなっちゃんを引き合いに出す。そりゃ今まではなっちゃんを通して世界を見てきたのだからそうかもしれないけど、こればっかりは時間が解決するしかないのかな。うーん、と考える私を彼は一瞥し、「お前こそ、」と口を開いた。
「毎日俺のところに来るのは、俺の存在がまだ信じられないからだろう」
「、!…そこまで気付いてるなら会いに来てください!寂しいです!お茶会しましょう!」
「そんなんは那月とやれ」
「そんな寂しいこというならなっちゃんにお願いしちゃいますよ?」
「お前な…」
目が覚めたら四ノ宮砂月という存在なんていなくて、ただの夢だったんじゃないかって不安になる。そんな私の気持ちに気付いていながら変わらないさっちゃんは本当にさっちゃんだ。なっちゃんを引き合いに出すと弱いのも、さっちゃん。そりゃそうだ。なっちゃん至上主義なのが彼なのだから。
いつだって不安は拭えない。だからこそ、私は毎日少しの時間でもいいから彼に会いに行く。
「明日!明日お茶会しましょう!お菓子用意しておきますねっ」
「…美味いもん用意しろよ」
「ふふっはい!もちろん!」
これからたくさん、四ノ宮砂月に幸せな感情を知っていってほしい。なっちゃんの為に悲しいことを引き受けてきた彼に、たくさんたくさん、幸せになってほしいのだ。
「高原さん到着でーす!15分後に収録開始します!」
「よろしくお願いします!」
「いや〜綾奈ちゃんバラエティ初めてでしょ!大丈夫?」
「一応学園長の元で色々なことは…経験したので!頑張ります!」
「いいねいいね〜フレッシュ!リアクション期待してるよー!」
はい!、と返事をしてスタジオの隅へ。今日は初めてのバラエティ番組への出演だ。早乙女学園時代にもたくさん実習はあったし、あの学園長の元で色んなことを経験させてもらったおかげでか、あまり気負いはない。収録が終わったらさっちゃんとのお茶会が待ってる。今日も全力で頑張ろう。
ムンッ、と一人で気合をいれてると、なにしてるの、と呆れを含んだ声。ハッとして顔をあげればそこには美風さんの姿。そっか、美風さんも今日同じ番組に出演するのか。お疲れ様です!、と笑えば彼は私の隣へ来て壁に背を預けた。美風さんがバラエティはちょっと珍しいなぁ。とはいえ何でもこなしてしまうから凄いのだけど。
「バラエティ番組の出演は初めてなので気合いをいれてました!かといって入れすぎて緊張しちゃうのも良くないんですけど」
「フーン。ボクもバラエティは少し苦手なんだ。データ通りにいかないから」
「知識というより瞬発力みたいなところありますもんねぇ…」
「瞬発力…?……あぁそうか。…うん、確かにそういう傾向はあるかも」
ふむ、と少し考え込む美風さんに私の頭には疑問符が浮かぶ。そ、そんなに考え込むようなこと言ったかな…?参考になったよ、と言ってくれたので大丈夫だと思いたい。そして私を上から下までゆっくりと眺めた彼は、うん、と頷いた。そして、今日は体調は良さそうだね、と。
「リンゴから聞いた。ボクに会ったあの日に風邪で寝込んだって。綾奈のデータはまだ少ないからあの状態が綾奈にとっての異常だと認識してなかったんだ」
「ええっ!?月宮先生……。すみません、情けない話を…」
「一応ボク等の後輩だから報告としてね。別に、情けないとは思ってないよ。実際仕事もこなして自力で帰宅しているし、翌日の仕事にも支障は出てないしね」
「…でも、できるレッスンが出来ませんでしたし」
「ニンゲンなんだから体調くらい崩すでしょ。それにボクが出した課題もきっちりこなしてきた。客観的にみても、褒められはしても叱責されるような要素はないと思うけど?」
「な、泣いちゃいます……」
「いま泣いてメイクがやり直しになることの方が褒められたことではないね」
「ぐっ…!」
美風さんの嬉しい言葉に涙ぐみつつも、眉間にグッと力をいれて何とか必死で耐える。そんな私の顔を見て「ちょっと。変な顔しないで」と冷めたお声で言われてしまいましたけども。変な顔は許してください………。
そして収録も始まり、順調に進んでいく。出演者が多い番組なのもあって、私にスポットが当たるのは僅かだ。如何にその時間をもぎ取り、盛り上げるかが肝になる。一応ドラマの番宣を兼ねての出演なので、終盤にふられることは打ち合わせで分かっているけれど、司会者さんのフリを待ってるだけではいけないのだ。かと言ってガツガツ行きすぎるのも良くないので見極めが大切になってくる。一応ちょこちょこ発言は出来ているから良しとしよう。あとで美風さんからの講評も聞きたいところだ。
「ところで綾奈ちゃーん!ドラマ見てるよー!前回の芸人顔負けの顔芸には笑っちゃったよ!」
「ありがとうございます!」
「しかし、アイドルなのにぶっちゃけあれどうなの?ファン減るんじゃない?」
「、!」
きた。
と思ってしまった。今回の番組の司会者さんはちょっと癖の強い方で、一般的にも好き嫌いが分かれる方だと評判なのだ。良くも悪くもズバズバと切り込んでいくタイプ。うーん、切り込まれてしまった。確かにアイドルである私が顔面崩壊レベルの変顔を披露していることは賛否両論あるはずだ。私もそれはわかってる。
私は月宮先生直伝のアイドルスマイルを浮かべ、カメラに向かって口を開いた。
「ドラマの私は私の見た目をしたヒロインであって別人なんで全く問題ないですよ、ねっ」
「…………かわいー!!!なにそれ可愛い!!ウィンクもう一回ちょうだい綾奈ちゃん!!」
「投げチューもつけちゃいます!!ん、んーまっ!!!」
「やり慣れてない感満載な投げチューwww!!!もっとおとなしい子だったよね!?」
「大好きな人には大好きって伝えたい主義なのです!!応援してくださる皆さん、いつもありがとうございます!」
「カーッ!めちゃくちゃ魅力的だねこりゃ!綾奈ちゃん出演のドラマはこの後22時より放送ですよみなさんー!」
色んな高原綾奈をチェックだー!、とかなり盛り上がっての番宣になった。出演者のみなさんも笑って拍手をしてくださって思わず素で照れてしまった。赤くなって笑う私の姿までカメラに抜かれていたことに気付くのは後の話。そしてその姿の方がお茶の間には好印象であったことを私は知る由も無い。
「綾奈って真面目なのかと思ったらああいうことするんだね」
「いやあの…ふ、普段は出来ませんよ…」
「そうなんだ。興味深かったよ」
「お、お褒めの言葉として受け取らせてください…」
変なの。と美風さんは口元に笑みを浮かべたのだけどその姿がもう美しすぎて。レアだ。レアすぎる…。美風さんが笑ってくれるならああいう姿も悪くないな、なんて思ってしまった。
その夜、それをさっちゃんとのお茶会で報告すれば
ながーーーーーいため息をいただきました。さっちゃんの幸せを逃さない為に慌てて深呼吸すれば、呆気に取られたさっちゃんも耐えきれないというように噴き出して、素敵な笑顔を見せてくれました。うん、やっぱり大切な人には笑っていてほしいな。
20201009