第2章:うたプリアワード
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「帝ナギさんから差し入れでーす!」
第20話
ドラマの撮影も順調に進み、残すところ2話となった。まだオンエアは5話までしかされていないのでかなりハイペースだ。それも最初から変わらず、ほとんどNGを出さない皇さんによる功績が大きい。主役というのもあってほとんど出ずっぱりなのにとても安定している。撮影の終わりが見えてくるのは嬉しくもあり、でも少し寂しい。事務所も違う彼とこうして頻繁に会うこともなくなってしまうのだから。
なんて、少しセンチメンタルになっているとスタッフさんの弾んだ声。そしてそれは聞き覚えのある人から差し入れを戴いたという言葉。えっ、と振り返るとそのスタッフさんの隣にはご当人であるナギくんの姿が。なんでここに?、という疑問もあるが、久しぶりの再会に胸が弾んだ。LINEの交換はしたし、ちょこちょことやり取りはしていたけれど、こうして会うのはなんやかんやで初めて会った時ぶりだ。お久しぶりですっ、と駆け寄ると、うん、と照れた様子で返事をしてくれた。
「差し入れしてくださったんですね。ありがとうございますっ」
「べ、べつに。…その、綾奈がこの前LINEでマドレーヌの気になる店があるって言ってたの思い出して、偶然近くに行ったから買っただけっ」
「えっ!あのお店のですかっ!?うわ〜!いいんですか本当に!」
「差し入れなんだから当たり前でしょっ!?ほーら!早く取らないと綾奈の分なくなっちゃうんだからねっ」
「そ、それはいけません!ナギくん、本当にありがとうございます!いただきますねっ」
早く行きなよっ、と少し頬を赤らめるナギくんに思わずフフッと笑みを漏らして、私もマドレーヌを奪取すべくスタッフさんの元へ向かった。様々な種類を買ってくれたようでめちゃくちゃ悩む。どれも美味しそうすぎる…。
なんとか一つを選び抜いて再びナギくんの元へ向かうとそこには皇さんの姿が。近い距離で話す2人はやはりとても気やすい関係だということがうかがえる。やっぱりナギくんがここに来たのはこの後2人で約束があるのかな、なんて考えていると近寄った私に皇さんが気付き、今日こそは誘ってもいいか、と尋ねてきた。
今日こそ…?、と一瞬疑問に思ったが、そういえば以前もお誘いしてくれようとしたのに私が予定があるからと断ってしまったことがあった。その時の事を言っているのだろう。今日はもうこの撮影のお仕事だけなので、終わりさえすればフリーだ。この分だと今日の撮影も問題なく済みそうだし、時間は取れそうかな。
はい、と笑顔を浮かべると皇さんも小さく微笑み、良かったなナギ…、とナギくんに話を振った。当の本人は、なんでナギにふるの!?、と可愛い顔を赤らめた。可愛すぎる。
「お二人もこのあとはオフなんですか?」
「あぁ。お前さえ良ければ…ウチに来ないかと…。今夜は…鍋だ」
「お、お鍋、ですか?えっと今はもう夏前ですけど…」
「ナギだって分かってるよ!!!でもなんかムショーに食べたくなっちゃって可決されたの!来るの!?来ないの!?」
「えっあっい、行きます!お邪魔でないなら!」
邪魔だったら誘わないし!、というナギくんのもっともなご意見に確かに、なんて思いながら改めてこの季節に鍋か、と考える。鍋といえば冬。冬といえば鍋といえるものだと思うが、まぁでも夏にやってはいけない理由なんてないし、何より楽しそうだ。
残りの撮影も頑張りましょう!、と拳を握って笑った。
「えっ。こ、ここですか?」
撮影も無事滞りなく終わり、2人に連れられて着いた場所。そこで2人はシェアハウス的なことをしているとのことだったんだけど…規模がすごい。2人で住むところではない。呆気に取られる私に、お腹すいた!、とナギくんに背中を押されたことで漸くその大きな門をくぐったのだった。
思わずキョロキョロと周りを見渡す私になんだか楽しそうなナギくんと、僅かに口元を緩める皇さん。材料も既に揃えてあるとのことで手ぶらでついてきてしまった。初めてお邪魔するのに手土産も無しとは…さすがに申し訳なさすぎる。せめてお手伝いはさせてもらおう。
「あ、ナギに綺羅。おかえり、お客さんは…って高原綾奈さんっ!?」
「は、はい。高原です、こんばんは。お邪魔します…」
「アハハ!瑛二ってば驚きすぎでしょ〜!」
「だ、だってまさかアイドルが来るとは思わないよ…!」
すみません、と彼…鳳瑛二さんは穏やかな笑みを向けてくれた。つい私も自己紹介はしたが、混乱しているのは私もだ。まさかナギくんと皇さん以外に人がいると思わなかった。そしてどうやら彼は私のことを知っている模様。少し気恥ずかしく思いながら手伝います、と申し出た。
「え!いやいや!お客さんなんですから座っててください!俺やるんで!」
「そんな訳には…!手土産の一つも持って来れなくて…せめてお手伝いさせてください!」
「えぇっ…!」
「いいじゃんやってもらいなよ瑛二〜。2人でキッチン立ってるところ写真撮ってあげるよぉ〜?」
「え?」
「お、怒るよナギ!!!!」
「仲良し…」
「綺羅までやめてよ!失礼でしょ!?」
ほんとすみません!、と頬を染めながら私に謝る鳳さんに大丈夫だと苦笑するが、正直まだ状況が把握出来ていない。ナギくんと皇さん、そして鳳さんはシェアハウスをしていて、一応今日お客さんが来ると言うことは伝えていたらしいが、名前までは教えてなかったということで…いいんだろうか。私の頭もキャパオーバーしそうだ。人見知りも相まって。
「え、えっと…つまりここには皆さんで住まれているってことですよね?今日はお邪魔します」
「そうだよ。まぁ、あと4人いるけどね〜」
「…そろそろ、帰ってくる」
「あ、兄さんはもう部屋にいるよ」
「……………4人?」
「えっはい。……2人とも言ってなかったの?」
「そういえば言ってなかったかも〜?」
まさかの7人でのシェアハウスをしているらしい。この流れはきっとみんな男性だ。……デビュー前のハグ事件のこともあるし、ちょっと軽率だったかもしれない…。いやでも芸能人であるナギくんと皇さんがいて何か起こるってことはないだろうし、あまり警戒するのも良くない…よね。適度な、適度な距離を意識しよう。うん。今更帰るとか私のみじんこな精神力じゃ無理だ。
結局、私はさっさと帰るとは言い出せなくて、この家で暮らしている方みんなと自己紹介をし合った。もれなく皆さん顔がよろしいです。
どうやらナギくんが私のμ's時代からを知っていて動画なんかも見てくれたらしく、それもあってみなさん私の事を知っていたらしい。「其方…本物なのか…?」と呆然とした様子の天草さんはちょっと可愛かった。
「アマチュアと言えど興味深い。ましてやお前のグループはずば抜けている。ナギが興味を持つのも無理はない」
「ナギと一緒に観てたら俺もファンになっちゃって。だからナギと綺羅が連れてきたのが高原さんで本当にびっくりしたよ」
「せやな〜!ワイは出身が同じやって知って勝手に親近感持っとったわ!会えて嬉しいわ〜!」
「おい。はやく鍋食おうぜ」
「綾奈…是非、天草の手を握ってくれ…」
「えっ」
「シオンってば変な言い方しないの!握手でしょー!?」
「楽しい…」
ワイワイと、でも統率の取れたメンバーに思わず笑みが溢れる。隣座っていた皇さんはそれを見て一緒に笑ってくれた。しっかりドラマで仲良くなれていたんだな、と更に嬉しくなった。
外はもうすっかり暑いけれど、みなさんと囲む鍋はとても美味しくて、そして楽しかった。
ST☆RISHのみんなともやったら楽しそうだなぁ。聖川くんや神宮寺くんがいるから豪華になっちゃいそうだけど。トキヤくんがいるから野菜はたくさん入るだろうけど、一十木くんや翔くんはきっとお肉に箸が伸びちゃうだろうな。セシルくんは締めの雑炊を食べたら喜びそう。なっちゃんは鍋には到底入れないであろうものを入れないかしっかり見てないといけないな。夏なのに鍋?と呆れる渋谷ちゃんに、でも楽しいねと笑う七海ちゃん。想像だけでこんなに楽しいんだから実際はもっともっと楽しいだろうな。
あぁ、なんだかすごくみんなに会いたい。
「今日はお邪魔しました。とっても楽しかったです!」
「本当に送らなくていいの?」
「はいっ。タクシー捕まえるので。お鍋もとても美味しかったです!」
「またいつでも来るといい。歓迎するぞ、綾奈」
「…!嬉しいです!」
お鍋もたくさん食べて、食後のお茶まで頂いてしまったが、そろそろときちんと言い出すことが出来た。それが出来たのも彼等が思っていた以上に気遣ってくれて打ち解けられたおかげだ。少しぶっきらぼうだった日向さんも見送りの際には「気を付けろよ」と気遣ってくれた。私の人見知りも思った以上に克服してきているのかもしれない。
「家に着いたらLINEしてよね!」というナギくんに頷いて、私は彼等のお家を後にした。外はもう暗いが、まだ遅い時間ではない。場所を聞かずに着いてきてしまったのは失敗だったけど、遅くなる前に退散出来たのはよかった。
さっさと帰って台本の確認をしよう、と歩き出す。タクシー通りがかるかな、とキョロキョロしながら歩いていると、すぐ近くで見慣れない車が止まった。
「後輩ちゃん?」
「…寿さん!」
「今帰り?乗ってく?」
「帰りですけど、でも…」
「はい、じゃあ乗った乗った!行っくよー!」
ひょっこりと車の窓から顔を出した寿さんに驚いている間に乗るように急かされ、タクシーを捕まえるために空けていた右手は車内へ引っ張られた。
20200610