第2章:うたプリアワード
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「すみません、私の大好きな人が待ってくれているので…!」
第19話
今日は雑誌の撮影だ。先日無事1話が放送されたドラマの取材も兼ねている。滑り出しは上々で、多重人格というテーマでありながらもコメディ調なストーリーなこともあって、さまざまな世代に見てもらえているのだそうだ。めちゃくちゃ嬉しい。
皇さんとはまだドラマ自体の撮影は残っているから頻繁に会っているとはいえ、こうして2人揃っての取材は初めてだ。皇さんがあのドラマにかける想いなんかも聞けてとても新鮮だし。けれど、彼もうたプリアワードの受賞を目指していると聞いた時は驚いた。なんか貫禄があるから新人だとは思わなかったっていうのもある。もちろん、ST☆RISHのみんなに受賞してもらいたい気持ちでいっぱいだけど、皇さんの良さも知ってしまった今は…。口には出さないけどこっそり応援してしまう。それは許して欲しい。
「皇さんも高原さんも、ドラマは初めてとのことですが、大変なこと等はありましたか?」
「あはは…大変なことばかりでした。私、たくさん皇さんに助けられました。それは第3話のあるシーンなので良かったら探してみてくださいね。それに皇さん、ほんとにNGを出さないんです!」
「へぇ!素晴らしいですね。皇さんをキャスティングした有名監督の見る目は本物ですね」
「…高原さんの演技も…目を見張るものがあった…。それは今後…楽しみにしていてほしい…」
「なるほど、さすが早乙女学園首席卒業者ですね!私自身も続きが待ち遠しいです(笑)」
「はい、是非お楽しみに。まだ撮影はしていますが、最後まで良いものを演じられるように頑張ります」
「よろしく頼む…」
「お忙しい中、お二人ともありがとうございました!」
いい記事が書けそうです、と頭を下げる記者さんに挨拶をし、無事今日の仕事を終えた。撮影自体もあっという間に終わったのだ。彼との仕事はとてもやりやすい。ドラマの撮影が終わっても、またなにかで共演出来たらいいなと思う。
パッと時計を見ると思っていた以上に早く終わった。これなら一十木くん達のバザーにも早く行けそう…!逸る気持ちを抑えながらテキパキと荷物をまとめていると、高原さん、と皇さんが声をかけてきた。なんだろう、とても珍しい。どうしましたか?、と首を傾げれば彼はゆっくりと口を開いた。
「…この後も仕事か…?」
「あ、いえ!今日はこれだけで。ちょっと久しぶりのオフなんです!」
「…そうか。ナギが会いたがっていたが…急いでいるようだな…」
「えっナギくんが…!?わ、わーー!めちゃくちゃ嬉しいですけど…、」
まさかのナギくんの名前が出てきたことに驚いた。そういえば、皇くんの携帯をお返しする時から会っていない。まぁ、連絡先も知らないし、そんなもんだろうとは思うけど。な、なんで今日という日に被ってしまったんだ…!申し出は嬉しいんですけど、と私は頭を下げた。
大好きな人が待ってくれているから、と。
「あぁ…。急にすまない…。また撮影で…」
「はいっ!ナギくんにも謝罪を…、あっ!あの、よかったら私の連絡先をお伝えしても良いですか?メモ書くので…!」
「感謝する…。ナギも喜ぶ…」
「いえ、こちらこそ!バタバタしてすみません。ではこれ。よろしくお願いします」
コクリ、と頷いてくれて皇さんに私の連絡先を書いたメモを渡して、お疲れ様でした!、と頭を下げてスタジオを後にした。皇さんは軽く手を挙げて見送ってくれた。うーん、スマートだなぁ…。
*
「み、みんな…その姿はどうしたんですか…?」
「いや、なんつーか成り行きっつーか…」
「僕たち、みんなで音也くんのお手伝いにきたんですよぉ!」
「今日は綾奈もお客さんです。さ、ドウゾ」
少し息を切らせながらバザー会場である養護施設へやってくると…なんとそこにはカラフルな着ぐるみを着たST☆RISHのみんなの姿が。中の人の顔が見えちゃっているからなんともシュールだ。可愛いけど。めっちゃ可愛いけど。
子ども達からの人気も絶大のようでみんなの周りには笑顔の子ども達で溢れている。そんな様子にお客さんも集まってきているようでバザーは賑わっているようだった。
お仕事お疲れ様です、と私をイスに座らせてくれたセシルくんも、その表情はとても楽しげだ。最近の彼はなんだか少し雰囲気が変わったように思う。最初は七海ちゃんの曲のことしか頭に無いような、少し頑なで、正直とっつき難い一面があった。けれど今は…子ども達を楽しませようと持ち前の運動神経で飛び跳ねる姿に頰が緩んだ。みんなと触れ合う中で、彼も良い方向に向かっているように思う。
「あー!ちょっと休憩〜!」
「着ぐるみって結構疲れんのな〜!あち〜!」
「一十木くん、翔くん。フフッお疲れ様です。翔くん、とっても可愛いですね」
「…音也とセシルだけずりぃよな…」
「ええっ!?俺だってあったら着たかったって〜!」
「棒読みじゃねぇか!!!」
ドカリ、と隣に座った翔くんはピンクのクマさんの着ぐるみを着ていて。対する一十木くんは私服で。…うん、なんとなく読めるけどね。きっと一十木くんに秘密で、他のみんなでお手伝いにきたって感じだろう。着ぐるみ発案は…まぁなっちゃんだろうなぁ。
なおも言い合う2人を眺めながら、つい目の端をチラつくピンクのそれに体が疼く。…可愛い、よなぁ…。
そう思ってしまえばどんどん欲は大きくなり、ダメで元々だ!、と翔くんの名前を呼んだ。なんだ?、と振り向いた彼を真っ直ぐに見つめた。少し翔くんの頰が赤くなった気がする。…確かにもうすぐ夏も本番だし、着ぐるみは暑いよね…。これはウジウジせずに早く伝えてしまうのが彼の為だろう。
「翔くん」
「な、なんだよ…?」
「なになに?どうしたの高原」
「…ギューってしてもいいですか?」
「ええっ!?!?」
「おまっ…!な、那月とそういうとこまで似てくんじゃねぇ!!」
「だ、だって…!みんなすごく可愛いんですもん…!」
「だ、だからっておまえ…!」
「えー!!やっぱり俺も着たかったよぉー!」
「し、失礼します!!」
「のわぁ!?」
ガバァ!、と抱き付いた私に翔くんは狼狽えながらもしっかりと受け止めてくれた。目線は私と変わらないのに、やっぱり男の子だなぁ。
翔ズルイよー!、と声をあげる一十木くんを他所に私はその可愛らしい姿を堪能する。はぁ…思ったよりモチっとしていて気持ちいい…なっちゃんのこだわりを感じる…。
「綾奈!おまえっ…俺も男だぞ!」
「分かってますよぅ…。しっかり受け止めてくれたじゃないですか…。うぅ〜この感じすごく安心します…」
「翔だけズルイ!俺も!とりゃっ!」
「わっ、」
「ぐえっ!お、音也…おまえな…」
「へへー!高原のサンドイッチだね!」
その質感に思わず頰を擦り寄せていると、仲間外れにされた気持ちになったのか、翔くんに抱きつく私の後ろからガバッと一十木くんが抱きついてきた。一身に2人分の体重を支える翔くんは大変そうだ。私はと言えば、一十木くんが翔くんに力がかかるように加減をしているようで全然苦しくない。それどころか2人の温かさがとても嬉しくて、幸せで。耐え切れずに声を上げて笑った。そんな私を見て一十木くんは一瞬とても優しい笑みを浮かべて、そして私と同じように快活に笑い声をあげた。
「翔くん!まだまだ頑張ってください!」
「そうだよ翔〜!しっかり支えて〜!」
「ぐっ…!お前ら仲良く結託しやがって…!おりゃ!これでどうだ!」
「わっ!っあはは!すごーい!ギュッと感があがりました!」
「…っうし!綾奈久々にちゃんと笑ったな!」
「、!」
「高原、もっと元気になった?」
「2人とも…」
どうやら私は一十木くんや七海ちゃんだけじゃなく、他のメンバーにも悩んでいることに気付かれていたらしい。…よくよく考えてみればそうだ。聡い人達ばかりだもん。きっと何も言ってこないけど、他のみんなも心配してくれていたのだろう。本当に私は馬鹿で、仕方のない、果報者だなぁ。
「はいっ!みんな大好きですっ!」
ありがとうのギューッです!、と私も腕に力を込めた。握力のないはずの左手も、心なしかしっかりと力がこもった気がした。
20191217