第2章:うたプリアワード
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「皇…綺羅です」
「高原綾奈です。よろしくお願いしますっ」
第15話
「はぁ…どうあがいてもやっぱり緊張した…」
無事顔合わせを終え、ミーティングルームをゾロゾロと出て行く他の出演者さんやスタッフさんを見送り、最後にとても親しみやすいメイクさんが出て行ったことで一人になった。いつの間にか張っていた気が緩み、思わず大きなため息を溢す。少し変更があったから、と新たに渡された台本をペラペラと捲る。
私の役は5つの人格を持つ多重人格者だ。けれど既に結婚していて旦那さんもいる。そしてそれをそれぞれの人格も容認している…つまり5人全てがその旦那さんを愛しているのだ。5つの人格とはいえ、演じる私は勿論1人。それぞれの愛の形をきうまく表現することが鍵になるだろう。
「それにしても…皇さん、めちゃくちゃ綺麗な人だったな…」
相手役の旦那さんを演じるのは皇綺羅さん。あまりに綺麗な名前にどんな人かと思っていたが、ミーティングルームに入ってきた時から間違いなくこの人だと察した。なんか…うん、キラキラしてた。言葉数は少なかったけれど、このドラマに関して意欲的なことは感じられたし、きっと彼とならいい夫婦役を演じられると思う。…となると今後は少しコミュニケーションも取っていかないとなぁ。人見知り故に難しい問題ではあるけど…距離感とか、そういうのはわかる人には分かってしまうだろうし。
今日はこれからオフだ。けれど台本を頭に入れたいし、どこかカフェにでも行って台本の読み込みでもしようかな。寮に帰るのも手だけど、たまにはこうして外で勉強するのも悪くないだろう。
「よし、行こ…、ん?」
カフェへ向かおうと立ち上がると目の端を何かが反射して光った。なんだろう、とそちらに目をやると隣の椅子に携帯が。……隣はあれですね。皇さんが座られてたところ……。初っ端からクエスト発生したなぁ、と思いながら携帯はさすがに無くすと困るだろうし、早く届けてあげなければ。まだいるかなぁ、と急いでミーティングルームを後にした。
「…あー…もう出ちゃってたか…」
急いでビルのロビーまでやって来たが、残念ながらそこに皇さんの姿はなかった。受付の方に預けるか…とも思ったけど、こういうのはセキュリティの問題で受け取るのも結構大変なのだ。特にこのビルの会社は。もしマネージャーさんなんかが取りにきたら本人確認とか出来ないし困るよなぁ…、とまで考えて私はロビーにあるソファに腰を下ろした。幸いここにはコーヒーショップも併設されているから本来の予定だったカフェをここにしてしまおう。30分だけ待って、戻って来なかったら受付に預けよう。そして私はアイスコーヒーを傍に、ペラリと台本を開いた。
「あ!もしもし綺羅〜?ナギ終わったんだけど今どこ?」
「すみません、皇さんの携帯を拾ったものなのですが…」
「は!?…もー…すみません、今どこにいますか?」
「渋谷にあるスタジオのビルです。ドラマの打ち合わせがあったところなんですけどご存知ですか?」
「あ〜…あのドラマの…。はい。わりと近いところにいるので…あと10分ぐらいそこにいてもらえますか」
「大丈夫ですよ。ロビーで待っていますね」
ナギ、と可愛い声で自分を読んだ彼…彼女?が、このビルまで取りに来てくれることになったので引き続き台本に目を通す。時計を見れば15分ほど経ったところだった。良かった、早めにお返しすることができそうだ。
しばらくコーヒーを飲みながらぼんやりしていると、さっきの可愛らしい声を発しそうな雰囲気の子が入り口にやってきたのが見えた。キョロキョロしているし、多分あの子で間違いないだろう。皇さんに許可なく渡しちゃっていいかな…と今更ながら思っていると、少し遅れて彼の姿が見えてホッとした。パチリと合った視線に笑みを返して私は腰をあげた。
「こんにちは、高原です。わざわざ戻ってきていただいてすみません」
「いや…俺の失態だ…ありがとうございます…」
「いえ、お渡し出来てよかったです。…あと、お電話はそちらの方ですよね?丁寧なお電話もありがとうございました」
「っえ!あ、いや…綺羅が忘れるのが悪いんだし…」
「…お若いのにしっかりされてて素敵ですね」
「そ、そりゃナギだし…。…でも、ありがとうございます」
照れ臭そうに視線を外す姿がなんとも可愛らしい。めちゃくちゃ癒される。
それじゃあ役目も果たせたことだしと、2人に別れを告げると皇さんは頷き、ナギさん?は何故か少し焦った様子を見せた。どうかしたかと尋ねればとても言いづらそうに頰を赤らめた。なんだろう。…ここは歳上だろう私が気にかけるべきだな。
「なにか気になることがあるなら仰ってください。えっと…ナギさん、ですよね?私は高原綾奈と言います」
「…!そ、そう!帝ナギ、だよ。その、キミならナギのこと名前で呼んでもいいよ…?」
「え?あ、はい。ナギくん?」
「っ…うん。こ、これから綺羅と仕事するならナギと会う機会も多いだろうし…、」
「、!そうなんですね。じゃあその時は声をかけてもいいですか?ナギくん」
「ま、まぁ綾奈ならいいけど!」
「フフッ。はい、分かりました」
満足そうなナギくんの可愛らしさに顔が緩む。男の子なのにめちゃくちゃ可愛いし、これが俗に言うツンデレ…!
よかったなナギ…、と少し微笑んでナギくんの頭を撫でる皇さんに、ナギくんはハッとしたのか更に頬を赤らめて、もーっ!、と怒った。可愛い。
そして今度こそ本当に2人と別れた。お茶はしてしまったし、このまま寮に戻ろうかなと足を動かした。
ドラマの撮影は今週末から。台本を頭に叩き込むのは勿論だけど、役としての気持ちもいれていかなければ。皇さんも言葉数は少ないけど、丁寧な方だし好印象だ。絶対いいものにしたい。
「綾奈!おかえりなさいっ」
「あ、セシルくん!ただいまです。ランニング中ですか?」
「Yes.でも今は休憩です。綾奈の姿が見えたから」
「あああお邪魔してしまってごめんなさい…!」
もう少しで寮に着く、というところで前方から走ってきたのはセシルくん。どうやらカミュさんからの課題の途中のようだ。木々に囲まれたこの道は、木漏れ日が降り注いでキラキラしていて、セシルくんをより一層神秘的に見せた。
どうして綾奈が謝るのです?、と心から不思議そうに首を傾げるセシルくんに、思わず言葉が出てこなかった。う〜〜〜ん、つまり私が気にすることではないと、そういうことなんだろうけど…。
少しは自分に自信をつけられたかと思っていたけど、やっぱりまだまだだなぁ。自分を信じるということに関してはセシルくんから学ぶことはきっと多い。だって彼は、初対面で自分が1番七海ちゃんの曲を上手く歌えると豪語したのだから。今の私でも、七海ちゃんの曲を歌いたい、歌わせてほしいとは言えるけど、私が1番だと言える自信は…まだ持てない。それはST☆RISHのみんながとても素敵で大好きだからというのもあるけれど。
なんでもないです、と首を振り、どこに行っていたのかと尋ねてきたセシルくんにドラマの打ち合わせだと言うと、ファンタスティック!、とめちゃくちゃ綺麗な目で感心されて照れ臭い。何の役をやるのですか?、と興奮気味に質問する彼はとても純粋な目をしている。
「多重人格者の役です。1人5役…みたいな感じですね」
「綾奈が5人…!?これが噂の影分身の術ですね!」
「えっあ、違います違います私ニンジャ違います」
「そうなのですか…残念です…」
しゅんと眉を下げるセシルくんに何も悪くないはずなのに胸が痛んだ。そしてキュンとした。可愛い。こんなに可愛いくて、でもかっこよくて純粋な王子様がいるアグナパレスって安泰すぎません…?
やっぱり外国の方からすると日本の文化は面白いものに映るということなのだろうか。まぁ、確かにそういう術が使えたらいいなとは思いますけども。影分身使えたらもっとたくさんレッスンも出来るし。
もう今日のトレーニングはお終いにします!、と宣言したセシルくんに思わず苦笑を返し、そのまま2人並んで寮へと向かった。
「…あれ?なんだか賑やかですね」
「彼等の声がします。何をしているのでしょう」
「少し覗いてみましょうか」
一つのレッスンルームを通り過ぎようと歩いていると、少し空いた扉から漏れる聞き慣れた声が。いえワタシは、と断ろうとするセシルくんの腕を少し強引に引っ張って私達はその扉から顔を出した。
20191113