第2章:うたプリアワード
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「シャイニング事務所、高原綾奈です。よろしくお願いします」
第14話
「はー…緊張した…」
今日は短編ドラマのオーディションを受けに行っていた。演技はしたことのない分野なだけに手探りではあったが、審査員の反応は悪くはなかったように思う。反省点はもちろんたくさんあるけど、とりあえずやることはやった。今日は頑張ったご褒美に有名店のプリン買っちゃったぜ〜!、とルンルン気分で寮に帰ってきた。するとピアノの前で曲を奏でる七海ちゃんの姿が。弾いてる曲は新曲だろうか。初めて聴く、明るくテンポのいい曲は私の心を更に踊らせた。
「…素敵な曲ですね!新曲ですか?」
「あっ綾奈ちゃん!お帰りなさい!これは寮に越してきた時に皆さんにそれぞれお渡しした曲で…今朝翔くんに歌詞を頂いたので音と合わせてみたくて」
「ただいま。あぁ、あの時の。確か翔くんの出演してるケンカの王子様でも挿入歌になるんでしたっけ」
「はいっ!…あっ綾奈ちゃん、是非目を通してくださいっ。…昨日、翔くん綾奈ちゃんとのことで気落ちしていたから」
歌詞を見てもらえれば翔くんの気持ち伝わると思います、という七海ちゃんの言葉に私はゆっくりと歌詞に目を通していく。翔くんが気にすることじゃないのに、それでも私を傷付けてしまったと落ち込む翔くんは本当に優しい人だ。
そして、この曲も。そんな翔くんの優しさが溢れていて、勇気も元気もくれる。自然と口角が上がるのが分かった。
「…翔くん、飛べたんですね」
「はい!今日の撮影でもバッチリだったそうですっ」
「そっか…。すごく良い歌詞だ」
「…綾奈ちゃんが教えてくれたって、翔くん言ってたよ。助けてくれた後も謝んなきゃって」
「…教えたなんて大袈裟ですよ…。私はただ、信じていただけだから」
翔くんは飛べる。そう信じることは彼が思っている以上に簡単なことだ。だって彼は今までもたくさんの壁を乗り越えてきた人だから。
「ところで、助けてくれた、てどういうことですか?聞き逃しませんよ七海ちゃん」
「えっ?あ、あの…!そ、それは」
翔くんの忘れ物を届けに行った際に、崖から落ちそうになったところを翔くんが対岸から飛び移って助けたのだと聞いて気が遠くなりそうだった。お願いだから無茶しないで二人とも…。無事で良かった、と彼女の手を握ると少し指の先がカサついていた。崖に掴まった時に負ったものだろう。商売道具でもあるけれど、それ以前に大事な体だ。翔くんも特に怪我は無かったそうで心底安心した。
本当に気をつけてね、とぎゅっと手を握れば彼女はしっかりと頷いてくれた。そして、プリンがあるのだけど、と話をすれば女子会開催待った無しです。
「綾奈っ!!」
「、翔くん!こんばんは。撮影うまくいったそうですね。七海ちゃんに聞きました!」
「えっ、あ、あぁ」
「…この前は不躾なことを言ってごめんなさい。反省するべきは私なのですから、もし謝ろうとしているならそれは無しですよ」
七海ちゃんとの女子会を終えて自室に戻ろうと廊下を歩いていると呼ばれた名前に振り向く。そこにはいつもの明るい表情が鳴りを潜めた翔くんの姿。七海ちゃんから気落ちしていたと聞いていたけど、いざその姿を見るととても心が痛む。
今は撮影が上手くいったことを喜んでください、と笑うも彼の表情は浮かない。けれど、一度ギュッと目を閉じてから再び見えた翔くんの瞳は迷いのない、いつもの強い瞳だった。
「…お前が信じてくれてることを思い出せたから、俺は飛べた。綾奈がいて、七海がいたから」
「…はい」
「マジでありがとな。…日向先生のファンを辞めるって言ったら七海もお前と同じこと言ったよ。辞める必要なんかあるのかって。…なんかほんと、お前等二人って似たもの同士なのな」
「…ふふっ。学園時代にも渋谷ちゃんに良く言われました。…でも、そうですね。私も似たもの同士だなって思います」
ありがとう、と謝罪ではなく感謝の言葉を述べる翔くんの表情はスッキリとしていた。どうやら吹っ切れたらしい。日向先生への憧れの気持ちも、きっと彼の中では変わることはないのだろう。だって、そしたらそれは翔くんじゃないもの。日向先生に希望をもらって、そしてそれを糧に翔くんが頑張ったから今日の翔くんがいるのだ。人生とはそうやって繋がっているものだ。
私と七海ちゃんが似ているというのは結構言われてきたことだ。どこか抜けてるところもそうだけど、頑固なところとか。そして、自分の夢に対する想いも似通っていると感じる。七海ちゃんの人生は、私のifの人生のようなものだと思うのだ。
「きっと私が作曲家を目指していたら、七海ちゃんのような生き方だっただろうなって思うんです。でも私はアイドルというものに魅せられて、たくさんのことを経験した。たくさんの人に育ててもらった。そしてここにいる…一人の高原綾奈になったんだと、そう思うんです」
「…うん?」
「ふふっ。私の歌は私にしか歌えないし、七海ちゃんの曲は七海ちゃんにしか書けないってことです!」
頭にハテナを浮かべる翔くんにまた笑みを零し、気付くと私達の間にあったモヤモヤは消えていた。
それから少し話して、オンエア楽しみにしてますね、と手を振って背中を向ける。角を曲がろうとしたところで、綾奈!、ともう一度翔くんに呼ばれる。振り向いた先にいる翔くんはさっきと変わらない場所にいて、私の背中をずっと見送っていたのが分かる。
「関係なくねぇから!お前は俺の、…俺たちの大事な仲間だからな!」
「、!」
じゃあな!、とニカッと笑って去っていった翔くんを呆然と見つめながら、言葉を理解して顔に熱が集まる。お前には関係ない、と言われて隠しつつもショックを受けていた私の心を彼は見透かしたのだ。ああ〜…、と思わずしゃがみ込んで顔を伏せる。ほんと…年下なのにかっこいいなぁ…。
翔くんには本当にいつも救われてばかりだ。彼は当たり前のように元気も勇気もくれる。今回みたいな普通なら諦めてしまいそうな高い壁も、乗り越えてしまうのだ。彼のあの天然の魅力はそう真似できるものでは無い。
「わっ!驚いた〜!こんなところで蹲ってどうしたの?」
「…!す、すみません月宮先生…!」
まさか翔くんがかっこよすぎて蹲っていた、だなんて言えるはずもなく、声をかけてくれた月宮先生に謝罪する。体調を崩してるとかじゃないなら気にしないで、と笑う先生にホッと息を吐く。するとそこで先生は私の部屋へ行こうとしていたのだと話してくれた。なんの用事かと聞けば、先生はフッフッフッ…、とイタズラっこのように口角をあげた。
「今朝綾奈ちゃんが受けたオーディション!合格したわよ!」
「………え?」
どうやら監督さんがイメージぴったりだって思ったらしくってね〜!すぐに連絡がきたのよ〜!、とキャッキャとはしゃぐ先生を呆然と見つめる。中々実感の湧かない私の様子に先生は私を覗き込んで、…嬉しくない?、とニコリと笑った。その笑顔を見てブワッと一気に実感が広がった。
「嬉しい…!嬉しいです、とても…!わた、私!頑張ります!!」
「ウフフ。その意気よ綾奈ちゃん!まーくんにもオーディションの話が来たし、綾奈ちゃんに続いて欲しいわ〜!」
「聖川くんも…!彼はとても努力家ですから…私も気張らないとです!」
いつでも相談してね、とドラマの資料を渡してくれて、ウィンクを残して月宮先生は機嫌良くその場を後にした。逸る気持ちについついその場で書類を確認していく。…顔合わせは3日後。既に相手役は決まっているらしい。その彼を気に入った監督さんが彼を起用したドラマが撮りたいということで今回のドラマが決定したようだ。きっとよっぽど素敵な人なのだろう。足を引っ張らないようにしないと。
「漢字難しいな…。す、皇…でいいのかな。皇綺羅さんか…」
めちゃくちゃ綺麗な名前に思わず息を飲んでしまった。今からとても緊張する。…けれど緊張なんてしていられない。
「私も、翔くんに続いてみせます…!」
でっかいハートを持って、私にもきっとある翼で夢へと飛んでみせる。
20191025