第2章:うたプリアワード
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「やっぱり映画と言えばホラーだよね〜!」
第12話
ホラー映画。その言葉に私の笑顔が凍りついた。今度のロケが心霊スポットでの撮影だから参考になるかと思って〜、とにこやかな寿さんに私はなんの反論の声もあげない。というか仕事関連ならあげられない。
無だ。無になろう。とりあえず四方を囲んで安心を得たい。そう思って私は黒崎さんの隣のソファに座る。こっちは二人がけなのだ。左側は…あいてしまうけど左前方に寿さんの座る1人がけのソファが視界に入るからまぁ良しとする。あとは上と…心の安寧の為にクッション的なものがほしい。キョロキョロと周りを見渡してみると多分一十木くんのスペースであろう場所に赤い大きめのクッションが。これだ。これしかない。
「これ…少しお借りしてもいいですかね…?」
「クッション?大丈夫じゃない?音やんなら怒らないでしょ!ましてや後輩ちゃんだし!」
「今度言っておきます…。あとなんか…こう…ブランケット的な…」
「あり?寒い?あれだったらエアコンいれるけど…」
「あっいえそれは大丈夫です!かけておきたいだけなので…」
「そ?…あ、じゃあ僕のパーカーでもいい?それならすぐ出せるし」
「ありがたすぎます…お借りします…」
女の子だし体冷やすと良くないもんね〜!、と黒のパーカーを差し出してくれた寿さんに苦笑を返しながらソファに戻ってパーカーをフードまで被り、クッションと一緒に膝も抱える。おっとこれは完全装備なのでは。
これでなんとか乗り切ろうと気持ちを落ち着けていると隣から視線が。隣で肘掛に手を置きながらこちらを見る黒崎さんは呆れたように、お前怖ぇんだろ、とため息と共に吐き出した。
「えっ!そうなの!?じゃあやめとこうか!」
「い、いえ!その、怖いか怖くないかで言えば勿論怖いのですが、これが先輩のご鞭撻であるならば私は喜んで受け入れる心持ちでございまして、」
「これがロケの参考になる訳ねぇだろ。参考になってたまるか」
「いえ!で、でもお二人の反応が勉強になることもあるかもしれませんし!私は!大丈夫なのです!」
「自分に精一杯なやつが人の反応見てる余裕なんてねぇだろうが。ったく、それ素かよ。おい嶺二、観るなら他のにしろ。隣で叫ばれたらかなわねぇ」
「ランランの言い方はアレだけど〜、無理しなくていいんだよ後輩ちゃん。ごめんね、気付かなくて」
別のにしよっか〜!、と優しい笑みを向けてくれる寿さんに私の中で衝撃が走る。せ、先輩方に気を遣わせてしまった…!!!!ド新人アイドルが大先輩にそんな…!だめだ!それはダメすぎる!!!!混乱した頭でどの映画にしようかディスクを眺めている寿さんの腕をガッと掴む。後々考えたらこの行動の方が失礼すぎる。けどそれほど混乱していたのだと察してほしい。
「わっ!ど、どしたの後輩ちゃん?」
「ほ、ホラー映画で構いません!大丈夫です私!」
「え、いやでも、」
「寿さんと黒崎さんがお隣にいてくださるのに何を怖がることがありましょうか!大丈夫です!私、叫び声上げるたびに自分のことビンタしますので!」
「おいだからテメェは落ち着け!!」
バシッと黒崎さんに頭を叩かれて座らされた私に寿さんは苦笑をこぼし、じゃあ本当にダメだったら辞めようね、ととりあえずホラー映画を観る流れになった。隣からクソデカため息が聞こえますが、私はやります。やってみせます。なにせ私は苦手なものが多すぎる。一人では中々克服しようと思えない事なだけに、これを機会に乗り越えたいところでもある。ムンッと気合をいれてクッションを抱き締めた。
「はぁ…はぁ…」
「おっまえほんと…いい加減にしろよ…!」
「…すみ、ません、黒崎さん…私…」
「あ"ぁっ!?」
「ホラー…苦手なんです…」
「見りゃ分かるわ!!!」
「あはは…こりゃ困ったちゃんだねぇ」
結果的に言うと、ダメだった。めちゃくちゃビンタした。最初のうちは呆れていたお二人も、気付くと焦った表情でそれぞれに片方ずつ手を拘束されていた。そうでもしないと私は自分に容赦のないビンタをくらわすからだ。いやもうほんと…生きた心地がしなかった。私にホラー関連のお仕事はダメだ…向いてない…。
お疲れ気味のお二人もハァと息を吐いた。その手はまだ繋がれたままだ。とても暖かくて大きな手。もう大丈夫です、と笑ってもジロリと見られて離してくれない。…信用をなくしてしまったらしい。流石にもうさっきのビンタで寿さんがDVDを停止にしたので映像は映ってないし大丈夫なのだけど。…いや嘘まだちょっとさっきの恐ろしい場面が頭をよぎってるから温もりは正直嬉しいです。
「なーんかST☆RISHとは別方面での問題児だね、後輩ちゃんは」
「…正直、月宮先生をたくさん困らせてきました…」
「ったく…普通アイドルが自分の顔を引っ叩くかよ…ましてや女だろ…」
「脳筋なんです…」
女の子は怖いならキャーッて男に抱き付いてればいいんだよ?、なんてアドバイスを頂きました。しまった怖すぎてそんなの頭になかった。固まってしまったもんな私…。今後の参考にします!と真面目に応えたが黒崎さんにまたもや頭を叩かれた。痛くはないけど、多分めちゃくちゃ呆れられている。女子校育ちなだけに男の人への対応が正直イマイチ分からない…、なんて思ってると寿さんは、でも意外だったなぁ、とこぼした。意外?
「ほら、後輩ちゃんって結構おっとりしてるし、なっつんみたいにホラーとか動じなそうだなって思ってたんだよね」
「おっとり…してますか?私。鈍臭いだけなのでは…」
「してるしてる!纏う雰囲気が柔らかいんだよね。…でも肝も座ってる。ステージであれだけ堂々と歌う姿には嶺ちゃん感心しちゃったもん!」
「…なんだか他の方から自分の印象を聞くのって新鮮です…」
「これからどんどんそう言う機会はでてくるよ。…あ、だからね?ホラーがダメとか想像もしなかったんだよね、メンゴ!」
眉を下げてウィンクしながら謝る寿さんはとても様になっていて可愛い。すごい、これがアイドル。謝罪に対する返事が、勉強になります、て返してしまったあたりが私の鈍臭さが出てる。それにも笑ってもらえたから良しとしよう。
じゃあ休憩ターイム!、と言ってお菓子を勧めてくれた寿さんは本当に気遣いの達人だ。甘いものだとドーナツはお好きとのことだったから今度私のお気に入りのドーナツを差し入れさせて頂こうと思う。
ちなみに黒崎さんは甘いものならずんだ餅がお好きなのだとか。ずんだかぁ…そういえば私は食べたことないなぁ、とこぼしていると今日私が持ってきた大福の中にずんだ餅があった。なんと!
「黒崎さん!ずんだ餅があります!是非召し上がってください!あっ緑茶とかのほうがいいですかっ?」
「別にいい。つーか、お前食ったことねぇんならお前が食えよ」
「えっ?」
「おー!ランランってばやさすぃー!どしたのどしたのっ?可愛げのある後輩ちゃんにハートを射止められちゃった?」
「テメェは大福でも食って喉つまらせろ」
「ドイヒー!」
でもこう言ってるし後輩ちゃんが食べなよ、と勧めてくれるお二人にどうするべきか悩む。先輩がそういうなら甘えたほうがいいのだろうか…ああああ先輩っていうものもこれまでの人生でほとんど無かったから対応がわからん…。μ'sは上下関係は気にしない約束だったからなぁ。うーん、と悩んで私はハッと閃く。
「黒崎さん、どうぞ召し上がってください」
「だからいいって言ってんだろうが」
「僭越ながら半分こ!です!美味しいものはシェアしないとねって色男さんに教わったのです」
「………はー。ったく、わぁったよ」
「いかがですか?」
「…うめぇ」
「んー!いいねいいね仲良し!微笑ましいね!」
「寿さんも!半分この半分こです!」
「いいのー!?ありがとっ!じゃあアーンしてほしいな〜?」
「はいっ!アーン」
「…うーん、美味スィー!」
「はいっ!皆さんで食べるととっても美味しいですねっ」
「…こいつマジでこれが素かよ…」
「…うーん、天然たらしだねぇ、これは」
頼んでおいてあれだけど男にアーンを強請られても易々とやっちゃいけないよ、と肩をポンと叩かれた。何をそんなに心配してくれてるのかは分からないけど、美味しいものをシェア出来たのはとても嬉しい。今とても神宮寺くんの気持ちがわかる。これはニコニコしちゃうなぁ!
そのあとはめちゃくちゃマリカした。カーブで曲がる度に体まで動く私にまたもや爆笑された。ぐぬぬ。
しばらく白熱していると一十木くんが帰ってきて彼も参戦。ずっと抱えた状態だったクッションについて断ると、彼は白熱した為に暑かったようで顔を赤らめながら、全然いいよ!、と笑ってくれた。匂いとか大丈夫かなと一応確認したけどお気に入りの洗剤の匂いだった。セーフセーフ。
夜も段々ふけてきたころ、そろそろ御開きにしようと腰を上げる。トキヤくんはまだ帰ってきていない。声をかけたかったけど仕方ない。
寿さんに借りていたパーカーは洗ってお返しする旨を伝えると、彼はいいよいいよ、と笑った。そんな訳にはいかないのだけど、無理矢理持って帰るのもちがうよなぁ、と考えてお礼を言いながらそのまま渡す。と、彼はあろうことかそれに顔を埋めた。なっちょっえ!?!?
「うーん!後輩ちゃんのいい匂い!僕ちん今夜これに包まれて寝ちゃおうかな〜?」
「ええっ!?ちょっと嶺ちゃん!羨まし…じゃなくてダメだよそれは!!」
「変態かテメェは」
「あはは〜!ジョーダンだって〜!」
驚いたけどそれが私をからかうものだとすぐに気付いた。だって今日散々笑われたもの…。一矢報いたい!、なんて思ってしまうのは私の負けず嫌いな部分なので仕方がない。
「私は今日、ずっと寿さんに抱きしめられてるみたいでドキドキしてましたよ?」
「「!?」」
何あの子実は小悪魔!?、なんて言う騒ぐ声を聞きながら私は一人先に自室に戻るべく、部屋を出たのだった。
20190910