第2章:うたプリアワード
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まぶしいあした抱きしめに行こう
全部、かなえよう
第11話
ついにデビューライブ当日。ダンスレッスンにたくさんのリハーサル。あっという間の1週間だった。夜空に星を散りばめたようなドレス衣装を身に纏い、深呼吸をする。力の入らない左手にはマイクをセットしやすいグローブ。一見すればただの衣装デザインに見える。数人のスタッフさんには事情を説明していたけど、さらにオシャレにも仕上げてくれたのだから本当に感謝でいっぱいだ。
これまでもμ'sとしてたくさんのステージに立ってきた。けど、今日ステージにあがるのは私一人。心細いと思うのは仕方ない。ステージ前のあの円陣を組めないのは思っている以上に寂しいものだ。それでもμ'sは解散した訳ではない。…と、私は思っている。スクールアイドルとしての活動はお終いにしたけど、私達の絆は繋がったままだ。みんなそうだと言葉にはしていないけど、先ほど携帯を確認した時にみんなからメッセージが来ていたことが証拠だと思う。ダメ元で送ったライブのチケットも受け取ってもらえたようでみんなで来てくれているらしい。それだけで、私は一人じゃないと思える。
『あこがれを語る君のゆずらない瞳がだいすき』
「…ありがとう、みんな」
さぁ、夢を叶えにいこう。
「っ今日は…来てくれてありがとうございます!楽しんでいただけてますか!?」
キラキラと輝くペンライト。私のイメージカラーはμ's時代から藍色だったんだけど、今日のステージではその藍色の中にたくさんの黄色のペンライトも輝く。それが、夜空に輝く星々のようで目頭が熱くなる。たくさんの人の笑顔が見える。私の歌で笑ってくれる人たちがこんなに、たくさん。
「…次は今日初めて披露する新曲になります。たくさんの想いを込めました。スクールアイドルをしていた時から早乙女学園、そして今日に至るまでの私の想いを。…多くは語りません。歌で、それを伝えます!…シアワセ行きのSMILING!」
ずーっと夢はかなうんだと言い聞かせてきた
ちょっとずつでかまわない
とにかく、ね? 進もう!
トラブルも笑顔でくぐり抜けて
一緒にミライへ飛んじゃえ
心から「すき!」だと伝えていいんだね
腕を組もうよ
勇気を倍にするよ!(ねっ?)
ヨロコビの(Lucky!)
予感が胸で踊りだすよ(I makin' Lucky!)
ヨロコビを(Lucky!)
逃がさないで…CATCHING!(いっぱいCATCHING!)
そう、もっと君も楽しくならなきゃ(そうもっと!)
LOVE Power Power on! ステキに笑おう
力の入らない左手でぎゅっとマイクを握り締め、大きなステージを駆け巡りながら披露する新曲。みんなの笑顔を間近で見られた新曲。μ'sのみんなも、ST☆RISHのみんなも聴いてくれている新曲。たくさんの笑顔であふれる景色に、あぁ私はこれが見たかったんだ、と歌いながら涙を零した。
私はずっと、どこかでμ'sであることに不安を抱えていた。だって今の私は一人だからだ。こんなにも一人が寂しくて、でもメンバーはもうそれぞれの未来を歩いている。私だけがμ'sに執着してしまっている、そう思っていた。…でも、今日自分の中で決着が着いた。
私はμ'sだ。
けれど一人の高原綾奈というアイドルでもある。
μ'sであったから、早乙女学園に入学し、そしてST☆RISHのみんなに出会えたから今日の私がいるのだ。
そんな日々を積み重ねてきたから、今日の私は笑っている。
「あ!後輩ちゃ〜ん!久しぶり!この前のライブ最高だったよ〜!」
「寿さんっ!お疲れ様です!来てくださっていたと聞いてました。ありがとうございます」
「後輩ちゃんの晴れ舞台だからね〜!って言っても僕ちんはミューちゃんやアイアイみたいに何かしてあげた訳じゃないんだけどっ」
「そんな。先輩方の存在にいつも本当に刺激を受けてます。特に寿さんのアドリブ力は凄いなって思ってます」
あれ〜!?僕ちんが褒められちゃった!、と戯けてみせる寿さんに私も笑顔を零す。
デビューライブを無事に終えた私は数日の休息をもらっていた。ライブの発表から落ち着いたお休みがなかったからという社長のご配慮だ。とは言っても休み方が分からなくて今日もとりあえずトレーニングルームに行こうとしているんだけども。
寿さんも今日はオフなのか、Tシャツにスウェットと言うラフな格好をしていた。今日はゆっくり過ごされるんですか?、と尋ねれば彼は大きく頷いてゴロゴロする宣言をした。なんとも贅沢なオフの使い方だ。私もそういう日を作るのもいいな、なんて。
「でも話し相手も欲しくってさ〜音やんもトッキーも仕事で部屋で一人寂しいんだよね〜。だから誰か誘おうかと思ってたら…君に出会ったってわけ!良かったら僕ちんとゴロゴロしない?」
「えっあ…ふふっ!そんなお誘い初めてです。勿論、私で良ければ。ちなみにゴロゴロってどんなことを?」
「そりゃ〜ゴロゴロはゴロゴロだよん!お菓子とお茶を用意して映画見たり〜ゲームなんかしちゃったり!」
「わぁ…!素敵ですね…!」
でしょでしょっ!、と笑った寿さんは他にもメンバーを集めてくるから30分後に僕の部屋で会おう、と言ってその場を去っていった。思い掛けないお誘いをしてもらった。トレーニング用に持っていた荷物は置いてこよう。ゴロゴロするのに適したお菓子って何か部屋にあったかな、とこれからの時間に想いを馳せた。
「おー!さすが女の子っ!持ってきてくれるお菓子もレベルが高いねぇ!」
「カヌレと…頂き物なんですけど大福です。どっちもオシャレで一人で食べるの勿体ないなって思っていたので良かったら一緒に!」
「へ〜最近はこんなにオシャレなんだ。甘いものを食べる習慣がないから知らなかったな〜。ランランは甘いもの大丈夫だっけ?」
「甘ぇもんはカミュにでもやっとけ。つーか、なんでそいつがいんだよ。次のロケの打ち合わせなんじゃねぇのかよ」
「え…ええっ!?い、いま二つの事に驚いてますどどどこからお聞きすれば良いのやら…!」
「あははっ!落ち着いて二人とも〜!」
30分後に寿さんの部屋に集まったのはなんと黒崎さん。驚いたけど意外と仲が良いんだなと思ってお部屋にお邪魔する。…あ、そういえばここって一十木くんとトキヤくんの部屋でもあるんだった…。あとでお邪魔したこと伝えておかないと。
そしてお茶菓子にと思って持ってきたカヌレと大福。どちらも甘さが控えめな味もあるし、と思って持ってきてみたのだが、思いの外お二人は甘いものを食べる習慣がないらしく。手土産としては失敗だったと思っていると、さらには黒崎さんは…その、騙されてここに来たのだそう。そりゃ打ち合わせだと思ってやって来て私がいたら驚くわ。
思わずわたわたと焦る私に笑いながら頭を撫でてくる寿さん。帰ろうと立ち上がる黒崎さんをも丸め込んじゃうんだから凄い。大人だ…!
今度焼肉奢るから、という寿さんの言葉に再びソファにドサリと座った黒崎さんとパチリと目が合う。急なことに言葉が出てこない。ああ、やっぱり私の人見知りは治ってない…。後輩である私が視線を外すのは良くない、と引きつっているだろう笑みを向けると意外にも彼は、そんなビビってんじゃねぇよ、と返してくれた。ビビっている訳じゃないんです、これ人見知りなのでデフォなんです…とは言わずに、はい、とだけ小さく応えた。
「あ、私お茶淹れますね。珈琲とか紅茶で大丈夫ですか?」
「もっちろ〜ん!後輩ちゃんのお茶は美味しいからね!あ!でも僕ちん今は珈琲の気分だ!」
「お任せください!トキヤくんにご教授いただいて珈琲の淹れ方も履修済みなのです!黒崎さんも珈琲で構いませんか?」
「…おう」
「えー!出来る子すぎる〜!楽しみだねぇランラン!」
「うるせぇ!いちいち突っかかってくんな!」
ランランひどーい!、と泣き真似をする寿さんと黒崎さんのやり取りはなんだかコントみたいだ。とても息があってるというか。そういえばお二人でやられてるバラエティ番組もあったっけ、なんて考えながらこの部屋のキッチンを借りる。さすがトキヤくんが使ってるだけあって綺麗に整頓されている。そこには見覚えのある蜂蜜なんかも置いてあって自然と笑みが溢れた。
「えっ…ど、どうされたんですかお二人とも…!?」
「もー!後輩ちゃん聞いてよー!ランランってば僕ちんのこと年増呼ばわりするんだよ!?」
「と、年増…!?」
「うっせーなアラサーなんだから立派なおっさんだろうが」
「ランラン僕とそんなに年齢変わらないでしょ!えーんどう思う後輩ちゃ〜ん」
珈琲を淹れて戻ってくれば言い合うお二人。いちいち後輩に泣きつくな!、と言う黒崎さんの言葉を聞きながら私はどの返答が最適解なのかと冷や汗を垂らしながら考える。アラサーと言っても寿さんは年齢を感じさせないぐらい明るくて若いイメージがあるし、それに今をときめくアイドルな訳だし、男は30からと言う言葉もあるし、ああああいやまだ寿さんは20代だし若いんだけどあああああ困ったああああ
「寿さんならアラサーだろうとアラフォーだろうとアラハンドレッドだろうとずうっとアイドルだと思います!!!」
そんな冷静さをかいた私が発した言葉に、一瞬間を置いてお二人は大爆笑なされた。埋まりたい。
20190909