第2章:うたプリアワード
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「…私はあなたに謝罪しなければいけません」
第9話
色んなお店を見て回り、少し休憩しようかとテラス席のあるカフェへと入った。テラス席と言っても、通りからは少し見えにくい隠れ家感の強い場所だったので身バレの危険も低そうだ。せっかく天気も良いのだから、と私達はそちらの席に腰を下ろした。そしてお互いに注文をし、目当てのものが来たところでトキヤくんは少し思い詰めたような表情で口を開いた。私に謝ることがあると。
「あなたが階段から落ちた時のことです。…社長と愛島さんに聞きました。私が誹謗中傷されたことに関して怒り…そしてあの騒動になったと」
「…キッカケはそうであっても、私が勝手に怒って、そして招いたことです。トキヤくんは何も悪くないんですよ。…そんな顔しないでください」
「あなたという人は…あんな大きな怪我までして何故そう言えるのですか。もっと責めていいんです」
打ち所が悪かったら本当にどうなっていたか、と更に苦しそうに俯くトキヤくんにやっぱり知られたくなかったと悔やむ。左手のことを知らない状態でこの反応なのだからもし知ってしまったら…それこそ彼はずっと気に病んでしまう。だからこれだけは、絶対に隠し通さなければならない。
テーブルの下でぎゅっと手を握り、気持ちを落ち着かせるように一度深呼吸をする。
「…あのね、トキヤくん。私、きっとトキヤくんが思ってる以上にトキヤくんのこと大好きなんです」
「な、」
「大好きな人を馬鹿にされて黙っているような人間でいたくないんです。トキヤくんだって、ST☆RISHや七海ちゃんが馬鹿にされたら怒るでしょう?」
「……それは、もちろん」
「そういうことです。でもきっとトキヤくんなら階段から落ちるなんてヘマはしません。私が鈍臭いから偶々落ちちゃっただけです。だから謝罪はいりません」
「…私は、綾奈が馬鹿にされても当然怒りますよ」
「ふふ。とっても嬉しいです」
こういうことに関しては本当に頑固ですね、と苦笑したトキヤくんにヘラリと笑いかえす。もうしないとは約束出来ない。そんなやり取りを前にプールでもしたなぁ、なんて思い出しながらまだ温かい珈琲に口をつけた。
「お。やっぱりそうだ。やぁ、レディにイッチー。デートかい?羨ましいね」
「レン…」
「神宮寺くん!ビックリしました。お仕事終わりですかっ?」
「うん。そしたら見覚えのある背中が見えたからつい邪魔しに来ちゃったよ」
「邪魔な訳ないじゃないですか!お仕事お疲れ様です。良かったら一緒にどうですか?」
「嬉しいお誘いだ。いいかい?イッチー」
「…構いませんよ。あなたなら音也のように騒がしくしませんし」
思わぬ一十木くんへの流れ弾に思わず苦笑する。これまでに騒がしくなっちゃったことがあるってことなのかな。でもそれは想像するだけでとても微笑ましい光景だ。
私とトキヤくんの前に置かれてるカップを見た神宮寺くんは、もう一杯ご馳走するからもう少しゆっくりしよう、と提案した。ゆっくりすることには勿論異議はないけど、ご馳走なんてそんな。お疲れのところを引き止めてるのは私でもあるし、と遠慮しても神宮寺くんはスマートにそれを却下し、私の口から紅茶を、と言う言葉を聞き出した。な、なんて手腕だ…。トキヤくんは特に気にすることもなく珈琲の追加を頼んでいた。うーん、これがこれまで一緒にいた時間の違いか。二人は学園でも同じクラスだったし、気のおける関係なのだろう。
外で待たせている車を返すように電話してくるよ、と席を立った神宮寺くんを見送り、仲良しさんですね、と笑うとトキヤくんはめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。彼のそんな表情を見るのは私的にはかなりレアだから驚いた。
「確かに彼とはクラスも同じでしたし、行動を共にすることも多かったですが…そう言う言い方をされると否定したくなりますね」
「ええっ?充分仲良しさんに見えますよ?なんというか…悪友感?があって素敵です!」
「あぁ…それなら納得は出来ますね。…レンにはよくからかわれますし」
「ふふ。だからトキヤくんもどこか気楽な感じで話されてるんですね」
だからと言って他の人とは他人行儀に見えるという訳ではないけど。過ごす相手によって自分の気持ちが変わるのは私にもよく分かるし、それは全部ポジティブな気持ちだ。
しばらく二人のこれまでの思い出話なんかを聞いていると、お待たせ、と戻ってきた神宮寺くん。電話するだけにしては遅かったな、と視線を上げれば彼の手にはたくさんのサンドイッチやミニケーキなどが乗ったトレーが。よもや1人前ではない。
思わず神宮寺くんの顔を見ればニコニコと笑みを浮かべてとても楽しげだ。それに相反してトキヤくんはジト目で呆れたように彼を見ていた。やっぱり神宮寺くんに対する態度は年相応っぽくなるなぁ、なんて。
「ず、随分たくさん買ってきたんですねっ。そんなにお腹空いてたんですか?」
「少しね。けれどどれも美味しそうで迷ってしまったから全部買ったんだ」
「お金持ちの買い方だ…」
「レディとイッチーも好きなものを取って。美味しいものはシェアしないとね」
「レン…。毎回そのやり方はやめてください…」
「勿論残すなんてしないさ。今までだってそうだったろう?」
お?どういう意味だ?、とトキヤくんへ視線をやれば、学園時代にも似たようなことが何度もあったのだそうだ。少食なトキヤくんの昼食にポイポイと追加したり。そのこともあって神宮寺さんと食事をとる際はプチビュッフェになることもしばしばあるそうだ。否定してたけどめちゃくちゃ仲良いじゃないか、と私はクスクスと笑った。
私もミニケーキをいくつか頂いて頬張る。わ…ここのケーキ初めて食べたけどめちゃくちゃ美味しい…!隣でサンドイッチを口にしているトキヤくんの表情も緩んでいて、サンドイッチも美味しいことが分かる。そんな私達の様子を眺めていた神宮寺くんはいつもの雰囲気と違ってカラカラと楽しそうに笑った。
「二人とも、とても美味しそうに食べるね。注文した甲斐があったよ」
「だってとっても美味しいです!あ…で、でもあんまり量は食べれなくて…本当に神宮寺くん残り食べられるんですか…?まだ結構ありますけど…」
「心配には及びませんよ、綾奈。レンはこう見えて大食いの気質があります。そのくせにこのスタイルなのですから少々腹が立ちますが」
「ええ…!めちゃくちゃ意外です…!」
「まぁ、そういう体質ってことだね」
モデルの仕事も多い神宮寺くんがまさか大食いだったとは。確かに先程からとても綺麗な所作で食べ進めているけど、手が止まる様子は無い。神宮寺くんと同じペースで食べようとしたら間違いなく太ってしまう。
けれど彼は一人の時はそれほどたくさん食べるわけでは無いと言う。どういうことだ?、と首を傾げると彼はとても楽しそうにこう言った。
「一緒にいる人が美味しそうに食べてるのを見ながら食べるのが好きなんだ。だから今も最高に楽しいよ」
うわーーこの人がモテない訳がなかったーーー。
20190907