第2章:うたプリアワード
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「綾奈、少し出掛けませんか?」
第8話
衝撃のデビューライブ発表から数日。意外とこれまでと変わらない日々を過ごしていた。ただ、デビューライブで新曲を出すことになったので、作曲家さんと打ち合わせなんかはあったりしてバタバタはしているけど。
あの日のニュースジャックはかなりの反響があったらしい。チケットの売れ行きも良いらしく、ゴシップ誌に関しても突かれることもほとんどなかった。あの記事を逆手にとったのだ。所謂炎上商法というもの。社長の手腕が流石すぎます。
ST☆RISHのみんなとの仲も、学園での同期であることからそりゃ仲もいいだろう的な感じで受け止めてもらえてるらしい。嬉しいことだ。
今日も打ち合わせを終え、午前で一応予定は終わった。さてどうしようかな、とサロンでお茶をしながら悩んでいるとトキヤくんが声を掛けてきた。聞けば彼も今日はこれからオフなのだとか。とりあえずお茶を勧めて緩やかな時間を過ごしていると、彼はふと思い立ったように出掛けないかと誘ってきた。計画的な彼がこうして急に誘ってくるのは珍しい。けれど嬉しい申し出だし断る理由もない。喜んで、と笑い少しの変装をして私達は街に出る事になった。
「トキヤくんが誘ってくれるのは珍しいですね。どこか行きたいところがあるんですか?」
「えぇ少し。といっても綾奈にずっとお礼をしなければと思っていたのでそれを兼ねてます」
「お礼ですか?」
「…私がHAYATOの仕事とST☆RISHの練習で体調を崩していた時に、色々と世話を焼いてくれたでしょう?」
「えっ…そんなもう随分前のことなのに覚えてたんですか…!?全然気にしなくて大丈夫なのに!」
「当時の私にとって、綾奈の優しさにとても救われたんです。だから、受け取ってください。無理矢理にでも受け取って頂きますよ?」
「…ふふっ。そんなお礼初めてです。それじゃ謹んでお受けしますね」
えぇ、と微笑んだトキヤくんは学園の時のような切り詰めた表情はしていなくて、やっと彼の本当の姿を見れたような気がする。穏やかに微笑む姿はとても美しいしかっこいい。
トキヤくんの行きたい場所へ向かう道中もたくさんの話をする。あの日、私が差し入れとして渡したクローバー蜂蜜で蜂蜜に興味を持っただとか、あの本の新刊は読んだかだとか。本の話になるとトキヤくんは更に饒舌になる。楽しそうに話す姿が微笑ましくて、私の表情も文字通りニコニコしていたのだろう。それに気付いたトキヤくんは少し頬を赤らめて、話過ぎましたね、と咳払いをした。
「全然です。もっといっぱい聞かせてください。トキヤくんのこと知りたいです!」
「…あまりそういう言い方はお勧めしませんが…。…でも、そうですね。私はあまり自分のことを話すのは得意じゃありませんが好きな物のことなら話せます」
「はいっ。それにトキヤくんは話すのが上手なので聞いていてすごく楽しいです。知識も豊富だから私まで賢くなった気になります!」
「気になったものはすぐに調べるようにしていますからね。綾奈に戴いた蜂蜜もすぐに調べましたよ。あれは喉にもいいのですね。あれから常備するようになりました」
「わ!ほんとですか?私もお砂糖の代わりに蜂蜜を使ってお茶することも多いんです。試したことありますか?良かったら今度またお茶会しましょう!」
「いいですね。綾奈の淹れてくれる紅茶は美味しいですから楽しみです」
カミュさんのお墨付きです!、なんて笑いながら歩いているとトキヤくんが一つの店を指差した。どうやら目的地に着いたらしい。おしゃべりに夢中で全然気付かなかった。
落ち着いた店構えのここは…どうやらコーヒーショップらしい。お店の前からでも焙煎されたコーヒー豆のいい香りが漂ってくる。聞くにトキヤくんは珈琲も好きでよく飲んでいるのだとか。
「綾奈はよく紅茶を飲まれていますが珈琲はいかがですか?」
「珈琲も大好きですよ!朝はいつも珈琲です。と言ってもいつもインスタントですけど…」
「なら是非、豆からの良さを味わっていただきたいですね。ミルで自分で挽いて淹れる珈琲はまた別物ですから」
「おお…!気になります…!」
店内に入った私達はあれやこれやと話し合いながら、時折試飲なんかもさせてもらって有意義な時間を過ごした。珈琲の話をするトキヤくんはまたもやイキイキとしていて、なんだか色々役得だなぁと。こんな美人さんの素敵な表情を間近で見れるなんて、というやつだ。
「綾奈。これをプレゼントします。どうぞ使ってください」
「え、ええっ!?こ、コーヒーミルですよねこれ…!?」
「えぇ。せっかくですからここでは挽いてもらわずに自身でやってみてください。私でよければ手解きします」
「そ、そりゃトキヤくんに教わればめちゃくちゃ上達しそうですけど…」
お礼をしたいと言ったでしょう?、とここに来る間の会話を持ち出してきた彼に私は白旗を振った。謹んでお受けすると言いましたもの私。
結局、気に入った二つの豆とコーヒーミルをプレゼントしてもらえることになり私は大人しくお会計に向かったトキヤくんを店内で待つことに。うーん、なんだか私がしたこと以上のお返しをもらってしまうような…。いやでも今更受け取らないのも失礼だし…。
なんにせよトキヤくんは本当にスマートだなぁ、なんてぼんやり考えていると先程から試飲などを勧めてくれていた店員さんがフフ、と笑った。おっともしかして百面相していたか、と慌てて引き締めると彼女はとても弾んだ声で、仲がよろしくて羨ましいです、と笑った。
「え、あ、あはは…。すみません、店内でごちゃごちゃ悩んでしまって…」
「あ!いえ、とんでもございません!ただ、素敵な彼氏さんだなぁと思ってつい」
「かっ…ああああ違うんです私達はお友達で…!」
「えっ!あまりにも素敵な空間だったので恋人同士なのかと…!でも素敵なデートですね!どうぞお幸せに」
「あ、あああ…ありがとうございます…」
彼女だなんてとんでもない、それは否定は出来たけど、つい赤くなってしまった頬に店員さんは何を勘違いしたか…いや、うん。多分私の片想い的な感じで受け取っただろう。なんてど定番な展開…。いやでもこれ以上反論するのも…火に油というか…とりあえず勘違いされてしまってごめん、トキヤくん。
ニコニコと微笑んでいる店員さんに恥ずかしくて小さくなっていると、お待たせしました、とトキヤくんが戻ってきた。恥ずかし過ぎて早くこの場を去りたい私はトキヤくんの背を押しながら足早に店の外へ出た。出るときに店員さんに頭を下げるとめちゃくちゃ晴れやかに見送られた。恥ずかし死にするかと思った…。
「どうしたんですか、そんなに急かして…」
「あー…えっとごめんね、トキヤくん。店員さんに恋人だと勘違いされたあげくデートだと思われてしまいました…。あ!でも恋人っていうのはちゃんと否定して分かってもらったので!」
「……なるほど、そうでしたか。ですがデートだと言うのには変わりありませんし気にしなくて結構ですよ」
「は、……デート?」
「私はそのつもりでしたが」
そう思われていなかったとは心外ですね、なんて意地悪な笑みを浮かべるトキヤくんに私は口をパクパクとさせるしかなかった。分かってる。もれなく顔も赤い。
「い、意地悪しないでくださいトキヤくんっ…!」
「ふふ、失礼。綾奈があまりに可愛い反応をするものですからつい」
「だっ…だからそういうところですよ!!」
その子犬らしさは変わりませんね、なんて言いながら頭を撫でられてしまった。完全に扱い犬やん…。と思えばプレゼントだと言って買ってくれた荷物は、いくら自分で持つと言っても持たせてくれないし、トキヤくんは本当にずるい。かっこいい。
20190906