第2章:うたプリアワード
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「あら!綾奈ちゃんちょうどいいところに~っ!」
「へ?」
第4話
先日のみんなからの入寮の推薦のこともあって私も動かなければと、社長にアポイントを取っていたので社長室にやってきた。するとそこには月宮先生もいらっしゃって私の姿を見るとその大きな瞳を輝かせた。なんだなんだ、と思っていると目に入る大きな円形の紙。に、墨で大きく書かれたひらがな。そしてその円形の紙を作るべくハサミを手にしている月宮先生。…あ、なんとなく読めたぞ。
予想通り、ズズイと大きな紙とハサミを渡してくる月宮先生に慌てて今日は社長に用があったのだと話す。そうなのね、と納得してくれたがその後の予定を聞かれたのでこれはそういうことですね。
「社長。お忙しい中お時間頂きありがとうございます。今日は希望しているマスターコースの件で参りました」
「ン~!ST☆RISHやQUARTET NIGHTからも聞いてますヨ!Ms.高原!彼等は是非ともYouをこの寮にとのことでしタ!」
「…はい、私も聞き及んでおります。私も、尊敬できる彼等の近くで上を目指したいと思っております。…異性アイドルの先輩なんてと思われるかもしれませんが、」
「ぜーんぜんOK!OKなのヨ~!」
「…へ」
これでも意を決して言ったのだが、社長は私の言葉に食い気味で了承してくれた。なんでも、今のシャイニング事務所は男性アイドルが強く、少ない女性アイドルの先輩は中々に手がいっぱいなのだとか。そこには社長も色々考えてくれていたようで、今回の件でどうせならと思ってくださったらしい。
アタシが担当するわよ~!、と月宮先生も仰っていたらしいが、先生はアイドル業に加えて社長の補佐…というか雑務?もこなされていることもあって除外したのだと。
「何より面白いことが起こりそうな気がしましたからね~っ!Youは今日からマスターコーーーースッ!そして~~~QUARTET NIGHTの直属の後輩になりまーーすぅ!!」
「ん~!たしかに面白いことになりそう!綾奈ちゃん、頑張ってネ!」
「えっ…あ、は、はい!ありがとうございます、頑張ります!」
「あ!あとこれもっ。お手伝いお願いっ」
「りょ、了解です…」
なんともあっさりした形で私のマスターコースの道が決まった。QUARTET NIGHTの方々が先輩…男性アイドルと女性アイドルっていう違いはあれど、アイドルとして学べることはきっとたくさんあるだろう。そう思うと緊張もするけど、どこかワクワクした気持ちの方が強く感じた。
さて、この大きな紙を大きく丸の形に切っていきましょうか。
「…あれ?みんな集まってどうしたんですか?」
「あっ高原!…ってその大荷物!もしかして!」
「あ、はい!みんなの意見を汲んでくださって私も今日からマスターコースの寮に入ることになりました!」
「やったな綾奈!これでいつでも会え、…じゃなくて!アイドルの第一歩だな!」
「はいっ!これからもよろしくお願いしますね」
数日後。慌てて荷造りをして私はマスターコースの寮へと引越しすることに。ついバタバタしてみんなにも伝えていなかったけど、今日ここで会えて良かった。サロンでみんなが揃っていたので改めて挨拶をしているとジッとこちらを見る視線を感じる。日に焼けた肌を持つ、異国の方であろう美人さんからの視線に内心冷や汗をかく。初めてお会いするはずなのに、どこかキラキラした目を向けられているのは一体なんだ。思わずそちらに目を向けると当然のようにバチリと交差する視線。そしてパァッと表情を明るくした彼は立ち上がり、段ボールを抱えた私に詰め寄ってきた。
「綾奈っ!とてもとても会いたかった!」
「えっえっ!?」
「綾奈、この方と知り合いだったのですか?」
「えぇっ!?しょ、初対面かと思いますが…!」
「ノン!ワタシと綾奈は秘密を共有した仲です!」
「秘密ですかぁ?」
こんな美人な方な出会ったら忘れませんよ…!、という私の言葉虚しく、彼は私が持っていた段ボールをひょいと持ち上げ、隣にいた翔くんへと押し付けた。あああごめん翔くん…!
そして彼は私の手を握って更に距離を詰めてきた。エメラルドの綺麗な瞳に思わず見惚れてしまう。
「綾奈…ワタシはアナタの歌にミューズを感じました。ハルカと綾奈…二人の音楽がワタシをここへ導いたのです」
「…?卒業オーディションを聴いてくださったんですか?」
「ノン。もっとずっと前から。綾奈はワタシの為に歌ってくれました。…ただ、ごめんなさい。ワタシはハルカを愛しています。綾奈まで愛することはミューズの導きであろうと従うことはできません」
「…振られちゃいました…ね?」
「いやなんでだよ!!!!失礼すぎんだろお前っ!!!!」
何故か名前も存じ上げないまま、振られた私にツッコミをいれてくれる翔くんは流石としか言いようがない。きちんと荷物も持っててくれてありがとう。
なんとも突拍子のない彼は愛島セシルさんと言うらしい。正真正銘のアグナパレスという国の王子様…なのだとか。確かにどこか優雅さは感じるし、丁寧な佇まいに自然と納得してしまう。そんな人を直々にスカウトしてきたという社長はどれだけ凄いお方なんだ…。
振られてしまったが全くもって初対面の相手なのでショックはない。七海ちゃんとどうぞお幸せに…ってうちの事務所は恋愛NGなんですけども。
とにかく初対面であることには変わりないはずなので、改めて自己紹介をすると彼もそれに習って返してくれて、セシルと呼んでくれ、と言うのでこれまでの経験もあって私はそれをすんなりと受け入れた。
「セシルくんはなんだか不思議な方ですね。確かに初対面なはずなのに…なんとなくそうではないような気持ちになります」
「むぅ。まだ信じてくれないのですか、綾奈。ワタシは綾奈が彼等の為にしてきたこと全てを知っています」
「彼等…って言うのはオレ達のことかな?」
「Yes!アナタ達が今ここにいるのも全て綾奈の導きのおかげなのです」
「、!」
「なになに?どういうこと?」
みんなの視線が私に向く。まさかそんなはずはない、と思っているはずなのに背中を冷や汗が流れる。バレてまずい事はしていないけど、出来ることなら言いたくない。今にも口を開いてその導きとやらの内容を話しそうなセシルくんに、私は慌てて彼の腕をグイッと抱いて止めた。おい離れろ!?、と驚くみんなの反応を他所に、脳をフル回転させる。
「綾奈、何故止めるのですか。アナタのしたことは彼等に感謝されるべきことです」
「お、女の子は少しくらい秘密がある方が良いのです!!」
「なんですかソレは?」
「日本人の奥ゆかしさと言いましょうか、あ、いやそれはちょっと違いますね。えっと、だから…っ日本では女の子は全てを曝け出すよりも少しぐらい秘密を抱えている方がより魅力的であると言われているのです!!」
「アメイジング…!それが日本のワビサビというものですね!ワタシ知らなかった…!」
「そうですそうです!私もっと魅力的な女性になりたいのでご協力していただきたいのです!」
「Yes!わかりました!ワタシ、絶対に話しません!」
「わぁ!素敵ですセシルくん!ありがとうございます!」
綾奈の為ですから!、と笑うセシルくんに私は内心ガッツポーズをした。嘘は言ってない。
みんなからジトッとした視線は感じるが今日のところは気付かないフリをさせていただこう。
あぁ翔くんごめんね荷物ありがとう!、と早口に捲し立てて段ボールを抱えて私は足早にサロンに背を向けた。引き止めるような声も聞こえたがヘラリと会釈をしてその場を後にした。
「…おい愛島。高原は俺たちになにを隠しているのだ」
「あの動揺っぷり…相当な事のように感じましたが…」
「ノン!それは言えません!綾奈の魅力が損なわれてしまいます!」
「えー!大丈夫だって!高原めちゃくちゃ魅力的だもん!」
「ダメと言ったらダメです!」
「…これはレディに上手いこと躱されたね」
「綾奈ちゃんもっともーっと可愛くなっちゃうってことですねぇっ」
「…いや、これに関してはちげぇだろ」
いつか必ず聞き出そう、と心に決める彼等の心つゆ知らず、とにかくあの場を乗り切れたことに呑気に息を吐く私なのであった。
20190901