第2章:うたプリアワード
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「い、いかがでしょうか…」
第3話
紅茶も淹れ終わり、蒸らしで時間を置く間にサロンにやってきた。めちゃくちゃ緊張したけど…でもなっちゃんの教えの通りに今日も淹れられた。
かちゃ、とカミュさんの前のテーブルに置く。スッと手を伸ばし始めたカミュさんにハッとして慌てて遮る。ムッとした様子のカミュさんには申し訳ないが、こればっかりはやらなければ。
「美味しくな~れっ!…はいっ!お待たせしました!ご賞味ください!」
「…おい、なんだ今のは」
「えっ?あ、あの…最後の仕上げ…なのですが…」
「フン。そんなもので何が変わるわけでもあるまい。子供か貴様は」
「ええっ!?そ、そんなことありません!ほんとに!ほんとに変わるんです!」
なっちゃん直伝であるからそこは間違いない。のだが、カミュさんは信じてくれそうにない。そしてその手元は紅茶にポイポイと砂糖を入れていく。…えっと…砂糖溶けきってないぐらい入れてるけどいいのかな…。まぁ本人が美味しくいただけるならそれでいいんだけど…。
カミュさんはよっぽどの甘党のようだ。
「、!ほう…なかなかやるではないか」
「わ…!お口に合ったようで良かったです…!」
「高原と言ったな。今後も共にティータイムを過ごしてやらんこともない」
「はいっ是非!」
いかがですか、と不安げに聞いてみればお褒めの言葉を頂けてホッと胸を撫で下ろした。さすがなっちゃん…!ありがとう…!
カミュさんは今日はオフなのですか、なんて他愛の無い話を出来るぐらいに打ち解けていると、えー!?、と驚いた声が聞こえて何事かとそちらに視線やった。そこには寿さんに美風さん、それに黒崎さんもいらっしゃっててどうやら驚いた声の主は寿さんのようだった。パタパタと駆け寄ってきた彼は私とカミュさんを交互に視線をやりながら、どういうこと!?、と困惑しているようだ。
「ミューちゃんが女の子とお茶してるなんて…!?しかも楽しそうに話しちゃったりしてさ!!」
「こ、こんにちは皆さん。偶然お会いしてお茶をさせて頂いてたんです」
「高原綾奈か。少し興味が湧いたよ」
「煩いぞ。ティータイムの邪魔だ。…高原、追加を」
「あ、はい!」
「えっ?えっ?ちょっとミューちゃん説明してよ!」
「うるせぇぞ嶺二」
「黙れ寿」
「頭に響くからやめてレイジ」
うぅ…みんなちべたい…、と落ち込む寿さんにどうしたものかと悩んで彼にも椅子と紅茶を勧める。後輩ちゃんだけだよ味方はぁ~!、と感激する寿さんに苦笑を零す。美風さんと黒崎さんも良ければ、と進めれば二人も椅子に腰を下ろした。私が座っていては窮屈になってしまうし、と立ち上がってそれぞれのティーカップに紅茶を注いでいく。なんだか意図せず先輩達に囲まれてしまって緊張してきた…。
なおも私とカミュさんのことを尋ねてくる寿さんに事のあらましを簡単に説明したが納得したかどうかは分からない。そもそも説明と言っても廊下で会って話の流れで紅茶を振る舞うことになったというだけだし。
「…へぇ。確かにこれはカミュも気にいる訳だね。紅茶の温度や濃度…どれも数値の高いものだ」
「うーん!ほんとに美味しいよ後輩ちゃんっ!ランランもそう思うでしょ?」
「うるせぇ。黙って飲めねぇのかテメェは」
「気に入って頂けたなら嬉しいです。私も友達に淹れ方を教わったので」
どうやら皆さんにも気に入ってもらえたようでホッとしていると、寿さんがそういえばと口火を切った。
先ほどST☆RISHのみんなと顔合わせをしたそうなのだけど、その時に私の名前が出たのだとか。みんながしきりに後輩ちゃんを寮に~って言ってたから驚いたよ~!、という寿さんに私が驚いた。学園長…じゃなかった、社長もその旨を聞いて考えておきマース、と意外にも前向きな返答をもらったらしい。…これは私も直接社長のところに相談にいかないと。みんなに頼りっぱなしは良くない。
「そうでしたか…。教えてくださってありがとうございます。私も身の振り方に困っていたので社長に直接掛け合ってきます」
「うん。あ、でもこれから入学式の準備があるって言ってたから改めた方がいいかも」
「…そっか、そんな時期でしたね。分かりました、そうします」
「ねぇ。綾奈は主席で卒業したんだよね」
「え?はい、そうですが…」
「少し歌ってみせてくれない?正確なデータが欲しいんだけど」
美風さんの突然の申し出に目を見開くも寿さんも、イイネイイネ!、と乗り気で断りにくくなってしまった。他のお二人も何も言わないということは求められているということだろうか。…まぁ、断る理由もないし断れないんだけど。
一応綾奈の曲の伴奏は弾けるよ、という美風さんに甘えてお願いすることにする。…めちゃくちゃ緊張する。これまでもμ'sのステージでたくさん歌ってきたはずなのに、こうも先輩の前という状況だと緊張するものなのだろうか。
ドキドキと打ち鳴らす胸に、一度深呼吸をしてピアノの前でスタンバイしてくれている美風さんに合図を送った。
「、!これは…」
「ほう…?」
「…ハンッ」
歌い始めた瞬間の皆さんの反応に少しビクッとしたが、気付いた時には私は音楽のことしか考えられなくなっていた。
あぁ、やっぱり歌うのは楽しい。
「…美風さん、ありがとうございました。久しぶりに歌えてとても楽しかったです」
「ボクも良いデータが取れたよ。正直驚いた。誰かの曲を聴いてこんな風に思うのは二度目だ」
「二度目、ですか?」
「そう。…七海春歌の作ったST☆RISHの曲」
「…!す、素敵ですよね本当に…!私も彼女達の音楽が本当に大好きなんです!」
「…じゃあキミはこの気持ちがなんだか分かるの?」
「え?」
「胸のこの辺りが騒つくような…そんな感じ」
切なげに胸の内を語る美風さんは何とも形容し難い美しさで。そんな表情にさせる七海ちゃん達の素晴らしさを改めて実感する。
そりゃ本当のところの彼の気持ちの正体は分からないけど、なんとなく、私と同じような気持ちなのではないかと思う。ピアノの前に座ったままの彼にニコリと微笑んで私は口を開く。
「…少なくとも私は彼女達の音楽に心を揺さぶられます。たくさんの、等身大の愛を感じるんです」
「愛…」
「はい。私も、胸がいつも温かくなります。そして私もそうなりたいと。そんな想いをたくさんの人に伝えたいと思えるんです」
「…そう。ボクには分からない…」
そういう感情はないんだ。そう零す美風さんに私は首を傾げる。
そんなことはないだろう。
そう確信がある。本当に分からない事は分からない事にも気付けないものだから。
捨てられた子犬のような目でこちらを見上げる美風さんに、思わず手が伸びる。何色と表現すれば良いのか分からない神秘的な髪を私は丁寧に撫でる。先輩だけど、そこにいるのは生まれて間もない赤子のように感じた。
「…失礼を許してください、美風さん。けど、分からないことはこれから知っていけばいいし、分からないということに気付けたことは大きな一歩です。すぐに答えを出す必要なんてありません」
「…綾奈は不思議な考え方をするね」
「ふふ。人生経験としては少しだけ美風さんより豊富なのかもしれませんね」
まぁそれは間違いないね、とフッと笑みをこぼした美風さんに安心して私の顔にも笑顔が咲く。撫でられるっていうのも貴重な体験だね、と言った美風さんに少し慌てたが。ただ怒っているような感じではないのでホッと胸を撫で下ろした。
私達のやり取りを見ていた御三方の反応はそれぞれだった。関心する寿さんに、どこか満足げなカミュさん。そして我関せずな黒崎さん。バラバラそうに見えるこの4人がグループを組んでるのは少し不思議ではあるけど、社長の考えることだ。きっと想像もつかない歯車を動かすことだろう。
「面白そうだし、ボクもシャイニングに綾奈をこの寮に入れる事を進言してあげるよ」
「え…ええっ!?」
「ほう…給仕が出来るのは悪くない。俺も推薦してやろう」
「おおー!これは面白くなりそう!僕ちんも協力しちゃうよん!ランランもいいでしょっ?」
「なんで俺が…」
「んもー!綾奈ちゃんの歌に感動したくせにぃっ!」
「うるせぇ!黙ってろ!!!」
「あ、あの皆さん…!?」
これは私の歯車までも狂わす…予感?
20190825