第2章:うたプリアワード
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「ふふ。行っておいで、七海ちゃん」
第2話
迷うかもと思った七海ちゃんの部屋への道を歩いていたが、一箇所に敷き詰められた薔薇を見つけて、あぁあそこだな、と確信した。神宮寺くんあたりが贈ったものだろうか。立派な薔薇だ。
掃除中だから扉を開けている部屋をヒョコッと覗いてみればせかせかと荷解きをする七海ちゃんの姿。七海ちゃんっ、と思ったより弾んだ声で彼女の名を呼んだ。久しぶりの再会は自分が思っていたよりもずっと嬉しかったらしい。
振り向いた七海ちゃんも笑顔で迎えてくれて、元気でしたか?、と笑う。
「はい、七海ちゃんもお元気そうで。さっきみんなにも会いました。これから大変でしょうけど頑張ってくださいね」
「うんっありがとう綾奈ちゃん…!忙しいのにわざわざ来てくれてありがとう!」
「うーん…それがまだそれほど忙しくはならなそうなんですよねぇ…」
「ええっそうなのっ!?」
社長の考えることは分からないです、と苦笑をこぼす。まぁ、考えてくださっているようだから私は私の出来ることをするけど。
とりあえず大体の場所に荷物開けていきますね、と断りそれぞれ作業に取り掛かる。鳥の声が聞こえるこの空間は酷く穏やかだ。
そうしていると、ある段ボールからいくつかのスコアが。たくさんあるけど、もしかしてST☆RISHのみんなの曲だろうか。そう思って七海ちゃんに声を掛ければ彼女は、そうだった!、と大事そうに私からそれを受け取った。
「もしかして新曲ですか?」
「うん!みなさんの事を考えているとメロディが浮かんで…!」
「わぁっ素敵ですね。まだお渡ししてないんですか?」
「う、うん。今日わたしも久しぶりにお会いしたし…」
そういう七海ちゃんはソワソワしていて、気付いてしまった今は一刻も早く渡したそうだ。そんな様子に思わず笑みが溢れ、行っておいで、と促す。私が手伝いに来てくれてるのに、と一度は断った彼女だったが渡しに行きたいのは火を見るよりも明らかだ。いいからいいから、と背中を押して部屋の外へと導く。う~~、と悩んだ彼女だったが、ありがとうっ!、と笑って彼等の元へと走っていった。あの曲たちを聴くのが今から楽しみだ。
さて、と部屋の中に戻ろうとしたがやはり目につく溢れるほどの薔薇。一瞬考え、こちらに手をつける事にした。これはちょっと通行の邪魔にもなってしまう。トゲに気をつけて、と思ったけどどうやらこの薔薇のトゲは私が知っているものよりも柔らかいというか。へ~こんなに穏やかな薔薇もあるんだな~、とテキパキと剪定していく。
「おい、邪魔だ」
「…っカ、カミュさん…!?びっくりしました…すみません、すぐ退きますね」
フンフーン、と鼻歌を歌いながら手を動かしていた為に近くに人がいることに気付かなかった。しかもその相手はまさかのカミュさん。めちゃくちゃ恥ずかしい。
すみません、と道を開けたはいいが何故か中々その場を動かないカミュさんに首を傾げる。美しすぎるその顔にジッと見つめられるとめちゃくちゃ緊張する。
「…貴様もこの寮に入るのか」
「あ、いえ。今日はお手伝いに。もしかしてカミュさんはこちらに?」
「不本意だがな」
「わぁっそうなんですね。また菓子折り持ってきます」
「フッ。俺の舌は甘くないぞ」
「おぉ…でも美味しい物の情報なら自信あります!時間がある時は大抵ネットで調べているんですっ」
「いいだろう。俺を唸らせてみせろ」
「頑張りますっ!」
厳格な雰囲気はあるけど、以前ライブ会場での邂逅があったからか、思っていたよりもカミュさんとの話は盛り上がった。先輩さんだし立ったままは失礼だから出来ればお茶をお出ししたいけど、なにせこの寮に私の部屋はないのでそれは叶わない。
紅茶を淹れるのも趣味だから今度それも一緒に持ってきますね、と笑うとカミュさんの整った眉がピクリと動いた。あ、あれ…もしかして紅茶はあんまりお好きじゃなかったのかな…。
苦手だったら、と口を開いた私の言葉を遮り、カミュさんは、ついて来い、と背中を向ける。
「えっ?カミュさん、どちらに…」
「それほど豪語するなら俺が見極めてやるといっている。さっさと来い愚民」
「ぐ、愚民…。えっと、はいっ!僭越ながら淹れさせていただきます…!」
「グズグズするな」
「ま、まってください…!」
スタスタと長い足で歩くカミュさんに慌てて七海ちゃんの部屋の扉を閉めて追いかける。七海ちゃん、ごめん…!さすがに新人が先輩のお誘いは断れません…!届かないであろう謝罪をし、美しい背中を追いかけた。
カミュさんの背中を追いかける道中も、思わず寮の立派さにキョロキョロして何度もカミュさんに窘められた。いやでも…寮だよねここ…。感激しちゃうのは大目に見てほしい。
「ここにあるものを使え。半端なものを出したらどうなるか…肝に命じておけ」
「ほわ…は、はい!誠心誠意努めます!」
「俺はあちらのサロンにいる。出来たらもってこい」
「はい!承知しました!」
私を一瞥し、カミュさんは給湯室…いやもはやキッチンなんですけども、そこを後にした。確認してみれば充分過ぎる機器が揃っていて紅茶を淹れるのも苦労はしなさそうだ。チラリと見た紅茶の銘柄もめちゃくちゃ有名なところのもので思わずテンションが上がってしまった。ここの紅茶はとっても深みのある味で私も大好きなのだ。
良いものを良いものとしてお出ししなければ、と身を引き締めた。
20190824