第2章:うたプリアワード
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「デビューは未定、ですか」
第1話
早乙女学園を無事卒業し、私高原綾奈はシャイニング事務所所属のアイドルとなった。今日は学園長…ではなく、早乙女社長直々にお呼び出しを受け参った次第なのだが、そこで伝えられた内容に思わず眉間に皺を寄せてしまった。
「ン~!不服そうですネMs.高原!」
「えっあっも、申し訳ありません。その、ショックでつい」
「まぁ~仕方のないことデッスン。卒業オーディションで最優秀賞を取ったYouですからネ~」
「…驕っておりました」
デビューの日はまだ未定である、そう伝えられて動揺しないのは無理な話だった。学園長のことだから色々段取りを組んでるものだとてっきり思ってしまっていた。…はずかしい。
申し訳ありませんでした、ともう一度頭を下げ、1日も早く認めてもらえるように精進すると伝えると、社長は意外にも、ノンノンノン!、と指を振った。
「デビューはしますヨMs.高原!このシャイニング事務所お抱えの早乙女学園の主席卒業生なのですからねん!メディアもYouのことが気になって仕方ないのっヨ!」
「えっ?は、はぁ…」
「つまーり!然るべき場を準備をしているので待っててくだサーイということデース」
「…!本当ですかっ!?あ、ありがとうございます!」
「ン~!それまではレッスン頑張ってチョーダイ!」
はい!、と大きく返事をして私は社長室を後にする。よかった!デビューは出来るんだ!ドキドキと高鳴る鼓動に気分もどんどん上を向いていく。早くその日が来て欲しい!、と事務所を出てシャイニング事務所の寮へと向かった。
今日は七海ちゃんの引越し作業のお手伝いだ。
シャイニング事務所には新人アイドルの育成をサポートするマスターコースというシステムがあって、所属アイドルはその寮への入寮を勧められるのだ。ST☆RISHのみんなも確か今日あたり、オーディションに合格した渋谷ちゃんは少し前にそのシステムを受け始め、先輩アイドルさんのマンションに引越していた。幸いというかなんというか学園も卒業し、まだ仕事も無い私は手が空いているので七海ちゃんの引越しの手伝いを申し出たのだ。渋谷ちゃんはもう仕事もしてるみたいで…ちょっと羨ましい。
…そういえば私もここに入ることになるのだろうか。そういう話はされなかったなぁ、と考えながら桜の木に囲まれた1本道を歩く。
もう春だ。
「…ん?なんだろう、あれ…」
しばらく歩いていると草の陰に茶色いものが。気になって近寄ってみればそれは段ボールだったようで、中身も少し出てしまっていた。今日入寮する誰かのものだろうか。
きっと困るだろう、と落ちているものを拾い集めて段ボールに詰めていく。…ちょっとゴツめのアクセサリーとかスカーフ…一体どんな人だろう、と然程重くない箱を持ち上げて私はまた寮へ向かうべく足を勧めた。
そして着いた先にある寮の豪華さに目瞬いた。こ、これは…寮というかもはやホテルと言っても通じるほどのものでは…。社長ってやっぱり凄い方なんだなぁとしみじみ。
「あ!高原!高原だー!えっなになにっ?高原も寮に入るのっ?」
「一十木くん!お久しぶりですっ。あ、いえ。今日は七海ちゃんの引越しを手伝いにきたんです」
「え~…なんだ、そうなのか。段ボール持ってたからてっきり…残念だなぁ」
「あ、そうなんです。ここに来る途中で見つけて。どなたのかは分からないんですけど」
寮を見上げて突っ立っていた私を見つけ声をかけてくれた一十木くんは、どれどれ?、と箱の中身を覗いた。あまり褒められたことではないけど、私には所有者が分からないし不可抗力だ。
一通り中身を見た彼は一つのブレスレットを見て、あ!これ翔のだよ!、と笑った。どうやら以前に彼が身につけていたものがあったらしい。なるほど、翔くんの。
「多分みんな今なら練習室にいるだろうし一緒にいこ!」
「わ、本当ですか!助かります!」
「もちろん!あ、荷物貸して。俺持つよ」
「えっあ、いえいえ大丈夫ですよ!そんなに重いものは入ってませんし!」
「いーから。ちょっとは格好付けさせてよ」
「、!…い、いつもかっこいいですよ一十木くんは…」
サラリと私の手の中の箱を持ち上げて笑う彼は、卒業してからほんの1ヶ月会っていなかっただけなのに随分逞しくなっているように感じる。でも、やったね!、と嬉しそうに笑う笑顔は私の知ってる一十木くんで少し安心した。
「ただいま~!あ、やっぱみんなここにいた!」
「おっ!おかえり音也…って綾奈!?なんでお前ここに!?」
「こんにちは、みんな。今日は七海ちゃんの引越しのお手伝いにきたんです」
「なるほどね。レディ、少し見ない間に更に魅力的になったんじゃない?」
「え?うーん自分じゃ分からないですねぇ…」
広々とした…練習室…?、にやってくると一十木くんの予想した通り、ST☆RISHのみんなが集まっていた。久しぶりの再会に自然と頬が緩む。
私がここにいる理由を説明し、道端で拾った段ボールのについても話せばやっぱり翔くんの物だったようで、那月に吹っ飛ばされた時の!、と声をあげた。吹っ飛ばされるとは何事だと思ったが、翔くんもなっちゃんも険悪な雰囲気はないので気にすることはなさそうだ。なにより、変わらない雰囲気に自然と肩の力が抜けていく。
「綾奈ちゃんはマスターコースじゃないんですかぁ?新人アイドルさんはこのコースにするって聞きましたけど」
「うーん…一応希望は出したんですけど、なんかデビューも遅れたりするみたいなのでその辺りもどうなるのか私には…」
「デビューが遅れる?なにかあったのですか」
「あ、いえ。然るべき場所を用意する為だと仰っていたので」
「なんだそりゃ?」
「なんなんでしょうねぇ…?」
みんなで首を傾げてみたが、社長の考えることだ。私達には到底理解の範疇を超えていることなのだろう。
そろそろ七海ちゃんのところへ行かないと。ハッとした私は七海ちゃんの部屋への道順を教えてもらい、練習室をあとにした。
「…あーあ。高原も寮に入ってくれたらいいのに。七海もいて高原もいたらすっげー嬉しいのになぁ~」
「…なんにせよ、彼女も新人なのですから新人サポートのシステムは受けられるはずです。時間の問題でしょう」
「おや?早く一緒に暮らしたくて堪らないって感じだねぇイッチー?」
「からかうのはやめてください、レン」
「それに綾奈ちゃん、なんだか前よりとっても可愛くなってましたねぇ!」
「だよなぁ…。手もすげー綺麗に手入れされてたぜ」
「…彼女もプロになるのだ。高い志を持ち始めたということだろう」
「…高原が可愛いことを世間に出しちゃうのはちょっとやだなぁ…」
「…音也」
「分かってるよぉ、トキヤ」
本当に立派な寮だなぁと感心しながら七海ちゃんの部屋へ向かうべく歩みを進める。私もマスターコースを希望はしているからそのうちどうするか話はあるだろうけど…どうなるんだろう。渋谷ちゃんみたいに先輩さんのマンションに同居の可能性もあるんだよなぁ。人見知りがいきなり他人と同居だなんてハードル高すぎる…。
出来ればみんながいるこの寮に入りたいなぁ、と一人大きなため息をついた。
20190823