第1章:早乙女学園
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目の前に広がる輝かしい光景を、私は一生忘れないだろう。
第31話
「はー…いいライブだったわねぇ…」
「はいっ…本当に…心を掴まれる最高のライブでした…っ!」
ST☆RISHのみんなのデビューライブは輝かしい功績を残し、大興奮のまま幕を下ろした。最高だったね、これからも追いかけちゃう!、なんていう観客の反応に頬が緩む。
もうずっと涙が止まらなかった。大好きなみんなの歌が世界に届く瞬間を目の当たりにした。その感動で溢れる涙すら邪魔だと感じるぐらいその光景を目に焼き付けた。
出会った時からそうだ。彼等はいつだって私の何十歩も先を歩いていて、中々隣を歩くことが叶わない。今日また、大きな差が出来てしまった。それに対して寂しくはあるけど、きっとそれはこれからも私の指針になってくれるのだろう。
「あの日、月宮先生の言った通りでした…。私の、夢のひとつが叶いました」
「…ST☆RISHに歌ってほしいっていう夢よね。本当に良かったわね。…けど、次は綾奈ちゃんの番よ。卒業オーディションはもうすぐなんだから」
「はい。…ST☆RISHのみんなも聴いてくれるかな。これから忙しいから学園に来ないかもしれないですよね…?」
「その辺りは任せてっ。デビューはしたけど、まだ籍は学園にあるのよ。だからその日は学園に来るようにスケジュールを組んでるわ。本人達たっての希望もあったし、学園の集大成みたいなものだもの」
「みんなが希望したんですか?」
そうよ、とウィンクをする月宮先生の言葉にホッと胸を撫で下ろす。卒業オーディションで歌う曲は私の決意も込めている。出来るならそれを彼等にも見届けてほしいと思っていたから、みんなもその場にいるのが決まっているのは嬉しい。これはますます気合いを入れないとな、と背筋を伸ばす。
すると隣に座っていた先輩方が立ち上がる気配を感じて視線をそちらにやる。なにも言葉を発さないが、何を思ったのかはその目を見ればすぐに分かった。
彼等と彼女の音楽に魅せられた。
負けたくない、そんな燃えるような思いがこもった目をしていた。チラリと私に視線を寄越したカミュさんに慌てて会釈をし、それじゃ、とサラリとその場を去る美風さん。ギラギラとした目のままこちらには目もくれずその場を後にする黒崎さん。
「…驚いたよ。あんな歌を聴かされるとは思っても見なかった」
「…じっとしていられなくなりませんか?」
「…うん、そうだね。歌いたくて堪らない。ぼくも、負けてられないな」
「次の曲、楽しみにしてますね」
「ありがとっ!綾奈ちゃんは卒業オーディション頑張るんだぞ~!…そして、高みを目指そう。君も一緒に」
「…!は、はいっ!必ず、そこにいきます!」
うん!いいお返事!、と満足そうに笑いながら私の頭を撫でて寿さんも3人の後に続いて会場を去っていった。
高み。
社交辞令だと分かっていても嬉しい言葉を頂いてしまった。そうだ。私はST☆RISHのみんなに追いつくだけじゃなく、さらにその先の高みも見据えていなければ。自分の音楽を、世界に届けられるように。
その想いを胸に刻みつけるように一度目を閉じた。
「「カンパーイ!!」」
「みんな、本当におめでとうございます!お疲れ様でした!」
ライブも終わってクタクタだろうに、みんなは打ち上げと称して寮の私の部屋に集まっていた。今回は月宮先生にお許しをもらった。あまりハメは外しすぎないこと、と釘を刺されはしたが、本来なら異性を寮の部屋にいれることは校則違反だ。それを許してくれたのだから感謝してもしきれない。
「もう本当にドキドキで壊れそうだった!もう一回やりたい~!」
「オレたちの気持ちそのままの歌詞だったよね。あんなに輝いた世界は初めてだったよ」
「…はいっ!みんな最高にカッコ良かったです!」
興奮覚めやらぬまま、それぞれライブの感想を述べていく。その姿に私も自然と顔が綻んでいく。たくさんの笑顔に溢れるステージを作り上げた彼等は、自身の顔にも笑顔が浮かんでいてなんて素敵な連鎖なのだろう。
みなさん嬉しそうだね、と私の隣に座った七海ちゃんも人のことは言えない。嬉しくって堪らないって表情をしていた。その頬をプニプニとつついてやれば可愛らしく怒られてしまった。その姿までも可愛い。
そうして思い思いに過ごしていると、翔くんが私のハープを指差して首を傾げた。お前弾くのか?、と。
「あ、最近始めたんです。得意な楽器増やしたくって」
「えー!?ハープも!?綾奈エレクトーンもボチボチ出来たじゃん!」
「渋谷ちゃんの教え方が良いからですよ。元々ピアノもやってたし。ただ、他の幅を広げたくって弦にも手を出したんです」
「うわぁ~!聴いてみたいです綾奈ちゃんっ!」
「いいですね。私も興味があります」
「なっちゃん…トキヤくんまで…」
二人が聴きたいと言い出すと、照れ臭いことにみんなも聴きたいと口々に言ってくれて。じゃあ少しだけ、と私はハープに向かう。人前でやるのは初めてだけど、その初めての相手がみんなであることはとても嬉しい。私は一度深呼吸してからそっと弦を弾き出した。
「、!この曲…」
「未来地図…。そういえば綾奈の前で一度歌いましたね」
「…一度聴いただけで弾いているのか」
「イイね。レディにぴったりの楽器だ」
「…綾奈ちゃんが弾いて、歌ってくれるとまた僕たちのものと印象が変わってきますねぇ」
「あぁ…。すげー優しい気持ちになる」
少し前にマジLOVE1000%とは別の新曲を七海ちゃんがみんなに書き下ろしていたらしく、それをみんなが披露してくれた。それがいま弾いている未来地図という曲。その優しい歌詞に、あぁ彼等の全てが詰まっているなと感じたのを覚えている。
気付くと私の弾くのに合わせて、みんなも歌っていた。七海ちゃんも嬉しそうに聴いてくれていた。みんなと声を重ねることはこれまでになかったから、私もすごく興奮して気持ちが昂ぶる。聞かなくても歌から伝わってくる。きっとそれは、みんなも同じだ。
デビュー、本当におめでとう。
「皆さんとっても素敵でした…!こんなに素敵に歌ってくださって本当に幸せです…っ」
「綾奈すごいじゃん!ハープめちゃくちゃ様になってるよ!」
「ありがとうございます。よかった。人に聴いてもらうの初めてだったから緊張しちゃった」
「綾奈ちゃんのピアノの音色も大好きですけど、ハープの音色も大好きです!」
「嬉しい。私も七海ちゃんが大好きです。もちろん渋谷ちゃんも」
「ヤッタネ!相思相愛じゃんあたし等~!」
「わっ!ト、トモちゃん…!」
1曲弾き終わるとパチパチと拍手を送ってくれる二人にお礼を言って、そして抱き締める。キャーと慌てる七海ちゃんを他所に私と渋谷ちゃんは調子に乗って更に腕に力を込める。大好きが届きますようにと想いを込めて。
蚊帳の外になっている男性陣も微笑ましくその様子を見守ってくれていた。
が、渋谷ちゃんの発言に彼等は不意打ちをくらい噴き出した。
「およ?なになに綾奈っ結構胸あるじゃ~ん!柔らかいのが当たってんぞ~?」
「「ブフッ!!」」
「トモちゃんっ…!?」
「もう渋谷ちゃん…」
「あははっ!ゴメーン!」
「…これはあれです。俗に言う"当ててんのよ"ってやつです」
「「綾奈っ!!」」
綾奈最高ー!、と爆笑する渋谷ちゃんと顔を真っ赤にして狼狽える七海ちゃん。そしてゴホゴホと咽せる男性陣。あれ、私なんだか自分が思っているよりテンションが上がってるのかもしれない、なんて渋谷ちゃんと一緒に笑いながら思った。
その後は顔を赤くしたトキヤくんと翔くんにお説教をくらいました。調子乗ってほんとすみませんでした。
20190819