第1章:早乙女学園
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「はぁ…緊張でどうにかなっちゃいそう…」
第30話
ついにこの日を迎えた。ST☆RISHのみんなのデビューライブの日を。会場は満席らしく、色とりどりのペンライトが光っていて彼等の期待値の高さが伺える。
隣に座る月宮先生もワクワクした様子で、楽しみよね~!、と笑った。まさかこんなことになるなんて思わなかったわ、と感慨深そうにステージを眺める月宮先生。先生は早乙女学園の一期生だから、それこそ初めからこの学園を見てきた。そんな人が驚くことを成し遂げた彼等はやっぱり私の自慢の友達だ。
「あ!林檎せーんぱいっ!来てたんだ!」
「あら~!嶺ちゃん!久しぶり!みんなも来たのね!」
「シャイニーさんからのご指名だったからね~!後輩ちゃんのお手並み拝見させてもらいますよっ」
「ウフフ。期待していいわよん!」
月宮先生と軽く雑談をしていると先生にかかった声。反射的に私も顔を上げるとそこには顔立ちの整った4人の男性。何人かはテレビでも見かけた事のある顔だ。そういえばシャイニング事務所所属の方だ、と慌てて私も小さく会釈をした。それが視界に入った明るい印象の彼は月宮先生に、その子は?、と私のことを尋ねる。先生は、可愛いでしょ~?、と私に抱きつきながら早乙女学園の生徒であると紹介してくれた。抱き付かれるのは本当に心臓に悪いです、先生…。
「へーそうなんだ!ぼくは寿嶺二!君の名前は?」
「存じ上げてます、寿さん。高原綾奈です」
「寿さんなんて硬いかた~い!嶺ちゃんでいいよっ!」
「そ、そんな訳には…」
私はただの生徒なので…、とやんわりと断るが不服そうな寿さんに苦笑する。なんて人懐っこい方なんだろう。一十木くんなんかはすぐ仲良くなれそうだ。
そうしていると寿さんと一緒に来られた方の一人が、ふぅんと私を見ながら品定めするように、キミが高原綾奈か、と口を開いた。こんなに綺麗な男の人…会ったら忘れないと思うんだけどどこかであったっけな…、と困っているとそれを察したのか彼は自分達は初対面だと説明してくれてホッとした。あれ?じゃあなんで私の名前を?
「アイドル関係のことはインプットしてるからね。スクールアイドル文化を定着させたグループ、μ'sのメンバーでしょ」
「わ、 は、博識なんですね」
「これくらい普通でしょ。…ふーん、なるほどね。確かにそれぞれの数値は高いね」
「え?あ、ありがとうございます…?」
見ただけで数値が高いと言われ、褒められているのか微妙ではあるが一応お礼を述べる。なかなかに読めないミステリアスな方だ。美風藍さんと言うらしい。名前からして綺麗な人だ。
「そうよ~!綾奈ちゃんは今期生の中でアタシのイチオシよん!勿論ST☆RISHのみんなもだけど!」
「ハンッ!月宮さん、買い被り過ぎなんじゃねぇっスか。おどおどしてて覇気もねぇ」
「アハハ…」
「ん~!ところがどっこい!綾奈ちゃんはマイクの前に立つと変わるのよ~!アタシいつもドキドキしちゃうもの~!」
「そ、そうなんですか…!?」
「確かに、データにある雰囲気と今はまるで別人だね。ボクも少し驚いたよ」
月宮先生だけでなく、美風さんまで同調するものだから彼…黒崎蘭丸さんは口を噤んだ。うわぁ…めちゃくちゃ睨まれてる。黒崎さんはテレビで、というより音楽をメインにやってる方だ。ロックテイストの曲が得意で、常に攻めの姿勢を崩さないスタイルは男女問わずに人気だ。私も彼の音楽は好きだ。
すると通路を挟んだ私の隣に座っていた気品溢れる方がフッと笑ったかと思うと口を開いた。イメージしていたよりも低い声に少しドキッとした。
「その割には意識は低いように思うがな。アイドルたるもの自身が商売道具だ。それこそ指の先までな。そんなに荒れた手ではたかが知れている」
「あらやだ!本当じゃない!も~!ダメよ綾奈ちゃん!いくら生徒だからって意識は高く持ってないと!」
「あ~…すみません。数日で結構酷使しちゃって」
「…酷使?ちょっと綾奈ちゃん聞いてないわよ。一体なにをやったの?」
手の荒れを指摘した彼はカミュさんと言うらしい。女性よりも美しい陶器のような白い肌は思わず見惚れてしまう。が、そこは月宮先生の言葉に現実に引き戻される。また何か無茶をしているんじゃないかとジロリと見られて、私は慌てて訂正をいれる。
「そ、そういうのじゃないですよ!?ただ…ハープを、練習していて」
「ハープ?どうして?綾奈ちゃん、ちゃんと得意楽器でピアノがあるじゃ…、もしかして…」
「えーっと…まぁ、それがきっかけです。思うように弾けなくなっちゃったので」
私のその言葉に月宮先生は悲しげに眉を寄せた。…だからあんまり言いたくないんだけど。
そう。私の握力は戻っていない。多分もう、戻らないだろうと担当医の方にも言われた。日常生活には何ら問題はないし、歌うだけなら何も問題はない。けど、唯一の得意楽器であったピアノが…鍵盤が叩けなくなってしまった。鍵盤は意外にも重い。通常の3分の1にも満たない私の握力では中々厳しいものがある。それを痛感させられた時は絶望したしかなり落ち込んだ。けれど、ST☆RISHのみんなが頑張っている今、私は落ち込んでもいられないと思った。だから何かほかの、握力のない自分でも出来る楽器を探した。そして辿り着いたのがハープだったのだ。
察しのいい先生は私の手をぎゅっと握って、そういうところがあるから放っておけないのよ…、と小さく漏らした。
「いつも心配してくださってありがとうございます、月宮先生。でも私、ハープにハマっているのも確かなんです。だから今は辛くないです」
「…強い子だわ、本当に」
「それに!手のことも気にしていたのでネットで調べて良いハンドクリームも入手しました!カミュさん!私これでもっと意識高めますねっ」
「…フン」
ジャジャーン!、と実は持っていたハンドクリームを取り出して今も少し塗っておく。あら良い香りね!、と言う月宮先生にもお裾分けして手に馴染ませていると、隣からやけに熱い視線が。その発信源はなんとカミュさんで、私の手元を凝視していた。な、なんだろう、何か気になるのかな。そこまで考えたところでハッとした。ハンドクリームは女性向けなところもあるから香りが甘いものが多い。もしかしたらカミュさんにとっては苦手な部類だったのかもしれない、と思って慌てて謝ろうとしたが…なんだろう、そこまで嫌悪を抱いた表情はしていない…むしろ……
「…カミュさんも良ければ少し塗られますか?バニラとカカオの香りなんですけど」
「…いいだろう。寄越せ」
「…!はいっ!保湿力もバッチリなのです!」
「悪くない」
えー!?ミューちゃんが絆されてるぅ!?、という寿さんの驚いた声に私は思わず笑ってしまって、カミュさんにジロリと睨まれてしまった。けれどクリームを塗ったカミュさんの表情がご満悦だったので自然と怖くはなかった。きっと甘いものがお好きな人なんだろう。
話がひと段落したところで私はステージへと視線をやる。これから、あのステージにみんなが。なんて素晴らしいことだろう。なんて、誇らしいことだろう。彼等の歌を世界が見つける。そして、きっと世界を変える。そんな確信が私を更に昂らせる。
その私の様子を見ていたのか、寿さんは、綾奈ちゃんは悔しくないの?、と思わずと言ったように問いかけてきた。悔しい?、と首を捻ると、同期が前例のない形でこんな大きなステージでデビューするとなったらそりゃ悔しいだろうと彼は言った。それはそうだ。私も、彼等と関わらずに学園にいたなら悔しくてたまらなかっただろうと思う。
「とても誇らしいです。彼等の歌には心を震わせる力があるから」
「誇らしい、ねぇ…」
「皆さんにもきっと分かると思います。歌と…そして曲を、聴いてください。きっとジッとしていられなくなりますよ」
そこまで言ってハッとして、すみません生意気言いました、と苦笑を零す。でもこれは本音だ。質問してきた寿さんも、それは楽しみだ、とさっきまでとは雰囲気が変わって挑戦的な目でステージを見つめた。
会場が暗くなる。
さぁ、彼等の物語の幕開けだ。
20190818
