第1章:早乙女学園
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「な、なんで!?高原ライブ来てくれないってこと!?」
第29話
あれから彼等…ST☆RISHのみんなはリハやレッスンで慌ただしい日々を送っている。かくいう私も、まだ左手に痺れは残っているものの日常生活には問題ないぐらいには動けるようになっていた。麗華さんにはこっ酷く怒られたけど。まぁ、そこは彼女ツンデレですのでね。
私は卒業オーディションに向けて頑張るのみだ。けれどふと教室を見渡した時、彼等の姿がないことに嬉しくもあり、寂しくもあった。もう彼等とここで学ぶことはないのだから。
「綾奈ちゃん、この前の課題よかったわよ。今までとは少し変わった雰囲気の作詞になってて…心に変化があったのかしら?」
「…はい。先生と、みんなのおかげです。少しだけ、自分に自信を持つということがどういうことなのか分かりました」
「…そう。良かったわ。でもいつでも頼りなさいね。綾奈ちゃんの為に先生頑張っちゃうから!」
「わっ…!え、えっと…はい。ありがとうございます」
語尾にハートマークをつけながら可愛く指導されてつい顔が赤くなる。本当に可愛い方だよなぁ。
職員室にやってきて課題について講評してもらうことで卒業オーディションの質を高めようとしている。毎度のようにやってくる私を先生は邪険にすることなく面倒を見てくれて本当にとても助かっている。ここはもう少しこんな感じにね、と参考になる意見も頂いて、そろそろお暇しようかと思っていると先生は思い出したように口を開いた。
「あの時の怪我の具合はどう?まだ医務室に通ってるって聞いたけど」
「あー…ちょっとまだ痺れがあって。握力が右と比べて弱いんです」
「そう…。ちょっとアタシの手握ってみて。…え、それが最大なの?」
「…やっぱり弱いですよね」
怪我の具合を聞いてきた月宮先生に、やっぱり医務室に通ってることも筒抜けか、と苦笑しながら本当のことを告げれば悲しげに下がる整った眉。手を握って確認してもらった私の握力は…私が想像している以上に無いらしく、先生はとても驚いた様子だ。でも幸いなことに私は右利きだ。だから日常生活にはほとんど影響はない、と笑うと先生は悲しげに笑って私の頭を撫でた。
「もし力になれることがあったら、俺を頼って?」
「…………ええっ!?」
「ウフフ。なんてねっ」
「び、びっくりしました…」
「でも本当よ?卒業オーディションのこともそうだけど、その手の関係なんかで困ったことがあれば頼ることっ!」
突然男の人になった月宮先生に、一瞬間を置いて顔に熱が集まった。見た目は可愛いままなのに、その眼差しは立派な男性で…心臓によろしくない。ドキドキしっぱなしの私を笑いながら、それでも真剣に月宮先生は心配をしてくれた。それにお礼を言って職員室を出ようとすると、高原~!、と少し久しぶりに聞いた声にパッと顔を上げた。
「一十木くん…!どうしてここにっ?」
「高原に渡したいものがあって!友千香に職員室にいるって教えてもらったんだ!」
「もーオトくん?職員室なんだから静かにね?」
「あはは…ごめん、りんちゃん」
「それで?綾奈ちゃんに何を渡しにきたのっ?アタシも気になるわぁ!」
りんちゃんにもあるよ!、とウキウキした様子で一十木くんはジャーン!と数枚の紙を取り出した。それを見て月宮先生はすぐに察したらしく、わぁ!チケットね!、と歓喜の声をあげた。
「うん!関係者席だって!特に二人にはいい席で見てほしいから!」
「やぁ~ん!ありがとオトくん!楽しみにしてるわね!」
「へへっ!俺たちいま超頑張ってるからさ!絶対来てね!」
「あ…えっと、ごめんなさい。私これは受け取れません」
「…え、」
「ど、どうしたの綾奈ちゃん!?」
デビューライブのチケットを持ってきてくれた一十木くんに、それは受け取れないと謝れば、あんなにみんなを応援してたじゃない!?、と月宮先生に驚かれる。そしてハッと我に返った一十木くんも、自分たちのライブに来てくれないのか、と詰め寄ってきた。変な勘違いをさせてしまったと私も慌てて訂正をいれる。行きたくない訳がない。むしろ何があっても絶対に行くと決めている。
「一般で個人的に取ります。私はただのファンなので…お気持ちは嬉しいんですけど、それだとフェアじゃないっていうか…」
「ええっ!?俺たち友達なのに!?」
「やだもうっ!熱狂的なファンすぎるわよ綾奈ちゃん!」
「はい!私、ST☆RISHの1番のファンでありたいです!」
「高原…。う~~~んでも~~~~!!」
高原には良い席で見てほしいっていうのは俺たちみんなの希望なんだよ~!、と足踏みする一十木くん。するとそこで任せなさい、とばかりに月宮先生がビシッと私に指を指す。その顔はどこか得意げだ。綾奈ちゃん考えてもみて?、と言う先生に私は首を傾げる。
「綾奈ちゃんはチケットがあれば関係者席にも一般席にも座れるわ。でも!一般のお客さんは関係者席に座る事は出来ない。綾奈ちゃんの主張だと1人は確実にライブに来れない人が出てきちゃうわ」
「えっ…」
「残念よね~せっかくのデビューライブなのに…。綾奈ちゃんが求めるST☆RISHの晴れ舞台を見れる人が綾奈ちゃんが一般席に座ったが為に減っちゃうなんて…」
「一十木くん、チケット戴いていいですか?」
「りんちゃんすごい!!!!」
見事な私の手のひら返しに月宮先生は声をあげて笑って、一十木くんは心底嬉しそうに私の両手を握ってブンブンと上下に振った。絶対成功させるから楽しみにしててね!、と彼はいつものように太陽のような笑みを向けてくれた。
「高原が繋げてくれた俺たちの始まりを絶対に見届けてほしいんだ」
「…繋げたのは七海ちゃんですよ。でも、本当に楽しみにしてます。私も卒業オーディション頑張ります」
「うん!いつかの約束!絶対成し遂げような!」
「はい!先にステージでまっててください!」
いつか一緒に歌おう。そう約束したことが今の私の力になる。
青春ね~!、と笑う月宮先生に照れ臭くなったが私達も顔を見合わせて笑った。
「どうですか?歌詞…」
「…驚いた。アンタにしては随分攻めているわね」
「麗華さんにも言われましたけど、あまりにも自信がない事は良くないことだと気付けたので。そういう想いも込めました」
「…いいんじゃない。細かいところは調整するにしてもこれで行くわよ」
「、!はい!頑張りましょう!」
卒業オーディション用の歌にも歌詞がついた。麗華さんの作曲の腕は想像通り、とても素晴らしいものだった。力強くて勇気をもらえる。それに見合った歌詞を書いたつもりだ。
立ち止まっている暇なんて無い。卒業オーディションまで、あとほんの数ヶ月なのだから。
2019817