第1章:早乙女学園
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たくさんの人に私の歌を届けたい。
その気持ちに嘘はないし、今だってそう思ってる。けれど、近くにいる大切な人達を笑顔にできない人間にそんなことは出来るだろうか?
第26話
自分が失格になっても構わないから彼等の歌を聴いて欲しいと。そう言った私に学園長が少しだけ動揺したように感じた。サングラスをしていて表情は分からないけど、なんとなくそう思った。
「…私、彼等が大好きです。彼等に出会わせてくれてたくさんのものを教えてくれたこの学園が好きです」
「それを守るためなら自分を犠牲にしても構わないと~?」
「…大事なものは守るべき時に守れないと意味がありません。そしてそれは今だと思ってます」
だから私が失格になることで譲歩してくれるものがあるなら何だっていい。そう続けた私に学園長は今度こそ動揺を見せた。そして少し考え込んだあと、その申し出を受け入れると口にした。ありがとうございます、と頭を下げると、ただし、と硬い声色を発した。
「聴くだけだ。それを聴いた上で失格にするかどうかを判断しまーす。その歌がMeに響かなかったら…Ms.高原。お前も失格とする」
「…はい。充分です。ご配慮頂きありがとうございます」
「…難儀な生き方だな」
「…いいえ。私は恵まれています。いつも自分がどれほど果報者であるか…思い知らされます」
それは今の状況だってそうなのだ。私の勝手な我儘をこうして許してくれる人がいる。もっともっと、私は周りに感謝しなければならない。
それっきり口を閉ざした学園長は打ち合わせに行かなければならないギリギリの時間までヘリポートで彼等を待ってくれた。…そう。私の申し出があったところでこの場所に彼等が来なければ何も意味はない。でも、きっと来る。あの曲が、彼等を繋いだはずだから。
「学園長!待ってください!!」
「っ…七海ちゃん」
ヘリを稼働させ始め、いよいよ出立する時間が来た。しかしまだ彼等の姿が見えないことに焦っていると聞こえた彼女の声。そして彼等の歌いたいという言葉。あぁ、良かった。もう私にやれることはない。安心してその場をみんなに預けることにした。私がお願いした通り、学園長はきちんと曲は聴いてくれるようでヘリの稼働を辞めさせた。
「すごい…すごいです、みんな…」
七海ちゃんの作ったあの曲を見事に歌い上げた6人。そしてそれを聴いた学園長にもしっかりと響いたようで、あの曲のタイトルをマジLOVE1000%にすることでグループでの卒業オーディションを認めると言い、飛び立った。
かくいう私は彼等の歌に魅せられ、圧倒され、へにゃりとその場にへたり込んでしまった。良かったと安心して笑顔を零す彼等をぼうっと眺めながら、あぁ自分のやったことも少しは役に立ったんだなと思えた。彼等が今こうして笑っていることがその答えだ。
「…レディ、いつまでも座りっぱなしは良くないよ」
「神宮寺くん…。あはは、ちょっと力が入らなくて…」
「…どうしてここにレディがいるんだい?学園長も、やけに聞き分けがよかった。レディが何かしたのか?」
「…いいえ。大したことは何も」
座り込む私の前にスッとしゃがみ、手を差し出してきたのは神宮寺くんだった。立たせようとしてくれたのだろうが生憎足には力が入らないのでその手はまだ借りることはなさそうだ。
学園長の様子にも気付くあたり、察しがいいが話すつもりはない。私が何かしたかどうかは些末なことだ。
私が何も言うつもりがないことも察した彼は、私の手を握ってきた。随分緊張していたようで、神宮寺くんから伝わる熱がとても温かい。
「…さっきは悪かった。レディは計算で子羊ちゃんを謀るような人間じゃないよな」
「謝らないでください。私がそういう振る舞いをしてたんですから」
「…まったく。レディは本当に目を離すとすぐに自分を犠牲にしようとするね」
「それは綺麗に言い過ぎですよ…」
ただの私の我儘です、と笑えば彼は眉を下げて苦笑を浮かべた。そして私の頬に手をやり、自身の顔を近づける。咄嗟のことで何も判断出来ない私はそれを受け入れる形になってしまった。
「あーっ!!!ちょっとレンなにしてんの!?」
「あなたは目を離すとすぐこれですか」
「レディがあまりにも愛おしくてね。心のままに行動しただけさ」
「うわぁ~!ほっぺにキスなんてロマンチックですぅ~」
チュッと耳元で聞こえた音に更に動けずにいると、それを見ていた一十木くん達が騒ぎ出す。そして極め付けのなっちゃんの発言に、自分が今なにをされたのかを理解して瞬時に顔に熱が集まる。その姿を見た神宮寺くんは笑いながら私の髪を撫でた。
「おい神宮寺。彼女の許可もなく何をしている」
「少なくともお前の許可はいらないはずだろう?聖川」
「おい!綾奈!お前も赤くなってんじゃねぇ!」
「いっ痛いですよ翔くん…!」
「うふふ。綾奈ちゃんも翔ちゃんも可愛いです~!」
「わっ!み、みなさん…!」
ゴシゴシと私の頬を袖で拭う翔くんの力が強くて痛いと思ったが、それよりも更に私と翔くんまとめて抱きしめたなっちゃんの何と強い力か。苦しいけどなんだか酷く笑えてしまって、オロオロしていた七海ちゃんも気付くと楽しそうに笑っていた。あぁ、よかった。やっと見たかった笑顔が見れた。
これから七海ちゃん含めた7人はきっと忙しくなる。そして、パートナーの決まった私も。麗華さんには、私が失格の危機があったことは黙っておこう。きっと怒られてしまう。
20180814
