第1章:早乙女学園
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「む、難しい…」
第2話
授業が始まった。この学園は基本的なことから音楽の専門的なことまで両方を受けることになっている。国数英とかは今までも少しは勉強してきているから、わからなくてもそれ程ではないんだけど、音楽の専門的なことがどうも難しい。横文字は覚えにくいよ、くそう…。これまではあの子に頼りすぎてたなぁ。
今日は図書館で勉強しよう、と一つため息を吐いて荷物を鞄に詰め込む。授業で理解できたと思っていても、いざ一人になってやってみると出来ないなんてことは誰にだってあることだと思う。やった気になったまま放置していては置いていかれるのが関の山だ。
幸いにも実技の歌のレッスンや作詞についてはそれほど悪い評価をもらってはいない。むしろいい反応をもらえていると思う。この前の作詞テストで日向先生に頭を撫でられながら褒めていただいたときは嬉しすぎて失神するかと思った。イケメンすぎた。さすが現役アイドル。
私はAクラスだから担任は男の娘アイドルの月宮林檎先生なのだけど、その日向先生に褒めていただいた日はたまたま彼の担当だったのだ。本当にかっこよかった。アイドルも現役でこなしながら学園運営にも携わっているのだからあの方はすごい。もちろん月宮先生もすごいのだけど。あそこまで女性より女性らしい男の人は出会ったことがない。女として悔しい部分が無い訳ではないけれど、先生はそれほど努力なさっているのだからひよっこのひよっこである私が敵わないのは当然だ。
月宮先生にもその作詞テストの話はいっていたらしく、随分と可愛らしく褒めていただいたのも記憶に新しい。見習わないとなぁ…ううっ。
そんなこんなで周りに激励していただきながら学園生活を始められている。周りはみんな志が高い人たちばかりで私もいい刺激を貰っている。
頑張ろう、と意気込みながら教科書を鞄にいれていると視線を感じて顔をあげる。人見知りのせいで少し強張っていたかもしれないけど、それが知った顔だったから自然と力が抜けた。
「高原。どうした難しい顔をして」
「聖川くんっ。…いやぁ、ちょっと今日の最後の授業が不安が残っちゃって。勉強しないとなって思ってました」
「そういえば高原は音楽に関してはあまり詳しくはないと言っていたな」
「はい、全般的にです…。受験の時に初めて楽譜などの勉強を始めたので…」
「そうだったな。だがもう楽譜は読めるのだろう?中々の吸収力だと思うが」
「うぇへへ…。ありがとうございます。でも早く他の人の入学式の日にまで並ばないと話にならないので!頑張ります!」
「良い心がけだな。俺でよければいつでも力になろう」
廊下側の一番前の席に座る私は必然的に前方の扉から教室を出るけど、後ろの扉から出たであろう彼は目についたのか声をかけてくれた。更には授業の不安を口にすれば、本では中々理解しづらいことも多いからな、と協力しようと微笑む聖川くんの優しさに涙ぐみながらお礼を言う。なんて優しいの聖川くん…!いや、聖川様っ…!
彼、聖川真斗くんも志が高く、加えて優しい心の持ち主の一人だ。
一十木くんや四ノ宮くんと話していた時に彼と知り合ったのだけど、クラスでの自己紹介で素晴らしいピアノ演奏を披露していた時から一目置いていた。あの子とはまた別の、滑らかで繊細な音色は心が洗われるように澄んでいた。
お互いを認識して自己紹介をした時に少し興奮気味にそれを伝えると、大人びた雰囲気を持つ彼が年相応に照れくさそうに微笑んだ。とてもしっかりしているけれど私よりも一つ年下なのだとか。だからこそその時の微笑みが脳にこびり付いて離れなくなった。聖川くんは病み付きになる魅力を持った人だ。あの笑顔は何度だって見てみたい。
これから図書館に向かうのだと伝えると、ちょうど彼も資料を借りにいくつもりだったらしいので一緒に歩き出した。
一緒といっても私が彼より前を歩くことはない。
「そうだ、聖川くんはご存知ですか?来月体育祭があるそうですよ」
「あぁ、確かそのようなことを月宮先生が仰っていたな。この学園で何故そんなことを…」
「私も詳しくは分かりませんが…体育祭、なんて聞くと他所の学校と差がないように感じますね」
「そうだな。学園長のなさることだ。俺達にとって無駄なことなどではないのだろう」
「そうですねぇ。聖川くんは体を動かすのはお好きですか?」
「嫌いではないが…得意かと問われると微妙なところではあるな」
「そうなんですか?聖川くんならなんでもやってのけそうです。あ、でもあまり汗をかいてる姿は想像できないです」
いつも涼しげですから聖川くん、と笑うと、そうだろうか、と首を捻った。無自覚でその落ち着きっぷりなんですか貴方。すごい。
それからも他愛のない話をして図書室へ向かった。放課後の素敵な息抜きになった。この学園は全寮制で帰路で寄り道だなんて出来ないから本当に音楽漬けの日々を送ることになる。それに対して別に不満は持っていないけれど、やっぱりずっと頭を使っているのは疲れるからこういう時間も大事だなぁ、と思う。
図書室についてお目当てのものを手にした聖川くんは、いつでも連絡してくれ、と言って寮へ戻っていった。頼りになるなぁ、と思ったけれどよく考えれば連絡先を知らない。果たしてどうやって連絡を取ればいいのか。そう気付いて思わず吹き出して笑ってしまった。
聖川くんはしっかりしているし落ち着いているけど、どこか少し抜けている可愛い人だ。
「っあー…、休憩やー…」
あれから2時間ほど勉強して、集中力が切れたことでキリも良かったから図書室を後にすることに。そして学園の裏にある丘(…と呼べばいいのかな)にやってきた。
まだ4月だから暑くもなく寒くもないから空気が心地いい。その心地よさに気が緩んで伸びをして自然と訛りが出てしまった。あっ、と思ったけれど周りには誰も見当たらないし、いつも気を張っていられないしいいか、と黙認することにした。
寮生活にもだんだん慣れてはきたけれど、何か特別な事情がないとどうしても相部屋になるから自室といっても意外と心は休まっていなかったのかもしれない。ルームメイトの彼女だって別に悪い子な訳ではないけど。むしろ明るくて気遣いも出来るいい子だと認識している。
まだ入学して1週間なんやけどなぁ…。気ぃ抜けすぎかな…。…まぁええか。たまには必要な息抜きや。うん。
早乙女学園は広い。どれだけの敷地面積なのかは分からないけど、学園を囲う塀があるはずなのに四方を見渡しても見えないことから相当な大きさだということが伺える。私の転校前の学校とは比にならない。なにせ廃校になりかけるぐらいだし。まだ行ったことはないけど、どうやら敷地内に遊園地もあるのだとか。どんだけー。
「答えなくていいんだ 分かるから 胸にえがく場所は同じ 何度でも諦めずに 探すことが僕らの挑戦…」
そこで私はむずむずとしてきた思いそのままに歌詞を紡いた。
私達の始まりの曲。
少しずつ仲間になっていった私達の大切な曲。勇気と希望を持てる、この曲が大好きだった。いつかそんな気持ちを持ってもらえるような表現が出来るアイドルになりたいと思ってる。
アイドルは笑顔を見せるものじゃなく、笑顔にさせるもの。可愛いあの子が言ってた言葉。
しかしいくら人影がないからといって我ながら恥ずかしいことをしていたかも、と少し羞恥心を覚えて、んんっ、と咳払い。サァッと吹く風が頬を撫でる。優しい風だった。
未だに学園にも授業内容にも慣れない日々に、こうした場所にたどり着けたのは運がよかったかもしれない。また息抜きにこよう、と決めて立ち上がる。目の前に広がる湖は太陽が反射してキラキラしていた。
太陽、湖、キラキラ。それらはまだ友人になったばかりの彼らを思い出して思わず笑みが零れた。
20150106
第2話
授業が始まった。この学園は基本的なことから音楽の専門的なことまで両方を受けることになっている。国数英とかは今までも少しは勉強してきているから、わからなくてもそれ程ではないんだけど、音楽の専門的なことがどうも難しい。横文字は覚えにくいよ、くそう…。これまではあの子に頼りすぎてたなぁ。
今日は図書館で勉強しよう、と一つため息を吐いて荷物を鞄に詰め込む。授業で理解できたと思っていても、いざ一人になってやってみると出来ないなんてことは誰にだってあることだと思う。やった気になったまま放置していては置いていかれるのが関の山だ。
幸いにも実技の歌のレッスンや作詞についてはそれほど悪い評価をもらってはいない。むしろいい反応をもらえていると思う。この前の作詞テストで日向先生に頭を撫でられながら褒めていただいたときは嬉しすぎて失神するかと思った。イケメンすぎた。さすが現役アイドル。
私はAクラスだから担任は男の娘アイドルの月宮林檎先生なのだけど、その日向先生に褒めていただいた日はたまたま彼の担当だったのだ。本当にかっこよかった。アイドルも現役でこなしながら学園運営にも携わっているのだからあの方はすごい。もちろん月宮先生もすごいのだけど。あそこまで女性より女性らしい男の人は出会ったことがない。女として悔しい部分が無い訳ではないけれど、先生はそれほど努力なさっているのだからひよっこのひよっこである私が敵わないのは当然だ。
月宮先生にもその作詞テストの話はいっていたらしく、随分と可愛らしく褒めていただいたのも記憶に新しい。見習わないとなぁ…ううっ。
そんなこんなで周りに激励していただきながら学園生活を始められている。周りはみんな志が高い人たちばかりで私もいい刺激を貰っている。
頑張ろう、と意気込みながら教科書を鞄にいれていると視線を感じて顔をあげる。人見知りのせいで少し強張っていたかもしれないけど、それが知った顔だったから自然と力が抜けた。
「高原。どうした難しい顔をして」
「聖川くんっ。…いやぁ、ちょっと今日の最後の授業が不安が残っちゃって。勉強しないとなって思ってました」
「そういえば高原は音楽に関してはあまり詳しくはないと言っていたな」
「はい、全般的にです…。受験の時に初めて楽譜などの勉強を始めたので…」
「そうだったな。だがもう楽譜は読めるのだろう?中々の吸収力だと思うが」
「うぇへへ…。ありがとうございます。でも早く他の人の入学式の日にまで並ばないと話にならないので!頑張ります!」
「良い心がけだな。俺でよければいつでも力になろう」
廊下側の一番前の席に座る私は必然的に前方の扉から教室を出るけど、後ろの扉から出たであろう彼は目についたのか声をかけてくれた。更には授業の不安を口にすれば、本では中々理解しづらいことも多いからな、と協力しようと微笑む聖川くんの優しさに涙ぐみながらお礼を言う。なんて優しいの聖川くん…!いや、聖川様っ…!
彼、聖川真斗くんも志が高く、加えて優しい心の持ち主の一人だ。
一十木くんや四ノ宮くんと話していた時に彼と知り合ったのだけど、クラスでの自己紹介で素晴らしいピアノ演奏を披露していた時から一目置いていた。あの子とはまた別の、滑らかで繊細な音色は心が洗われるように澄んでいた。
お互いを認識して自己紹介をした時に少し興奮気味にそれを伝えると、大人びた雰囲気を持つ彼が年相応に照れくさそうに微笑んだ。とてもしっかりしているけれど私よりも一つ年下なのだとか。だからこそその時の微笑みが脳にこびり付いて離れなくなった。聖川くんは病み付きになる魅力を持った人だ。あの笑顔は何度だって見てみたい。
これから図書館に向かうのだと伝えると、ちょうど彼も資料を借りにいくつもりだったらしいので一緒に歩き出した。
一緒といっても私が彼より前を歩くことはない。
「そうだ、聖川くんはご存知ですか?来月体育祭があるそうですよ」
「あぁ、確かそのようなことを月宮先生が仰っていたな。この学園で何故そんなことを…」
「私も詳しくは分かりませんが…体育祭、なんて聞くと他所の学校と差がないように感じますね」
「そうだな。学園長のなさることだ。俺達にとって無駄なことなどではないのだろう」
「そうですねぇ。聖川くんは体を動かすのはお好きですか?」
「嫌いではないが…得意かと問われると微妙なところではあるな」
「そうなんですか?聖川くんならなんでもやってのけそうです。あ、でもあまり汗をかいてる姿は想像できないです」
いつも涼しげですから聖川くん、と笑うと、そうだろうか、と首を捻った。無自覚でその落ち着きっぷりなんですか貴方。すごい。
それからも他愛のない話をして図書室へ向かった。放課後の素敵な息抜きになった。この学園は全寮制で帰路で寄り道だなんて出来ないから本当に音楽漬けの日々を送ることになる。それに対して別に不満は持っていないけれど、やっぱりずっと頭を使っているのは疲れるからこういう時間も大事だなぁ、と思う。
図書室についてお目当てのものを手にした聖川くんは、いつでも連絡してくれ、と言って寮へ戻っていった。頼りになるなぁ、と思ったけれどよく考えれば連絡先を知らない。果たしてどうやって連絡を取ればいいのか。そう気付いて思わず吹き出して笑ってしまった。
聖川くんはしっかりしているし落ち着いているけど、どこか少し抜けている可愛い人だ。
「っあー…、休憩やー…」
あれから2時間ほど勉強して、集中力が切れたことでキリも良かったから図書室を後にすることに。そして学園の裏にある丘(…と呼べばいいのかな)にやってきた。
まだ4月だから暑くもなく寒くもないから空気が心地いい。その心地よさに気が緩んで伸びをして自然と訛りが出てしまった。あっ、と思ったけれど周りには誰も見当たらないし、いつも気を張っていられないしいいか、と黙認することにした。
寮生活にもだんだん慣れてはきたけれど、何か特別な事情がないとどうしても相部屋になるから自室といっても意外と心は休まっていなかったのかもしれない。ルームメイトの彼女だって別に悪い子な訳ではないけど。むしろ明るくて気遣いも出来るいい子だと認識している。
まだ入学して1週間なんやけどなぁ…。気ぃ抜けすぎかな…。…まぁええか。たまには必要な息抜きや。うん。
早乙女学園は広い。どれだけの敷地面積なのかは分からないけど、学園を囲う塀があるはずなのに四方を見渡しても見えないことから相当な大きさだということが伺える。私の転校前の学校とは比にならない。なにせ廃校になりかけるぐらいだし。まだ行ったことはないけど、どうやら敷地内に遊園地もあるのだとか。どんだけー。
「答えなくていいんだ 分かるから 胸にえがく場所は同じ 何度でも諦めずに 探すことが僕らの挑戦…」
そこで私はむずむずとしてきた思いそのままに歌詞を紡いた。
私達の始まりの曲。
少しずつ仲間になっていった私達の大切な曲。勇気と希望を持てる、この曲が大好きだった。いつかそんな気持ちを持ってもらえるような表現が出来るアイドルになりたいと思ってる。
アイドルは笑顔を見せるものじゃなく、笑顔にさせるもの。可愛いあの子が言ってた言葉。
しかしいくら人影がないからといって我ながら恥ずかしいことをしていたかも、と少し羞恥心を覚えて、んんっ、と咳払い。サァッと吹く風が頬を撫でる。優しい風だった。
未だに学園にも授業内容にも慣れない日々に、こうした場所にたどり着けたのは運がよかったかもしれない。また息抜きにこよう、と決めて立ち上がる。目の前に広がる湖は太陽が反射してキラキラしていた。
太陽、湖、キラキラ。それらはまだ友人になったばかりの彼らを思い出して思わず笑みが零れた。
20150106