第1章:早乙女学園
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なっちゃんなっちゃんっ!」
「はい。どうしたんですかぁ綾奈ちゃん」
「お茶会しませんかっ?」
第16話
HAYATOのライブから数日。私たちは今日も早乙女学園でアイドルになるべく精進していた。しかし直近で大きな課題はないので放課は少しゆっくり出来る。というのもあって私は以前から思っていた、なっちゃんの紅茶の淹れ方を伝授してもらおうという魂胆を披露した。なっちゃんは、うわぁ素敵ですね!、と二つ返事をしてくれた。あのライブの日から私達は間違いなく仲良くなったと思う。なんとなく、お互い変な気負いが無くなった気がするのだ。
それじゃあ私はお茶菓子を準備して行きますね、と再びサロンで落ち合うことにしてなっちゃんと教室で別れた。
「お茶菓子はなにがいいかなぁ。あ、そういえばこのあいだ出かけた時にマカロンを衝動買いしちゃったんだっけ」
丁度いいしあれにしよう、と手土産も決まったところで角を曲がろうとすると、人影に気付いてハッと立ち止まった。相手も同じだったようで間一髪のところで私たちはぶつからずに済んだ。とはいえ危なかったことに変わりはないので謝ろうと顔をあげるとそこには見知った顔が。
「一ノ瀬くん!危ないところでした!」
「あなたでしたか。きちんと避けられるところは彼女とは違いますね」
「彼女?」
「なんでもありません」
遭遇したのは一ノ瀬くんで、なんだか少し久しぶりな気もする。体育祭ぶりに言葉を交わしているからだろうか。
彼の言う彼女が誰を指しているのかは気になるところではあるが詮索するのも野暮というものだ。曲がり角でぶつかるのは少女漫画の鉄板。えっそれをやってのけてるの一ノ瀬くん。イケメンの宿命だな。
「あ、そうだ。これからなっちゃんとお茶会するんです!一ノ瀬くんもよかったら来ませんか?」
「いえ、これからバイトなので結構です」
「ええ…ちょっとの時間もないです?なっちゃんの淹れてくれるお茶ほんとうに美味しいですよ!」
「珍しく強引ですね。なにか理由でも?」
「えっ…うーん…なんとなく一ノ瀬くん疲れてるように見えたので…。そういう時は一息いれましょう!」
有名店のマカロンもありますよ、と笑うと彼は少し目を細めてから、では少しだけお邪魔しましょう、と首を縦に振ってくれた。
「わぁ!トキヤくんも一緒なんですねぇ!」
「はいっ!ナンパしちゃいました!」
「素敵なナンパです!ふふ、嬉しいなぁ」
「…想像通りというか以上というか…」
「一ノ瀬くん?どうかしました?」
「いえ。…穏やかな組み合わせだと思っただけです」
場が和むというのはこういうことを言うのでしょうね、と彼は少し眉間のシワを緩ませた。その様子に私となっちゃんは目を合わせて微笑み合った。
さて、と早速サロンでティーセットを広げる。普段からなっちゃんが使っているものらしく、デザインも可愛らしいものだった。ティーカップも可愛いですね、と笑うと、お気に入りを持って来ちゃいました!、とのお返事。あぁ和む…。
始まった紅茶講座に私はふんふんと頷きながら頭に入れていく。本当にこだわりを感じる手際だ。その手際には一ノ瀬くんも感嘆の声をあげ、興味深そうになっちゃんの手元を見ていた。どうやらこういうことも一ノ瀬くんは嫌いじゃないらしい。よかったよかった。
「あとは"美味しくな~れっ"って魔法をかけて完成です!」
「わぁ!楽しみです!美味しくな~れっ!」
「美味しくな~れっ!」
「「…」」
「…私はやりませんよ」
私に続いて魔法をかけたなっちゃん、そして続いて一ノ瀬くん…と思って彼に視線をやったのだが彼は乗り気ではない様子。これが重要なんですよぉ、と言うなっちゃんの言葉にも彼は困った表情を浮かべていた。いかんせんからかう気持ちが微塵もないなっちゃんだから一ノ瀬くんも強く断れないのだと思う。なっちゃんは純度1000%です。
「一ノ瀬くん!郷に入ってはなんとやら、ですよ!」
「あなたまでそんなことを…」
「僕と綾奈ちゃんの魔法はもうかかってるので、トキヤくんの魔法がかかったらも~っと美味しくなると思います!」
「…」
「ね!一ノ瀬くん。紅茶冷めちゃいますよ!」
…今回だけですよ、とため息混じりに苦笑した一ノ瀬くんの"美味しくな~れっ!"を頂いて、なっちゃん直伝の紅茶の完成です!
じゃあまずは一ノ瀬くんから!、と勧めてなっちゃんと二人で笑顔で見守る。そっと口をつけた一ノ瀬くんは一口飲んで息をついた。その表情はとても穏やかで、なんだか少し泣きそうになってしまった。一ノ瀬くんはいつも眉間にシワが寄っているから余計に心配になってしまう。
「…本当に、とても美味しいです。素晴らしいですね四ノ宮さんの腕は」
「うふふ。きっと僕たちみんなの魔法がかかってるからですねぇ!綾奈ちゃんもどうぞ」
「はいっ。…わぁっ!すごい、前にご馳走してもらった時とはまた別の美味しさです…!」
「よかった。綾奈ちゃんが持ってきてくれたマカロンさんもすっごく可愛い」
見た目も楽しいマカロンはなっちゃんもお気に召したようで、中々手をつけずにマカロンを眺めている。一ノ瀬くんは比較的甘さが控えめのものを口にして紅茶を啜った。こちらもどうやら気に入ってもらえたらしい。
しばらくのんびり雑談を楽しんでいると、そろそろ、と一ノ瀬くんが腰を上げた。そうだ、バイトだって言ってたんだった。名残惜しいけど、少しでも息抜きにはなっただろうか。半ば強引に誘っただけに少し不安ではある。そんな気持ちが顔に出ていたのか、私の顔を見た一ノ瀬くんは、仕方ないですね、とでも言うように目元を緩ませた。
「良い息抜きになりました。誘ってくださってありがとうございます」
「…!ま、またいつでもやりましょうね!今度は私が淹れます!」
「じゃあその時は僕がお菓子を作りますね。楽しみだなぁ」
「えぇ。とても楽しい時間でした」
それでは、と口元に笑みを浮かべてゆったりとした足取りで一ノ瀬くんはサロンを後にした。一ノ瀬くんが楽しいと思ってくれただけで満足だ。誘って良かった。
ぼんやりと一ノ瀬くんが出て行った扉を眺めていると、綾奈ちゃん綾奈ちゃん、となっちゃんに呼ばれて視線を戻す。視線をやった先のなっちゃんはとても優しい表情をしていて、あぁ彼も分かっていたのだな、と分かった。そう、なっちゃんは天然だけど察しも良いのだ。
「トキヤくん、少し元気になってよかったですねぇ」
「はいっ!私もあんな表情は初めて見ました。なっちゃんのお茶の力はすごいなぁ」
「ううん。きっと綾奈ちゃんの優しい気持ちが届いたんですよ。トキヤくんは頑張り屋さんだから僕も心配だったんです」
「それこそ、なっちゃんの気持ちもですよ。またお誘いしましょうね。今度はピヨちゃん談義も!」
「わぁっ!楽しみですぅ!」
近いうちにお誘いしましょうねぇ、となっちゃんはルンルンだ。もちろん私も。
まだ時間に余裕のある私達はカップに2杯目のお茶を注いだ。
「僕、綾奈ちゃんのことだ~いすきです。側にいるとあたたかい気持ちになります」
「えっ…!?あ、あの…わ、私もなっちゃんとの時間が大好きで大事です!出会えてよかったって、心から思ってます」
「僕もです。たまに独り占めしたくなっちゃいます。…だから二人でもまた、お茶会しましょうね」
「ふぁっ…!?え、あ、は、はいもちろん!た、楽しみだね…!?」
「うふふ。はい」
突然なにを言いだすかと思えば、これは聞く人が聞いたら相当な口説き文句なのではないだろうか。反射的に熱を持つ頬を抑えながらなんとか返事を返す。その様子を、可愛いなぁ、なんて言いながらニコニコ笑うなっちゃんに私は本当に彼には敵わないなぁと苦笑した。
普通の女の子なら勘違いしちゃうからね、なっちゃん!!!
20190731