第1章:早乙女学園
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「し、のみや、くん…?」
第14話
女子の100m走出場待機場所に着いてしばらくクラスの応援をしていると、ついに聖川くんの出番がきた。隣にいるのはまさかの神宮寺くん。えぇ…競技も被って、更に同じ回で走るの…?運命すぎる…。中々険悪な雰囲気だけど、聖川くんのやる気のボルテージも上がっていっている様子。是非とも頑張ってもらいたい。
聖川くんファイトですー!、と聞こえるように大きな声で声援を送ると、ちょうど聞こえたようで微笑んで軽く手を挙げてくれた。うーん美しい。しかし、その隣の神宮寺くんにまで投げチューをされたんですがどういう反応をすればいいんでしょうか。反応に困って思わず苦笑してしまったが、小さく手を振っておいた。さすがに別のクラスだし公に応援する訳にはいかない。
「聖川くん運動得意じゃないなんて嘘だ…!」
「い、いや嘘ではない。出来ない訳ではないが…」
「あんなに走るの速いのに得意じゃないって言われたら真の運動音痴から反感買っちゃいますよ!?」
「だが現に俺は負けた。修練が甘かった。己を鑑みる良い機会になった」
「…って言っても鼻の高さの差ですけどね…」
でもかっこよかったです!お疲れ様でした!、と笑うとオロオロしていた彼もようやく笑顔を見せてくれた。
聖川くんと神宮寺くんの勝負はめちゃくちゃいい勝負で、側から見てる分にはどちらが先にゴールしたかは分からなかった。けどそこは早乙女学園。体育祭にもビデオ判定出来るように手配しているのは流石の一言である。そのビデオ判定の結果、僅かに神宮寺くんの鼻が先にゴールしていたとのことで、惜しくも聖川くんは敗れた。うーん恐るべし高いお鼻。
で、その当の高いお鼻の持ち主は笑顔で観客の黄色い声援に応えている。彼はこの学園では有名人だ。華があるもの。鼻も華もあるなんて羨ましい。
「やぁレディ。今日はいつもより更にキュートだね」
「…こんにちは神宮寺くん。神宮寺くんも前髪邪魔そうですね、しばってあげましょうか?」
「冗談。それはレディだからこそ似合うものだよ」
少し遅れて退場口にやってきた神宮寺くんと目があって声をかけられる。彼の視線は当然頭のピヨちゃん。彼の前髪も運動に適してないなぁと思って勧めたのだが遠慮された。まぁ確かに走り終わってからじゃ遅いか。
すごい勝負でしたね、と当たり障りのない会話をしていると彼はゆっくりと口を閉ざした。そして私の手をとって甲の部分に唇を…、え、は???
「じ、神宮寺く、」
「この間のお詫び、てところかな。レディの言葉、心に響いたよ」
「いやあれは私も結構好き勝手に…、こ、こんな人の目があるところでなんてことを…!」
「おや?人目が無ければいいのかい?大胆だね。今度はそうしよう」
「違いますっ!!!も、もう!私つぎ出番なので行きます!お疲れ様でした!」
クスクスと笑う神宮寺くんを背にしてスタスタと待機場所に向かう。もーほんとやめて!耐性ないんだから!!!待機場所について、クラスメイト達に問いただされたのは言うまでもない。神宮寺くんはもっと自分が注目を浴びていることを自覚して!!!!
「随分彼らと仲がいいのね、羨ましいこと」
「…?」
「いったいこの学園に何をしにきたのかしら。男漁りに来たのならやめてほしいわ」
「…仰ってる意味がよく分かりませんが、間違いなく私はアイドルになる為に入学しましたよ」
「フン。どうだか」
派手な長い赤髪を風に靡かせながら、けして友好的とは言えない物言いをされた。Aクラスの人ではないから多分他クラスなんだろうけど。友達と話してるだけでそう言われるのは心外だ。内心ムッとしていたが、どうやら私は彼女と同じ回の走者らしい。うーん、これも運命?
悪意のこもった視線はやっぱり気持ちいいものではない。…けどまぁ、元々手を抜くつもりはなかったけど、一層やる気が湧いた。負けてなんかやらないぞ。
そして私たちの出番が回ってくる。遠くでAクラスのみんなが声援を送ってくれているのが分かる。そしてパンッという音の合図で地面を蹴った。
「おー!すごい!高原速い速い!」
「綾奈ー!いけー!突っ走れー!」
「綾奈ちゃんファイトでーす!」
出だしは好調。どうやら私の速さはこの組みで抜きん出ていたらしい。このまま突っ走る…!そう思った瞬間に先ほどよりは小さなパンッという破裂音を聞いた。音を認識した時には既に脚に何か当たった後で、思わずバランスを崩した。実況の月宮先生のいつもよりずっと男らしい驚いた声が耳に届く。
「おっと!?ここで綾奈ちゃんバランスを崩したー!」
「っ…!」
「ふふ。調子に乗るからよ」
なにが当たったのかは分からない。けど、確かにさっきの彼女の差し金なのはわかる。転けるまでの間がひどくゆっくりに感じた。
ここで転けたら、負ける。
こんなズルイ人に負けたく、ないっ!
「な、なんとー!?綾奈ちゃんここで見事な前方倒立回転ー!!!見た目に反してスポーツ万能だったー!!」
「「えええっ!?!?」」
「な、なによそれ!?」
「すみません、私…負けず嫌いなんですよね」
体勢を立て直した私はさっきの女生徒も抜き去り無事1位でゴール。やったったで!!!
すごいすごい!、と褒めてくれるクラスメイト達に照れながらもお礼を返して、悔しそうに背を向けた女生徒に視線をやる。…面倒なことにならないといいけど。脚に当たったところには本当に小さな痕が残っていたから…なんだろう、おもちゃの銃のBB弾とかかな。地味に痛いんだぞこれ。人に向かって撃っちゃいけません。しかし走ってる相手に当ててくるとは中々手強そうな相手だ。今後も少し気にしてる方が良さそうだ。
「綾奈大丈夫!?転んだかと思ったらそのまま持ち直すんだもん!びっくりしちゃった!」
「私も咄嗟だったからもう出来ないなぁ」
「綾奈ちゃんすごく素敵でした!」
「フフ。照れるなぁ」
興奮気味にすごいすごいと褒めてくれる渋谷ちゃんと七海ちゃんに、負けたくなかったとはいえ確かに目立つことをしてしまったなぁと少し反省。あんまり目立つのも良くないよな色々と。
次の競技はなんだっけ、とグランドに目をやればそこには四ノ宮くん、そして翔くんの姿。そしてあの網。あ、そっか次は玉入れだ。四ノ宮くんは大きいから網に近くで有利だろうなぁ。
と思った時期が私にもありました。
当の本人は、すごいすごーい!とめちゃくちゃ褒めてます。…翔くんを。全然陣地の玉を入れる気がない四ノ宮くんになんというか、四ノ宮くんらしいなぁと思った。一十木くん達も那月だからなぁ、と苦笑していた。
「あれ…なんか急に曇ってきましたね」
「わ、ほんとだ。雷も鳴りそう~」
「一回競技中断した方がいいんじゃ…ってあれ?四ノ宮くん眼鏡落としちゃってるね」
「那月結構視力悪かったよな?大丈夫かな」
「私、ちょっと探すの手伝ってきます。人に踏まれちゃうと大変」
「あっ高原!」
ゴロゴロと鳴り出す空に眉が下がる。せっかくの楽しい体育祭が。ここで終わりってなったら嫌だなぁ。とにかく今は四ノ宮くんの眼鏡だ。きっと見えなくて不安なはずだ。
「って、えーー!!!四ノ宮くんそれは玉じゃないよ翔くんですよ!?」
「あぁっ!?」
「えっ?」
「ば、馬鹿綾奈!逃げろ!」
四ノ宮くんに声をかけようとした寸前、なんと彼は翔くんを持ち上げて玉入れの網に投げ入れてしまった。なんて命中力…!じゃなくて腕力!
思わず突っ込んでしまった私に反応して振り向いた彼はいつもとは違ってめちゃくちゃ怖くて。翔くんの言葉に体が反応する前に手首をガシッと掴まれた。痛い。四ノ宮くんにこんなに雑な扱いされたことない。きっと彼はいつも私に気を遣って優しく触れていてくれたんだ。
何も言わない四ノ宮くんに、私も思わずジッと見つめているとチッと舌打ちをされた。は、迫力あるなぁ…。
「し、四ノ宮くん私も眼鏡いっしょに探します。見えないと不安ですよね。手、そのまま掴んでいてください!」
「…お前はなんなんだ」
「四ノ宮くん?」
「拒絶したかと思えば近寄ってきて…那月を振り回すのは辞めろ。迷惑だ」
「迷、惑」
その言葉に動けなくなった。今までの四ノ宮くんの言葉が嘘だとは思いたくない。だけど、これが四ノ宮くんの本音だとしたら…?
動けなくなった私を睨み、もう一度舌打ちをした彼は頭の上のヘアゴムを雑に掴み、地面へと投げつけた。ボロリ、と涙が流れた。
馬鹿みたいだ。私は本当に。調子に乗っていたんだ。
20190720