第1章:早乙女学園
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泣きたい時もあるよ
一緒にいればいいよ
言葉がみつからない
一緒ならばいいじゃない
会いたいときはいつも
一緒にいればいいよ
言葉に迷うけれど
一緒ならばいいじゃない
もうひとりじゃなくていい
第11話
最後のメロディが鳴り終わって数秒。私はようやく息を吐いた。
雅くんの曲は本当に素晴らしいものだった。暖かくて優しくて包み込むようなメロディ。私はこの曲に精一杯の想いを込めた。この学園に入って出会った大切な人たちのことを思って。それは、届いただろうか。
レコーディングブースの中から、講評をしてくれる月宮先生と日向先生に視線をやる。すると2人は目を見開いて驚いた様子だった。…これはきっと良い反応だ。雅くんの曲が、届いたんだ。
ブースから出て二人の元へ行くと未だに信じられないとでもいうような表情を浮かべていて、改めて雅くんの曲のすごさを痛感する。私も、初めて曲として弾いてみた時は驚いたもの。
「…ありがとうございました。これが私達の今できる全てです」
「っ…驚いたわ…。雅ちゃんの実力はもちろん知っていたけど、それ以上に…」
「…高原。お前、これまでに何かやってたのか」
「えっと1年ほど、スクールアイドルっていうのをやっていました。部活みたいなものですけど」
「あぁ…結構デカいイベントなんかもやってたな」
「はい。とは言え素人には変わりないです」
お二人もスクールアイドルという存在は知っていたらしく、アキバで行ったイベントのことなんかも詳しかった。あのイベントは、私達の集大成だ。大事な、大事な思い出。
「でも確かその中心だったグループは解散しちゃったのよね?残念だった、わ…」
「そうですね。やっぱり卒業するメンバーがいるから、続けることはしませんでした」
「ちょ!ちょっとまって!?綾奈ちゃんあなたって…!」
「お、おいどうした林檎」
「どうしたもこうしたもないわ!綾奈ちゃんはその伝説とも言われたスクールアイドルグループμ'sのメンバーよ!」
「なっ!?」
本当か!?、とすごい剣幕で詰め寄られて驚きながらもコクコクと首を縦に振った。な、なにかマズイことでもあるのだろうか。
2人は私を放ってブツブツと相談し始めた。アマチュアとは言え活動していたならこの学園にいるのはいいのかとか、でもスクールアイドルは収益は発生しないはずよとか、解散しているから一応一般人扱いになるのかだとか。
た、確かに入試の際にそういったことは書かなかったけど…。それが問題になるとは思わなかった。…もし、問題だと判断されたら、退学に、なるのだろうか。
私の不安な気持ちを察したのか、月宮先生は慌てて、そんな顔しないで!、と励ましてくれて。
「シャイニーのことだもの。きっと分かっていれてるはずよ。だからきっと大丈夫!」
「あ、あの…μ'sのことは伏せていてもらえませんか。その力を頼るつもりで入学したのではない…ので…」
「良い心がけじゃねぇか。分かったよ」
聞かれたら答えるぐらいの感じで構いません、とだけ伝えて、改めて今回の曲の講評をいただく。
入学して一発目のレコーディングテストだ。大体の人は明るくてテンポの良い曲を作ってる中、雅くんの曲は少し浮くが文句のない出来だと。曲と私の声の相性も良く、たまにピッチが気になるところはあったけど心に響くいい曲だったと。これ以上ない褒め言葉をいただいた。
あぁ、よかった。あの日、来栖くんに背中を押してもらって雅くんに会いに行ってよかった。雅くん、やったよ。
ボロボロと泣き出した私を月宮先生は、あらあら、と苦笑して頭を撫でてくれた。日向先生も雅くんの事情は知ってるから、頑張ったな、と労ってくれた。頑張った。頑張れて、本当によかった。
「、高原っ!!!」
「わっ…あ、一十木くん…!それにみんなも!」
「俺達みんなで高原の曲聴いてたよ!ほんとに!ほんとにすっごく良かった!」
「あれ程までに心に響く曲を歌えるとは流石だ」
「綾奈ちゃんの優しい気持ちがいーっぱいこもった曲でした!」
レコーディングルームを出るとそこにはAクラスのみんなの姿が。この教室のすぐ外にはレコーディングの様子が映し出されるモニターがあるから、みんなはわざわざ集まって聴いてくれていたらしい。
「ほんと!めちゃくちゃ良かったよ綾奈ー!…あれ?綾奈のペアは?」
「ありがとうございます、みなさん。…あの、ずっと言えなかったんですが、私のペアの方は入院されてるんです」
「えっ…じゃ、じゃあ綾奈ちゃんずっと一人で…?」
一人で出てきた私に渋谷ちゃんが疑問を持ち、一人というワードに七海ちゃんが悲しそうに反応した。七海ちゃんには一人で抱え込まないで、と言ったことがあるからきっと優しい彼女は頼られなかった自分を責めているのだと思う。本当に優しい子だ。
私はそっと渋谷ちゃんと七海ちゃんの手を取る。綾奈?と不思議そうな顔をする二人にニコリと微笑む。
「この曲ね、"もうひとりじゃないよ"ってタイトルなんです」
「っ!綾奈…」
「この学園で仲良くしてくれるみんながいるから私はもうひとりじゃないし、みんなもひとりじゃないんです。パートナーがそばに居なくてもひとりじゃなかった」
「…本当に綾奈ちゃんにぴったりの曲だったんですね」
「うん。すごい作曲家だよ、雅くん」
わたしも是非お会いしてみたいです!、と笑う七海ちゃんに笑い返して、改めてみんなにお礼を言う。いつもそばにいてくれてありがとう、と。
そんな私の様子に少し照れくさそうにしながらもこれからもよろしくね、と笑ってくれる彼等を何よりも大切にしたいと思った。
そして数日後。あの日のレコーディングテストの結果が貼り出された。結果は3位。高評価すぎる順位に心が震えた。
あぁ、本当に、神様。どうか彼から音楽を奪わないでください。
そう願わずにはいられなかった。
「あっ…来栖くんっ!」
「ん?おっ高原!レコーディングテストの結果見たぜ!すげーじゃん!」
「本当に本当に…っ来栖くんのおかげです!あの日、君が背中を押してくれなかったらあの曲は生まれなかったんです…!本当にありがとうございました…!」
「い、いいよそんな。…でも!よかったな!パートナーの奴ともうまくいったってことだろ?」
「はい!彼も諦めないって言ってくれました!」
やっぱ逃げているだけじゃ何も変わんねーな!、と笑う来栖くんに私も大きく頷いた。逃げているだけじゃ、なにも掴めない。
「諦めないって言葉、簡単に言えるけど簡単な事ではないですね。今回それをすごく痛感させられました」
「…そうだな」
「来栖くんのおかげで大好きな言葉になりました!本当にありがとう…!」
「っ!…お、おう。俺もなんつーか…改めて頑張んねーとなって思ったよ。次のテストでは負けねーからな!綾奈!」
「はいっ!私も負けません!…あっ名前…」
ニカっとイタズラっ子のように笑った彼は、友達だしな!、と握った拳を突き出してきた。一緒に高みを目指そうと、そう言われている気がして私も嬉しくなって拳をコツンと付き合わせた。
「これからもよろしくお願いします…!翔くんっ」
「っ!お、おう!もちろんだ!!」
小さな背中だけど大きくて、可愛くて逞しくてかっこいい翔くん。この学園で初めて友達の名前を呼べた。そんな自分の変化も嬉しくてしばらく頬は緩みっぱなしだった。
20190718