カンパニーと冬組公演
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「あれ?みんな今日は宣伝?」
第1話
秋組公演の千秋楽から数日後、午後からは仕事が休みだった私はふらふらと当てもなく天鵞絨町を歩いていた。すると見知った顔が。ストリートACTをしている様子もなかったのでいづみに声をかけてみれば、冬組メンバーを募集する為に秋組のみんなと出てきたのだそう。
へぇ、と視線をやれば優しげな雰囲気の人とオトナな雰囲気が漂う、これまたどちらもイケメンさんの姿。どうやらこの二人はオーディションに来てくれて入団は決まったのだとか。すかさず私を紹介してくれるいづみに苦笑しつつ、私も口を開く。
「初めまして。高原綾奈です。カンパニーにはちょっとしたお手伝いで顔を出したりしてるのでこれからもお会いすることがあるかもしれないです」
「はじめまして、雪代東です。この前の千秋楽公演で見かけたよ」
「あ、公演観にきてくださってたんですね。嬉しいです」
「ふふっ。随分キレイな子がいるなと思ってね。お手伝いさんだとは思わなかったよ。よろしくね」
「綾奈はこう言ってますけど、私としてはもうカンパニーの一員だと思ってるのでどんどん綾奈に頼ってくださいね東さん!」
「いづみ…そういうの良くない」
「えへ。外堀から埋めようと思って」
最近のいづみは私をカンパニーに入れようとするのを隠す気もないようでグイグイくる。そりゃ悪い気はしないけども。でも仕事もあるから一員です、と明言しちゃうのはなぁ…というのが本音だ。
ふふふ、と柔らかく笑う雪代さんは独特の雰囲気があって劇団として新しい道を開いてくれそうで中々期待値が高いな、と思いながらもう一人の彼に視線をやるとビクリと動揺した表情を浮かべた。え、なんで?
「えっと…ごめんなさい。高原綾奈です。お名前うかがっても良いですか?」
「えっ…あ…月岡紬です」
「月岡さん。よろしくお願いします。…あの、どうかしました?」
「…不躾で申し訳ないんですが、高原さんは昔、演劇をされてましたか…?」
「え?あ、はい。少し前までは…」
「、!あのっ…俺、高原さんの舞台観たことがあって…っ」
「ええっほんとですか!世間は狭いですねぇ…」
ちょっと照れます、と笑うと終始強張った表情を浮かべていた彼は少し表情を崩した。なんというか、控えめな人だ。
少し立ち話をしたところで彼等はまだまだ劇団員を探すとのことなので邪魔にならないようにお暇することにした。暇なら寄ってけよ、と声をかけてくれた万里くんのお言葉に甘えて、先に行って夕飯の準備をさせてもらうことにした。臣くん曰く、まだ今晩の夕食のメニューは決めていないらしいので、新劇団員も入ったことだし少し手の込んだものを作ろうと思う。何がいいかな、と思案しながらみんなに手を振ってその場を後にした。今日もいい休日になりそうだ。
「あ、おかえりなさーい。おお!無事団員集まったんだね。お疲れ様!」
「ただいま、綾奈。う、うーん…集まったには集まったんだけど…」
「おい、高原。お前ずっと家にいたろ。こいつ玄関に倒れてたんだが知らねぇか」
「えっ倒れ…!?いや、知ってたら救急車呼んでますよ!…大丈夫なんですか、その人」
「あぁ、寝てるだけだ。…ということは約2時間の間に現れたということか…」
「…なんかこのカンパニーってすごい強運ありますね古市さん…」
「それがいいもんならいいがな」
ハァとため息をもらす古市さんに苦笑して、ソファに横たわる件の彼をみんなで見つめる。そういやもう2人増えてる。一人は初めて見る方だけど、もう一人はとてつもなく見覚えがある。演劇を辞めたとはいえ、私は観るのも好きだから天鵞絨町の有名どころは大体1度は観劇にいったことがある。しかも彼は大手の劇団の主役を担っていた人で。そこを辞めたのは噂に聞いていたが、ここにいるというのが驚きすぎる。
そして、なんとか玄関先に倒れていた彼… 御影密さんと意思疎通を取ることが出来たのはいいが、分かったのは名前となんらかの訳ありってことぐらいだ。そんな彼を劇団員に勧誘するというのだから我が親友ながら呆れてしまう。まぁ、みんながいいならいいんだけれど。マシュマロを一心に口に運ぶ彼は特段悪い人には見えないし。
一段落ついたところで、またもやいづみは気を利かせて更に入団した劇団員の2人を紹介してくれた。予想通り、彼はGOD座のトップを担っていた高遠丞さんだった。GOD座では色々あったみたいなので深くは追求しないでおこう。もう一人の有栖川誉さんは詩人らしい。いやもうそのフレーズだけで濃い人だっていうのがわかる。
「俺、アンタの舞台観たことがある」
「おや。綾奈くんも演劇を嗜むのかい?」
「はい、今はやってませんけどね。月岡さんも観たことがあるって言ってました。お恥ずかしい」
「ほう!それは是非私も見てみたいものだねぇ」
「…。高原さん、アンタの芝居にはめちゃくちゃ感化された。辞めたのは正直勿体ないと思う」
「…それこそ勿体ないお言葉だなぁ」
まぁそういう機会があったら、と苦笑を返して、途中だった夕飯の準備のため断りをいれてその場を去る。冬組は結構落ち着いた人が集まったけど癖は強そうだ、と手伝いを名乗り出てくれた臣くんと夕飯の支度に取り掛かった。鶏があったので香草焼きにしてたんだけど、更に臣くんがほうれん草のパスタを提案してくれた。うーん!乗った!!
「あ、そうだ古市さん。ちょっと思ったんですけど、今のこのカンパニーの財政状況ってどんな感じです?」
美味しい夕飯も終え、それぞれが思い思いの時間を過ごしてる中、談話室でゆっくり珈琲を飲んでいた古市さんに声をかける。一応いづみから監督になった経緯を聞く上でこの劇場が財政難であることは知っていた。彼は一度カップに口をつけてから静かに口を開いた。
「…悪くはねぇ。だが、削れるところはもっと切り詰めていかねぇとってのが現状だな。秋組公演のセットでもかなり費用が嵩んだ」
「あぁ、なるほど。でも劇場ですしセットのクオリティを下げるのは良くないですよね」
「まぁな…」
舞台に上がってる時はイキイキとしていた古市さんだけど、今の姿はめちゃくちゃ現実的に参ってるような気がする。実質、カンパニーのお財布は彼のようなもんだしね。衣装代にしても、瑠璃川くんのこだわりもあって結構ギリギリの金額でやってるみたいだし。
「私、観客として思ったんですけど、公演曲のCDを販売するのって難しいですか?」
「公演曲?」
「はい。DVDもそりゃ私的には嬉しいですけど、今はとにかくこの劇場に足を運んで欲しいから後々ということにして。例えば今から秋組公演を観たいって思っても1年後になっちゃうじゃないですか。せっかく今回のでファンが出来ても期間が長すぎると忘れられちゃうし」
「公演自体は年間通してやるんだから問題ないんじゃないのか」
「古市さん、ファンを舐めちゃダメですよ。そりゃMANKAIカンパニーのファンならそれでいいですけど、古市さんのファンからしたら1年後まで貴方の演技が見れないってことですよ?」
「…それぞれのファンということか。確かに一理あるな。公演曲を販売すれば聞くたびに思い出してもらえる」
私の意見に古市さんは顎に手をやって思案し始めた。CDぐらいなら言うほどコストはかからない。これから新規でしなければならないことも特にないし、試してみる価値はあると思う。
「やるなら公演が終わってまだ日が経ってない今のうちですよ。特に秋組。でも同時に春夏も出せるのが理想ですね。秋組しか観てない人がそっちにも手を伸ばしてくれるかもしれないし」
「…いいな。その案使わせてもらう」
「お!ありがとうございます!記念すべき1つ目は私に買わせてくださいね~」
「フッ…お前は本当に…。まぁ、いい」
おい迫田、と迫田さんに声をかけた古市さんは残っていた珈琲を一気に飲み干して立ち上がった。行動早いな、と目で追っていると、助かる、と私の頭を一度くしゃりと撫でて談話室を出て行った。見かけによらず大きな手だった。なんにせよ、これが少しでも劇団の糧になればいいな、と私も冷めかけの珈琲を口にした。
20181024
